ジジィのせい &自己紹介
女神は手懸けた。その者の誕生を。
女神は嘆いた。その者に与えられた力を。
女神は導いた。その者の運命を。
女神は悲観した。その者の顛末を。
女神はすくい上げたかった。その者の未来を。
女神は見守り続ける。その者の行く末を。
たとえ世界が終わろうとも、女神は・・・
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誰か俺に力をください。この人達に説明する力を。
俺は目の前の3人を眺めつつ、考えている。3人も困った顔で俺を見ている。
どうやって自己紹介すればいいの・・・?
・・・10分前・・・
俺は 黒髪 銀髪 ピンク獣人の前に連れて行かれた。
初めはいぶかしげにこちらをみていた3人だったが、兵士の説明を受けて態度を崩してくれた。
マジありがたい。態度が固いままだったら俺しゃべれないよ。
まあ、まだ若干固い感じはあるけども。
兵士さんが「皆様の歓迎の準備が整うまでの間、こちらの方にも自己紹介をしてください」と わざわざ場を設けてくれた。
どうやら3人は 王の前ですでに自己紹介を行っていたらしい。
てことで、まずは俺から自己紹介をすることになったのだが。
『俺、しゃべれないんです』
身振り手振りで3人に伝える俺。しかし黒髪以外は思い思いの方向を見ている。
ピンク獣人はきっと世界樹産美人精霊を探してるんだろうな。
黒髪が俺の喉を見て何かに納得してうなずいた。杖の痕とかついてる?
絶対に付いてるな・・・。俺は頭の中に浮かんだジジィの髭を毟る想像をした。
「じゃあ筆談しましょうか。何か書くものは・・・」
気付くと、黒髪が辺りを見回して探してくれている。
うっかり意識がジジィに行ってた。
俺はもってた枝で地面に文字を書くジェスチャーをして、伝えようとする。
世界樹の枝の最初のお仕事は地面への落書きです。
「では行きましょうか。えっと、まず・・・あなたの死因はなんですか?」
えぇ!?
「アハハハハハハ、いきなりそれを聞くのもアレですよね。
名前からお願いします」
黒髪はカラカラと乾いたように笑う。な・・・なんだ黒髪の冗談か。
その言葉を聞いて他の2人もこちらを向いた。
『よし、まず俺の名前は・・・。あれ? 俺、名前なんだっけ?』
名前が思い出せない!!!
いや待て、思い出せ、しっかりしろ!さっきまで寝ていたからちょっと思い出せないだけでゆっくりと昔のことを思い出せば・・・あれ?俺は・・・どこで生まれて、どこで育った・・・?まさか記憶が無い!?
なぜだ、なにが原因だ!
分かった!あのじいさんだな! ジジィがデコピンで俺の記憶を飛ばしたんだ
おいこらどこだジジィィィィ! 髭むしり取る! いや、これで刺す!
枝の鋭利な折れた部分を剣のように振りかざしたまま走り出そうとした俺を、銀髪と黒髪ががっしりと掴んで止める。
「落ち着いてください! 名前が思い出せないんでしょう!?」
黒髪に言い当てられて、驚いて止まる俺。
「大丈夫です。みんな思い出せませんから!!!」
すっごい、いい笑顔で黒髪君が言いました。
*
10分後。
ということで、自己紹介再開です。俺はすっかり落ち着きました。大丈夫です。
記憶が無いのはたぶんジジィのせい。
みんなに記憶があって俺にだけ無かったとしてもそれもきっとジジィのせい。
俺はそう唱えて落ち着きました。声出ないけど。
「試すような真似をしてすいません。
召喚された3人に共通していたのが≪名前を思い出せない≫事だったので・・・。
あなたも召喚された一人のようですね」
少しシュンとしながら言う黒髪君。
まあ確かに、同じ場所に召喚された3人の後から「俺も召喚されましたー」って草むらから飛び出して来られても信じにくいわな。
それにしても共通点があってよかった。これで隠し通せるか?
いや、逆に共通点が無かった方が言い出しやすかったんじゃ・・・。
あのジジィの策略か。
呆然とする俺に、黒髪が話し始めた。
「お詫びに僕らから自己紹介しますね!
僕はチキュウのニホンから来ました。16歳です。
学校では サッカー・・・球技をする部活に入っています。
中学でのポジションはボランチでした!」
最初に自己紹介してくれた黒髪君。
髪と目は黒。髪は兵士が良くするような長めのスポーツ刈り。背は160cmくらい。日に焼けたスポーツマンっぽい見た目だ。10代後半によく居る顔だが、けっこう目がぱっちりしている。
暑い場所から来たらしく、半袖シャツにダボっとしたズボンにゴムっぽい靴という格好だった。
あれ?黒髪君は記憶があるのか? やっぱジジィのせいだなこれは。
それからボランチって何?(※作戦を立てるポジションの様です)
続いて、黒髪君の横にいた銀髪の番。
「次はオレの番だな。俺はここに来る前には傭兵をしていた。
まあ、どこの国の誰に雇われていたかも分からないんだが。
子供を道具のように買ってきて道具のように傭兵として使ってたような場所だったからな。
俺が自己紹介出来るのは、これくらいしかないな」
銀髪は苦笑いしながら自己紹介を終えた。
髪は銀色、目は濃い目の青だ。背中の中央くらいまで伸ばした髪を、うなじで軽く紐で留めている。背は180cmくらい。年は・・・18~20歳くらいに見える。顔はクール系。
服装は黒い布で出来た、厚手の鎧がわりになりそうな服とズボンだ。
長年使っているようでボロボロだが。靴も黒かった。
スカした奴かと思ったが、ただ周りを警戒していただけらしい。
話してみると普通の人だった。
そして最後は・・・
「俺は・・・ここにいる・・・!」
世界樹を背にして何かポーズを決めているピンク獣人。おい早くしろ。
「ん?あ、俺は・・・いや
≪私ゎぷりてぃ天国マックスラブリーのピンキージュエル!みんな ょз しく!≫」
「「『!?』」」
いきなり男の地声から裏声になるピンク獣人。驚いて固まる3人。
ナニイッテンダこいつ!?
「あ・・・いや。この格好、コミケ用に好きなキャラのコスプレ仕上げてる最中に倒れちゃってさ。
そのままこっちに来たもんだから・・・その説明も兼ねて、皆の緊張をほぐそうかなってね・・・?
おかしいな、この自己紹介 仲間内では結構受けるんだけど」
若干落ち込みつつ自己紹介を続けるピンク獣人あらためピンキージュエル。
大体の内容は、「祭りに参加しようと準備してた服でそのまま来ちゃったテヘ★」てことらしいと黒髪君が教えてくれた。
なるほど、仮装してたから耳が4つあったり尻尾が生えてたりするんだな。
ピンキージュエルの今の見た目は、髪がピンク(尻尾もピンク)目は金色。腰まで髪が伸びている。カツラらしい。
顔は中性的で女の人と間違えるくらいに整っている。(しかし声で男だとばれる)本人によると化粧しているかららしい。
身長185cmほど?銀髪よりちょっと高い。22歳の大学生、黒髪君と同じニホンの出身だ。
ちなみに服はピンクのふりっふりのゴスロリ。
ニホンでは男もスカート履くのかと思ったが、仮装の一種か。
(この年で学校に通っているこの2人って、かなりの貴族出身なんじゃないか?)
俺は思った。
*
最後に俺の番。
しゃべれないので枝で地面に文字を書きます。折れた鋭利な方でガリガリと地面に文字を書いていく。雑草が多くて書きにくい。
そういえば世界樹の周りって、葉が一枚も落ちてない。不思議だ。
まあ無い方が書きやすいから、いいけど。
【出身、年、いままでの生活 すべて覚えていないんだ。自己紹介が出来なくてごめんね】
それを読んだ3人は、俺の方を困ったように見て・・・
「俺 読めないんだけど、これ」
「僕も・・・あなたは読めますか?」
「いや、オレの読める文字じゃないな」
「ヨーロッパあたりの古代語とかかな?」
え・・・文字が通じないの!?
言葉は通じても、この世界の文字は読めないのか?
そして冒頭に戻る。
主人公の身長は170cmほど。服装はRPGによくいる町の若者っぽい格好です。(顔は主人公自身も覚えていません)
主人公の考えの中に中途半端に日本のたとえとか出る理由はもうちょっと後で判明させたい!(説明になればいいな)