雷の世界樹の現状
120Pになった!
やっふぉぉおお!ありがとうございます!!!
数分後。
漁師の家の土間では、剣を収めた勇者君が、土下座をしていた。
「ごめんなさい! クロムさん!」
「うん、大丈夫。怒ってないよ。
それにしても・・・」
クロムが俺を見てふくれっ面になる。
猫形態だから可愛い。
「ニルフはファイターが止めるの分かってて、楽しんで見てた?」
『な、何のことかなぁ~?』
「声が裏返ってる!?」
悪い悪い。
実は、勇者君達が家に入ってきてすぐ、漁師Jr君がファイターさんと話してるのが見えたんだ。
ファイターさんはクロムを見て一瞬驚いていたけど、すぐに笑みを浮かべていたし。
『大丈夫かなって思ったんだ』
「ひどい!」
ふくれっ面のクロムを、漁師(父)が抱き寄せる。
すっかり抱き枕だな。
「明日は、雷の世界樹に向かうぞ。皆、英気を養え」
ファイターさんの掛け声で、皆魚をほおばり、眠りについた。
*
『そういえば、その変わった武器、なんなの?』
「これ? 前に困ってた貴族を助けた時にお礼にってもらったんだ。
なんか家宝の剣らしいんだけど。
元々普通の剣だったんだけどね、ボクが握った瞬間に、世界樹に≪登録≫済みの剣達を全部吸収しちゃって。
そしたら宝石がパカって割れて、喋り出したんだ。ようやく目覚められたって!
あ、でも戦闘時以外に起こすと怒るんだ」
『謎すぎる』
なんていうか、その剣の全部が。
俺達は朝早くに村を出発し、今は船の上だ。
メンバーは勇者君PTとクロムと俺、そして漁師Jr君と村長の代理の、40歳くらいの人。
村長の代理の人が船を操っている。
人数が多いので、大きな船に乗っている。
といっても村で動ける人数が少ないので、冒険者達を輸送していたのよりは小さい、漁用の船らしいけども。
最初は魚の影にはしゃいだり、空を見上げたり地平線を眺めてみたりしていたが、だんだん飽きてきた。
暇なので、話が弾むわ。
漁師村から世界樹の島まで、大体半日以上。海流の加減で早いらしい。
朝出て、夕方に付いて、向こうで野宿だ。
ちなみに帰りも同じくらい。海流の加減らしいけど、俺にはよく分からなかった。
「どうして僕の場所が分かったの?」
「クロムの場所? ボクは占い師に聞いたんだ」
『占い師?』
「うん、森の奥に館があって、そこに占い師が住んでるんだ。
でも、いつでも会える訳では無くって、必要な人の前にだけ現れる、神出鬼没の占いの館なんだよ!
その人に、『この時期にここにいきなさい。そこで会った人が、旅を続ける先で、きっと必要になる時が来る』、って言われたんだよ」
「勇者様の会った占い師はね、どの大陸の、どの場所にも現れる、不思議な人なのよ。
あった人の証言はいつも同じ。
森の奥深くに蔦に覆われた立派な屋敷があって、水晶を持った小さなおばあさんが、占いをしてくれるっていう物よ」
「ボク達が会ったおばあさんの家も、ちょうどそんな感じだったよ。ね! メイジ!」
「そうね! でも、不思議な事に、顔を思い出せないのよね。背の低いおばあさんっていうのは覚えているんだけど。
会った人、皆に共通する事らしいわ、これ」
勇者君とメイジさんの話す、不思議な占い師。
顔を思い出せないらしいけど、実は俺も会った事があったりしてな。
まあ、それは無いか。
『もしかして、クロムもそのおばあさんに占われたとか?
火に包まれて遭難しなさい、とか』
「それどんな占い? 怪しすぎて警戒するよ!
僕はただ気ままに旅をしてただけだよ。
まあ、この呪いを解く方法を探してるけどね。
きっとそのおばあさんが、僕と勇者君を会わせたかったんだとしたら、僕が必要になる時まで一緒についていくよ。
急ぐ旅でもないしさ」
クロムの言葉に、勇者君が頷いた。
「ありがとう、クロム!」
「皆さん、島が見えてきましたよ」
会話が終わる頃を見計らって、村長の代理のおじさんが俺達に教えてくれた。
遠くに、島影が映る。
高い山がそびえたつ、大きめの島影だった。
夕日が落ちる頃、俺達は島に上陸した。
今日は野宿で、探索は明日。
皆でテントを張り、眠りについた。
*
「で、ボク達の探索の結果だけど」
『早くない?』
「うん、僕ら起きてまだ3時間も経ってないよね」
日の出と同時に起きて、軽い食事を取り、島を探索した・・・が。
「まさか、山を中心に海岸沿いにまで透明な壁が貼ってあるなんて」
そう、起きて早々探索を開始した俺達は、あっという間に壁にぶつかった。
比喩じゃなく、本当の壁に。
俺達が到着したのは、南側に少し飛び出た、砂浜になった部分だった。
遠くに、高い山が見える。登頂に雷の世界樹があると言われる、聖なる山だ。島のド真ん中にあるらしい。
「あの山を目印にいこう!」
そして、歩き出してしばらく行くと、透明な壁が目の前に現れた。
いや、真透明じゃないんだ。
少し白みがかってて、よく見ると光を反射している。
もし真透明だったら、顔面から壁にぶつかってたな。
壁の向こうに人が居たら、さぞかし大笑いの光景になってただろう。
話が逸れた。
その壁から先には行くことが出来ず、向こうに居る虫や動物も、こちらには出てこれなかった。
俺達の真似をして、シー君や壁の向こう側のシルフ達も通り抜けようとしていた、が。
通り抜けられないようだった。
「これ、壊せないかな」
言うなり、勇者君が剣でぶった切る。が。
「固ったぁあああい!」
「いでえええええ! なんてもん切らせるんだテメエ!」
そのまま跳ね返されて、手を痺れさせていた。
剣にも怒られる始末。ってか剣に痛覚あったんだな。
「直接攻撃はダメなのかな」
クロムの言葉に、俺はピーンとひらめく。
『ふっふっふ、そうだ、勇者君。
君に秘密兵器を見せてあげよう』
「な、なに?」
ゴクリと喉を鳴らす勇者君の前にスッと立った俺は、ネコテを付けた手を結界に向かって翳し、
『てやぁ!』
魔弾を発射!
「なにも出てないよ?」
『あれ?』
出来なかった。なんか、剣と違って魔力を貯めにくいっていうか。まだまだ練習が必要か・・・。
「私達も、いろいろ試してみましょ」
「僕も手伝うよ」
しょんぼりする俺をしり目に、皆が色々な魔法や攻撃を試してみるが、一向に壁が壊れる気配も無かった。
地面も掘ってみるが、地面深くまで壁は続いているらしく、向こう側には行けなかった。
「どうやら、結界の様だな」
壁を触りつつ、ファイターさんが言う。
戦闘術に秀でていそうなのに、魔術にも詳しいんだな。
「私の魔法の先生なのよ」
『ほんとに!?』
意外な事を聞いた気がする。
今度俺も教えてもらおう!
特に魔弾とか。
「そうだ、劣化吟遊詩人。あの魔物をこちらに引き寄せられるか」
『あの蛇人ですか? 出来ますよ』
ファイターさんの指差した先には、顔が蛇の大猿がいた。
あれは、さっきから俺達の事を警戒して、木の陰からにじり寄ってきていた魔物だな。
俺はシルフィハープを弾いて、こっちにおびき寄せる。
「近づいて来たら結界に顔を付け、目で挑発しろ」
言われたようにしたとたん、蛇人は怒ったようにこっちに突進してきた。
が、やはり他の魔物と同じく結界に弾かれる。
俺は蛇人と目を合わせつつ、壁に額を付けて、そのまま蛇人の行動を見つめていた。
蛇人、俺に届かないからって苛立って、狂ったように結界を殴り続けているな。
『やっぱり通れないみたいですよ。ってウワァ!』
目の前が、急に真緑に!?
蛇人が、俺の顔に向かって、深緑色の液体をペッと吐いたっぽい。
びっちゃぁ。
しかし 結界は ダメージを 受けない!
そのまま液は結界を伝って下に垂れて行って、地面を溶かした。
もちろん、結界の向こう側だけ。
「毒も通過し無いようだな」
『これ、通過してたら俺の顔溶けてましたよね?』
なんつう事やらせんだ、このおっさん。
そして3時間、結界に沿って歩き回り、海岸に出た。
結界の先は海。島を回る獣道は結界に隔たれ、進むこともできない。
「島の周りを船で調べるか」
「それは無理です、ファイター様」
ファイターさんの案を否定したのは、村長の代理のおじさんだった。
「この辺りは深い所で海流が渦を巻いていまして、決められた道以外に行きますと、すぐに沈んでしまいます」
「なら、しょうがないね。この結界を破る方法を調べよう」
「それがいいわね、勇者様」
勇者君の言葉にメイジさんが同調し、この日のうちに村に引き返すことになった。
島に住む猛獣達が結界に阻まれて外に出てこれないとはいえ、謎の結界がある以上、長居するのは危険だからな。
島を離れる前、雷の大精霊に呼びかけても見たが、大精霊は呼びかけにも応じなかった。
漁師村に帰ってから、村にある資料や伝承を調べるも解き方が分からないため、勇者君達は他の大精霊に聞いて回る事にするそうだ。
俺達は1度、西の国に戻った。
途中立ち寄った、西の国と漁師村を繋ぐ大きめの港のある島には石碑があった為、忘れず登録しておいた。
この街は以前、海龍に荒らされた海域にある島だとはいえ、西の国の大港に面している分、復旧が早かったそうだ。
漁師村というよりも、貿易で利益を得ている街と言った感じだったな。
そして西の国・最西端の港街に向かう船に乗った。
さすがに貿易中心の商業街だけあって、出る船は貨物船。超デカいな。
その船の中では・・・。
「港に着いたらニルフはどうする? ボク達と一緒に来る?」
『俺は、港から出る火の国への船に乗って、火の世界樹に戻りたい』
「そっか、そうだよね」
俺の返事を聞いて、勇者君が寂しそうな顔をする。
「しょうがないわよ、勇者様。彼は仲間に会いたいんだから」
勇者君に後ろから抱き着きながら、メイジさんが慰めている。
相変わらず、羨ましい光景だ。
その光景を眺める俺の前に、立ちはだかる厳ついオッサン。
ファイターさんだ。
「では俺達は、西の国にある水の大精霊に話を聞きに行くことにする」
『水の大精霊は穏やかだから、他属性の大精霊とも仲がいいかもしれないんだったな』
「僕も勇者君達に付いていくよ。旅の目的も、急ぐものでもないし」
「あれ、そういえば」
クロムの言葉を聞いて、勇者君が俺に問いかける。
「ニルフの旅の目的って、なんなの?」
そういえば、なんだっけ?
次回メモ:目的
いつも読んでいただき、ありがとうございます!




