表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
68/187

漁村の現状

 西の国の南半球に位置する、小さな孤島にあるこの村。

 西の国の下にある大きな島の港を通って、この島に来てるって言ってたな。


 おれは、こんな小さな島に冒険者が訪れる事にも、なぜギルドの職員や西の国の兵隊が常駐しているのかにも疑問を持つ事は無かった。

 おれが生れた時から、ずっとそうだったから。


 ここが元酒場だ。今は閉まってるけどな。

 ・・・たまたま酒場で飲んでた冒険者の人に教えられなかったら、ずっと気づかないままだった。


 あ、どうして冒険者が訪れるのか、だったな。


 この村、雷の世界樹に行く船を出す為だけに 作られたそうなんだ。本当かは分からないけど。

 でも、この村を経由してでしか、雷の世界樹には行けない。海流の関係だ。

 西の国の港と、その下にある大きな島、それと雷の世界樹の島の間には大きな渦潮があって、船が通れないんだ。

 西の国は下の海岸線沿いに山脈があって港が作れないし、南の国は下半分が砂漠で港が作れないらしい。


 だから雷の世界樹を目指す冒険者と、それを相手に商売する道具屋や装備屋もいて、村は賑やかだった。

 そんな頻繁に冒険者が来るわけじゃなかったけど、比較的安全に世界樹の近くまでいけるって事で、観光に来る人も多かったしさ。

 あ、もちろん観光客は雷の世界樹の島には上陸しないぞ?

 安全の為に、船の上からの見学だぜ。


 それなのに。


 2年ほど前、雷の世界樹のある島にいく船が出なくなった。

 というか、この村の東側の海域に船を出すことが禁止された。


 村長が急に人が変わったように乱暴になって、村に圧政をひいたんだ。


 ギルド職員も、城の兵士も居なくなっていた。

 観光客や冒険者も訪れなくなり、商人も居なくなった。

 酒場も宿屋も潰れた。

 唯一の稼ぎ柱だったその産業が無くなってから、村は急に寂れてしまった。


 この村な。雷の大精霊を守護精霊として祭ってるんだ。

 え。守護精霊を知らない?

 あー、南半球の孤島群は文化が独特だって、前に冒険者が言ってたな。


 あれだ。今日の漁も無事に終わりますように、とか。

 子供が病気にかかりませんように、とか、そういうのを願掛けするんだ。


 話を戻すぞ。 


 ほぼ冒険者を運んだ金で成り立ってた村だ。

 それが無くなれば、漁しかなくなる。しかし南の国への

 一応畑もあるっちゃあるけど、潮風のせいで育つ野菜も限られるしな。

 村はもう、立ち行かなくなっていた。

 病に倒れても、薬を買う金も無い。

 それなのに、村長の搾取は続く。


 そこでおれの親父が中心になって、村長を止めることになったんだ。

 きっかけは、おふくろが死んだこと。

 以前なら、商人から薬を買えばすぐに治った病気だったのに。


 それで、仕事が終わってから村長の家に乗り込んだのはいいんだけど、以前は見かけなかった大男が村長を守っててな。

 直訴に行った親父たちは、そのまま捕まっちまった。


 あ、ここ宿屋な。


 そうだ、おれその時、親父が心配でこっそり村長の家の中、覗いてたんだ。

 実はあの家な、裏に小さな穴あいてるんだぜ。

 ・・・ちょっと笑いすぎだクロム。


 俺の覗いてる部屋に連れてこられた親父たちは、そこでひどい拷問を受けてて。

 このままじゃ、皆殺されるって思って。

 おれは必死で宿・・・そう、この宿に泊まってる冒険者に助けを求めたんだ。


 最初、この村に来た冒険者を見た時は、


「西の大陸からこの村に来るまでの海域を荒らしていた巨大海龍が倒されたから、この村から出ていた雷の世界樹に行く船を目的に来たんだろう。もう出ていないとは知らなかったんだな。かわいそうに。」


 って思ってただけだったんだ。

 背の高いデカい男は強そうだとは思ったけど、女と子供の子守り中かよって。

 でも、今あの大男に敵うのは、このデカい冒険者しかいないって。

 今は船も出さないこんな辺境の村にわざわざ船で立ち寄る変わり者の人達だから、協力してくれるか不安

だったんだが、必死で頼み込んだら、子供が拍子抜けするくらい簡単に「いいよ」って返事してくれてな。


 まさかそれが巨大海龍を倒した張本人であり、各地で勇者とうたわれている方々だとは思いもよらなかった。


 あ、ここが道具屋と装備屋だ。今は誰もいないけどな。


 おれは勇者様方が村長の家に行くのを、見送るしかなかった。

 覗き穴で見た光景を思い出すと、足が震えて、動けなかったんだ。

 それでも少しずつ歩いて歩いて、ようやくたどり着いた村長の家からは、人のものとは思えない叫び声が聞こえてさ。

 急いで窓を覗き込んだら、いきなり白く光って。

 目が見えるようになったときには、窓の向こうには、でかくて怖い魔物1匹を倒した子供がいてさ。


 村長は、家の下に掘られた牢屋の中に閉じ込められてた。

 魔物3匹が村長に成り代わって、悪さをしていたらしい。

 まあこうやって、この村は救われたんだ。


 ・・・ここが港だ。まあこんな質素な村、見て回る物もそう無いぜ。


-――――――――――


 そう言って、漁師Jrくんは砂浜に乗り上げた小船の縁に腰かける。

 俺達も真似して、向かいにあった小船に腰かけてみよう。


『あ、ちょ うへえ』

「あれ? うわああ」


 クロムも真似してた。しかも同じ船で!

 重さが片側にかかったからか、船が斜めに傾いて砂浜に投げ出された。

 何故かクロムは普通に立って着地。

 ・・・俺は尻の砂を叩きながら、気になったことを聞いてみる。


『ギルド職員や兵士の人はどうなったの?』

「始末されたって聞いたな。村長は、偽物がなりきるために生かしておいたそうだぜ。

 情報を抜き取るとかなんとか」


 容赦ねえな、魔物。


 *


 さて、思ったより勇者君達が帰ってこない。

 俺達は小舟で釣りをしつつ、海を眺める。

 空は真っ赤な夕焼けだ。まるで火の世界樹で踏んだトラップの様な、真っ赤な夕焼け。

 はやく火の世界樹で、皆と合流しないと。


『ここ、火の世界樹からどれだけ離れてるんだろう・・・』

「ごめん、僕も分かんない」


 俺の呟きに、クロムが若干申し訳なさそうに謝った。

 クロムのせいじゃないよ。


「地図ならあるぞ」


 そういうと、漁師Jr君は砂浜に小舟を着け、今は閉鎖している酒場に勝手に入って行った。

 中からは何かをひっくり返すような音が響き、崩れ落ちるような音が続いた。

 ぼそりとクロムが呟く。


「生き埋めになってたりして」


 やめて!?

 しばらくすると、中から埃だらけになった漁師Jr君がゲホげホいいながら出てきた。

 大きな、埃だらけでボロボロの紙を持っている。


「ペッペッごほげほ。古いやつだけど、どうだろう」


 なんでも、元々置いてあった新しい地図は燃料として燃やしちゃったらしい。

 これだけ、皆から忘れられてたから残ってたんだと。


 早速広げてみる・・・と。


『・・・西の国の・・・ほぼ最西端の下か・・・』

「火の国、すごく遠いね」


 すぐ帰れないんじゃないか? これ。

 あ、でも転移があるから大丈夫か。

 ・・・いや、孤島から急にいなくなったら怪しまれるか溺れたって思われて捜索されそうだな。

 せめて、銀達に居場所だけでも教えられたらな。

 そうだ!


『ねえ! この辺に石碑ない?

 ≪登録≫したいんだけど!』

「この島には無いぜ。

 この島と西の国の間にある、でかい島にならあるらしいけど」


 漁師Jr君、返事が早い。

 てか石碑なかったら、居場所も教えられないじゃん。どうしよう。


 あっけにとられる俺の横で、クロムが縮んだ。

 夜の到来だ。

 クロムを見た漁師Jr君がずっこけた。



 *


 結局勇者君達が戻ってきたのは、俺達が釣った魚を焼きあげた頃だった。

 クロムが、漁師Jr君の家の台所を借りてカリッフワっと焼きあがった魚を、ベッドで寝込んでいる漁師Jr君のお父さんに渡す。厳つい海の男って感じだな。

 長いな、漁師(父)って呼ぶか。


 漁師(父)はニセ村長に痛めつけられた後、怪我をメイジさんに治してもらったそうだ、が。

 まだ体が上手く動かない。森で大けがを負った時のピンキーと同じだな。


 漁師(父)は、申し訳なさそうに魚を受け取ってほおばる。少し涙ぐみながら。

 膝の上にはクロム。毛皮のさわり心地が気に入ったらしい。顎をクロムの頭に乗っけて、存分にわさわさしている。

 最初クロムを見て、魔物と間違えて槍突き刺そうとしたのと同じ人だとは思えないな。


「うぅぅ、こんなに暖かい毛皮があるなんてな・・・」

「いや僕、まだ毛皮になってないよ!」

『まだ動けないって事は、ニセ村長事件からそう時間は経ってないって事?』

「ああ、5日ほど前、かな。今は村の男連中がほぼこの状態だ。

 何人か村を守る役割として、ニセ村長のとこに乗り込まなかった男達が居てな。

 女達も畑仕事以外に漁にも出て、それでなんとか魚を採って生きてるって状態だ」


「ま、そんな悲観しなくても、数日中に皆元気になるわ。

 そしたら、すべて元通りよ」


 ドアの方から、聞き覚えのある女性の声が響く。


「ただいま! 明日は雷の世界樹に向かうよ!」


 元気のよい、少年の声も続く。


「あなた方は・・・勇者様方!」


 漁師(父)が尊敬の混ざった声で呼んだ。

 

「おかえりー、魚食べる?」

「あ、ありがとう」


 クロムが魚をほおばりながら、もう一方の手で焼けた魚を差し出した。

 勇者君はそれを受け取り頬張って・・・。


 クロム(猫)を見て、止まった。


「うわあああああ! 魔物だああああ!

 目覚めろボクの武器! 敵をやっつけろ!」


 叫びつつ背中に手を回し、何か真っ黒な剣を抜く勇者君。

 長さはロングソードくらいの普通の剣、だが・・・。

 柄辺りから何本も、1mくらいの真っ黒な鎖が垂れ下がっている。

 剣から、鎖・・・?

 一見、戦いづらそうな武器だ。

 と、その瞬間。


 剣がブルブルブルと震えて、柄に着いた宝石がバクリと開き、


「ぶっはぁああああああ! 良く寝たぜ畜生! で、どいつをぶっ潰せばいいんだ?」


 しゃべった。


『うわああああああああ! 剣がしゃべったああああああああ!』

「待ってニルフ! そうじゃなくて僕が魔物じゃないって言って!」

「覚悟! 魔物め! その人から離れろ!」

「人質を取るなんて卑怯よ!」

「待って! 僕クロムだから!」

「そんな事いって、本物のクロムに成り代わってるんだ!」

「劣化吟遊詩人君達にまで催眠術を掛けて! また同じ方法でこの村を苦しめようっていうのね!」


 振りかざした勇者君の黒い剣が、紫色の光に包まれる。

 その瞬間、垂れ下がっていた鎖が蛇の様にうねり出し、どんどん長く伸びていく。


『何この武器。なんて種類の武器?!』

「待ってニルフ、そこ!? 僕を助けて!?」

「・・・ボクがまだこの村に居た事が、お前の運の尽きだ! 居なくなれ! 魔物め!」

「しゃっほおおおおおおおおぅ! まかせとけえぇぇえええ!!!

 ごぉうぇえっ」


 勇者君が叫ぶと共に、全ての鎖がクロムに巻き付いた!

 漁師(父)がクロムを守る様に抱き着いたが、素早すぎて間に合わない!


 てか、よく見ると鎖、宝石から出てる。

 口みたいに開いたところから出てる。

 伸びる時になんかエヅいてたし。

 鎖にまとわりついてる紫のオーラが、剣の胃液に見えてきた。きちゃない。


 そのまま漁師(父)の膝からクロムを持ち上げ、宙にかざし。

 その下から一気に剣を突きあげようとして・・・。


「そこまでだ、勇者殿」


 ファイターさんに止められた。

次回メモ:世界樹!


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ