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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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罠に嵌った。そうなんです。& SS キラ男

 気が付くと、俺は海辺に立って居た。後ろは森。

 あれ? ここどこ?

 確か俺は、白い誰かを追いかけていて、足元から飛び出したマグマを全身に被ったはずだった。

 

 急いで全身を見るが、どこも焦げていないし、怪我をしている様子も無い。

 

 ホッと息をついて、ドサッと地面に座り込む。

 下が白い砂浜で、尻がジャリジャリした。

 周りは人影も無く、波の音だけが響いている。太陽は真上。

 火の世界樹の洞窟に入った頃と同じだ。

 あまり時差は無いのか、立ったままずっと眠っていたのか。

 周りを見回すが、誰もいない。1人・・・か。


 あ! シー君とフーちゃんどうなった!?

 急いでシルフ石を確かめると、フーちゃんだけ入っていた。

 シーくぅぅううん!


 うなだれる俺の周りを、石から飛び出したフーちゃんがホワホワ飛び回る。

 若干フリーズした頭でそれを見つめた。

 ちょっとだけ落ち着いた・・・。


 10分後。俺は砂浜に腰かけたまま、今の状況を考える。

 とりあえず、だ。

 あの白い影、見覚えがあったからつい追いかけたけれど、何かの罠だったのか?


「あ、起きた?

 びっくりしたねー、いきなり飛ばされるんだもん」


 後ろから、少し高めの声がかかって、びくっとして振り返る。


 そこには、いつかの風の世界樹近くの駐屯場で出会った王子の様な風貌の男が立っていた。

 この前出会った時は、冒険者が着るような軽装の装備を身にまとっていたが、今の姿は白いスーツに金の刺繍が入った、カジュアルだが豪華な感じの服だ。

 金と白の組み合わせなのに、不思議とキザじゃない。

 顔が正統王子系だからか?

 そして、手には木の枝の山。


 似合わない。というか高そうな服が汚れそう。


『えーっと』

「僕? クロムだよ。

 いやー、まさか僕に発動した罠に君が巻き込まれるとは思わなかった」


 めっちゃ笑顔で言うクロム。テキパキとたき火を組み立てて、どっかから取り出した魚を焼き始めた。


 はい?


 *


 どうやらここは無人島の様です。

 目の前には広大な水平線に落ちる大きな夕日。ろまんちっく。男2人じゃなければな!

 クロムによると、南半球に散らばる島のひとつらしい。

 炎の罠にかかってから目覚めるまで、そう時間は経っていないそうだ。


 久々のこの置いてけぼり感。召喚されてすぐの頃を思い出す。


 てか南半球の島って、勇者君達が船で出かけてったって噂の所だよね。

 島によって環境も文化も全て違うって言う、不思議な場所だったっけ。


「すっかり夕方になっちゃたね」


 横でたき火を突きつつ、ぼんやりと座るクロム。

 火も水も魔法で出せるし、後ろの森にいる動物や海の魚も魔法で簡単に取れるので、特に不便は無かった。

 風よけも、風魔法でどうにかできたし。

 ま! 俺は魔法使えないからクロムが全部やってくれたけど!!!

 俺は肉をおいしく焼いた。料理覚えといてよかった。いたたまれない。


『ところでどうしてこうなったのか、まだよく分かってないんだけど俺・・・』

「ごめん、僕も良く分かってない」


 フフフフって笑い出すクロム。けっこう笑い上戸みたいだクロム。


「とりあえず、2人の情報をすり合わせてみると・・・」


 火の世界樹のある洞窟に入る

 ↓

 俺が太い道を歩いていると、狭い横道に入るクロムを見つけて追いかける

 ↓

 横道に設置されていた罠が、クロムに発動

 ↓

 クロム避ける

 ↓

 追いかけてきた俺が嵌る

 ↓

 クロムを巻き込む

 ↓

 南の島に転移


「なんか罠に嵌った君をみてたら僕も巻き込まれてた」

『マジですか。というか、これ俺のせいですねゴメンナサイ』

「いいよいいよ。元々避け切れるか分かんなかったしさ。

 1人で歩いてた僕を心配して、追いかけてきてくれたっぽいし」

『マジすいません。というか、やっぱり1人で?』

「うん。ちょっと火の大精霊に聞きたいことがあったからさ」

『聞きたい事?』

「そうそう。もうすぐわかると思うけど」


 そういうクロムの横顔に射していた、赤い夕陽の光が消える。

 完全に日没だな。空には満点の星空が光り始める。

 その瞬間。


 クロムの体が、縮んだ。


 もう本当に、音も無くキュッと縮んで・・・

 俺の横には、茶色い栗饅頭が座っていた。


 栗饅頭って言うか、頭が栗饅頭っぽい猫? 目は細い。


「これがねー」

『うぇ、うぇええええ!?』

「あ、やっぱり驚いた?

 便利でしょ、服も縮むんだよ」


 そういう問題?


 どうやらクロム、夜になると猫(?)になる呪い(?)を解く方法を探していて、たまたま火の世界樹に寄ったそうだ。

 その時、クロムを邪魔に思う(?)者が設置していた、クロムだけに反応して発動する罠に嵌りかけ、気付いて避けようとしたら俺がひょっこり現れて目の前で燃えたらしい。

 で、気付いたら自分も巻き込まれていたと。


「寝不足でさ、うっかり寝ちゃってたんだよ」

『俺が燃えてるのに?』

「嘘嘘、道が狭くて避け切れなくってさ。あと、あの罠の炎に殺傷性は無いよ」

『どうして分かるんだ? まあ俺、今元気だけど・・・』

「そりゃあ」


 クロムは、たき火に照らされた茶色い顔をクシャっと歪めて、俺に親指を立てた。


「みんなが僕を殺そうとするはず無いもん!」


 どうやらこれが、変身時の笑顔っぽい。

 猫の笑顔って初めて見たな。


『っていうかその姿!?』

「ん?」


 黒蹴が東の大陸で会ったっていってた栗饅頭って、クロムの事かよ!

 ザンアクロスってやつが助けてた犬は、昼間に犬だったらしいし別種か?

 犬と猫だしな。


『ところでさっき言ってた≪みんな≫って誰の事?

 クロムを罠にはめたっていう』

「そこは内緒だよ! そういえば僕達、一回会った事あるけど覚えてる?

 ほら、風の世界樹のある谷の駐屯場近くで・・・」


 結局、さっきクロムが言っていた「みんな」が誰かも、ここからどうやって脱出するかも教えてはもらえなかった。

 妙にクロムに余裕があるから、数日しないうちに助けが来る手段でも持っている気がしたんだけどね。

 明日になったらわかる。それだけしかクロムは言ってくれなかった。


 後、駐屯場で夜中にあった魔物同士の喧嘩の話。

 あれ、クロムと森の主との戦いだったらしい。


「夜だったから、僕この姿だったんだよ」

『なるほど』


「この島には凶悪な魔物は居ないみたいだし、風よけで結界貼っとくよ」

『あ、一応≪結界の聖水≫撒いとくよ』

「高いアイテムじゃなかったっけそれ?」

『いや、俺魔法使えないし、お礼って事で』

「じゃあありがたく受け取るよ。ありがとー」

 

「じゃあ、おやすみー」

『おやすみー』

 

 特に何事も無く、無人島一日目は過ぎて行った。めっちゃ平和。

 普通こういうのって無人島に遭難ってやつだよね。結構やばい奴だよね。

 そういえばクロムがこの姿って事は、ザンアクロスが助けていたプードルも、呪われた姿って事なのかな?

 明日聞いてみよう。ぐぅ。



 *~~~~~~~~~~~~~

 目の前には赤々と燃える、たき火。

 たき火を挟んだ向かい側には、色黒の厳つい男。

 同じく、ハンマーや棍棒の似合いそうな厳つい手には、何故か金属製の華奢な横笛。

 そして男は磨き布を取り出し、その大きな手からは想像できないような丁寧な動作で、笛を磨き上げていく。

 彼の周りには、そうして手入れされた古今東西の様々な楽器が置かれ、たき火の火に反射してキラキラと輝いている。

 そうして磨き上げた笛を、彼は一吹きする。

 あたりに澄んだ音色が響き渡った。


 目が合うと、彼はニヤリと笑った。

 まるで友達に、笑いかける様に。

 

「どうだ、俺が居ると、退屈しないだろう?」

「危険な旅だって言ってるのに」

「はっはっは、戦えねえ俺でも、友達としてお前の傍に居るくらいなら、出来るからな」


 ボクは初めて出来た≪友達≫の言葉に、心が熱くなる。

 彼は特別なんだ。なにも気にせず、ずっと一緒に居られる友達。

 何故なら彼は・・・

 *~~~~~~~~~~~~~



 次の日の朝。

 さざ波の音に混じって、大きな何かが地面に乗り上げた音で目を覚ました。

 仰向けに空を見ると、見覚えのあるシルフが2匹フワついている。


 シー君なんで居てるん。

 もしかしたら、火の世界樹とこの島は、結構距離が近いのかもしれないな。


 足元の方から、誰かが砂浜を踏みしめる音が響く。

 足音は、4つ。

 俺達の方に向かっているな。


 ゆっくりと、顔を上げる。

 そこには、5人くらい乗れそうな、大きめの手漕ぎのボートと


「久しぶりだね! ニルフ!」


 勇者君PTが立っていた。

 少し背、伸びた?



 ~SS キラ男の受難~


「あ、見られちゃった」


 先に部屋に居た男が、彼を見て呟く。

 部屋に入るときにノックをしなかったのは、自分が悪かった。

 だが、こんな夜中に、屋敷内で重要な資料を保存している部屋に、誰かいるなんて思わないじゃないか。

 誰かに使用する許可を出した覚えもないし。


 1人でブツブツと呟いたのは、きらびやかな服を纏ったキザな男だ。

 彼 ―――――キラ男は今、広げた資料を片手にした男 ―――――ザンアクロスと見つめ合っている。


 *


 初めは、眠れなかったので、本の1つでも読もうかと、資料室に足を運んだだけだった。


(おとぎ話の勇者伝説でも読むかな)


 そう思って部屋に入ると、先客がいた。薄暗く揺れる、蝋燭の光。

 その前で熱心に資料を読みこむ、1人の男。

 彼はその横顔に見覚えがあった。

 確かあの男は・・・。


「ザンアクロス、か? なぜこんな所に?」


 声に気付き、ザンアクロスは振り返る。

 そしてその瞬間、キラ男は声を掛けたことを後悔した。


「お、お前、その顔・・・」


 振り返ったその顔に、何か異様さを感じた。なんというか、生きている人間の様には見えない。

 震える足で、一歩下がる。と、


「どうしましたかごしゅじんさま」


 後ろのドアが開き、小学生くらいの女の子が顔をのぞかせた。

 黒い艶やかな髪をおかっぱにして、内巻にカールさせている子だ。

 確か、メイド見習いとして雇った使用人。


「くっ」


 自分よりも小さな少女が視界に入ったとたん、彼の震えは収まった。

 この子を危険にさらす訳には行かない!

 そん所そこらの男ならば、このような状況の場合、少女を差し出してその間に逃げるのだろう。が!

 

 僕は違うぞ!!!


 キラ男(ニルフ命名)。

 彼は西の国の貴族。港近くの街に家を持ち、小さいながらも慕われた貴族と地元では評判だ。

 とりあえず彼はそう思っている。

 実はそんなに家の仕事を手伝った事は無いため、その辺あんまり詳しくない。

 彼の身の周りの世話をするメイドや傭兵団は、彼が助け出した者達だ。

 皆、奴隷や借金のかたなどとしてひどい扱いを受けていた所を、彼が助け出したのだ。

 そして再び悪の手に落ちないよう、彼の身の回りに置いている。

 いや、置いてくださいと涙を流しながら縋ってくる者ばかりだった。


 しかし彼は、そうして助けた中の、特定の人物のみを身の回りに置くことは無かった。

 彼は助ける相手を選別している訳では無いのだ。

 そして、まだ助けを求める者が、この世の中で彼を待っている!


 そこで、彼は自分に一番懐いていた少女を思い出す。金髪の髪をおかっぱにした、このメイドと同じくらいの年の子。

 彼女は初め、メイドとして働かせるつもりだったが、彼の身を守りたいと傭兵に名乗り出た。

 しかしもしも彼に何かが合った時・・・、幼い彼女はその命を賭して、彼を守るだろう。

 それではいけないんだ・・・。彼はアンニュイに首を振る。

 そのために自分の助けた者で構成した傭兵団を、「ピンキー行商隊」の捜索任務にあてがって、西の大陸各町に派遣したと言うのに。

 彼はまだ知らない。彼女が自分を探す為にピンキー行商隊と行動を共にしている事を。

 そしてキラ子と呼ばれている事を。

 あと自分がキラ男と呼ばれている事も。


 この間10秒。結構長い間考えていたが、キラ男は一瞬で考えをめぐらせたと思っている。

 ちなみにその間、ザンアクロスは律儀に待っていた。

 手を出したら悪いかな? と思った為だ。


 キラ男は、後ろの少女にサッと目を走らせる。

 その少女はザンアクロスの顔を見て、自分と同じ様にクッと息を詰まらせ・・・


「ばれてる!!!」


 と叫んだ。



 そのままばれちゃったらやばいよね、どうしよう連れてくかって事になり、彼は今、ザンアクロスの家に居候だ。

 家にはしゃべる犬も居て、ご飯も結構おいしい。どこか人族っぽくない、2人の顔にはもう慣れた。

 そして・・・


「なんだあの美人は!?」

「あー、見ちゃったか」

「あっちゃったか」

「会っては無いよ、ジジちゃん。しかし遠くから見かけただけなのにあの美貌!

 ぜひ紹介してください!」


 彼には、ピンキー行商隊を追いかけるよりももっと重要な、ある目的が生まれていた。


「あの方とお近づきになるまでは、家に帰らないよ!」

「「「えー」」」


 もう家に帰そうかな。

 ザンアクロス達は、そう思い始めていた。

次回メモ:吟遊詩人


いつもよんでいただき、ありいがとうございます!

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