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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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風の世界樹での出来事

「なんかー、あんまり敵居ないわねー」


 ビキニアーマーに身を包んだ女戦士が、時折襲い来る、石で出来た狼を蹴っ飛ばして呟いた。

 横を歩く、長い杖を担いだ女性がそれを聞いて、


「そりゃそうだろう、なんせ」


 周りを見回して答える。


「これだけ居ればな」


 やり取りを聞いていた周りの女性たちから、笑い声が上がった。


 風の世界樹へと続く、細い山道。

 人3人分ほどのスペースの道には15人ほどの女性たちが、気ままに誰かと話しながら歩いている。


 後ろに続く男達も合わせると、20人ほど。

 

 それだけの人数だ。

 道中は、いくら魔物が襲ってきても大した危機になる事も無く、進んで行ったそうだ。


「先輩にハーピーの集団に注意しろって言われてたんだけど、全然見かけないわね」

 

 若葉の隣を歩いていた、踊り子風の女性が話しかけてきた。


「そうですわね。きっとこの人数ですし、警戒してるんでしょう」


 若葉はごまかした。


 谷に入る前、ハーピーは「仲間ニ会イニ行ッテクルゾ!」とポニーさんに伝えて、一足先に飛んで行った。

 きっと冒険者にちょっかいを出さないよう、注意しに行ったんだろう。


 おしゃべりに花が咲いているうちに、いつの間にか世界樹に到着していた。

 そして、ふもとには。


「世界樹島の大精霊様?」

「違うぞい。ワシこそが、風の大精霊だぞい」


 若葉の疑問をすぐに否定したのは、風の爺さんだった。

 風の爺さんは、ふもとの広場に集まった冒険者達を見回すと、


「なんか最近、人数多いのう。試練を受ける者のみ、前に出るのじゃ」


 すこし疲れた様子で、そう言った。

 護衛として付いてきた数人を残して、一斉に前に出る冒険者達。 


「ふむ、おぬしらが今日の挑戦者連中じゃな。ならば、さっさと済ますかの!」


 そう言うと風の大精霊の爺さんは、一瞬で1人1人を風の膜で覆った。

 どうやら、そこから脱出できたものを合格とするらしい。


「風の檻じゃ。一定時間で中の空気が尽きるからの。がんばるのじゃ!」


 急に現れた風の檻に、ざわめく冒険者達。


「なんだこれ。押すと伸びるぞ」

「触っても怪我をしない風の中級魔法だと!?」

「中級魔法を使えると、こんなことも出来るのか!」

「おい、珍しい魔法なのは分かるけど。今 分析してる暇は無いんじゃないか?」


 さすが冒険者、結構余裕はあるっぽい。

 女性達の緊張したような、しかし楽しげな声で広場が満たされる。


 だが、それをかき消すように響く、1人の男の声。

 声の主は、角の生えた兜をかぶっている厳つい男だった。

 確かバーサーカーさんに投げられた人だな。

 

「おい女共! 俺達と賭けをしないか?」

「賭けぇ?」


 不審さに満ちた顔で振り返ったバーサーカーさん。

 注目を浴びた角兜の男は、ゲヒた笑みを浮かべて続ける。


「男と女、どちらが先にこの檻を一番に破るかで勝負するんだ。

 勝った方が、負けた方のいう事を何でも聞く」


 話を聞いたバーサーカーさんの片眉が上がる。


「あん?

 俺がそんな事、了承するとでも思ってんのか?」


 不機嫌そうに響くバーサーカーさんの声。

 女性たちの同調する声も上がる。

 しかし角兜の男は


「いや、お前らは承諾する」


 そう言って、一層凶悪な笑みを深めた。

 その瞬間。


「きゃあ!」

「おとなしくして貰おう」


 後ろで女性の悲鳴と、男の怒号が響く!

 バーサーカーさんが振り返ると、ヒーラーとして付いて来ていた女性が、数人の男に捕まっている!

 首にはナイフが突きつけられてる。


「おい! これはどういう事だ!」


 数人のグループが怒りの声を上げる。ヒーラーさんのPTメンバーのようだ。

 すぐに駆けつけようとするが、檻を破壊できずに歯噛みしている。

 周りにいた、普通に護衛として付いて来ていた冒険者達も、隙をうかがって助けようとするが上手くいかない。


 一気に不穏になる場。

 そこに、角兜の男の笑い声。


「グハハハハハ! 分かったか。お前らに断る権利何て無ぇんだよ!

 おい、男共。お前らも、手ぇ抜いたらあの女がどうなるか分かってんだろうな!

 さあ、賭けを始めようぜ」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべる角男が、手に持ったオノを大きく振りかぶった。

 その瞬間。


「これを破るんですわね!」


 その場の雰囲気、全て吹き飛ばすような元気な声が響いて、


「とーりゃぁああ!」


 若葉が檻を一刀両断した。

 その一太刀で、ついでに角兜の仲間も吹っ飛ばして、人質に取られていたヒーラーさんも無事解放されたそうで。


 数分後には、世界樹の根元には男達が縛られて転がされていた。

 周りには怖い顔した女性陣。

 風の爺さんは試練が終わると同時に、やれやれって感じで世界樹に帰ってったそうだ。


「ちくしょう! 放しやがれ!」


 もちろん角兜の男と、その仲間だ。そして、


「あ、あの。俺達は関係ない気がするんですが?!」


 角兜とは関係ない男達も、何故か一緒に。

 

「うるせえ! 連帯責任だ!

 なんでもいう事聞くんだったよな? じゃあ・・・」


 バーサーカーさんに真上から覗きこまれ、震える男共。


「飯、おごれ」


 飛び切りの笑顔で、バーサーカーさんが告げたそうだ。


 あぁ、だからあの時、男達が泣きそうな顔で飲んでたんだな。

 あの宴会の費用、全部払わされることになったから。


 連帯責任にしたのは、冒険者達があいつ(角兜の男)らとの関わり合いを完全に断つように持っていくのが狙いだったそうだ。

 下心に引っ張られて、女性冒険者達への復讐とかに、協力する奴らが居ないとも限らないから。


 一緒に行かなくてよかった!

 俺は心からそう思って、ふと疑問を口にする。


『そういえば角兜男とその仲間が見当たらなかったけど』

「ああ、あいつらなら」


 話してくれたバーサーカーさん、今日一番の笑顔。


「1人1発ずつ全員で殴って、縛ったまま世界樹の根元に置いてきた!」


 この人は怒らせないようにしようっと。


「でも不思議なんですのよ」


 若葉がほっぺに指を当てて呟く。


「わたくし、そんなに強く切ってないつもりでしたのに。

 あんなに遠くまで斬撃が届くはずは・・・」


 それを聞いていた紅葉さんがフフフーと笑った。


「それはきっと、風の大精霊様の仕業ね」



 城に帰ると、ピンキーが注文していたネコテが届いていた。

 指先につけるキャップの先に、尖って曲がった、ネコのような爪が付いている。


 早速左手の人差し指に付けてみた。

 真っ白な、陶器の様に不透明な爪が、キラリと光を反射している。


 ***


 ドアが開く音がした。

 続いて廊下を歩く音、そして、


「おい、居るか。ザンアクロス」


 薄暗い部屋に、機械で加工したかのような声が響く。

 声を発した主はため息をついてからフードを取り、その顔を晒す。が、


「いるよー。あれ、相変わらず包帯だね」


 その素顔は真っ黒な包帯に阻まれて、見ることは出来なかった。


 その包帯を巻いた男に話しかけられ、返事をしたのは、細いががっしりした体つきの優男だった。

 だがその体色は緑色がかっており、健康そうには見えない。

 しかし体調不良の様子も無く、良く知る友人に話しかける様な朗らかな態度で、包帯男に接する。


「包帯は・・・、癖だ。太陽の登る土地はどうも落ち着かん」


 包帯男は包帯を取る様子も無く、部屋にある椅子に座った。

 薄暗くてよく分からないが、どうやらここはリビングの様だ。


「勝手に座ってるけど、ここ一応私の家なんだけど」


 苦笑しつつ、客人にお茶を出す、ザンアクロスと呼ばれた男。

 包帯男は器用に包帯を巻いたままお茶を一口すすり、


「仕事の方は順調か」


 短く尋ねる。


「うん、大丈夫」


 朗らかな笑顔で答えるザンアクロス。


「頼まれたことは全て終わらせたよ。結果がどうなるかは、私には関係ないし」

「それならいい」


 機嫌の良さそうな包帯男の声。

 だが急に顔を顰める。


「ところで、この生臭い臭いはなんだ?」

「あぁ、それは」


 ザンアクロスは後ろを振り返る。

 リビングの横に続くキッチンでは、2つの小さな影と1つの大きめの影が、薪を囲んで何かを焼いていた。


「家の中で、薪・・・か?」


 あっけにとられる包帯男。

 それにあの薪の傍に居る大きめの影。あいつは確か、ザンアクロスが攫ったという貴族の男ではなかったか?

 なぜ仲良く薪を囲んでいる?


「お腹すいたって言うからさ」


 ザンアクロスも椅子に座り、お茶をすすった。


 隣の部屋では、小学生くらいの女の子と、灰色のプードルの様な犬、そしてキザな男の3人が、真剣な様子で薪を見つめている。


 3人とも三角座り。


 目の前には、串に刺さった赤い軟体生物。


「ねえ、プック。これ本当に食べられるの?」


 キザな男 ―――キラ男が隣の犬に尋ねる。

 プックと呼ばれた犬は全身もこもこの毛に覆われていたが、頭だけがモップの様な毛質だった。

 以前見世物小屋に捕まっていた犬、それがこの生き物だ。

 その犬が、勢いよく顔を上げて声を張り上げる。


「たべられるよ!」

「うん たべられる!

 でも たりないかもしれない」


 一緒に答えたのは、黒蹴がザンアクロスと一緒に居るところをみた、小学生くらいの少女だ。

 一見すると普通の人族のようだが、耳が人族より大きい。

 彼女はその耳の後ろにおもむろに手をやると・・・


「ふおおおおお」


 掛け声と共に、もう一匹、赤い軟体生物を取り出した。

 そのまま腰に下げたヌンチャクを取り出してブンブン振り回すと・・・


「ジジチャンアターック」


 軟体生物に一撃かました。

 そして動かなくなったことを確認すると、串に刺して同じように焼き始める。


 その様子を、キラ男は興味深そうに観察し、嬉しそうにため息をつく。


「それにしても、いつでもご飯取り出せるってジジちゃん便利だね」

「うん! ジジチャン みをけづってごはんつくる!」

「うん! 姉御おいしい!!!」


 褒められてうれしそうに答えるジジと、ジジを姉御と呼んで、同じくうれしそうなプック。

 3人は再び、焼けていく謎の軟体生物を真剣に見つめはじめた。


 その様子を見つつザンアクロスと会話をしていた包帯男。

 もう、深くは考えない事にしたようだ。

 そして軽い情報交換を終え、席を立つ。


「あれ、もう帰るの? もうちょっとゆっくりしていけばいいのに。

 もうすぐ焼けるよ?」

「いや、もう戻らなければ」


 不思議そうに引き止めるザンアクロスには悪いが、こんな所に長居はしたくない。

 家じゅうに籠った薪の煙が、体に染み込みそうだった。


 そしてザンアクロスに次の指示を出し、踵を返し、ドアに向かった。


「ザンさあああん! 焼けたよ!!! たべるー?」

「うん、食べる食べるー」

「わかった、もってくー」


 後ろからはプックの声が聞こえ、ザンアクロスの返事が響く。が、その瞬間。


「ちょっとこれくっそあっちぃぃぃいいい!!!」


 プックの叫びと共に目の前に飛んできた(串付きの)赤い軟体生物が、包帯男の顔を掠って、ドアに突き刺さる。

 串がカスッた包帯が、パラリとほどけた。一瞬怒りが沸きあがる、が。


「あ、だめだよプックさん。投げたら危ないでしょ」


 ゆったりとしたザンアクロスの声に、すっかり気が抜けてしまった。

 包帯男は、後ろの部屋で楽しげに串をほおばる4人に一瞬目をやり、


「だから、この家に来るのは嫌なんだ」


 包帯を巻きなおし、ドアに刺さった串を引き抜いてその場を後にした。

 焼き軟体生物は塩が効いていて、意外とおいしかった。

次回メモ:駆け足!


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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