風の世界樹
塀の向こうから、姦しい声がする。
それは徐々に門に近づいて行き。
「ただいまー」
「カエッタゾ! 銀ー!」
「勝てましたわ!」
日が落ち切る前に、女性陣が帰ってきた。
一気に華やかになる駐屯所。迎える兵士さんの顔も今日一番の朗らかさだ!
先頭を歩くのは、野生児の様なワイルドな髪型と服装をした、いかにもバーサーカーって感じの人だ。
後ろには、この人が率いる女性のみのPTメンバーが続く。
確かこの人、言い寄ってきた男冒険者を一瞬でブン投げた人だよな?
それを見ていた黒蹴に≪バーサーカー≫みたいですねって言われて、すっかりその名前を気に入ってたと、兵士の間で噂になっていた。
出掛ける前、「俺の字名は、今から≪バーサーカー≫だ!」って宣言してたらしい。
俺達は、歓声を上げて皆を迎える。
バーサーカーさんは俺達を見回して・・・
「野郎共! 俺ら全員、世界樹の大精霊に認められたぜ!
この駐屯場には頑張った女の為に、祝いの宴でも開くぐらいの度胸がある奴ぁ居ねえのか!」
はじけるような笑顔で、大声を張り上げた。
*
日が暮れる頃には、すっかり宴会状態だ!
駐屯所に残っていた兵士や冒険者達が、準備に走り回っている。
今日の主役は女性達だ。
バーサーカーさんは、広場の中央に急遽造られたキャンプファイヤーの前を陣取っている。
なんていうか、超ボスっぽい。
片手に肉、もう一方に酒を持って、若葉と語り合っている。
「ふはははは! このねーちゃん、見た目によらず凶悪な武器使ってヤンの!」
「やめてくださいですわー。貴方こそ、まさか素手で戦いを挑むとは思っていませんでしたわ」
「ふははは! 相手も丸腰なんだ! 俺だけ武器を使うのは、卑怯ってもんだろう!」
「試練をクリアして『合格』と言った大精霊さんに、そのまま殴りかかって行く方が卑怯なのでは!?
あ、いえ。卑怯とは違う気がしますが」
「ふっはっはっは! 言うねえ、ねーちゃん。
なあ、俺らと一緒に旅しねーか? 歓迎するぜ!」
若葉が女性のみのPTに勧誘されている。気が合うのかな?
ちなみに女性達は全員≪登録≫出来たらしい。
男達はどうなったのか知らん。・・・なんか向こうでしょげてるけど、なんかあったのかな。
「銀ー! 皆元気ダッタ!」
「そうか。よかったな」
「ウン!」
「ハーピー! 私も混ぜなさい!」
向こうの木の上では、いつもの銀グループがいちゃついて(?)いる。
屋台の近くでは黒蹴と隊長が、他の冒険者達と雑談中だ。
そういえばピンキー達は・・・?
「いらっしゃいませー!
本日限定! ここでしか買えない、女性向けのアクセサリーよ!」
「風の大精霊に勝った、今日の思い出に買っていかないか!」
「うふふ、目当ての女の子にプレゼント、ってのもいいかもね~」
そういえば風の大精霊の谷に行くと決まった頃から、薄い緑色の水晶を仕入れては小さなアクセサリーを作ってた・・・な。
さすがピンキー行商隊。売り時を逃さない。
俺は少し離れた場所でその光景を見つつ、リクエストされた曲をハープで弾いた。
世界を廻ると、いろんな曲を聴けるのが良いよね。
まあ、ほぼ聞きかじりだけど。
「あら、吟遊詩人さん、かしら?」
「めずらしいな。吟遊詩人なのに町では無く、こんな場所を廻っているのか?」
ハープの音を頼りに、2人の女性が俺の所に来た。
活発だけど優しいお姫様って感じの人と、かっこいい男装の令嬢って感じの人だ。
『仲間が大精霊に挑戦しに来たので』
「応援に付いてきたのね!」
「なるほど、ハープで癒そうと非力ながら参上したという事か」
『そんなところです。これくらいしかできる事ないので。
そうだ。面白い話とか曲とか知ってますか?』
「曲に取り入れるんだな。私はそういうのに疎いので知らないな」
「あ、私1つ知ってますよ。
小さな男の子が勇者として活躍する話を、この大陸の港で吟遊詩人さんが歌ってました。
なんでも、森に出た凶悪な獣の軍団を退治したって」
また勇者君か。歌にまでなるなんて、本物の勇者っぽいじゃないか!
勇者君の冒険の一端を聞くたびに、何だかワクワクする。
『ありがとうございます。そういえば、この場所にも勇者君PTが訪れた事があるとか・・・』
「それ、聞きました! 4人で魔物を一網打尽にしたとか」
「あれ? 私が聞いた冒険談は、3人PTだったはずだけど」
「聞き間違いじゃない?」
「そうかも」
あの3人、勇者君が一番大事って感じだったからな。
話に出るくらい別行動とかしそうにないし、聞き間違いだろう。
ハープを弾きつつ、しばらく3人で談笑していると。
「なになに、このハープ、その子が弾いてるの?」
「かっこいーぃ」
「ねえねえ、仲間って女の子? ねえ、良い感じなの?」
「きゃー、この人、片言なの!? かわいい!」
『うぇ!?』
なんかいっぱい来た!
殺気を感じて振り返ると、男共の羨望とねたみのまなざし。
皆、一か所に固まってヤケ酒中だ。赤く充血した目で見つめてくる。
うわん、なんかこわい。
助けを求めて目線を彷徨わす、と。
隊長と目が合った。
グッジョブ。じゃなくて!
親指立ててすごく良い笑顔でグッジョブじゃなくって!
黒蹴達の世界のハンドサイン、こんな時に使わなくていいから!
「ねえねえ、あなたって」「ハープについてるこのキーホルダーかわい」「どこの冒険者?」
「次は王都の物語弾い」「ちょっと字名おしえ」「私と一緒に」「マフラー取ってみてよ」
ひぃぃぃぃぃいい!!!
バッと逃げ出す俺。
そのまま駐屯場の暗がりに逃げ込む。
建物の裏に隠れ、壁を背にして気配を消す。
後ろから「あ、逃げた」って声が聞こえたけれど、追いかけてくる気配はない。
あー、怖かった。
ホッと息をつく、と。
ガシッと腕を掴まれた。
「み~つ~け~ま~し~た~わ~」
えらく間延びした、細い声。建物の角から白い手が伸びていて、俺の腕をつかんでいた。
『ぎょあぁああああああ!?』
「きゃぁぁああああああ!?」
俺はとっさに白い腕を掴んで関節技を決めつつ、ブン投げていた。
*
若葉でした。
すごく怒られました。
あまり長くは話せない俺を心配して来てくれたのに投げたので、すごく怒られました。
でもあれしょうがないと思う。
怖かったもん。心霊的な怖さだったもん。
「まったくもう! 心配してソンしましたわ!」
『ごめんって、若葉ー』
腕組んでぷりぷり怒る若葉。
周りに風が吹き乱れる。
怒り? 若葉の怒りに反応しているの?
その風に、若葉の緑色の長い髪がかき乱され、まさに怒髪天を突く見た目になった。
『やっぱり怒りの風だ!』
「なんですの、その妙な技名みたいな呼び方!
違いますわ! ここは風の世界樹が近い分、風が強いんですのよ!」
もう! と言いながら髪を抑える若葉。
違うよ若葉。それ、シルフ達が若葉の髪で遊んでるんだよ、とか言えないよね。
風の仕業と思っててもらおう。
あ、そうだ。俺は懐から箱を取り出す。
うん、ラッピングは綺麗なままだ。
『あのさ、これあげる』
「なんですの?」
若葉はガサガサと袋を開け、中の髪飾りを見て目を丸くした。
「これって・・・」
『無事、風の大精霊に認めてもらったお祝い』
「えっ」
顔を上げて、呆けたように俺を見る若葉。
俺はその表情を見て、軽く笑って続けた。
『嘘嘘。前に、ハープにつけるアクセサリーくれたじゃん。
それのお礼だよ』
若葉が宙を見たまま動かなくなっちゃったので、1人でキャンプファイアーの元に戻る。
今度は囲まれない様に、黒蹴達の所に合流するかな。
あ、そうだ。これ言ってなかった。
『ありがとな、若葉』
――――――――――――――――
「ありがとな、若葉」
ニルフはこちらを軽く振り返り、片手を軽く上げた後、去って行った。
若葉はしばらくニルフが去って行った方向を呆然と見ていたが、
「こちらこそ、ありがとう、ございますですわ」
小さな箱に入った、世界樹の葉を模した華奢な髪留めを丁寧に取り出して、髪につける。
そのまま、ゆっくりと皆の居る広場へと、歩いて行った。
広場からは、ハープや色々な楽器の音が響き、大きな薪の周りでは皆が好き好きに踊り合ってる。
薪の火に照らされて、薄い黄緑と薄い赤茶の 透明な2枚の葉を模した飾りが、若葉の緑色の髪の上で輝いていた。
―――――――――――――――――――――
そういえば、キラ子ちゃんが見当たらないと思ったら、ピンキー行商隊に吸収されていた。
売り子、ごくろうさんです!
*
「おかえりなさい、若葉達! 良い冒険は出来た?」
「姉さま!? なんでここに!?」
風の世界樹からの帰り。
駐屯所から王都まで出てる馬車には冒険者しか利用しないので、馬車降りたメンバーは、ほぼ全員がギルドに直行する。
今回も風の大精霊に認められた冒険者全員でギルドに報告に行く。
と、何故か報告用の受付カウンターに紅葉さんが居た。
なんでそんな所に居るんですか?
「ふふふー! 驚かそうと思ってー!」
「巫女の立場を乱用しないでください!!!」
若葉に怒られる紅葉さん。
向こうの方では、困り顔のギルドマスターがこちらの様子をうかがっていた。
*
あ、ちなみになんだけど。
ギルドの新サービスの1つで、その国にある世界樹に≪登録≫している者は、城下町の石碑に≪登録≫出来るようになった。
今までは各国のギルドで城下町の石碑に≪登録≫する基準があいまいだった為、今回ルールを定めたらしい。
そういえば、南の国のギルドで≪登録≫出来るか聞いた時は、「この国出身の冒険者の推薦が無ければ難しい」って言われたな。
そういうのが全部なしになったそうだ。
でも。
もちろん悪評が高いとかそういう危険人物は≪登録≫出来ない様になっている。
当たり前か。
その為、今若葉以外の風の世界樹登録者達は、城下町の石碑の≪登録≫に向かっている。
「ちょっと、何ボーッとしてるんですの?」
若葉に突っつかれて我に返る。
周りを見ると、いつの間にかソルジャー君達も居た。
既に黒蹴達と話が弾んでいる。
「皆さん、お久しぶりっす!」
「君たちは測定しに来たの?」
「はい! でも半年先って言われちゃって」
「ソルジャーが寝坊するからでしょ!」
「なんだよソバカス」
「アーンーでーすー!」
「まあまあ、2人とも」
喧嘩する2人を、コナユキが宥めている。
いつも通りだな、この3人。
「そういえば皆さんは風の世界樹の帰りだとか。
どういう試練だったか、ぜひ話を聞きたいです」
「あら、いいわよ」
城下町の石碑から戻ってきたレモンちゃん達も話に加わる。
俺達が集まってるのを見た、同じ馬車に乗っていた冒険者達も周りに集まってきたようだ。
そして、話が始まった。
次回メモ:特技
いつも読んでいただき、ありがとうふぉざいます!




