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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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世界樹を巡ろう!

 ギルドと各国が発明したHPとMPを測定する魔法具が発明された。

 それでHPMPを測定した日から、さらに半月が過ぎた、が。

 まだ、俺達は世界樹に向かっていなかった。


 なぜあの後すぐに世界樹を巡らなかったかと言うと。


『世界樹に行く準備はいいか野郎どもー』

「あ、アタシ達、まだブロンズランクだったわ」


 ピンキー親衛隊+キラ子ちゃんのギルドランクを上げていたからだ。

 ついでに、キラ子ちゃんも石碑めぐりで≪登録≫しまくりのドーピングをした。

 

 キラ子:通常石碑50

     属性世界樹石碑0

     HP 275

     MP 510


 キラ子ちゃんのHPとMPも、皆に追いついた感じだし、さて!

 今日からようやく世界樹を廻れるぜ!


 いやー長かった!

 ピンキーが犬になってから2か月くらいたったんじゃない?


 俺は城の中庭に出て、大きく腕を伸ばす。

 うん、今日もいい天気だ!


「よし、全員そろったな」


 隊長もなんだか楽しげな表情だ。

 俺達は全員そろって城下町に出る。

 今日の目的地は、風の大精霊のいる世界樹。


 いつもの馬車は、使わない。


 *


 馬車にガタゴト揺られて1週間。

 俺達は風の世界樹のある渓谷前、その直前の とある場所に着いた。


 そう、ここはムサイ男共の住む場所。その名は駐屯場。


『あれ、以前までは男兵士しかいなかったのに、今は結構女性が居るな』

「ああ、あれは全員が冒険者ですよ。最近世界樹を巡るブームが来てましてね」


 門を守る兵士さんの1人が教えてくれた。

 

「王の命令で女性用の施設や設備も整えましたし、女性兵士の来る日も遠くありません!

 うぉぉぉ! 彼女作れるぞぉぉぉ!」


 通りかかりの兵士さんが握り拳を作って叫ぶ。熱血だな。


 さて、ここから谷までは徒歩になる。

 

 俺達は谷に向かう女性陣+ピンキーを見送って、駐屯場で待機する。

 ハーピーは、故郷のこの谷に住む仲間達に会いに行くそうだ。

 ついでに皆の道案内も頼んだ。


「マカセロ! 銀ノ分マデ、皆ヲ守ッテクル!」


 胸をドンっと叩いてマカセロと言いつつ咳き込むハーピー。

 ポニーさんが背中をさする。若干の不安!


『そういえばハーピーって、ギルドに登録してたっけ?』

「アッ」


 ハーピーは鳥の姿になって、こっそり上空から一行について行った。

 道案内ってなんだっけ?

 そういえば水の世界樹に行った時も、魔物になってごまかしたんだった。


 俺・銀・黒蹴・隊長は今回は駐屯場でお留守番。

 風の世界樹は、もう既に言った事があるからね。


 あと、俺達が行ってあの包帯男とかを呼び寄せたら、溜まったもんじゃない。

 ピンキーはまだ登録していないし、犬の姿なら大丈夫かな? って事で、同行している。

 あの風の大精霊の爺さんなら、もしもの時には転移を使わせてくれそうだしさ。


 皆を待っている間、俺は駐屯場の皆さんからハープの演奏を頼まれた。

 そういえば初めてここに来た頃は、馬車も荷物を運ぶ用の簡素な物しか開通していなくて、皆 娯楽に飢えていたんだっけな。

 それで俺がハープの練習してると、それを聴いた兵士の皆さんがすごく喜んでくれたんだっけ。


 今日のハープの音色には、回復の力を少しだけ混ぜてみよう。

 そして、この渓谷全体に響かせるように、音を鳴らそう。

 風の世界樹の元に向かった皆に届くとは思えないけど、ね?


 その時ふと疑問に感じる。

 これ、シルフに力を借りて(ほぼ勝手にシルフがやってる時もあるけど)、街中に音を響かせることが出来るんだったら、その逆も可能なんじゃない?


 ・・・駐屯場の手伝いをしている3人の仕事が終わったら、試してみるか。


 俺は10曲ほど弾き終わると、広場に一礼してその場を後にする。

 仕事しつつ聞いてくれていた兵士さん達が、手を振ってくれていた。


『おーい、俺もなんか手伝わせてー』


 隊長達が居たのは、駐屯場を出て少し行った、森の中だった。

 なんでも、夜中にヤンチャな魔物同士が外で喧嘩したらしく、塀が壊れたとかなんとか。

 幸い、すぐに魔物は退治されたそうだけど。


「お、もうハープは弾かないのか。中々良いBGMだったんだがなぁ」


 言いつつ、隊長が笑う。その言葉ってアレじゃん。勇者君達が言ってたやつじゃん。


「懐かしいですね、勇者君。元気かな」


 黒蹴も塀の砕けた石を運びつつ、話に加わる。

 すると、周りでも勇者君と直接会ったという話や噂話を聞いたと言う兵士さんや冒険者達が名乗りを上げる。

 ほとんどは今までに聞いた話が多かったけど、俺達が出会う以前の勇者君の話とかもあって面白かったな。


「おれは直感したね。この子こそ、世界を救う存在になると!」


 したり顔で自慢げに話す冒険者の人に、他の冒険者が茶々を入れる。


「世界を救うって、何から救うって言うんだよ。

 ばあちゃんが言ってたおとぎ話じゃあるまいし」


 塀を修理するよりおしゃべりに夢中になったところで、責任者の人に怒られた。

 怒られて頭を掻く隊長、少し珍しい。

 と思っていたら、責任者の人に声を掛けられる。


「悪いがそこの君、塀沿いに少し行った所に居る兵達を呼んできてくれないか?

 少し確認したいことがあるんだが、私はここを纏めなければならない」


 ギロっとサボってた皆を睨みつつ、頼まれた。目つきがこわいね!


 この辺は魔物も出ないという事だったので、ハープと木刀だけ持って散歩がてらに森を進む。

 この前の塀壊した魔物の騒動で、この辺に住む他の魔物は警戒して近寄ってこないらしい。


『えーと、どこに居るんだ?』


 結構進んだ気がするが、兵士達が見当たらない。

 と、


「おはよう、いい天気だね。」


 後ろから声を掛けられて振り返る。

 そこには金髪に青い目の、どこかの王子の様な整った風貌の若者が立っていた。

 身長は170cmほど、か。旅慣れたようなコート、軽装だ。

 その人は俺の手にあるハープを見る。


「さっきの演奏、君が弾いてたの? 上手だったよ!

 あ、そうそう。

 この辺まだ危ないから、早く行った方がいいよ」


 そういうと、森の中に消えて行った。


 あんな冒険者、駐屯場に居たかなあ。

 

 ・・・遠くから、魔物の声が響く。

 俺は兵士さんと合流すべく、足早にその場を後にした。


 *


 夕方、俺は遠くに見える黒蹴と隊長に手を振る。

 2人も分かっていると、うなずいた。


 俺は目の前にある見張り塔の、高くて長い梯子をよじ登る。




 むさい。

 俺は高い塀に囲まれた町の中の光景を見て、そう漏らした。


 目の前には若者とオッサンと兵士(男)と兵士(男)と兵士(男)。

 周りを見ると兵士(男)と兵士(男)と兵し(ry


 ここは東の国・王都から南に下った渓谷横の駐屯場。

 周りには兵士さんがいっぱい居ます。

 そう、全員男。


 女性兵士すらいない。


 たまに見かける冒険者達も男ばかりだ。

 一応朝までは居たんだよ? 

 ビキニアーマー着た女性冒険者さんとか、回復得意そうな清廉なヒーラーさんとか。

 女性のみの冒険者グループも居たし。

 ぜひご一緒したいと良い寄る男冒険者グループのリーダーを、あっという間に伸してたけど。

 角の付いた兜をかぶった厳つい男が、片手で女性に投げられる光景ってめずらしいよね!


 で、言い寄る男共にうんざりしていたその女性グループが俺達に気付いて。

 若葉達が女性だけで風の世界樹に向かう、と聞いた女性冒険者達が「きゃー! 女同士で一緒に行こー!」って言いだして、ね?

 そのままズルズルと、この場に居る女性全員で出かけた。

 その人数、約15人ほど。

 男女混合のPTも結構あったけど、男連中はどうしたんだろう?


 ・・・女性陣の後ろには、ギリギリ気づかれない距離を保ってコソコソと付いて行っていく、男冒険者達が・・・。


 見なかったことにした。

 

 俺は駐屯場の見張り台の上に立ち、広大な景色を見つめる。


 眼下は地平線の彼方まで森。

 横には海。

 反対側は高い山。中に入ると深い谷になっているらしい。

 全ての景色が夕日に照らされ、赤く輝く。

 すごくロマンチックな雰囲気。絶景だ。絶景なのに。


 俺は夕日に輝くハープを一撫でし、手をメガホンの様に口に当てて叫ぶ。


『ケモラーさんとポニーさん、カムバァーーック!!!

 百歩ゆずって若葉でも可ーーー!!!』


 ピンキー親衛隊とハーピーやキラ子ちゃんの名前を出すと、「この変態!」って言われそうで怖い。


 俺の声は森を抜け、海を越え、南と西の大陸に届く、なんて事は無く。

 シューって音を喉から出して終わった。

 隣で見張りをしていた兵士が、妙な物を見るような目をして俺に聞く。


「なんで1人でパントマイムしてるんだ?」


 それに答えず下に降りると、2人の人影がこちらに手を振る。黒蹴と隊長だ。

 黒蹴が親指を立て、


「バッチリ聞こえました!」

「こちらは聞こえなかったぞ」


 実験は成功だ。

 え? 何の実験だって?

 それは・・・


「特定の相手にのみ、自分の声やハープの音を届ける実験ってところか?」


 いつの間にか横に居た銀が、俺に問う。

 さっき手伝ってもらおうと思った時、居なかったんだよな。


『だいせいかーい。シルフが声や音を運んでるんだったらさ、こういうことできれば、作戦の幅が広がると思わない?』

「ま、気まぐれなシルフがいう事を聞いてくれるかって話だがな」


 隊長が軽く肩をすくませて言う。

 ま、大丈夫でしょ。

 他のシルフはともかく、シー君とフーちゃんは俺の真剣なお願いには、必ず力を貸してくれる。

 (ふざけてる時は適当だけどね!)

次回メモ:若葉


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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