空翔ける靴
「今週も、キラ男見つからなかったわね」
「うぅ、若旦那様、一体どこにいらっしゃるのですか」
レモンちゃんの言葉に、項垂れるキラ子ちゃん。
ここは、東の城の食堂。
部屋には銀達修業PTもそろっている。
「それにしても、これだけ見当たらないって事はさ。
もしかして他の大陸にいるんじゃない?」
ピンキーの言葉に、キラ子ちゃんはもっと項垂れてしまった。
後ろからライムさんが抱き着いて励ましている。
ベリーも膝に乗って、顔を舐めていた。
ちょっとうらやましい!
その様子を横目で見つつ、目の前の銀と会話する。
「こちらも王都で情報を集めては見たが、めぼしいものは集まらなかったな」
『変わった人を見なかったかって尋ねたら、やたらと勇者君の情報集まらなかった?』
「そちらでもか。
こちらでも、ほぼ勇者達の情報だったな。
ずいぶん活躍しているようだった」
『かっこいいよね。それだけ人助けしてるのに、報酬は一切受け取っていないらしいよ』
「ほう、なぜ受け取らないのだ?」
俺達の会話に、サイダーさんが興味を示す。
めずらしいな。
「なんでも、奴の記憶の中にある勇者とやらが、人助けをしても一切受け取らず、早足にその場を離れて行ったから、だそうだ」
「生活はどうしているんだろうな」
『ギルドにも所属していないらしいし、ほんとにどうしてるんだろう』
「あれじゃない?」
足元から声が聞こえる。ピンキーだ。
「街灯作った時の印税じゃない?」
『え! あれ勇者君達が作ったの!?』
「なんでも、各地で人助けをしている変わった集団が、前世の知識で作った奇跡の道具ってふれこみで売られてるのを見たことがあるよ」
「それは・・・ただ勇者の人気にあやかろうとしているだけなのでは?」
「どうだろうね。
ま、とにかく俺が変な発明したとしても、その『勇者君が作った物』って言えばなんとかなりそうだよね!」
サイダーさんのいぶかしげな言葉に、ピンキーは答える。が、
それでいいの!? ピンキー。
「そういえば、他に変な噂もあったよ」
『へえ、どんな?』
「覆面で顔を隠した、謎の団体があちこちで≪登録≫してたらしいんだけど、距離的におかしい速さで移動しているって言う噂だよ!
馬車も無国籍風でどこの団体かは分からないらしいんだけど、なんでも最近頻発している人さらいに関係しているんじゃないかっていう話だったよ!」
「物騒な世の中だな」
『だねー、はっはっは』
「「『はっはっは』」」
「それでいいのか? ご主人たち・・・」
サイダーちゃんが、呆れたように俺達を見ていた。
「あ、そうだニルフ」
『ん、なになにピンキー』
「この前言ってた空飛ぶ道具、ちょっと作ってみたんだけど使ってみる?
って言っても、王宮魔道士さんにアイデア伝えただけだけど」
『まじか』
って事で城の裏庭。
外には今帰還してる全員と・・・
「早く使ってみましょう!」
ものっすっごいテンションあがりすぎてる、王宮魔道士さんが居た。
「こんなアイデア、思いつきもしませんでした! さあ! さあさあ! 付けてみてください!」
『は、ハイ』
俺は王宮魔道士さんに手渡された、一側の靴を手に取る。
足の土踏まず部分には硬化くらいの穴が空いていて、靴の中には小型の≪カイチューデントー≫が仕込んである。
そう、これは。
「まさか、修業の時に空を飛んだ細工を、見抜かれていたとはな!」
隊長が大笑いしている。
そう、これは。隊長が以前風の中級魔法を足の裏に発生させて空を飛んでいたのを再現する靴。
俺は魔法が使えないが、この≪カイチューデントー≫からだけは、魔法を出現させることが出来る。
風魔法しか、使えないけどね。
早速履いて、魔力を通す。
む、足の裏だけに魔力を通すのって地味に難しい。
しかしいつも≪無詠唱身体強化魔法≫を使って戦ってるおかげで、全身に魔力を通すのには慣れていたのが良かったな。
俺の靴の下に小さな風が発生する。
俺はその流れを、小さな渦巻きになるように調整する。
俺は少しずつ浮かんで・・・
「やった! 成功です!」
王宮魔道士さんの言葉を合図に、吹っ飛んで転がった。
「大丈夫!? ニルフ!」
『ぺっぺっ。土が口に入った』
力加減間違えたっぽい。
これ結構難しいな。
「ピンキーさんの発明したあの皿を改良して、かなり強い出力まで出る様に出来たのは良かったんですが。
その分、調整が難しくなってるみたいですね」
『最大まで出力出したら、どれくらい飛べるんだ?』
「理想としては、10m位の高さですかね」
マジか、結構行くな。
「しかしこれが実現できれば、重要な部屋にのみ置かれているあの≪照明用カイチューデントー≫よりも需要がありますよ!」
『まあ、これで飛べるのって風属性の人だけだろうけどね』
「それでも、十分使えるわよ!
それ以外の人には護身用アイテムとして売れば・・・ふっふふふ」
空を見上げて勘定しだしたレモンちゃんを見て、
「すっかり商人の顔になったなぁ。
前まで不慣れな売り子なだけだったのに・・・」
ピンキーが感傷に浸っていた。
幸せそうで何より。
「わー、すごい」
横から皆の歓声が上がる。
見ると、俺からブーツを受け取ったハーピーが、靴から風を出して縦横無尽に飛び回っていた。
さすが、鳥。
来週は、南の国でハーピーに教えを請おう。
『あれ? そういえば黒蹴達は?』
「黒蹴達なら、来週分までギルドの仕事に使うらしい。
なんでも、風の世界樹のある谷の周辺の石碑を廻るそうだ」
「先週言ってたよ?」
銀とピンキーに言われる。
まじか。聞いてなかったわ。
*
次の週は、靴で空を飛ぶ練習をした。
実験に嵌った王宮魔道士さんが出力のバラバラな≪カイチューデントー≫を組み合わせて、皆の靴を作ってくれていたので、今回は全員それを履いている。
「靴のデザインは、俺だよ!」
ピンキーがドヤ顔だ。
さすがピンキー。それぞれのイメージにあったデザインになっている。
もはや行く末については何も言うまい。デザイナーになるん? とか、な。
って事で今週は行商はお休み。
城に居た俺達グループ全員で靴の練習だ。
ちなみにケモラーさんも風の属性だったので、俺と一緒に空を飛ぶ練習中。
「ほら! そこ! もっと魔力を足に集めて!」
向こうで叫んでいるのは王宮魔道士さんだ。
実験結果が見たいと、付いて来てしまった。
ちなみに彼女も同じ靴を履いて、靴から水を出している。
すごい水圧で真上に浮いているな。
真上から皆を見下ろして、腕を組んで仁王の様に立っている。
ちょっと怖い。
キラ子ちゃんはしばらく頑張っていたが、「これが、ピンキーさん達の、知り合い」といって倒れた。
魔力欠乏らしい。
「わ、私も結構やばいかもしれませんねぇ」
『え、俺まだまだ平気だけど』
一緒に練習していたケモラーさんが弱音を吐く。珍しいな。
『足の裏から魔力を出すのがつらいとか?』
「いえ、それはもう慣れましたぁ。というより、魔力、どれだけあるんですかぁ?」
周りを見回すと、今もまだ魔法を出しているのは、王宮魔道士さんと、隊長と銀と俺だけだった。
皆座り込んで肩で息をしている。
てか王宮魔道士さん、同じ高さをキープしつつ浮かび続けている。
どうなってんのあの人の体力(あ、魔力か)。
*
結局全員がマスターするのに1週間を費やしてしまった。
練習しつつ、何人かで南の国の町近くに転移して行商する。
目立たない様に、馬車は以前使っていた≪無国籍風馬車≫を使用中だ。
元々魔力を体全体に行きわたらせるのに慣れていた俺と銀、元々足の裏から魔法を出せた隊長はともかく、それ以外のメンバーは魔力を≪カイチューデントー≫に流す練習からのスタートだった。
「なんで足なの・・・。手じゃダメなの・・・」
「せ、せめて背中とか・・・。羽から・・・とか」
「背中からなら、こういうアイデアがあるけど」
「そ、それはまた!」
疲れ果てたレモンちゃんとキラ子ちゃんの言葉に、ピンキーが何かを思いつく。
紙にさらさらと書いた図形を見て、王宮魔道士さんが城に帰る事もあった。ピンキー連れで。
「余計な事言ったかもしれない私!」
「大丈夫ご主人様のアイデアよ信じるわアタシ!」
なんかレモンちゃんとキラ子ちゃんが凄く仲良くなってる気がする。
手をガシッと握り合って、涙を流している。
「吊り橋効果って奴ですかねぇ」
ケモラーさんがフワフワ浮きつつ呟いていた。
ちなみに俺と銀・隊長以外に一番に浮けるようになったのは、ケモラーさんだ。
さすが、呑み込みが早い。
一週間後、砂漠では奇妙な光景が繰り広げられていた。
靴から風を出して縦横無尽に飛び回りつつデカい剣を振り回すおっさん。
そのおっさんの剣を避けつつ、瞬間的に細く足の裏から水を出して空中を蹴るように移動する銀髪の男。
その横では、背中に背負った羽のような機械の先端下部から炎を出して直線的に飛ぶ、2人の少女。
そのおっさんの攻撃の合間に攻撃を仕掛けている、靴から風を出して飛ぶ、鞭を振り回す女性。
日本刀を持った女性は足から水を出して銀髪の飛び方を真似しているが、背中にも少女たちと同じように機械を付けていた。
ふわふわとした服をきた女性は、足から雷を出して、その衝撃で空を翔けていた。
悠々と空を飛んでいたら、銀髪が避けたおっさんの攻撃に当たって、錐もみ回転して落ちていくやつもいる。
うん、まあ俺なんだけどね。
というかケモラーさん、空中に浮いてるのをいいことに、完全に鞭の檻の中に居るような感じになってるな。
何処を攻撃しようにも、確実に鞭に阻まれる。
なんというか、
「防御はぁ、最大のぉ、攻撃、ですよぉぉおおお!!!」
ノリノリだ!
「2人の羽は、天使の羽をイメージしてみました!」
「ピンキーさんのアイデアは最高ですね!」
地上ではピンキーと王宮魔道士さんが、この光景を見て功績をたたえ合っていた。
この様子、その辺の国民の皆さんには御見せできないな。
お、銀の攻撃が隊長をかすった。
隊長はニヤリと笑うと、銀を飛び越す、ようにみせかけて
ドゴァアアアン!
両足の裏から、銀めがけて雷を落とした。
食らった銀は地面に落ちる。
無事受け身を取ったようだったけど、なにあの隊長の技!
「がっはっは、いつ属性が風だと言った!」
え、もしかして隊長の属性って
「雷、ですよぅ?」
鞭の技で飛ぶスピードをさらに上げる練習をしていたケモラーさんが、つぶやく声をシルフ達が拾ってきた。
マジかよ。
てことは今まではあの皿使わずに自力の魔法で空飛んでたって事かよ。
もし将来この靴が冒険者の「当たり前」装備になった時には、有効な攻撃方法になりそうだな。
「ちょ、ちょっとこれ、やっぱきついわね」
「魔力がハンパなく減るですぅ」
『大丈夫か、皆』
「あらあら、この曲。聞いてると魔力が回復するわ」
皆、10分ほど飛んで魔力が尽きたようだ。
これでもだいぶ伸びたんだよ? 飛べる時間。
あ、ただキラ子ちゃんは≪登録≫している石碑の数が少ないらしく、1分も飛べなかった。
ポニーさんやケモラーさんは飛びつつ他の魔法を使うっていう器用な事をしていたな。
その分、魔力の減りが早いようだけど。
テントで休む皆の横で、俺はシルフィハープを弾いている。
すると何故か、皆に妙な目で見られた。
「なぜお主はそんなに平気な顔をしているんだ」
『え、な、なんでだろう。大精霊の世界樹に≪登録≫してるから、かな?』
サイダーさんのジト目に、冷や汗をかきながら答えた。
そんなの俺知らないしぃ!
と、テントの布を上げて、ジュースを持った王宮魔道士さんが顔を出した。
「飲み物を持ってきました。
そうだ、皆さんも私のように魔法を出せばもっと飛びやすいと思うんですが、どうでしょう」
「「「「「むりです!」」」」」
テント内に、女性たちの叫びが木霊した。
やはりこの靴は、常に使用する物じゃないな。
ここぞって時に使おう。
さあ、城に帰るかな。
次回メモ:牙
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