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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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キラ子ちゃん

90Pなったぁあああああ!?

うぉあああありがっとおお!

「ど、どうしてそういう話になったんですか?

 僕達、結構人には言えない立場だと思っていたんですが」


 黒蹴が不安げに言う。

 王との話を聞いていた隊長が、説明してくれる。


「攫われた男、キラ男だったか。厄介な事に貴族だったからな。

 妙な騒ぎになる前に『キラ子と転移の使える男の3人で、見地を広める旅に出た』っていう事にしたんだ。

 元々そう言って、転移を使用してよく家を出ていたらしいからな。

 それが長期的になったという話を、キラ子から伝えてもらったんだ」

「あぁ、だから。コイツを仲間に入れたんだな」


 銀の言葉に、ポニーさんも頷く。


「後でその転移男を仕留めるにも、ただ捕獲するだけにしても、口裏を合わせられるものが居た方が何かと便利でしょう。

 ただし。国家級の秘密を背負ったという自覚は持っていただきませんと、ね」

「わ、分かっています。

 まさかピンキーさん達がそんな方々だったとは」


 青い顔で、キラ子ちゃんが呟いた。


 秘密を洩らさないように、と。

 王に直接言われたらしい。


「東の国の王どころか、西の国の王にも言い含められまして。

 もう後戻り、出来ないんですね」


 若干フラフラしてるけど、大丈夫か? キラ子ちゃん。


『ま、まあその分、各国の王も捜査に協力してくれそうだしさ。

 元気だしなよ!』

「かっ・・・こく?」

「ん? 知らなかったのか?」


 キラ子ちゃんの消え入りそうな呟きに、隊長が何でも無いように答える。


「南の国の王も、この事を知っているぞ」


 そのままキラ子ちゃんは、バターンと倒れた。


 数時間後起きたキラ子ちゃん。ずっと「もう逃げられない。逃げるところは無い」って呟いていたな。


 *


 倒れたキラ子ちゃんが兵士さんに医療室に連れて行かれてからも、会議は続いていた。


「で、その『転移を使える男』の特徴は?」


 話をさっさと進めていく銀。


「そうですね。キラ男の事はどうでもいいけど、それがピンキーちゃんに関係する事なら、聞いておかないと」


 若干毒舌なライムさん。というかキラ子ちゃんとキラ男の事、誰も心配していない。

 まあ俺もだけどね!


「では、今分かっている情報を伝えるぞ」


 隊長による、キラ男護衛役の転移男の情報は、こんな感じだった。


 1.背は180cmほどの細マッチョ、年は18。髪は青紫色、目は金。

   いつもフードをかぶっていた為、細かい所は不明

 2.キラ子ちゃんが俺達を(初めて)見つける1週間前に雇われた

 3.転移は1人ずつしかできないが、何度でも可能

 4.どうやって転移の場所や相手を特定しているかは不明

 5.何の属性の魔法かは不明

 6.離れた場所の相手を、任意の場所に転移させられるのか不明


「そして最後に名前だが。

 ザンアクロス と名乗っていたそうだ」

「ちょっとまってください」

 

 ポニーさんが、何かに気付く。


「字名ではなく≪名前≫を名乗っていた、と?」

「そうだ」


 この世界では、≪名前≫を名乗る事は無い。

 ≪名前≫はつまり、≪真の名≫になる。

 それを魔族に知られれば、≪呪い≫を掛けられるという言い伝えがあるから、らしい。

 なので町の人たちは皆、適当に≪字名あざな≫を名乗っている。

 でもさ。


『いくら≪名前≫って言ってたとしても、それが≪真の名≫とは限らないんじゃないの?』

「ま、そうだろうな。

 皆もその辺は気にしなくていいだろう」


 隊長も、軽く肩をすくませて流した。


「つまり、背が180ほどの青年を探せばいいという事だな」


 銀が頷く。


「ああ。髪の色は弄れる技術もあるからな。背と年、そして性別を頼りに探そう」

「キラ男はめだちますしぃ。すぐに見つかりそうですねぇ」


 その言葉に隊長とケモラーさんが同意して、その日は解散となった。

 解散直後、銀が


「ピンキーが動くと、女が増えるな」


 と、呟くのが聞こえた。

 女ホイホイピンキー?


 解散後、そのピンキーに


「ネコテ、俺は作れないけど、考えてる形は王に伝えたから、作ってくれると思うよ」


 と教えてもらった。

 とても楽しみだ!


『そうだ、あと1つ考えていたことがあるんだけど』

「?」

『隊長が、風の中級魔法をアレンジして空を飛んでたんだ。

 俺は魔法が使えないから出来ないけど、ピンキーが前に使ってた≪アレ≫使えば、どうだろう』

「ふむ、≪アレ≫ね。

 王宮魔道士に相談してみるよ」

『マジか。ありがとうなピンキー』

「いやいや、この格好で出来る事も限られてて、暇持て余してたんだ。

 面白いアイデアありがとうね、ニルフ」


 俺達は解散して、次の1週間に備えて休暇を取る。

 次は行商についていく事になりそうだな。


 *


「連れてきたか」

「いや、もうすぐ来るはずだ」


 日が暮れて暗くなった頃、明るく照らされた部屋に、2人の声がする。

 両方とも、壮年の男性の声のようだ。


「アイツは、もう気付いているようだ」

「ならば下手に隠すより、他の3人を危険にさらさぬよう、協力してもらう方がよさそうだ」


 そこに ガチャリ、という音が響き、


「お、来たか」

「待っていたぞ」


 扉を入ってきた人物に、親しげに2人の声が掛けられる。

 入ってきた男は目の前の人物達に一瞬あっけにとられる、が。


「オレに何の用だ?

 呼び出される覚えは無いんだが」


 軽く流して、引き返そうとする。しかし。


「それは困るな」


 同じく、扉を入ってきた人物に出口を塞がれてしまった。

 逃げ道を塞がれた男は、諦めたかのように両手を上げ、


「なら、話を聞くとするか。

 何故こんな所にギルドマスターと隊長、そして王が居るのかを、な」


 呼び出された男 ―――――銀は、前にいる2人と、後ろをふさぐ東国の王を見回し、話を促す。


「我々も、話を聞きたいですな。王よ」


 周りから、数人の男の声がする。

 そう、ここは東の国会議室。


 日の落ちたこのような時間に会議室が使える事など、以前はありえなかった。

 が、東国の天才が編み出したというこのアイテム、≪カイチューデントー≫に改良を加えることにより、部屋を明るく照らすことも容易となったのだ。

 まだこの貴重なアイテムは量産は出来ない。

 その為、各国の重要機関のみの使用となってはいたが、ゆくゆくは世界の家庭や冒険者達に行きわたらせたいと、東の王は考えていた。


 まあ、それは置いといて。


 机には既に、この国の重鎮や各種業界の責任者達、そして。


「西の国といたしましても、この事態は黙認できるものではないと判断いたしました」

「南の国も、同様でございます」


 各国の王代理も、この場に居た。

 銀も席を促され、王の隣の空いていた1席に座る。


 全員が揃った事を確認すると、東の王は号令をかける。


「それでは、会議を始める。

 ・・・西の国の貴族が、魔族に攫われた可能性がある」


 会議室に、ざわめきが広がった。

 その中で銀は、ただ静かに聞いていた。


 *


 次の週。

 俺は馬車に揺られている。

 という訳で、行商PTに居ます。

 メンバーは、俺・ピンキー・ケモラーさん・レモンちゃん・ライムさん・キラ子ちゃんだ。

 若葉は黒蹴達とソルジャー君PT、サイダーちゃんは銀達と修業PTだ!


 さて、なぜ行商なのかというと。


 そりゃまあキラ男探さなきゃだし。

 謎の転移男も気になるしで。

 後は、目当ての武器はピンキーが用意してくれることになったが、それ以外にも俺が使える武器があるかもしれないじゃない?

 たとえば、短剣とか?


「さあ! 今日もじゃんじゃん稼ぐわよ!」


 いつものレモンちゃんの一声で、行商が開始される。

 今週は王都から延びる、2つの町に行くことになった。


「これで、この国の全ての町は廻ったことになりますねぇ」

『後は、街の周りの石碑を廻っていくだけだな』


 馬車に揺られつつ、ケモラーさんと喋る。

 最近ではハープを聞き分けて、ピンキー親衛隊の行商の一団だと気づいて来てくれる人もいた。


「売り上げも、上々ね」


 ライムさんが計算しつつ、ほがらかに笑った。

 夕方。暗くなる前に店は閉めてしまう。


 家で商売している人は、その近くに街灯があるから夜でも商売ができる。

 が、馬車で旅する行商人はそうはいかない。

 

「今日は街灯から離れた場所だったから、店閉めて解散よー」

 

 ライムさんは≪カイチューデントー≫を持って、馬車に入って行った。

 あれ、まだ王族くらいしか持ってないアイテムだから、公に使えないのが難点だな。

 まあ解散って事なら、日課するかな。


『んじゃ、ちょっとハープ弾きつつ情報あつめてくる』

「じゃあ俺がその横で、このチラシ配ってくるね」

「待ってください、私も行きます!」


 俺とピンキー、そしてキラ子ちゃんは街中央にある広場に行き、ハープを弾く。

 ここは街灯に囲まれた人々の憩いの地だから、かなり明るい。

 なんか火の世界樹の近くに生えてる、水晶みたいな石を加工して作られた街灯らしい。

 ただ、明るさは蝋燭10本分くらいっていう、ね。


 しかし値段は高い。

 ただ、行商人を大事にするこの国の風潮から、国家が積極的に取り入れてるそうだ。

 さすが、技術力が最新を行っているというふれこみの国だけはあるな!(最近知ったけど)


「だから、俺はこの国に渡ったんだよ」

 

 ピンキーが苦笑いしながら言った。

 あれ? 知ってたの?

 

 集まってきた人々に、キラ子ちゃんがチラシを配ってるのが見える。

 

『それにしても、良くこんなの考えたな』


 チラシには店の宣伝と、キラ男と転移男の人相描きが描かれている。

 その下には【2人に関しての有力な情報提供者には、店特製の髪飾りをプレゼント!】と、派手な文字で書かれてあった。


「これなら、余計な情報入らずに探せるでしょ?

 それに店の宣伝にもなるし!」

『ピンキーって商売人目指してるんだっけ?』

「え、俺って冒険者だった気が・・・あれ?」


 商売人顔負けの売り上げを叩きだしつつ闇市場にも顔が利き、手先が器用で王宮魔道士さえ驚くアイテムを作り、かわいい売り子に囲まれてハーレムを作った、目の前の犬を見つめる。

 これで腕っぷしも、並みの冒険者以上なんだよな。

 ほんとに何処に行くんだろう。ピンキー。


 しばらくすると、チラシを配り終わったキラ子ちゃんが戻ってきた。


「どうだった?」


 ピンキーの問いに、軽く頭を横に振る。


「ダメでした。

 でもまあ、以前の様に『勇者が現れたらしい』とかいう情報は少なくなりました」

 

 前は集まった人全員に「変わった出来事や、人を見かけませんでしたか」って聞いたんだよな。

 そしたら勇者君の情報ばっかり集まった。

 

 海を荒らしていた海龍(山ほどの大きさ)を仕留めたってどんだけだよ。

 確か海龍って、獣のような顔に、魚の様な尻尾を持った、でかいものだと10mとかになる凶悪な魔物だよな?

 ≪見せない君≫に使われてる、牙の持ち主だ。

 それを4人で倒した?

 ・・・頼めば牙くらい、分けてくれないかな?


 勇者君達、今は西の国の港近くで船に乗って、どっかの孤島を目指しているようだ。

 雷の大精霊に向かうのかな?


 そういえば雷の大精霊の情報も集まった。

 最近は雷の大精霊の世界樹に向かう船が出ていないと言う事だったが、なんか、世界樹のある島に妙な血塊の様な物が貼られていて、近寄れないという噂だった。

 しかも、船を出していた近くの村とも連絡が取れないと。


 なんか最近、物騒だな。

 これは勇者君の活躍に期待しよっと。


 ちょっとそこ! なんもしない系冒険者とかいうんじゃありませんっ。


 * 


 こんな感じで数日が過ぎた。

 ここら辺の石碑も、すっかり回りきっちゃったな。


「ふう、今日は面白いアクセサリーが手に入ったわ」

『へえ、どんなん』

「アンタ興味あるの?」

『ちょっとだけ?』

「ふーん。あ、キラ男をおびき寄せるのに女装するとか!」

『する訳無いだろう!』


 大爆笑しているレモンちゃんが、仕入れたアクセサリーの箱を見せてくれる。

 大きな箱の中に小さな箱が詰まっていて、その中には宝石や貴金属で彩られた

豪華なアクセサリーが1つづつ、丁寧に入れられていた。


「すごいでしょ。これ、全部アンティークよ」

『それって値段張ったんじゃない?』


 レモンちゃんは人差し指を立ててチッチッチと音を鳴らす。


「そんな仕入れ値張るような物、仕入れる訳無いじゃない。

 これね、全部露店に売ってたものなのよ。

 アタシこういう掘り出し物見分けるの、上手いんだー」


 話を聞きながらアクセサリーの入った箱を眺めていると、1つが≪カイチューデントー≫の光に煌めいた。

 手に取ってみると、世界樹の葉を模した髪留めだった。

 透明な2枚の葉が重なり合って付いたデザインで、1枚が薄い黄緑、もう1枚が薄い赤茶。

 宝石でキラキラ光る他の物よりはシックな感じだな。


 俺はしばらくそれを眺めて、

 

『なあ、これ買ってもいいか?』

「え、うん。いいけどアンタが使うの?」

『いや、俺じゃなくてな』

「ふーん。誰かにあげるんだったら綺麗に包んであげるけど」

『お、マジか。助かる』


 俺は綺麗に包装された小さな箱を、そっと懐に仕舞った。

次回メモ:靴


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


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