探し者はキラ男
さて今週、俺は西の国の行商に参加だ。
なんか「ピンキーの行商=イタ馬車+ハープの音色」が目印って広まってるみたいでな。
ハープが無いと、客の出入りが少ないらしい。
「最近では、アクセを売る他の行商隊が吟遊詩人雇いだしてさ。
ほんと、耳が早いわ」
愚痴るレモンちゃん。
西の国に、アクセ扱う行商人=ハープの音色 っていうブームが来ているらしい。
俺が火つけ人とか、なんかカッコイイな!
「そういえば、何を探すつもりなの?」
ライムさんに聞かれて、俺は考えた事を伝えた。
「なるほど、私も探してみるわね」
『ありがたいです』
さて、俺が何を考え、何を探しているか。
それを思いついたのは、先週の南の国での修業中の事。
銀と隊長の戦いを見学していた時、隊長が登録した短剣で戦っているのを見て気づいた。
リーチを短くしたいんだったら、俺も短剣持てばいいんじゃない?
それを銀達に伝えると、2人も賛同してくれた。
「魔弾を撃つだけならば、ナイフの扱いに慣れていなくても大丈夫だろうな」
「もしメインで使いたいなら、オレが教えるぞ」
3人でアイデアを出し合い考えは広がり。
≪短剣買う≫ から ≪指先に指輪ぽい剣つければ、人差し指からバーンって打てるんじゃないか!?≫ へ。
夢は広がる。
そして今週、そういう武器探してみようと思ったってわけ。
銀と隊長はいつも通りに修業中。今週はそこに、黒蹴が行った。
キラ男を釣る為、俺と黒蹴だけが交代した形の、女性が多めの行商PTだ。
「先週はキラ男釣れなかったから、今週は意を決して港近くの未踏の町に行くわよ!」
レモンちゃんが張り切っている。
なんかいつもの「売るぞ!」とはベクトルで、張り切っている。
ちょっと怖い。
「「「「「うぉぉぉおおお!!!」」」」」
「ぎゃわわん! ぎゃわん!」
女性軍の賛同する声もものすごい。ベリーちゃんなんか、牙剥いてる。
「先週気を張ってたのに、結局来なかったからね、キラ男。
いつキラ男が来るかに怯えたくないから、さっさと事を済ませたいんだよ」
『そっか。俺のハープに釣られてくれれば楽なのにな』
「あっはっは、いいねそれ。
あ、でも最近馬車に吟遊詩人乗せつつ行商するのが流行ってるから、どの行商人が俺達か分からずに困ってるかもね、キラ男。
案外、俺の描いた馬車の絵にも引き寄せられるかもしれないよ?」
『いい気味だな、キラ男』
「だね」
「『あっはっはっは』」
『ところで、なんでピンキー、犬なのにしゃべれるん』
「言ってなかったっけ?」
言われてないよ?
ピンキー、銀達と一緒に魔力の操作を練習して行った結果、声に魔力を込めて話せるようになっていました。
人語は言葉がある為、含まれる魔力が微弱でも世界樹の小精霊が読み取ってくれるんだけど、魔物や動物となると、そうはいかなかったらしい。
でも今回ようやく、魔力を多めに込めつつ話せる所まで行った。
「まあその辺の人に言葉が伝わると、変な注目を浴びちゃうけどね。
誰もいないところか、人が居るところではニルフ達の世界樹の小精霊に読み取ってもらうだけにするよ」
*
そうこうしつつ、5日が過ぎた。
元々の計画通り、大陸の西南部にある港から進んだ、大陸中央部にある町を巡った。
廻った町は3つ。石碑は2こ≪登録≫済みだ。
そういえば、注意して街の人の話をシルフで拾って聞いていると、勇者君達の話題が結構あるな。
さすが噂好きの西の大陸。
中には「勇者君達に武器を買ってもらうと、縁起担ぎになる」というものまであった。
俺は馬車でハープ弾きつつ客を集め、考えていた武器に合う指輪と針ほどの大きさの剣を探す。
『中々見つからないもんだなー』
「針はダメなんですの?」
『やってみたんだけど、なかなか上手くいかなくってな』
武器じゃなければ魔弾は出ない。
指輪に針つけて武器っぽくしたが、だめだった。
だが銀が持つような、手のひらに隠れるほど小さな短剣からは出る。どういう違いなんだろう。
実は途中で隊長に俺達の様子を知らせに行ったとき、相談はしてみたんだ。
そしたら
「魔弾を撃つのは、一般ではそう見ない戦法だからな。
そこまでこだわる奴はよっぽど魔にくわしいか、自力で編み出したくらいしか方法はないだろう。
普通の奴は魔法に頼るぞ。
同じ魔力を使うなら、飛ぶ打撃みたいなもんの魔弾より、ダメージのでかい魔法を選ぶってのが今主流だからな。
俺達も黒蹴が銃剣じゃなければ、ここまで発展はさせなかっただろう。
黒蹴の戦い方を見て、発想が変わったよ」
つまりそういう系の武器って
「自分で作るのが手っ取り早いんじゃないか?」
って事だったんだよね。はぁ。
夜。
小さな旅館で夕飯の後、風呂に入る。
さすが西の国。風呂完備か。
ピンキーは女風呂に連れて行かれた。毛だらけにならないのかな?
めっちゃ抵抗していたけど、ライムさんの胸に挟まれてそのまま運ばれてたな。
口には、さるぐつわ。
これがラッキースケベってやつか!
・・・なんか違う気がする。
俺は風呂の後、夜風に当たって涼む。
横には先に風呂を上がっていたっぽい若葉。
『皆と一緒に入らなくても良かったのか?』
「さすがに、ピンキーさんの正体知ってるのに入れませんよ・・・」
だよね。他の客の迷惑になるでしょって、後で怒られてそうだピンキー親衛隊。
「そういえば、探してたものは見つかりましたか?」
『駄目だった。やっぱ気分的に武器って感じじゃないと、出ないのかな』
「それだったら俺が作ろうか」
横から声がかかる。
誰もいない。
と、俺の膝に飛び乗る中型犬くらいの影。
『なんだ、ピンキーか』
「脱出して来たよ」
苦笑いしつつ、ピンキーが言う。
「ニルフが欲しいのって、指先につける剣っぽいのでいいんだよね。
武器になるような」
『そうそう、短剣持ってなくても常に携帯できて、すぐに魔弾打てるような丈夫な剣』
「それなら、複数の属性世界樹を回ってる方が、既に作っていても良さそうですのにね」
「うーん。1つ、ぴったりのがあるけど。
ただニルフ、ハープ弾くのに指先に武器付けて大丈夫なの?」
『あ、そういえばそうだな。左手に付けるか』
「了解。じゃあ作っておくね、ネコテ」
ネコテっていう武器か。
「犬のピンキーさんが、ネコテ・・・ぷふふ」
若葉の壺にネコが入った。
*
次の日。
「さあ! 今日は最終日よ!」
レモンちゃんが音頭を取る。
朝の気合入れの時間だ。
さっそく、大陸中央に位置するこの街で行商を始める。
そういえば結局キラ男、出なかったな。
そう、皆でおしゃべりしつつ店を広げる。と、
「あ・・・あの!
話があります!」
一番最初のお客さんが、厄介な話を持ち込んできた。
*
「つまり、アタシ達を追っていたキラ男が、どっかにいまま戻ってこないのね」
「き、キラ男ですか?
ひどいです! かっこいい若旦那様をそんなフザケタ呼び方するだなんて!」
「怒るのなら別に、某らは話を聞かなくても良いのだがな」
俺のいる馬車の中で、サイダーちゃん・レモンちゃん・ポニーさんと、
「す、すいません」
納得できない表情をしつつ謝る、いつかのキラ男の護衛の少女がいた。
あ、ピンキーは俺の膝の横で静かに話を聞いている。犬っぽく。
他のメンバーはもう1台の馬車で行商中だ。
護衛の少女は黄色い髪をおかっぱ状にして、顔にはソバカス。10歳くらいかな?
旅慣れたような冒険者風の服装だ。真面目そうな子だな。
ただ今は、サイダーちゃんの言葉に口をとがらせて不機嫌顔だが。
そんな護衛ちゃんにレモンちゃんは。
「まったく、しょうがないわね。
どうして居なくなったのか分からないの?」
憮然とした態度ながら、やさしく声を掛けた。
「つまり、新しく雇った護衛が転移魔法の使い手で、それを使ってアタシ達が居た噂があった場所を転々としていた途中に、その護衛と一緒に消えちゃったって事なのね」
「普段己の町から出ぬアイツが某らと会ったのも、その魔法を使ったからか」
『・・・なぁ、ピンキー。転移魔法って俺達以外に使える奴いるのかな』
「さあ、ね」
俺は膝の横に居るピンクの犬に小さな声で話しかける。
普通の人には、ピンキーの声はキャウンとしか聞こえないだろう。
「お願いです! 私を、あなた達の旅に連れて行ってください!」
土下座する勢いで護衛ちゃんが頭を下げる。
困ったように、レモンちゃん達がピンキーを見る。
それを俺を見たと勘違いしたのか、護衛ちゃんが俺に縋りつく。
「きっと、あなた達を探してると思うんです!
私は・・・。ただの護衛だから、私の事は探してもらえない。でも!」
顔を伏せたまま声を震わす護衛ちゃん。でもなぁ。
「俺達、秘密にしてること多いしなぁ」
ピンキーがちいさく、つぶやいた。
*
「で、結局どうなりましたの?」
早めに切り上げて、今は東国の城のいつもの大広間。
銀達も早めに切り上げてきてくれた。
あと、王にも一応報告しておこうという事になった。
もしかしたら、他にも俺達のように転移を使える者が居るのかもしれないって事で。
『キラ男は、最近入った転移魔法を使える青年と一緒に消えたらしいんだ。
ただ、俺達には秘密が多いからな。
相手は護衛とはいえ、商人の関係者なんだ。情報が漏れるのが怖い。
って事で』
「護衛を辞めて、若旦那様を追います!!!」
『という事で、皆さん紹介します。キラ男の護衛の、キラ子ちゃんです』
「「ええええええ」」
黒蹴と若葉が、ハモった。
次回メモ:キラ子
いつもよんでいただき、ありがとうございます!




