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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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やっと俺の修業のターン

 そうこうしているうちに、2週目が過ぎた。

 

「またな、巫女の嬢ちゃん!」

「俺、もっと巫女ってお淑やかだと思っていたぜ!」

「儂もだ。意外と武闘派だったな」

「次一緒にPT組もうぜ!」

「皆さま、不慣れなわたくしを仲間に入れていただき、ありがとうございますですわ!」


 若葉はその見た目と豪快な戦闘方法で、すっかり武骨な冒険者達のアイドルになっていた。


『この分だと、若葉1人で依頼受けても大丈夫だな!』

「なんでですの!? わたくしもPT組みたいですわ!?」

「若葉さんなら、いつでも一緒に組みますよ!」

「そうだぜ! 仲間っすから!」


 ソルジャー君達とも、すっかり打ち解けたな。

 皆と楽しくワイワイ騒ぐ中、


「いつか、姉さまとも一緒に冒険を・・・」


 若葉がポソリとつぶやいていた。


 *



 次の一週間は銀達と砂漠で修業だ。

 黒蹴がギルドの仕事ひと段落したって事で、行商を変わってくれた。

 ブロンズ3人衆は、おやすみらしい。


 つまり、やっと俺の修業タイムだ!!!

 ワチワチしてると銀が笑う。


「張り切ってるな、ニルフ」


 今週のメンバー分けは俺・銀・隊長の3人で南国砂漠修行PT。

 ピンキー犬・黒蹴・ピンキー親衛隊+ベリー・ケモラーさん・ポニーさん・ハーピーは西国で行商だ。

 

『向こう、大丈夫かなぁ。キラ男とか』

「何かあったらピンキーが転移してこっちに知らせに来るって手はずだし、大丈夫だろう。

 黒蹴の世界樹武器の反応で、あいつらの近くの石碑も分かる」


 そう、もし向こうに何かあった時はピンキーが転移で知らせ、男メンバーで押しかける手筈だ。


 今、向こうは馬車2台。1台は荷物置きけん男用馬車(けん)店で、もう1台は女性用生活用馬車。

 なので、黒蹴とピンキー犬以外は女性ばかりだ。

 まあここの女性たち、男の人数が少ないとか関係ないくらい、腕はその辺の男共以上だけど。

 ≪見せない君≫は今向こうが持っている。馬車ごとの転移って目立っちゃうしね。


 しかし此方こちらと違って人の目の多い西の大陸。

 石碑で誰かと鉢合わせても良いように、助けを呼びに来るピンキーが≪見せない君≫を持って来て、それを使って男用馬車まで走る。

 そして≪見せない君≫の魔法が切れてから、馬車の外に飛び出して相手を威嚇する。


 題して、「おうおうおう、俺達の仲間に何色目使ってんだ」作戦だ。作戦名ェ。


 今の所、ピンキーが来る様子はない。

 石碑から少し離れた場所まで移動する。


『それにしても、ここアッチィな』

「ここは火の世界樹があるからな。その影響で下半分が砂漠と化しているそうだぞ」

『不思議だな。空の半分は雲がかってるし、雨も普通に降るのに。

 降る傍から蒸発していって、あっという間にカラカラだもんな』

「ほう、お前らの世界では、日光で砂漠が出来るのか」

『そそそ、だからあまり雲も無かったし、雨も降らなかったな。

 まあ、振るけど水を蓄える草が無くて砂漠になったって場所もあるっぽいけど』

「オレも、この国に初めて来た頃は不思議だった。

 大陸の北に位置する王都周辺は緑に囲まれているんだが、森を抜けると急に砂漠だったからな」


 隊長と俺の話を聞きつつ、銀も感想を漏らす。


『銀でも、不思議な事あるんだな。なんか全て知ってるような気がしてた』

「なぜだ」

『いや、なんとなく?

 そういえば、なんで上半分は緑なんだ?』

「あぁ、それはな」


 隊長が答えてくれた。


「北側の近くには、世界樹島があるだろう?

 森がある辺りまでは、世界樹島の世界樹の領域なんだと言われているな」


 世界樹にも、なわばりがあるのか。


「着いたぞ」


 銀が足を止める。

 そこは一面の砂漠で、細かい砂が舞っている。

 ここのシルフは、火の粉のような赤い粉を纏っている。やっぱり数は少ないな。


『意外と静かなんだな』

「今はな。日に何度も砂嵐が起こり、魔物もそれなりに出る、が」

「ここの魔物はな、過酷な環境を生き抜いている分、かなり強いぞ」


 雨が降るとはいえ、水と、水を狙う他の動物の肉を求めて、石碑近くにはよく出没するらしい。

 だから行商人や町もこの砂漠には少ないらしい。


「探せば、いくつも廃墟や壊れた石碑があるぞ。探検でもするか?」

 

 隊長が、子供の様な笑顔で言った。


 さて、まずは俺と銀が手合せだな。そいえば最近全然手合せしていない。

 以前は銀との技量の差がありすぎて、あっという間に地面に転がされたんだったな。

 確か最後に手合せしたのは、4人で東の国を横断したときだったかな?


 十分に体をほぐし、木刀を手に取る。


『よーし、行くぞ、銀!』

「来い。相手してやる」


 左手でスッと構えた両手剣が、太陽の光を浴びて青く光る。いいなぁカッケエなぁ剣。

 俺は大きく深呼吸しつつ、身体強化魔法の魔力を体に行きわたらせる。そして。


 地面を蹴った。


 そのまま銀に突撃すると見せかけて、右足を軸にしてクルッと回る。

 回る直前に魔力を発動し、一瞬でスピードアップ。

 振りかぶった木刀を受けようと両手剣を構えた銀に沿うように体を捻り、そのままのスピードに乗せて木刀を振る。

 ふっふっふ、動かない右腕側を狙うと思っていただろうが、その逆を突くぜ!

 しかもこっそり練習していたこの技。題して「急にスピードが上がる・・・だと!?」だ!

 狙うは、がら空きの背中。決まった!!!


 ギィン!


 固い感触。銀の左腕が、背中に回されている。

 ナイフか手甲か?


 そのまま木刀が真上に弾かれる。木刀は離さなかったが、足を砂に取られて体勢を崩す俺の脇腹に、両手剣が迫るのが見えた。

 いつの間に持ち替えた?


 低い軌道で素早く迫る両手剣。真後ろに倒れそうな俺。

 体勢を整えている暇は、ない。


 俺は弾かれたまま、斜めに切っ先が向いた木刀から、魔弾を発射する。

 その反動で背中から砂に倒れた俺の真上を、両手剣が通過して行った。


 ブォン


 風切り音鳴ってる!


『ちょ、おま片手で両手剣振ってるのに、そんな音出すか普通』

「軽いからな、世界樹の武器」


 そういう問題!?

 

 言いつつ、振り切った両手剣を俺の腹に振り落す銀。そうはさせるか。

 避けて地面に両手剣が埋まってる間に、一発喰らわせてやる。


 そう思ってた時期がありました。

 俺は身体魔法を瞬間的に発動しつつ横に転がり、地面に放った魔弾で砂煙をあげる。

 そしてその反動を利用して素早く起き上がり。


 気が付くと、後ろから首にナイフを突きつけられていた。


 さっきまで銀が居た場所には、地面に刺さった両手剣と少しえぐれた地面。

 あぁ、そうか。


『両手剣は囮かー』

「そりゃそうだろう」

『俺が魔弾出すと同時に、お前もナイフから出した魔弾で飛んで、俺の後ろにまわったんだな』

「ああ」


「がっはっは!

 銀の方が、まだ上手のようだな!」


 隊長が楽しげに笑う。


『ちくしょー、しかも魔法も魔弾も使ってねえじゃねえか』

「右腕も、な。

 お前らと別れてから、ずっと砂漠に居たんだ。

 飛ぶ砂の流れを見れば、砂煙の中でも相手の大体の場所も分かるようになった」


 つまり実戦だったら、起き上がった瞬間に毒塗った投げナイフで一撃だったわけね、俺。


「だが、瞬間的に身体強化魔法を使うのはいいアイデアだな。初見は対応しきれなかった」


 銀の言葉に、すこしうれしくなる。

 それを見ていた隊長は剣をブンブン振り回し、


「よし! 手合せ願おう、ニルフ!」

『また俺?!』


 負けをかみしめる間もなく、指名された。

 まぁ3人だしな。組み合わせなんて決まってる。


 さっきと同じように身体強化魔法を要所要所で使いつつ接近戦に持ち込む、が。


 10秒で負けました。

 なんか俺、地面に仰向けに寝てた。

 隊長強すぎじゃない?


 見ていた銀によると、


「隊長の素早いフルスイングがニルフの腹を直撃して、そのまま叩き落とされていた」

 

 そうだ。


 俺は銀と隊長の手合せを見つつ、昼飯を用意する。

 といっても、外で調理したら砂まみれになるので、携帯食料を用意する程度だけど。


 向こうでは隊長と銀が、ものすごい速さで剣をぶつけ合っている。

 両方大剣だから迫力あるわー。


 風圧で舞った砂が、こっちにも流れてくる。

 テントも張っとこう。


 お茶はこの土地特有の、変わった飲み方に習う事にした。

 えーっと、確か泡立てる、んだっけ?

 こうやって泡立った部分は飲まずに、下のお茶部分だけを飲むと、あら不思議。

 砂が口に入らない!


 ちなみに中のお茶は俺考案の、香草茶だ。

 紅葉さんの一言をヒントにして、乾燥させて煮出してみた。


 薬草も入れているから、多少の怪我ならすぐ治るよ!


 銀と隊長は、空中戦になっていた。

 銀は両手剣に足を掛け、魔弾で飛びつつナイフを投げていく。

 あのナイフ、毒に変えた水を纏ってるんだよな。


 あ、今。銀が水魔法発射した。あの水、一瞬 剣先入ってたから毒になってるな。

 隊長は・・・、どうやって飛んでるんだ?

 隊長の下の地面が、竜巻状にえぐれている。


 もしかして風の中級魔法の応用?

 小さな竜巻を靴の裏に発生させて、空を飛んでる!?


 まじか、2人ともマジか。

 追いつける気がしないな。


 銀が放った水を、隊長が火魔法で蒸発させる。

 あ、銀が一瞬ニマっとしたぞ。

 水蒸気を吸った隊長が苦しそうに喉を抑えて、銀は隊長に向かってナイフを投げようと。


 その時、銀の真上に雷が落ちた。

 急いで避けるが衝撃で剣と一緒にクルクルと錐もみ回転する。そのまま地面に落ちる両手剣。

 銀は直前に脱出し、地面に降り立った、が。


「お前の負けだな」


 首元には、隊長のデカい片手剣。

 隊長もしかしたら、空中の方がすばやいかもしれない。


「ふー、良い汗かいた」

「オレもまだまだだな。あんな演技に騙されるとは」


 2人が戻ってくる。

 昼飯食ったら、隊長に飛ぶ方法教えてもらおう。


昼飯中、隊長から南の国に関しての話を教えてもらった。


「南の国は王族に女性のみしか生まれなかった場合、他の国に嫁にだし、王位は親戚から出す、という決まりがあるんだ。

 なんでも、火の大精霊が女好きで、南の国の王族の血を引く女性を攫って召し使わせるという伝説があるらしい」

『へえ、そういえば東の王の話で、この国に王女を迎えに来たってのがあったな。

 他に子供はいるのか?』

「この国には王女1人のみと聞いたが」

「あぁ。王妃はこの王女を産んでなくなったらしい」


 しかしこの王女、東の国に嫁ぐ途中に東の国の王子共々何かの事件に巻き込まれて亡くなったらしい。

 東の王が言ってた。


 *

 

「でもねぇ、あなた、知ってるかしら。

 あの事件、魔物の仕業なんかじゃないって、もっぱらの噂なのよぉ」

「あら、でも奥さん。あの事件には目撃者も、あれで得する人も誰もいないって事じゃなかったかしら」

「それ、西の国の王が何かを握っているって話聞いたわよ。

 最近世界が騒がしいっていうし、戦争でも起こるのかしら」

「「「やだ~怖いわぁ~」」」

「そういえば、世界各地を旅しつつ、各地の問題を解決してる冒険者がいるらしいわよぉ」

「あ、聞いたことあるわ!」

「私、会ったことあるもんね」

「ずるーい。確か勇者様、だっけ」

「そうそうそう! かわいい男の子だったわぁ!

 ただ仲間の背の高い男の人がかっこよくってぇ。

 旦那の馬車が陸魚に襲われてたからって連れてきてくれたんだけどねぇ。

 旦那の無事より、一瞬そっちに見とれちゃったわ」

「きゃー! 会いたいわあぁ!」


 以上、南の国の食堂からお送りしました、ニルフでした。

 すっかりおばちゃんの心をつかむのが上手くなったぜ。

 実はあの数日後、砂漠で10mほどの大蛇っぽい魔物に襲われた。

 

 銀と手合せしてると、急に地面が無くなって足元に直径3mほどの穴が空いてるんだもん。

 焦るわ。


 そのまま口 (だったらしい)に落ちて飲み込まれた俺を助ける為、2人がボコったらしい。

 で、ボコると思ったより強くなかったけど、それがサンドワームイーターってやつだったらしく。

 

 貴重な資源となるサンドワーム(砂漠の中で水を蓄えてるミミズっぽいやつ)をイーターしちゃう奴として、賞金が掛けられてたために、南の国王都のギルドに直接出向いたってわけだ。

 もちろん転移で。


 ちなみにサンドワーム、無害なうえに突くと水を出してくれる。

 しかも砂漠の各地にある石碑の泉の水が減ってる時に、足して行ってくれるらしい。

 砂漠の妖精さんと呼ばれてるそうだ。

 パッと見、5mのミミズだけど。


「いらっしゃぁ~い」


 煌めく衣装に身を包んだビキニ姿のおねえさんが、露店で呼び込みをしている。

 見た事の無い果物や、派手だが美しい装飾品が多く並んでいる。


 雨が多いからか、砂漠に多い土が素材の家ではなく、床が少し高めの石灰で出来た家が多めだ。

 ピンキーの感想によると、アラビアンナイトって感じの服装らしい。

 ここの様にサラッサラの砂漠の場合は、色黒の人が多いって俺の元いた世界の知識は言っているんだけれど、ここの人はほぼ色白だった。


 やはり雲で日光が遮られてるから、なんだろうな。


 ここは砂漠部と違って、若干気温は低くなっている。というか蒸し暑いけどね。

 砂漠は乾いた暑さだが、ここは蒸し暑い。


 砂漠でごくごく偶に見かけた、旅の旅団はテントっぽい物を張ってキャンプしていた。

 ニホン語ではゲルって浮かんだ。

 

 結局この週はキラ男出現の報もなく、修業に明け暮れた一週間だった。

 来週は行商について行こう。

 ちょっと探したい物があるんだ。


 南の王都の市場でも探してみたけど、いいのが見つからなかったからな。


『そういえば、銀の腕どうなった?』

「見るか?」


 腕は、少し黒い色が薄くなっていた。

 その分、スライムが黒くなっているように感じる。

 触ると、少しプルっとした。

 がんばれ、スライム。


 なあ、ちゃんとした名前、つけないの?

次回メモ:探し物はなんですか?


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

じわじわブックマーク増えててうれしいです!

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