ブロンズランクとギルドクエストと
うっふぁー!70Pなったウッファー!!!
ありがとん!
「お前達も≪願い紙≫を投げ込んだのか?」
銀も舞台のある広場にやってきた。
よく見ると、周りに見覚えのあるメンバーがちらほらいる。気づかなかったな。
『ああ。でも全滅だ』
「わたくしはまだ投げてませんわよ! どりゃぁ!」
残念。途中で風にあおられて、どこかに飛んで行った。
「あぁああ」
悔しそうに見送る若葉を見て軽く笑った銀は、ナイフの切っ先の様に折った紙をシュっと投げる。
一直線に炎に飛んでいき、普通に入った。
『相変わらず、サラっと色々こなすな』
「これか? 投げナイフと同じ要領だな」
その後ピンキー親衛隊+ピンキーとも合流し、皆で屋台を巡って祭りを堪能した。
*
その日の夜。
いつもの広間に集まったメンバーに向けて、銀が切り出した。
「明日からのメンバーはどうする?」
『俺、しばらく行商行くのやだな(キラ男に会いたくない)』
「わたくしもですわ・・・」
「アタシも・・・」
「レモン、それではせっかくついた客が逃げていく・・・が」
「私達も、会いたくはないわね」
『そういえば隊長、男だったのに何も言われなかったな』
「言う前に、若葉が蹴りだしたからね」
『蹴りだしたんだっけか』
「蹴りだしてたわ」
蹴りだしてたか。何故か覚えがない。
『そういえば、なんであそこで見つかったんだろうな。
3人を探すメンバーが居たとしても、あんなにすぐにキラ男が駆けつけてくるって、おかしいよな。
確か、大陸下側の港近くの場所に居るとか言ってなかったか?』
「わん、ワンワン」
「あらあら、ベリーも会いたくなかったのね。
そうなのよ。前に会った時はあの子、ずっと実家のある港近くの町以外では会わなかったのに」
「ライムの言う通りだ。人は派遣するが自分は家のある町から出ない、ヘタレだったんだがな。
まさか某達を追って、大陸を旅していたというのか?」
ピンキー親衛隊の話を聞きつつ、よほど厄介な相手なんだなーと考える。
ピンキー犬を見ると、犬の姿ながらに真剣に考え込んでいる。
まさか、この状態のピンキー連れてって、「ピンキーいますよ」とか言えないしな。
なんとか出来ないかな。
と、レモンちゃんが小刻みに震え始めた。
そして。
「もう、アイツの事なんてどうでもいいわ・・・。
ご主人様とこれ以上も離れてるなんて、耐えられない!」
レモンちゃんの絶叫に2人+1匹も賛同したため、行商グループは今週、銀PTに付いていく事になった。
『そっち人多いし、俺は黒蹴についていくかな』
「ああ、あの冒険者達か」
「銀さん達にも紹介しました」
じゃあ残りは・・・
「私ハ銀ニツイテイクゾ!」
「砂漠は危険が多いので、慣れた私が監視役の方がいいでしょう」
「では私はぁ、黒蹴さんの補助ですねぇ」
『若葉はどうする?』
「わたくしは・・・」
*
次の日。
「残念でしたね、若葉さん。巫女の仕事が入っちゃうなんて」
『だなー。せっかく冒険しにいくのに』
「今までのは冒険って感じじゃありませんでしたもんねぇ」
俺、黒蹴、ケモラーさんの3人で城下町を歩く。
向かうは東国のギルド。
中に入ると、クエストの看板前で、見慣れた3人組が手を振った。
「あ、黒蹴さん! こっちです!」
「ソルジャー君、おはよう!」
『ちーす』
「ニルフさんも一緒なんすね!」
俺は眠い目をこすりつつ、片手を上げて3人に挨拶する。
「今日はなんのクエストを受けよっか」
「シルバーランクへのポイントを貯めるのを目標に、森の魔物の討伐を受けてみようかと」
黒蹴の問いに答えたのは、コナユキだ。
森、か。
森と言えば、いやおうなしに浮かぶあの光景。
そう。森スライム。
『そういえば森スライムって、どうなったんだっけ』
「確か、定期的に討伐隊が組まれつつ、ギルドの討伐系クエストにもよく貼られていますよぉ」
ギルドマスターと話しに行ったケモラーさんが、こっちに戻ってきた。
森スライムはスライムが森に進出したやつだ。
その特性と貪欲性によって平原の生き物を食いつくし、覇者となったスライム。
そのスライムの進化系の為、森スライムの討伐はギルドポイントが高めに設定されているそうだ。
ちなみに気配はほぼ無い。
前回遭遇した時は、銀が気付かずピンキーが食われた。
『お、おう。アレと戦うのか』
「いいえ!? さすがにあんなのとは戦いませんよ。
命がいくつあっても足りませんってアレ」
ソバカスがチャームポイントのアンちゃんが手をブンブン振って必死に否定する。
戦ったことあるんだな、きっと。ひどい目にあったんだな、きっと。
必死に俺達に危険性を伝えようとしてくれる。
ここまで必死だと、どんな目に合ったのか気になるな。
「あんなの、最初に遭遇した冒険者があっさり倒しちゃったって言うから、私達も大丈夫かなって挑むもんじゃありませんよ!
いくらニルフさん達がシルバーランクだからって、絶対に挑んじゃいけませんって!」
「最初に倒したPT、なんか伝説の暗殺者が居たとか、大陸を旅する賢者が居たとか、未知の武器を振り回して無双する武芸者が居たとか、伝説の料理人が居たとか、噂がものすごい事になってますよぅ」
こっそりと、ケモラーさんが俺に教えてくれた。ここまで噂って独り歩きするんだな。
もう「俺達がその冒険者ですーイェーイ」とか言い出せない。
だってまさか、塩食って自滅するとか思わないじゃん、森スライム。
「今日は、王都の西にある森に行こうと思っているんです。
俺達もかなり実力が付いてきたと思いますので」
コナユキが話を閉めた。
俺達はクエスト板から適当に薬草採取クエを受け、ソルジャー君達3人組は西の森昆虫系魔物討伐クエストを受ける。
クエスト板の横に、≪塩を忘れない≫と張り紙があるのを見つけた。
受付嬢さんの所にクエスト手続きに行くと、受付所の机に≪塩は最低1袋≫と書かれていた。
出入り口のドアノブを掴む、と。ドアに≪塩を携帯しましたか?≫と書かれた張り紙が貼ってあった。
・・・。
さあ、出発だ!
ギルドのドアを開ける。
目の前に、紅葉さんが居た。俺に向かって笑顔で手を振っている。
とりあえず閉めた。
*
城下町、ギルド近くにある西口の門を7人でくぐる。
今日の門番さんは、あの日俺達が町を初めて出た時と同じ人だった。
「スライムをあんな討伐の仕方してたお前らが先輩かぁ」
横を通るときに、遠い目をして言われた。
あの時はこの門を出てすぐに、集団で襲い来るスライム達にピンキーが窒息させられたんだっけ。
そういえばスライムで良く溺れてるな、ピンキー。
それを俺と黒蹴とピンキーで蹴散らした。
つまりここは、初勝利した栄光の場所だ。
「あの話、今でも酒場でいいネタになるんだ」
『ちょっと!?』
勝手に人の武勇伝(?)広めないで!?
「その話、後で聞かせてくださいね!」
嬉しそうに、紅葉さんが俺に言った。
なんでナチュラルに居るんすか、紅葉さん。
門を抜け、前方をソルジャー君と黒蹴、後方をアンちゃんとケモラーさん、真ん中を俺とコナユキと、
『どうして付いてくるんですか!?』
「え、だって。若葉のお気に入りの子達でしょう?
気になるじゃな~い」
紅葉さんが歩く。
前方でソルジャー君と黒蹴が、俺達の方を見てヒソヒソ話している。
行け! シルフ!
「あの、黒蹴さん。あの方どなたっすか?」
「ニルフさんの・・・知り合いかな?」
そういえば黒蹴達に紅葉さんと会った事言ってなかったな。
祭りの舞台見てたから、気づきそうなもんだけど。
あ、後ろからケモラーさんがこっそりと寄ってきた。
「あの、どうして巫女さまがこんな所にぃ?」
『さあ。俺も知りたい・・・』
「ふふふー。若葉がいつも楽しそうにあなた達の事を話していたのよ。
それで、どうしても会いたくなっちゃってね」
悪戯が成功した子供みたいに、クシャっとした笑顔を見せる紅葉さん。
その拍子に、大きな胸が揺れる。
『ふぉう』
「どうしたんですか? ニルフさん」
隣を歩くコナユキに聞かれてしまった。
つい声が漏れちゃったぜ。
ジェスチャーで何でも無いよ、と伝える。
『ところで、ホントにどうしてここに居るんですか? 紅葉さん。
あなた世界樹の巫女でしょう?』
「え”、巫女!? 巫女って昨日舞台で踊ってたあの巫女ですか!?」
前を歩く黒蹴がこっちに走ってきた。コナユキは固まった。
『そう、あの巫女! 気づかなかったか黒蹴。昨日舞台で見てた人だ!』
「僕、若葉さんしか見てませんでした!」
お、おう。若葉に直接言ってやれよそれ。きっと喜ぶぞアイツ。
冒険者の3人も寄ってくる。コナユキ、フリーズから復活。
「え、なになになに。どうして巫女様?
やっぱり愛の逃避行!?」
「どうしてそうなるんだよソバカス!
話聞いてなかったのか?
凶悪な魔物を倒すために、黒蹴さん達がこっそり護衛で付いて来てたんだって!」
「ちょっと、私はアンだってば!
それより何、これから向かう先にそんな恐ろしい魔物いるとか嫌すぎるんですけど」
「ソルジャー、君も適当に物を言わないほうがいいよ。アンも信じない。
さて、説明してくれますか? 紅葉さん、でしたっけ」
この冒険者3人組、コナユキ君が実質リーダーだな。
「ふふー。ばれちゃったらしょうがないっかー。
そうよ、わたくしは世界樹の巫女。
黒蹴君やニルフ君達と仲のいい、若葉の姉巫女よ」
あ、そういえば。
紅葉さんが巫女って、バラしちゃってよかったんだっけ。
「ふふ、そんな申し訳ないって顔しなくてもいいのよ。元々バラすつもりだったし」
「若葉さんにお姉さんが居たんですね。
僕は黒蹴です。若葉さんにいつもお世話になっています」
「丁寧にありがと」
それぞれの自己紹介が終わった頃、森に着いた。
「あら、森って事は、森スライムかしら?」
「いえいえいえ違いますって!
アイツがいるのは東の平原にある森でして! こっちには居ません!
いえ、ぜひ居ないで欲しいです!」
『なぁソルジャー君。さっきからアンちゃんが必死だけど、なんかあったの?』
「あー。頭からかぶって死に掛けたんすよ」
どんまいすぎる。アンちゃん。
「じゃあ安心ね。
ふふー、付いてきた理由は、森を歩きながら話しましょうか」
次回メモ:巫女みこ
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