朝市
50話達成!!!
若葉と2人、朝市をブラブラする。
「いらっしゃいいらっしゃい。お、そこの綺麗な御嬢さん。西国の都会で流行ってるヘアアクセサリーあるよ」
「見ていかないかい? お兄さん。おいしい野菜だよ」
「いやいや、そっちの兄さんには肉だろう!」
「西の国名物、泥の宝石。上質だよぉ!」
色々置いてあるな。食べ物から宝石から骨董から、まさに市場?
俺はその辺に置いてある適当な雑貨を物色しつつ歩く。
若葉はどんなのに興味があるのかな。
やっぱアクセとか宝石とか服とかか?
お、これとかシルフィ(俺のハープ)につけると綺麗そう。
蜜色の透明な宝石が連なったチェーンだ。先に世界樹の葉を模した宝石がくっついている。
シルフィハープ、ちょっと豪華にしてピンキー行商隊の名物とかも良いかもしれない。
マフラーで顔を隠した、寡黙なハープ演奏者。
女の子とかに「キャー! 例のハープ演奏者様よー!」とか言われちゃったりぃ?
『フフ、ふふふふふ』
「いらっしゃい、いらっしゃ・・・兄ーちゃん、えらい変わった顔で笑いよるな」
「あらニルフさん、それが気に入りましたの? ではご主人、それ包んでくださいな」
気づくと、若葉に小さな紙袋を渡されていた。
途中「肉ですの!?」と屋台に飛びつく若葉に引っ張られ、なんかの肉の串焼きを食べた。
やわらかい赤身肉だけど、なんか魚っぽい?
看板には「魚鳥肉」って書かれていた。どういうこったい!
原材料の動物を聞こうとするも、次の屋台に行く若葉にひっぱられて聞けなかった。
その後も野菜炒めに小麦粉を溶いて焼いた奴になんかの魚の丸焼きに色々食べていく若葉。
隊長へのお土産はいいのか?
10件目あたりで俺の腹は限界に達する。
『ふぃー。ウップ』
「ニルフさんは食べませんの?」
『いや、もういいかな?』
若葉に差し出された魚の丸焼きは、断末魔の途中っぽい表情をしていた。
表情豊か。
その後も食べ物の屋台を見かける度に俺を引っ張っていく若葉。
でも金は自分で払ってるよね。
別行動でいいんじゃない?
・・・と言ったら睨まれた。ちょーこわい。
メインストリートの最後にあった麺を焼いた奴を食べ、腹をさする若葉。
さすがに腹が一杯に・・・
「まだ食べ足りませんわ」
『あれだけ食べたのに!?』
もう俺の2食分くらい食べてない!?
そういえば若葉、大食らいだったっけ。
「お、あそこ。西の国名物の料理が並んでるらしいぜ」
誰かの声が聞こえ、横路地に顔を向ける。
そこからは何かを焼くようなおいしそうな香りが漂ってきて・・・
「いきましょおぉう!」
『うぇ、ちょっとひっぱらないでウワァ!?』
って事で横路地に逸れてみたのはいいものの。
『てか人多いな!』
「きゃあ! ニルフさんどこですか?!」
人並みに攫われそうな若葉の腕をガシっと掴み、こっちに引き寄せる。
そのまま並ぶ屋台の横のスペースに入り込み、なんとか一息ついた。
「どうしますこれ。人が少なくなるまで出られませんわ」
『うーん。しばらく待つか』
しかしこのスペース、ちょっと狭い。
意図せずして、若葉を抱き込む形になってる。
『狭いなー』
「で・・・です・・・わ」
『どしたん若葉。狭すぎて苦しい? あ、もしかして俺臭かった?』
「ち、違いますわ! 大丈夫ですわよ!」
『よかったー。昨日風呂入って無』
「ぎゃぁああ不潔ですわー!」
『ゴッフォァア! 冗談だって最後まで聞けよぉおぉ!』
両手で胸を思いっきり掌底しやがったゲフッ。
そのまま壁にドン! これぞ壁ド(ry
とか言ってる場合じゃないめっちゃ痛い胸部。
と、俺がぶつかった壁がガチャっと開き、おばちゃんが顔を出した。
「なんだい? えらいデカい音がしたけど。おや?」
『あ、すんません。ちょっと人が多くて身動き取れなくて』
「おやまー、せっかくのデートだろうにかわいそうにね。この町は初めてかい?
お腹すいてるんなら、こっちから店に入るかい?」
おばちゃんの言葉を聞いて、若葉が目を光らせた。
「ぜひ戴きますわ!」
『いやデートじゃなくって! ってそっち!? 若葉そっちに食いつくの!?』
なぜか豪快に大笑いするおばちゃんに連れられて、裏口から店に入れてもらった。
店の名前は≪お食事処 魚肉心≫。魚料理多そう。
「うちの名物は肉吸いだよ!」
『魚じゃないの!?』
「魚は西の国名物だけどね。湿地が多い分、陸で良く取れるのさ。
海で取れるものと違って、獣肉に近いのが特徴なんだ。
だけどそのままじゃコッテリ出汁になっちまう。
ってことで、うちでは海の魚で出汁を取り、陸の魚の肉を煮て、最後に獣の卵でサッと纏めた、この≪肉吸い≫が名物なんだよ!」
カウンター式の厨房でしゃべりながら、おばちゃんはサッサと作り上げて俺達の前に皿をドンと置く。
さっぱりした出汁の香りが店に広がった。
一口食べるとあったかくて優しい味だった。
お腹いっぱいだったけど、結構入るな。
「ここの国は朝方冷えるでしょう。この料理はね、朝働きにいく男達に評判なのよ」
「はふー。あったかくておいしいですわ。
このお出汁、全部飲んじゃいました」
俺が半分食った辺りで、若葉が完食した。
「甘い物ってございますの?」
しかもなんか、ゼンザイ頼んで食い始めた。
白い餅をモチモチさせながら吸い込むようにデザートまで平らげる若葉。
肉吸いを食いながら俺は思う。
『どこに貯まってるんだその量』
「どこに? ・・・!!!?
ニルフさんのエッチィィィ!」
急に左頬を殴られた!?
木の椅子ごとグルンと回転してそのままガターンとぶっ倒れる。
それを上から見下ろす若葉。
なんで両手で自分の胸を押さえているの?
「胸が小さくて悪かったですわね!!!」
え? 胸?
「んー。お嬢さんや」
店の(本来の)入り口近くのテーブルにいた爺さんが、見かねて声を掛ける。
「その坊主、胸の事など言ってなかったぞ?」
「えっ?」
若葉が俺を見る。
俺は気づくと左頬をおさえて、お嬢様座りしてた。やだっはずかしい!
サッと立って腕を組み、若葉を見下ろす。
『言ってない。胸の事なんて言ってない』
「あ、じゃぁ」
『そうだ、若葉の勘違いだ。俺は、こんなに食べてもいつもスレンダーで不思議だなって思っただけだ!』
「すいません・・・勘違いでしたのね」
シュンとする若葉。
『そうだ、勘違いだ! 胸がスレンダーで不思ぎゲファ!』
「やっぱり胸の事じゃないですかー!」
しまった、混ざった。
再び殴られて床に倒れる俺を、爺さんと店のおばちゃんが覗き込む。
「あんた、バカだねぇ」
呆れたように、おばちゃんに言われた。
若葉の分のお金も払って、店を出る。
ちゃんとした出入り口から出た先は、隊長のいる空地に繋がる道だった。
ここ旨かったな。今度来た時も立ち寄ろう。
そのまままっすぐ隊長の所に向かう、と。
隊長は荷台でなんかゴソゴソしている。
若葉がむすっとした顔でベリーを撫でつつ、馬車の行者席に座っていた。
「きゃうん」
ベリーの声で、俺に気付く。
『あー、さっきは悪かった』
「ふんだ。怒ってませんもの」
『うーん、これお詫びに渡そうと思ったんだけど』
店を出る時におばちゃんに渡された、ゼンザイを若葉に見せる。
これはアイス入りだ。
アイスゼンザイを見て、目を光らせる若葉。
だがすぐに目を逸らし、
「ふ、太るので遠慮しますわ」
『むーん。じゃあ隊長にあげるかなー』
「!!!?」
「お、くれるのか?」
隊長がタイミングよく荷台から出てきて、アイスゼンザイを受け取ろうとする。
「あ、ああぅ・・・」
『俺、沢山食べてもどこも出ない、今のスレンダー若葉が良いと思うなー』
「そうだなー、あの食べっぷりがいいところなんだよ若葉はー」
隊長も合わせてくれる。
「いただきますわぁ!」
『おう! ・・・ごめんな、若葉』
「・・・いいんですのよ」
仲直りできてよかった。
『あ、ちなみにこのアイスってヤツな。ピンキーが発案して作ったらしいぞ』
「!?
すごいですわね!? ピンキーさん!」
見えないところで異世界ハザード進行中。
「キャン!」
何故か誇らしげに、ベリーが胸を張った。
*
昼前頃、ピンキー親衛隊が戻ってきた。
「色々仕入れて来たわよー」
「昼からの市場の出店場所、確保できたわよー」
「某、馬車をそこまで移動させてくる」
一気にてきぱきと物事が進んでいき、気が付けば俺は馬車の奥で、ハープを弾いていた。
目の前には沢山の女性女性女性。たまに男性。
皆年頃で、綺麗に身支度している女性ばかりだ。
それらがこっちの馬車に群がり、アクセサリーや宝石や指輪や髪飾りなど、女性の好みそうな小物が並んだ荷台を片っ端から物色しては、買って行っていく。
俺から見るともう何が何だか分からない状況なのに、ピンキー親衛隊はテキパキと客をさばいて行っている。
なんだかもうハンパねえ。
最初、お客さんに話しかけられて上手く対応できずに固まる俺に、レモンちゃんが
「いい客寄せになるし、ハープ弾いといてよ」
って言ってくれた時はマジ感謝したね。
神か!
ちなみに俺の横には若葉。
同じように圧倒されて固まった若葉にもレモンちゃんが
「馬車の奥で待機して、アタシが言った商品を出して来てもらいたいの!」
って言っていた。
今は馬車の奥でテキパキ商品を出しては紙袋に詰めていっている。
すっかりどこに何が入ってるかを把握したようだ。
隊長はブラリ1人市場旅だ。
朝、馬車の見張りしてもらってたしね。
ベリーちゃんも、ワンコなのに普通に接客して、ちゃんと商売している。どうやってんの?
俺は長く話せないからって店の奥に引っ込んでるけど、ベリーちゃんみたいに接客も出来るようになりたいな。
俺に、ほんのりとした目標が立った。
そういえば若葉がくれたあの紙袋に入っていたチェーン、ちゃんとシルフィハープに取り付けたぜ。
色が合ってて、めっちゃ綺麗だった。
ありがとうな若葉って言ったら、何故かものすごく照れていた。
ライムさんが馬車の横から俺達を見ていて、口に手を当てて肩を震わせていた。
俺のハープを聞いた道行く誰かが言った。シルフが声を拾ってくる。
「なんか青春を思い出すな」
新効果? 魔力を込めて弾いてないから、魔法の効果は出ないはずなんだけど。
若葉のくれたチェーンって、魔法具だったのかな。
*
そのままこの町で一泊し、時差に体を慣れさせた後、王都に向かって出発した。
王都まで馬車を飛ばして一日。
魔物も盗賊の類もほぼ出ない、安全な街道だ。
たまに街道を護衛中の騎士の人とすれ違った。ごくろうさまです!
王都は白いレンガ作りの高い塔や家が立ち並んでいて、「世界の経済の中心だ!」って言う感じだった。
あ、「世界の(ry」はピンキーの受け売りです。
さっきの町とは比べ物にならないほど人と馬車と行商人でごった返していて、街人は皆こぎれいな格好をしていた。
物も者も食物も多く入ってくる分、皆おしゃれー。
「さあ! 売るわよー!」
レモンちゃん、今日も張り切ってる。
「うふふ。普段ここではあまり商売をしないんだけどね。今度東の国で春祭りがあるでしょ?
その影響で、東の国に行けなくても雰囲気を味わいたいって人が、東の国のデザインの物を良く買っていくのよ」
「そうよ! うちは仕入れ値が安くおさえられたから、その分在庫は沢山あるわよぉおお!」
てことで、俺はやっぱりハープを弾く。
雑多な喧騒の中でも俺のシルフィハープは良く響く。
皆、忙しい足を止めて音の出所をたどり、女性は吸い寄せられるようにピンキー馬車に目を留める。
良く売れたらしいです。
夜は王都のちょっと豪華な宿屋を堪能しつつ、作戦会議中。
昼間売り上げが良かったから、ちょっとだけ奮発した。
あ、部屋はちゃんと男女別だよ!
作戦会議の為に、男部屋に集合中なだけだ。
俺は自分のベッドに寝転んでゴロゴロしながら、話を聞く。
隊長がいう。
「王都からは一番太い街道以外に、4つの町に道が伸びている。
そのうち1つは以前立ち寄った、水の世界樹への道だ。
明日からはピンキー達が立ち寄っていない、残りの3つの町を目指すぞ」
「うぉお! 売って売って、売りまくるわよぉ~!」
「某もがんばるぞー!」
ハイテンションのレモンちゃんとサイダーちゃん。
それを眺めていたライムさんが笑う。
「あらあら、うふふ。じゃあ、明日の為にも、早く寝ないとね?
ほら、ニルフちゃんも」
『んが?』
やっべ、いつのまにか寝てた。
その一言で作戦会議は解散となり、俺達はそれぞれの部屋で眠りにつく。
おやすみなさい。
次回メモ:ハデ男
いつも読んでいただきありがとうございます!
ニルフ達って、恋愛要素が皆無なんじゃないかって他の小説を読んで気づいた。




