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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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石碑めぐり3~行商~

1時間前に地図投稿しました

 その後まあ、すぐに登録済みの石碑は回りつくすことが出来た。

 俺達が転移出来ない石碑は、東の国南部の谷の東側、西の国の中央部分だ。

 銀が回っていた南の国は、極端に石碑が少なかった。


「南の国は下半分が砂漠の為、街がありません。

 現在世界に存在する石碑の半分は街の近くにあり、人が管理・保護しています。

 南の国では街自体が少ないため、結果として石碑も少ないのです」


 ポニーさんが説明してくれた。

 南の国ギルドによると、街が少ないため探索もやり辛く、未発見の石碑も多いのだろうという事だ。

 ただし石碑が少ない分、環境が過酷なため、他大陸と比べて体力に優れた冒険者が多いらしい。


 そういえば普通の石碑だと、魔力しか増えないもんな。

 

 城に帰ると、隊長が出迎えてくれる。


「久々に皆での旅はどうだった?」

『休みを挟みつつの観光しつつのゆったり旅だったから時間はかかったが、何だかすごく楽しかったな』

「修学旅行って感じでした!」

「黒蹴は、そればっかりだな」

「きゃわん」


 黒蹴の感想に、銀とピンキーが笑う。


 そういえばこの旅中、城に帰った時に、黒蹴がいつも「修学旅行かー!」って叫びつつ部屋に入って行った。

 日々多少のバージョン違いがあって、この旅のちょっとした風物詩(?)になってたな。


 明日からは、回っていない場所(主に西の国+東の国の谷の横)を廻る。

 今までの続きでそのまま、馬車を2台にして全員で回ろうって事になっていた。が、


「あの、僕ちょっとやってみたいことがあるんです」


 めずらしく黒蹴が一人で行動してみたいと言い出した。


「この前ニルフさんとギルドに行った時のブロンズ3人組と仲良くなったんで、少し一緒にギルドの仕事をしてみたいなって」

『ああ、あのソバカス少女と兵士っぽい少年とクール魔法使い君だっけ』

「そう、その人たちです! あの後たまにギルドに行くと、いつも話しかけられまして。

 今度一緒に仕事しましょうって話になったんです。誰か一緒にどうですか?」

「他者を守りつつ戦う方法を学べるな。実力の差のある者と組むことで、学ぶことも多いはずだ。

 お前らは今まで守られる事も多かった。一度守る立場に立ってみるか。

 黒蹴と、他に手が空いた奴は一緒に行くといい」


 隊長が黒蹴に賛同する。


「オレは≪登録≫で得た力を把握したい。南の国の砂漠に行くが、誰か疑似戦闘をしないか」


 銀の言葉。南の国は下半分が砂漠の為、石碑から離れると人の目がほとんど無いので修業に最適だ。

 と、続いてレモンちゃんが声をあげる。


「あ。アタシ達はここで仕入れた商品を行商で売りつつ、西の国の石碑を廻りたいんだけど」

『じゃあ、皆ばらけて好きな事をするか』


 ということで。

 黒蹴はブロンズ冒険者とギルドの仕事、銀は南の国の砂漠で模擬戦闘、ピンキー親衛隊は西の国で行商しつつ石碑をめぐることになった。


 まあ、完全別行動って訳では無いけどね。

 週1で城に集まって、情報交換する。


 誰かと模擬戦闘したくなったら銀に付いて南の国に行き、ギルドのランクを上げたければ黒蹴に同行してもいい。

 親衛隊たちの回る石碑は召喚者の誰かが居ないと転移出来ない為、基本は俺と、手が空いた召喚者も同行する事になった。


 なぜピンキーが常に行商グループにいないのか。それは、


「キャン。わん」

『ん? ピンキーどうしたんだ?』

「あ、紙とインク持ってきますね。

 ピンキーさん、その状態だとここの世界の文字は書きにくいみたいで、日本語書くんですよ」

『ああ、だからずっとニホン語なんだな。魔力も込めて書けないみたいだし、不便だな犬化』

「ぴんきーナラ、『俺も銀と修業したい』ッテ言ッテルゾ」

「えっ」

「分かるんですの!?」

「ウン!」


 早く言えよ!!!

 まあ一応魔物だもんなハーピー。めっちゃ馴染んでるけど。


 紙を持ってきた黒蹴が絶句してる。


「あの・・・あの≪カイチューデントー≫での王宮魔道士さんとの苦労は一体・・・」


 あぁ・・・。一々書いて読んでしてたから、意思疎通が大変だったんだな。


 ていう訳。


 ピンキー親衛隊は、行商の合間に別グループと合流する事も有り。

 若葉やケモラーさん達も好きなグループに、その時その時についていく感じ。


 ケモラーさん、ポニーさんは俺達の護衛だ。

 まあ最初よりは結構強くなっていて、その辺の魔物に負けることは無いんだけど、ふとした時の常識とかが、ね?

 若干不安が残る(特に俺と黒蹴)。

 召喚者が来たって事は各国を挙げての秘密だから国民は知らないんだけど、どこから噂が漏れるか分からないから、ね。


 ちなみに俺達は、南半球に散らばる小さな島の1つの出身って事で乗り切っている。

 色々な文化の島があるそうだ。

 どんな文化があるかは、そんなに有名では無いので利用させてもらっている。

 

「今週はわたくし、西の国に行きますわ」

「私は南の国で模擬戦闘ですね」

「私はぁ、心配なので黒蹴さん達に付いていきますねぇ」

「お、やってるな」


 隊長が部屋に入ってきた。

 ちなみにここは、いつもの城の大広間だ。

 すっかり俺達のダベり場になっている。


「西の国の護衛が無いな。付いていくぞ」

『城の兵士の仕事はもう大丈夫なのか?』

「あぁ、引き継ぎは終わった。しばらくは自由に動けるぞ」


 兵士隊長が自由に旅して大丈夫なのか? と思ったが、きっと王様命令なんだろう。

 王付き大臣が頭を抱える姿が、目に浮かんだ。


 *


 って訳で、皆で旅支度を整えて出発の時間だ!


「いってくる」

「キャン!」

「はい! 皆さん気を付けて!」

『お前もな、黒蹴! あ、あの冒険者達によろしく』


 4人で挨拶を交わし、転移しようと剣を取り出す。

 と、そこに王付きの大臣が現れた。


「皆さま。来週の城に集まる日ですが、しばらくお時間を空けておいていただきたい」

『何かあるのか?』


 俺の問いに答えたのは、若葉だった。


「そういえば来週は≪春祭り≫ですわ!」

「そうです。東の国あげての、一大祭りでございます」


 大臣が誇らしげに言った。


「じゃあその時に、冒険者達さんを皆さんに紹介します!」


 黒蹴もすごくうれしそうだ。祭り好きか。


 一大祭り。きっと準備も大変なんだろうな。

 そういえば俺達が召喚された時に言ってたな。

 東の国が俺達を引き取ったのは、他の国が祭りを控えてるからだって。


『最近王が疲れてたり、隊長が城の仕事で俺達の護衛から離れていたのも、それが理由だったんだな』

「直前まで内緒にしていた方が面白いだろうと王がおっしゃいましてな。

 皆さまには一般のお客として参加していただきますので、好きに過ごしてくだされ」


 朗らかに話す大臣。

 俺達は大臣に手を振り、それぞれの場所へ出発した。

 口々に祭りへの期待を話しながら。


 その中で1人、銀のみが何かに引っかかったような表情を一瞬浮かべたが、誰もそれに気づくことは無かった。

 

 いや。

 隊長、ポニーさん、ケモラーさんはその事に気付いていたが、口に出すことは無かった。

 

 *

 

 出発直前。


「あ、しまった! 発注してたあの髪飾り、取りに行くの忘れてたわ!?」


 レモンちゃんが叫んだ。


「あらあら。アレ、今回の行商の目玉商品なのに」

「転移前に気付いてよかったですわ。皆で取りにいきましょう」


 行商グループ全員総出で城下町に出掛けた。

 が、


「ちょっと、どういうことよ!

 注文した商品はここには無い、ですって!?」

「すみませんレモン様、手違いで別の工場に輸送されてしまったようでして」

「いい、それがしらで取りに向かう」


 しかし発その後も注したはずの商品が見つからないやら、やっぱり元の工場に運んだやらタライ回しされまくった。

 結局商品は発見され、出発出来たのは夕方だった。


「つ・・・疲れた」

「見つかって良かったですわ」

『じゃあ、転移するぞー』


 俺達は西の国の港から王都に伸びる街道、その途中にある森の中の、石碑に転移する。

 外は暗い。まだ夜明け前のようだ。


 馬車はピンキーが元々使っていた馬車だ。

 王都で修理して、すっかりピカピカ。


 転移後、魔法が解けてから街道に向かって歩く途中に、小さな広場があった。


「ここはね、アタシ達が人柱にされそうになった、儀式が行われていた場所なの」


 地図にも表示されていない、小さな小さな広場。

 今ではすっかり雑草に覆われていて、元々非人道的な行事が行われていた場所とは思えない。


 そこを遠目に見ながら、レモンちゃんは呟いた。


「主人はたまたま、石碑があるのではないかと立ち寄ったらしい。

 それが無ければそれがしらはおそらく」

「この森の他にも、色々な場所で人柱を埋めていたらしいけどね、あの貴族」


 懐かしそうに目を細めて、サイダーちゃんとライムさんも言う。

 森では和やかに時が過ぎ、鳥がさえずる声が響く。

 皆静かにそれを聞いていた。


 *


 街道を、王都に向かって走らせる。

 距離的には港側の方が近いが、仕入れた商品を王都に運びつつ行商し、王都を拠点にして回っていない町々を廻ろうという事になった。


 王都に、ピンキー行商隊のファンクラブもあるらしい。

 なんかものすごいなピンキー行商隊。


「後、ね。なんか変な人がいるのよ。港側の街」


 ライムさんが、少し嫌そうな顔をしつつ教えてくれた。

 めずらしいな、この人がこんな顔するなんて。

 ちょっと行き過ぎたファンがいるらしい。


「大丈夫だとは思うけれど、ニルフちゃんと隊長さんも気を付けてね。

 私達に近づく男性を目の敵にしているようなので」

『分かった、ライムさん』

「分かった。一応、若葉も気を付けておこう」

「りょ、了解しましたわ」


 港街近くには、変な奴がいるっと。

 そっち方面回るときはピンキー+女性のみでいくか、逆にガチガチに男連中で固めた方がいいかな?


 俺達はそのまま何事も無く、ガタガタと街道を進んでいく。

 馬を操るのは隊長。

 厳つい隊長が睨みを利かせているので、変な輩も近寄らない。 


 時折ド派手な馬車とすれ違った。

 なにあれ王族!?


「いや、あれは普通の商人だ。この大陸では行商人が多いからな。

 馬車を派手にして、客に自分が来たと知らせる目安になるんだ」


 サイダーちゃんが教えてくれた。

 ちなみにこの馬車には、抽象化された女の子が笑顔でポーズを決める絵が描かれている。

 ピンキー製らしい。

 黒蹴が「テレビのCMで見たことある」っていっていた。


 そのままガタガタと揺られ、朝方に町に着いた。

 ここは王都1つ手前の町だ。

 

 あ、すっかり忘れていたが、この世界では東から日が昇り、西に落ちる。

 チキュウと同じ法則らしいね。


 時差はあるが、ぶっちゃけ転移しすぎてよく分からない。

 夕方、東の城を出て、西の国に付いたら暗くて、町に着くころには朝方。


 なんかそんな感じだ!!!


 朝早いのに、入り口の門前には門番が立っていた。

 眠い目をこすりつつ、対応してくれる。


「あぁ~、眠い。あ、ピンキー行商隊の方々ですね。

 おれの彼女、いつ来るか楽しみにしてましたよ。どうぞお通り下さい」


 ライムさんの見せた行商許可書を見て、門を通してくれる。

 全体的には、木とレンガで出来たような牧羊的な雰囲気の町。

 普通の町って言うか、田舎の町っぽい。

 ピンキーが前に言っていた感想は「西洋の田舎町っぽい」雰囲気だ。

 ぱっと見た感じでは、「きっと人とかあまりい無さそうな感じだな」って思いそうな町並みだ。


 だがそこから続くメインストリートは、少し小さい道幅ながらも様々な店が出て、人でごった返していた。

 若葉が驚いた声を出す。


「なんですのこれは。こんなに朝早いのに、人が沢山居ますわ」

「これはね、朝市よ。朝もやの中で市場を出してるの。

 ほら、近くで採れた野菜とか、いろいろ売ってるでしょ」

「丁度いいわ。仕入れを兼ねて市を廻りましょう。

 今からだと店を出せないし、行商は昼からね」


 レモンちゃんが説明してくれた。

 ライムさんがピンキー親衛隊に指示を出す。

 隊長とベリーが馬車の護衛をしている。


「若葉とニルフは、好きに回ってくると良い」

『おう! 行こうぜ若葉!』

「待ってくださぁい! あ、ご飯買ってきますわね!」


 ベリーを膝に乗せた隊長に見送られて、俺達は市場に繰り出した。 

 目の前には、おもちゃ箱をひっくり返したような色とりどりの店と馬車が、並んでいる。

 

 さぁて、どれから回るかな!

次回メモ:デート?


いつもよんでいただき、ありがとうございます!

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