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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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石碑めぐり 

 次の日は快晴だった。

 まあ空の半分は薄雲張ってるけども、この世界ではこれが快晴だ。

 雲多いよねこの世界。


 そして出発間際。

 城の皆に別れを告げ、≪見せない君≫を使おうとする。と、


 ≪カイチューデントー≫をもった王宮魔道士さんが足早にこっちにきた。

 

 どうしたんだろう。なんか昨日よりも疲れてる。

 いつもはお団子にしてる髪がほどけてボサボサ。

 そして何故か、いつも以上に輝く笑顔。やっぱ美人だなー。


「やはりそうでした! この効果、世紀の大発見です!」


 まさか≪カイチューデントー≫の効果が判明した?


「注目のその効果は!?」


 黒蹴が固唾を飲んで話を促す。こういうの上手いよね黒蹴。

 王宮魔道士さんは顔にかかった髪をファサッとかき上げ、誇らしげに言った。


「魔力を通した者の属性と、同じ現象を起こします!」

「ん? まさかそれって・・・!?」

「そう、そのまさかですよ!

 今まで知る手段の無かった自分の属性を、知ることが出来るのです!」


 つまり黒蹴は火、俺は風、銀は水って事が、事前に分かるって事か!

 って事は!


『じゃあピンキーは光?』

「光の魔法は確認されておりません。光を放つ魔法とすれば・・・火や雷でしょうか」

「僕の場合は火が噴き出ましたが」

「ならば雷かも知れません。ですが、雷の世界樹は・・・」


 なんと人里離れた孤島にある為、現在は行く手段がないという。

 島の近くに船乗りの村があったそうだが、現在は何故か行けないらしい。

 おいギルド! ちゃんと管理しとこうぜ?!

 とりあえず力底上げのために普通の石板めぐりと行きますか。


 道すがら≪カイチューデントー≫でピンキー親衛隊や若葉の属性、調べていけばいいし。


『じゃあ早速それ持って旅に出よう!』

「あ、このアイテム増産したいので、研究に回しますね。

 しばらく預からせていただきますので、属性を調べるなら今おねがいします」


 あ、そうですか・・・。

 出発が少し遅れた。


 *


 日が高くなった頃、俺達は馬車に乗り込んだ。

 え? なぜ馬車に乗り込むの? そのまま≪見えない君≫を1人1人に使えばよくない?

 そう思ったあなた! 俺も最初そう思った!


 アイテムが出来上がった日、俺は10こ位あるリンゴに≪見えない君≫を使って遊んでいた。

 その様子を見ていた隊長が言った、


「それ、デカい箱に掛けたら中に入ってるリンゴごと見えなくなるのか?」


 って言葉が王宮魔道士さんの耳に入り、馬車にも掛けられる様に出力を調整したらしい。

 これ以上出力を上げると、中枢に使っている牙が持たないそうだ。


「もっと大きい牙ならば、馬車どころか城1つくらいなら見えなく出来ますよ!」


 鼻息を荒くした王宮魔道士さんが、期待を込めた目で俺達を見つめつつ言っていた。

 み、見つけたら持ってきます・・・。

 

 ってことで、実際に馬車に使ってみると、中に乗っている俺達ごと見えなくなった。

 ただし、外に出ると見えるっぽい。


 ちなみに今回使用するのは、ピンキーが行商に使ってるのとは別の馬車。

 王が用意してくれた無国籍風の馬車だ。

 この国の馬車はピンキー曰く「西洋風だよね!」だった。


 わざわざ無国籍風の馬車を用意したのは、万が一姿を見られても正体バレしない様にらしい。

 

 そう。今回の旅は、人に姿を見られてはいけない。

 転移後 シュッと馬車から出て、シュッと登録し、シュッと次の石碑に転移する。


 姿が丸見えだと、「謎の瞬間移動集団が居る!」って騒ぎになりかねない。


「さあ、早く行きましょう!」

「何してるの皆! サックサク行くわよ! 早くアタシの武器に力を注ぎ込みたいのよ」


 ワクワクした顔の黒蹴と、馬車に既に乗り込んでうっとりと武器を撫でるレモンちゃんにせかされて、馬車に乗り込んだ。

 

 この馬車、いつものより1.5倍ほど大きい。なぜなら・・・


「では全員、馬車にのりこみましたね。それでは≪見せない君≫を使用します」

「早く使って行っちゃいましょうポニーさん! ちょっと狭いですよココ!」

「ちょっと黒蹴! アタシの足踏まないでよ」

「レモンの側にでは無く、それがしの方に足を向けると良い」

「あ、ありがとうございますサイダーさん」

「あらあら、うふふ。誰かしら、私のお尻を触ってるのは」

「ご、ごめんなさいですわライムさん。狭くて膝がお尻に」

「狭いですねぇ」

「わふん」

「キャウン」

『銀!? お前なんで屋根に逆さまに張り付けるの!?』

「慣れだ」

 

 めっちゃ大人数で移動するからだ。

 馬車に乗り込んでるのは俺、黒蹴、銀、ピンキー犬、ベリー、ピンキー親衛隊3人、ケモラーさん、ポニーさんだ!

 上の会話、誰が誰か分かるかな?


 何故こんなに狭いのか! それは7人乗りだからだ!

 ある程度の荷物を積めば、もう足の踏み場もない。

 荷物を最低限にして、夜は城に帰って寝るっていう旅になりそうだ。

 

 これって「旅」って言うん?

 弾丸決行の日帰り旅行って言わない?


「牙の出力的に、これが限界なんです」


申し訳なさそうに言う王宮魔道士さん。の声に重なるように、


「こうでもしないと、まったく城に帰ってこないからな」


 王の幻聴が聞こえた気がした。

 出発直前、俺は気になっていた事を隊長に聞く。


『そういえば、隊長は行かなくてもいいのか?』

「あぁ、しばらく城を留守にしていたからな! 弛んだ兵士共を鍛えねばな!」

『そっか。じゃあまた後でな!』

「おう! 十分楽しんでこい!』

『楽しめるかな。このぎゅうぎゅう詰めで』

「がっはっは! 慣れれば楽しいと思うぞ」

『おう! 行ってくらぁ!』


 *


 彼らが旅立った後、隊長は王に目を向ける。

 王が頷き、2人は会議室に向かった。

 すでに会議の参加者は集めてある。


 王は会議室に入り、席についたメンバーを見回す。

 そこにいるのは、国のトップに位置する者達だ。

 様々な役職の大臣・ギルドマスター・その他、国の様々な重要な役職についている者達。

 

 会議室はいつもより少し騒がしい。なぜなら。

 普段は研究に忙しく、滅多に会議には顔を出さない王宮魔道士はもちろん、普通の会議には参加しない役職の者やギルドマスターまでいるからだ。


「それでは、会議を始める」


 王は、重々しく開始の号令をかける。つづき、王付きの大臣が会議の議題を読み上げた。


「議題は、召喚者達を襲った男達について」


 会議室に、軽く笑いが走る。


 また、王の過保護癖が出たな。

 これだけの人数を集めて会議する内容ではないだろう。

 お気に入りの召喚者が襲われたとて、ここまで集めるのはやりすぎだ。

 王は、その不届き者と戦争でも行うのか?

 しかしなぜ、召喚者の事を内密にしているはずのギルドマスターまでいるんだ?


 多少の疑問を持つ者は居るものの、いつも通りに和やかな会議の時間が流れる。が、

 続く王の言葉に、皆の笑いは凍りついた。

 

「闇の魔法を扱う者が、確認された」


 さきほどまでの軽々しい和やかな雰囲気は、どこかへ飛び去った。

 そんな雰囲気に飲まれたのか、何人かはブルリと体を震わせる。


 顔を青くさせた大臣の1人が、擦れた声でつぶやいた。


「闇の魔法は、魔族しか扱えない」


 表向きの議題は、ニルフ達を襲った男達について。


 しかしその真意は・・・『地上への、魔族の襲来の可能性』


 市民には、ただのおとぎ話としか思われていない魔族。

 だが、会議室に集う者達の頭には国の上部のみが知る、恐ろしい魔族の伝説が浮かんでいた。


 *


 初めての転移は大成功だった!

 転移した瞬間、泉の傍でたむろする冒険者がいてヒヤリとしたが、気づかれなかったぜ。


 近くに小さめの茂みがあるので、そこで魔法が解けるのを待つ。

 ここは東の大陸、風の世界樹の谷に近い駐屯場近くの石碑だ。

 初めての≪見えない君≫使用での転移だったため、何かあってもすぐに隠れられる場所が近い所を選んだのだ。


「どうやら気づかれなかったみたいですね」

『俺達はもう≪登録≫してる場所だし、あの冒険者達が居なくなったら皆で行ってくると良いよ』

「あの人たち、風の大精霊に挑戦するのかしら」

「気になりますかぁ? レモン」

「そりゃちょっとはね! いつかは挑戦するんだし」

それがしも早く強敵と戦いたい」


 おしゃべりしているうちに、魔法が解ける。

 冒険者達も丁度≪登録≫を終えて、駐屯場の方に歩いて行った。

 今日は泊り、明日の朝に谷に出発するのだろう。


「さあ! 行ってくるわね!」


 3人ずつで≪登録≫していき、最初の石碑への転移は、無事成功した。

 そういえば転移する人数が増えても、魔力を消費する量は変わらなかったな。


 そのまま俺達はドンドン石碑に転移して行った。

 

「やはり、人の居ない森の辺りで魔法が解けるのを待つのがよさそうだな」


 その日いくつかの石碑をまわって城に戻った時に、王宮魔道士さんに銀が言っていた。

 使い心地を聞かれてたっぽい。


 ≪見せない君≫使って転移して登録して移動するだけだが、慣れない事の連続だったので結構疲れた。


「おやすみぃーまた明日ー」


 夕食を取り、皆部屋に戻って気ままに過ごす。

 どこの旅館だ! どこの修学旅行だ! と黒蹴が言いつつ、部屋に戻って行った。

 若干わかるぞ、その気持ち!


 *


 まあ、こういう感じで毎日が過ぎて行った。


 すぐに転移するので戦闘はほぼ無い。というか全く無い。

 お昼ご飯時にスライムとか小鳥マジでかいとかが襲ってくる程度だ。

 小鳥は魔弾で落とされておかずになった。


 馬車の中でクッチャベリつつ飯食ってダベる。

 そんな(黒蹴いわく)修学旅行みたいな話で良ければ、伝えるぞ!


 転移した後、近くに隠れられる場所が無かった場合もあったが、馬車の中から≪見せない君≫を継続的に馬車に掛けつつ隠れる場所を見つける方法で乗り切った。


 そういえば冒険者の近くを通った時もあったが、わだちも気付かれなかった。

 便利だなこれ。


 石碑の周りに障害物が無かったり冒険者が居た場合は、馬車を隠してから効果が切れるのを待ち、見えるようになった馬車ごと行って、変装した状態で登録する。


 これがめっちゃめんどくs(ry えふん。


 *


 俺達は、銀や俺の回った石碑を廻りつくしていく。

 きっと俺達の見つけていない石碑もあるだろう。だけどまあ、噂で知れば回るって事で、ね。

 狭い馬車の中、魔法が解けるまで旅の話に花が咲く。


 なんと銀はあの数か月で、南の大陸ほぼすべての石碑(現状ギルドに報告されて分かっている分)を廻っていた。


「自分を鍛えなおしたかったからな。そう苦には成らなかった」

「南の国は、下半分は砂漠なんですよ。環境が過酷なので町は有りません。

 王都のある上半分は緑に包まれていますが、世界樹島の恩恵が無ければきっと、大陸全体が乾いた砂漠になっていたでしょうね」


 銀とポニーさんコンビすげえ。移動距離がハンパない。

 2人とも自分を鍛えるの大好きなので、どんどん進んでったんだろうな。


 ピンキーは行商しつつだったので、西の大陸中央周辺は回っていない。

 ケモラーさんによると、最初は全部の街を登録してまわるか迷ったらしい。

 だが途中でピンキー親衛隊を保護することになった為、資金を稼ぐことを優先したそうだ。


 親衛隊さんたちが若干申し訳なさそうな顔をしていたが、ケモラーさんの


「でもそのおかげで、いい旅の仲間や行商の経験を得られたってピンキーさん嬉しそうでしたよぉ」


 という言葉を聞いて、3人で一緒にピンキー犬を抱きしめる。

 ピンキー犬は一声鳴いて、レモンちゃんの顔を伝う涙をペロリと舐めた。


 ケモラーさんの話は続く。

 一番色々やってて面白いなピンキーの話。


「最初の資金は、3人を生き埋めショーに使おうとしていた貴族の元に集まった観戦料やお供え物を盗って、闇市でさばいたんですよぉ」


 そして一瞬悪い顔をしてフフフと笑うケモラーさん。ちょっと怖い。


「その後も結構、闇市にはお世話になりましたぁ」

「ご主人様が女装して顔出したら、皆怯えた顔して揉み手してたわよね」


 闇の市場、どうやら美女版ピンキーが一目置かれてるっぽい。

 なにしたんだ。ホントに何してたんだピンキーズ。


 そういえば親衛隊3人とも、けっこういい武器を持っている。

 サイダーちゃんは日本刀、ライムさんは棘トゲの棍棒だ。

 レモンちゃんは魔法主体なので素手かと思ったが、小さなスティックを持っていた。


 親衛隊3人が石碑に≪登録≫出来るように、ピンキーがあげたらしい。

 行商で稼いだお金で、しっかり養っている。


「ご主人様に貰った大切な物なの。一生大事にするんだから」


 レモンちゃんが呟きつつ、ギュッとスティックを抱きしめた。

 全体に星のデザインのちりばめられた、かわいくて美しいデザインだな。


 ちなみにサイダーちゃんの持つ日本刀は、ピンキーが鍛冶屋にデザインと作りかたを見せた所、大変気に入られたため格安で作れたらしい。

 しかも、親方と一緒に打ったそうだ。

 器用すぎるピンキー、どこへ行く。


 *


 ある日、泉に足を漬けつつブラブラさせているハーピーを見つけた。

 今は綺麗な人の足をしているが、鳥形態では巨大なフクロウの足になる。


 そいえばハーピーの靴ってどうなってるん?

 確か、鳥形態に変身しても靴が破けてないよね。


「足ノうろこヲ変化サセテ、靴ッポク見セテル」

『え。じゃあ最初変身した時、服も作れたんじゃない?』

「ウン!」


 おい!

 返せよ俺の好感度!!

 あれのせいで皆に女好きって思われてるんだぞ!!!




 でも眼福でしたありがとう。

次回メモ:巫女


いつもよんでいただきありがとうございます!

ピンキー親衛隊と若葉の属性ですが、後程書きますぜ。

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