SS ある男の夢
そこでは 砂嵐が巻き起こっていた。
(これを作ったのは俺。魔法で竜巻を作った。)
竜巻は周りに散らばった瓦礫や家具の残骸などを巻き込んで、砂嵐となった。
その中でぶつかり合う 影が二つ。
一つは俺で、一つは白い鎧を着た男。
*
周りを見ると、砂嵐が巻き起こっているのは広大な荒野などではなく、俺の城のエントランスだ。
この城は黒い家具で統一させていて、シックなデザインの高価な装飾品をたくさん置いてあったんだがな。
まあほとんど部下の趣味だったが。
しかし今はもう、美しかった原型は見る影もない。
あちこちが破壊され、家具は砕かれ、風によって舞い上がり、砕かれて砂となる。
砂嵐の間から偶に見える床には、モンスターや魔族の死体が大量に落ちている。
その中に見知った部下の姿を見つけチクリと胸が痛んだが、すぐに振り払った。
俺達は砂嵐の中心にいて、目の前の男はそんな状況をかえりみることも無く。
剣で。魔法で。その辺に落ちてる何かで、ひたすらにぶつかりあってくる。
俺の手には漆黒の両手剣。男の手には白く美しい片手剣。
俺は必死で。しかし高揚した気持ちで、目の前の白い鎧の男に応戦した。
剣戟の合間に剣に魔力を込め、一刀。込められた魔力は千の斬撃になり、目の前の男に襲いかかる。
白鎧を着た男が、銀に光る斬撃の剣を軽く避けつつ、つぶやく。
「まだ くたばらないのか?○○○」
その声はフルフェイスの兜のせいでくぐもっている。
今の剣、当たれば手首を吹き飛ばせたのだがな。
俺は、男が反撃とばかりに放った炎を叩き落としつつ、つぶやく。
「お前こそ、単身乗り込んできて 町と城の兵士全部を相手にして、まだ倒れないのか。○○○○よ」
今の炎は斬撃で阻まれていたはずの、俺の顔面すれすれに飛んできた。
こいつは隙を突くのが本当に上手い。
体制を崩した俺にすぐさま切りかかってくるが、剣で受け止める。
至近距離に白い兜に包まれた顔がある。
あぁ、俺は今、本当に楽しい。自分の実力を存分に発揮できるのだ。
2人で軽く笑い、つばぜり合いの後サッと離れて上を見あげ、俺は称賛する。
「よくあそこから落ちて死ななかったものだ」
お前は、飛べない人族なのに。
高さ100m以上あるエントランスの天井には、大きな穴が開いていた。
翼のある俺は飛べるにしても、目の前の男は人族だ。
初めはコイツが王の間に乗り込んできて戦った。
城下町や城に配置していた直属の部下や兵士を、たった一人で突破したと報告を受けた時には部下の冗談かと思ったが、剣を合わせてみて納得した。
コイツは強い。
しかし所詮は飛べない人族。
床が崩れ、階下に落ちた時に俺は「勝負がついたな」と安堵した。
街の兵士達も、巨大な魔法で一掃したのだろうと。
国民は王都から既に非難させていた。
だが魔王が負けたと人族に知られれば、魔族狩りが始まっていたかもしれない。
せっかくの強敵との邂逅を、このような最後で終わらせるのは残念だったな。
少しだけそう思いつつ、俺も階下に降りる。
あの時は完全に油断をしていた。
そして降り立った瞬間。
エントランスの瓦礫の中に潜んでいたこの男に、片翼を落とされてしまった。
だが翼を落とされ衝撃で地面を舐めた時、正直に言うと少し喜んだ。
そのまま俺は歓喜に身震いし、その出血を利用して大魔法を放った。
魔王にのみ許された闇魔法。
≪範囲内の敵の体を切り裂き、毒をくらわせ、巻き上げられた砂で目つぶしをし、体力と魔力を吸い取る≫という、相手にとって最悪のフィールドを作り出すものだ。
しかもこの魔法で吸い取った体力と魔力は、発動者に還元される。
聖剣によって穢された血で発動したため多少効果は薄れるだろうが、直撃を受けると立っているだけでひとたまりもない大魔法。
普段は町1つ潰す魔法だ。存分に味わうといい。
だがこの男は平然と戦っている。鎧に女神の加護が宿っているか。
人族の信仰する≪光の女神≫に選ばれた男というわけか。
だがこちらも≪闇夜の女神≫に選ばれた者。
どちらの女神がほほ笑むのか、とことん試そうではないか。
*
休みのないまま3日が過ぎた頃。
相手の鎧はすでにボロボロだ。白かった鎧も赤く染まっている。
どちらの血か分からぬがな、と俺は笑いを噛み殺す。
俺もすっかりボロボロだ。残っていた側の翼もすでに無い。
あの後何度も切り合い、ようやく相手の兜を砕き落とした。
お前だけ素顔を隠すとかズルいんだよ。
男の右側の壁が戦いの余波で崩れ落ちた。
月明かりが射し込み、少しだけ男の顔を照らしだす。
男の顔には 右目から頬にかけて火傷の跡があった。
男の明るい髪色がぶれる。俺が顔を見た一瞬を突いて。
動きに合わせて俺は露出した首元を狙う。
アイツは装備が剥がれ落ちてガラ空きの心臓を狙ってくるだろう。
だがそれでいい。既に目がかすみ始めている。
男の顔がよく見えないのだけが残念だった。
これだけの好敵手、なかなか出会えるものではない。
これが最後の一振りになるな。
満身創痍の二人の攻撃が、お互いの体を切り裂いた。
*~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
真っ暗な中、1つの影が飛び起きる。
またこの夢だ。そしてこの夢を見た後には・・・
「彼」は頭を抱え、呻く。
しばらくそのまま時が過ぎ。
何事も無かったかのように、「彼」は再び眠りについた。
「彼」は気づいていない。
自身の記憶がまた一つ、消えていった事に。
次回メモ:石碑
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
ブックマークありがとう!




