見せない君
昼飯を食べた後、城に戻った。
久しぶりに食べた若葉のご飯。味は相変わらず、うん。
「相変わらず、うっすいな!」
隊長がガハハと笑った。
*
「久しぶりですね~。その大鎌、なんです?」
「黒蹴さん、めちゃくちゃ背伸びてますわね! ニルフさんと同じくらいになってますわよ。
これですか? わたくしの武器ですの~。こうやってこうやって、こう使うんですわ!」
黒蹴と若葉が後ろで楽しげにおしゃべりしている。
若葉側からめっちゃ風が来るが、気にしないでおこう。
シー君が飛ばされた。
「さて、如何にして人にばれない様に転移するかだが。
旅をすることを考えると、やはり馬車ごと転移する方がいいだろうな。
それも踏まえて、認識障害の魔法がないか王宮魔道士に相談してみた。
その結果がこれだ」
銀が俺達に紙を差し出す。
隊長が軽く目を通し、渋い顔を上げる。
「ふむ。かなり古い資料に、認識障害に特化した道具の作り方があったそうだ。
だが材料がな」
『そんなに難しい材料ばかりなのか?』
「いや、ほとんどの材料は普通に売買されているものだ。金さえ積めば手に入る。
だがな・・・。1つだけ厄介なものがあってな。
海龍の牙なんぞ、西の国の一部の貴族の家にしか飾っていないような代物だぞ?」
「あらあら? それでしたら、私持ってるわよ?」
事もなげに、ライムさんが言った。
え? なんで持ってるの!?
「えっとね。私達を殺そうとした貴族がいたでしょ。
その人がね、人柱を提供する料金として、それを受け取ってたのよ。
ピンキーちゃんがその人をボコッた時に、迷惑料として貰ってきちゃった」
ウィンクして、事もなげに言いきった。
若葉が向こうで「何があったの!?」て顔してるな。
『あ、じゃあ俺取ってくるわ。どんな見た目?』
「んー。虹色に光る、小指ほどの大きさの牙ね」
城の中庭に置いてある馬車に、向かう。
レモンちゃん達は馬車は置いて、中の荷物だけ売りに行ったっていた。
水の世界樹に向かった時よりも、整理整頓されていて探しやすい。
馬車に乗り込んでゴソゴソしつつ、考える。
『そういえば、ピンキーは転移するとき、どうごまかしてたんだ?』
「馬車の中から人気のない森に転移して、馬車に転移で帰る方法を取っていたのよ。
まあ必要なとき以外はほとんど使ってなかったけどね!」
後ろから声がかかった。
振り返ると、レモンちゃん達行商メンバーが帰ってきていた。
皆、大荷物を抱えている。
アクセサリー屋の袋を抱えて、ハーピーとポニーさんはご満悦だ。
「新しく仕入れた商品置くんだから、探し物サッサと終わらせてよね」
レモンちゃんとベリーが馬車に乗り込んで、俺の横に来る。
『悪いなー。海龍の牙ってのを探してて』
「そんなもん何に使うのよ」
『転移する時に、人に見られないようにする道具を作るらしい。
上手くいけば馬車も隠せるとか』
とか話しつつ箱を漁っていると、なんかコロンと飛び出す。
あ、これって。懐かしいなー。
何の気なしにポケットに仕舞う。後で皆に見せよう。
「キャン!」
「どうしたのベリー?」
『あ、それかな』
ベリーが箱の隙間から、虹色の小さな牙を咥えて出て来た。
「某達は荷物の整理を終えてから向かう」
と言われたので、レモンちゃんとサイダーちゃん以外のメンバーで部屋に戻る。
「ぎぃいぃ~ん!!」
部屋に入ると同時にハーピーが銀に飛びついてった。
ギュッと抱き着かれつつ、もうされるがままの銀。
あきらめたな。抵抗するのあきらめたな。
『隊長、これでいい?』
「おぉ、まさしくそれだ。早速王宮魔道士に届けるか」
「私が行きましょう、隊長」
ポニーさんが部屋を出ようとする、と。
ドアがノックされた。そこには、
「あ、王宮魔道士さん」
「そろそろ呼ばれる頃かと思いましてね。仕事を終わらせて来て見ました」
隊長達と王宮魔道士さんとの会議が向こうの方で始まった。
黒蹴とおしゃべりしつつ待つ。話に付いていけない者同士だ。
若葉もこっちに来た。
それにしてもこの部屋広いな。
「会議室くらいありますよね」
『絨毯もフッカフカだしな』
「なんかこのまま寝転んだら、寝ちゃいそうですわ」
「そういえば、魔力の事なんだが。面白い事が分かったぞ」
銀が話に加わる。
「自分の属性に≪登録≫したオレと、≪登録≫していない黒蹴とで魔力を測ってみたんだ。
≪登録≫した石碑の数が若干異なるが、その辺を踏まえて出した結果がこれだ」
手渡された紙を見る。ふむ。
自属性以外の世界樹石碑一個に付き魔法得意なら10発分。苦手なら5発分。
自属性の場合は石碑一個に付き魔法得意なら20発分、苦手なら10発分。
だが魔法を出すのが苦手だという差だと考えると、魔力の増加は同じくらいだと思われる。
『つまり世界樹石碑への≪登録≫で、ピンキーは10発分、黒蹴は20発分、俺と銀は15発分の魔力が増えてるって事か』
「あぁ、それに加えてオレとニルフは特殊特技も手に入っている。
後、気付いたか。武器の強度と切れ味が増したのを」
『ごめん、俺の元々木刀だから、強度以外わかんない・・・』
「わ、悪い」
「僕も早く自分の属性に≪登録≫したいです」
「わん!」
ピンキーはきっと、「とりあえず人に戻りたい!」とか言ってそうだな。
笑いながら何気なくポケットに手を入れる・・・と。
『あ、これ』
「なんだ? お、懐かしいな」
「なんですの? それ」
「ワンワン!」
「確かそれって、≪カイチューデントー≫でしたっけ。ピンキーさんの発明品」
俺がポケットから取り出したのは≪カイチューデントー≫。
4人で東の大陸を横断してた時にピンキーが作った発明品だ。
(詳しくは≪SS ピンキーの異世界ハザード≫で)
久しぶりに見つけた面白グッズで遊んで時間を潰す。と、
「なんですか? その興味深いアイテムは」
王宮魔道士さんが若葉と一緒に覗き込む。
会議は既に終わり、隊長達は材料を魔道士さんの研究部屋に置きに行っていた。
「これはですねー、魔力をこうやって流すと・・・」
黒蹴が実演しながら説明する。
初めは若葉と共にフンフンと相槌を打ちつつ見ていた王宮魔道士さん。
だが。
『面白いのが、俺が使うと風が出て、銀だと水で、ピンキーだと火なんだ』
俺の言葉を聞いたとたん、目を剥いた。
え、何怖い!
そしてそのまま引っ手繰られるようにして没収される。
無言のまま、すごい勢いでドアを開け放して研究室に戻っていく王宮魔道士さん。
そのままバーン! とすごい音を立てて閉められ、バタバタという足音が遠ざかる。
一体何が彼女の琴線に触れたのだろう。
皆、「え? 何?」て顔をしていた。
ら、またすごい音を立ててドアが開かれる。
王宮魔道士さん、そのままの勢いで戻ってきた!
目を丸くする俺達に、
「これ! ピンキーさんが作ったんですよね!? ちょっと来てください!」
と言ってピンキーの首を掴んで持っていこうとする。が、
「あぁああ! 言葉が犬なんでしたね! うあぁこの魔法掛けたやつ爆発しろぉぉ!」
なんか急に叫んで四つん這いに崩れ落ちた。
どうすればいいのこれ?
考え込んでいたピンキーが、隊長達の置いて行った紙に、何か書き始めた。
爪にインクを付けてガリガリガリ・・・
それを見て黒蹴が
「あ、日本語だ」
といった。
瞬間、2人とも腕を掴まれて、そのまま研究所に攫われていった。
顔を見合わせる残された俺達。
とりあえず晩飯でも食いに行くか。
*
ピンキー達は次の日の朝、解放されたようだ。
ものすっごいゲッソリした顔をしている。
「ちょっと、寝てきます」
黒蹴はフラフラのまま部屋に戻って行った。
レモンちゃんたちはピンキーとベリーを抱えて、部屋で今後の行商の作戦会議中だ。
今回の城下町での商売はうまくいったようだ。色々と収穫もあったらしい。
ピンキー達が普段売ってるアクセは、流行に合わせてピンキーが作っていたらしい。
親衛隊が作ったものもあるらしいが、ほぼピンキーが作って、仕入れと行商は親衛隊という役割だったそうだ。
だが今はピンキーが犬の状態。
しかし抜かりはない。ピンキーが作れない分、仕入れも万全にしてきたようだ。
色々な大陸を回る間売りさばくらしい。
「やっぱ船で運ぶ分、他大陸のアクセは割高になるのよね。
その分、安く仕入れて少しお得目に売れるのよ!」
レモンちゃんが説明してくれた。
その他、保存食や薬もタップリ仕入れてた。
「こういうのは、飢餓の土地で売れるらしいのよ。色々な土地を廻るそうだし、準備はしとかないとね」
ライムさんがそう言いながら、手早く仕分けしていた。
まあ、売らずに配るときもあるそうだけど。
『薬かぁ。銀の剣の能力で飲み薬とか出来そうだな』
何気なく呟くと、銀が部屋に戻って行った。
毒の扱いが得意な銀。薬にも結構強かったようだ。
なんかいろいろと試し始めてたな。
海龍の牙を使った≪認識障害用≫アイテムが出来るまで大体3日。
皆それぞれ気ままに過ごした。
最近忙しかったしね。
俺は城の中庭で兵士さん相手にハープの練習をしたり、効果を確かめてみた。
結果:ハープを引くことで、仲間と認識している全員の傷を癒せる。
シルフが風で音を運ぶので、かなりの距離の人を癒せる。
音が大きく聞こえるほど回復大。
耳が聞こえない人にも効果があるが、効果は落ちる。
世界樹の木刀持ってる時のみ効果が出た。ハープだけでは出ない。
木刀に宿った風の大精霊の力→同じ世界樹で出来たハープに伝わって効果が出るのではないか、と城の学者さん達は言っていた。
『そうだ、ハープ売ってくれたあのオッサン元気かな』
俺は城下町に繰り出した。
楽器屋のオッサンは歓迎してくれた。
「いつみても美しいハープだなぁ! なあ、さっそく弾いてみてくれよ」
『分かった。あ、1つだけ聞いておきたいことがあってな。
この絃、特殊な素材のようなんだが、切れたらどうすればいい?』
「確か伝説では・・・自己治癒能力があるって話だったぜ」
『マジで?』
「マジマジ。メンテナンスもそう必要ない。
まあ霧吹きで水を吹きかけると元気になるとも聞いたことがあるがな」
なんだよそれ、スライムの世話じゃあるまいし。
てか思った以上にすごいハープだったんだな、これ。
オッサンに感謝しつつ、ハープを取り出して弾く。
お礼も込めて、回復の魔力を込めつつ弾いてみた。
オッサンの手は、楽器を作るときの傷で結構ボロボロだしな。腰痛にも効くぞ!
弾いてしばらくすると、周りが騒がしくなってきた。
あぁ、そういえば前もこんな事あったなー。
懐かしい気持ちに浸りつつ、感想を聞きつつ弾く、と。
「うぉ! 折れた腕が治った!?」
「ワシ、目が見える・・・!」
「ゴホッゴホ・・・。あ、あれ? 傷つけた肺が苦しくない・・・?!」
「おかあさん! 僕走れるよ!」
ん!? なんか変な事が起こってる!?
顔を上げると、オッサンが自分の腰をさすって驚いた顔をしていた。
俺はオッサンにブイサインをし、
『またな! オッサン!』
そのまま逃げるように城に帰った。
その日の夕方、城下町の仕入れから帰ったピンキー親衛隊によると。
「なんかすごかったわよ。
お昼頃急に綺麗な弦楽器の音が聞こえたと思ったら、街中の怪我人が一瞬で元気になったって!
街中の人は伝説の賢者か魔法使いが奇跡を起こしたって噂してたわよ。
しかもね、人族だけじゃなくって、ペットや家畜の怪我も治っちゃったらしいの!」
その現場を間近で見たらしく、ものすごい興奮したレモンちゃんにそう言われた。
「あーぁ、そんなすごい魔法使いが来てたんなら、ご主人様の魔法を解いてもらえばよかった」
『そ、そう? 俺も見てたけど、すごかったよねアレー』
残念そうにため息をつくレモンちゃん。
俺は額に浮かんだ変な汗を拭って、答えるのに必死だった。
シルフ達! どこまで音広げたんだ!?
・ハープ:町(平和時のみ)にいる場合は「敵がいる」という意識が薄いため、音が聞こえた生物全てに回復の効果。
*
そして城で過ごして3日目。
とうとう≪認識障害用≫アイテムが完成したと連絡が入った。
「名付けて、≪見せない君≫です!」
王宮魔道士さんが誇らしげに渡してくれた。
見た目は小さな≪カイチューデントー≫。
魔力を込めると先端から煙が出て、その煙をかぶった者の姿を認識できないようにする。
「音ですが。これに関しても聞こえていても、聞こえていないと錯覚させられます!」
煙をかぶった者同士だと、姿は認識出来るらしい。
人にも物にも使用可能。
継続時間は10分ほどなので、素早く身を隠すか、再度使用する必要がある。
性能を確かめ、皆が頷く。
出発は、明日だ!
次回メモ:夢
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
少し会話入れつつ、待ったり行くかどうか迷い中。
なんか一気にブックマークが増えてました!
50P突破!? 何があったの!?
うぉおおありがとうございます!




