表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
41/187

大鎌メガネ様

 俺の言葉に、隣で別の話をしていた銀達までこっちを振り返った。


「なるほど。武器を持っていないとなると、オレ達と同じ特別製の武器か、≪登録≫に頼らない純粋な強さがあのレベルということになるな」

「え”っ。それって勝ち目無くないですか!?」


 銀の言葉に、変な声を出す黒蹴。

 これって結構やばい事態?

 隊長が続ける。


「つまり相手は世界樹2つ登録済みの銀・ニルフ・黒蹴と、世界樹1つ登録済みのピンキーと我々3人。

 そして水の大精霊を相手取って腕一本の被害の上で、なおそのレベルの者が最低でももう1人居る、という事か」

「ちょ、ちょっと待ってよ。ご主人様達、なんて敵と戦ってんのよ」


 レモンちゃんの言葉に、サイダーちゃん達も顔を曇らせる。


「これは・・・それがし達もシルバーランクを目指した方がよさそうだな」

「そうね。いつまでもピンキーちゃんに守られてばっかりなのも、どうにかしないとね」


 ピンキー親衛隊はお互いの顔を見つめ合って、深くうなずいた。

 3人は方向性が決まったっぽい。


「きゃうぅん・・・」

「キャン! キャンワン!」


 ピンキー犬が心配そうに鳴き、ベリーが叱咤するように吠える。

 すっかり尻に敷かれてるな。


「ならオレ達も強くなるまでだ。今回は見逃してやる、などと言えない様にな」

「ならば、4人の回った石碑を≪登録≫して回りつつ、他の世界樹を訪れるというのは?」


 ポニーさんが提案する。が、


「いや、あの2人が現れたのは世界樹の根元だった。

 最初の男は俺達を待ち伏せしていたのか不明だが、もう1人のキレた男は誰かを待っていたようだからな。

 しばらくは世界樹に近寄らず、普通の石碑を≪登録≫するのがいいだろう」


 隊長がもっともな意見を出した。

 そういえばあのキレた男が言ってたな。「何人かは、殺したッテ良いって言わレテンダァ~」って。


 つまり指示を出した誰かが居るって事・・・か。


 暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ケモラーさんがパンッと手を叩く。


「うじうじ考えたって仕方ありませんよぅ。

 とりあえず、出来る事から始めていきましょぅ!」


 うん、よし。まずはピンキーの事を考えよう!


 *


 次の日の朝、俺・ピンキー犬・ライムさん・隊長のメンバーで世界樹島に行くことになった。

 銀と黒蹴は≪登録≫で増えた魔力の測定(といっても全力で魔法放つだけ)だ。

 その後2人にケモラーさんも加わって、それぞれが回った石碑の情報交換をする予定。

 

 レモンちゃんとサイダーちゃん、ベリーは売れ残った商品を城下町で売りさばく許可を王に貰っていた。

 朝早くに準備を整えて、さっそく出かけて行った。

 ポニーさんが一応の護衛についていった・・・が。


「ポニー! 装飾品トカ見テ周リタイナ!」

「売り終わったらぜひ回りましょう!」

「あらあら。ではレモンとサイダー、東の国の流行を見てきて頂戴ね」

「分かった、ライム」

「まっかせて頂戴!」


 意外な事に、城に居る間は銀にペットリだと思っていたハーピーがポニーさんにくっついて行った。

 チャンスとばかりに、ライムさんがピンキー親衛隊の2人に指示を出す。


 ピンキーの手腕なのかライムさんの手腕なのか分からないが、ピンキー達の行商、西の国では女性人気が高かったらしい。

 客の8割が女性。残り2割は、女性へのプレゼント目当ての男性。

 あと、ピンキー親衛隊+ケモラーさんのファンの男共も結構いろいろ買ってったとか。


『じゃあ、転移するかー』


 装備を整えて、俺が木刀を掲げる・・・が。


「待てニルフ。ピンキーがこの状態でも転移できるか試してみよう」

「きゃうん?」


 隊長に言われ、ピンキーが剣に意識を集中する。

 犬の状態なので、片手剣は背に背負っている。


 ん~っと唸ると、地図が出た。お、大丈夫そうだな。

 そのまま光に包まれ、目を開けると世界樹の根元に立っていた。


 このシルフの量、異様にデカい木。まさしく世界樹島の世界樹だな!


「成功の様だな。よかったな、これで西の大陸もまわりやすくなるぞ」


 隊長、そこまで考えてたんだな。

 ライムさんが緊張しつつ、キョロキョロと辺りを見回している。

 珍しい物でもあった?


「うふふ。こんなに大きな木、初めて見たわ。これが世界の冒険者の憧れ、世界樹の王なのね」


 うっとりと木を見上げるライムさん。

 ねえ隊長? 俺達そんな話初めて聞いた。


「お? 言ってなかったか?」

『聞いてない!』

「きゃうん!」


 だよな! ピンキー!


「世界樹島の世界樹は、王族が集う伝説の地。

 一般人は足を踏み入れる事すら叶わず、選ばれた使徒のみがその地を守る。

 王族と従者以外で足を踏み入れられるとすれば、ゴールドランクの冒険者のみ・・・。

 一般的にはそう言われていますわ!」


 後ろから声がかかる。

 その声は!


「お久しぶりですわね! ニルフさん!」

『若葉!!!』


 手を控えめな胸の前で握り、ニッコリ笑う若葉。

 俺は駆け寄って、若葉の手をギュッと握る。

 「え?」と言って赤くなる若葉。

 俺はニコリと笑いかける。

 そしてそのまま、


『この前はよくもぉぉおー!』

「きゃぁああぁあああ!?」


 ブン投げた。

 大鎌の恨みぃぃいい!!! (SS ニルフのハープより)



「まったくもう! いきなりブン投げるなんてどういう事ですの!?」


 ぷりぷり怒る若葉。しっかりと受け身を取って仕返ししてきたくせにぃ!

 ん? もしやコイツ、俺の首チョンパしかけたこと忘れてる?


『ところで、ちゃんと石碑から大鎌抜けた?』

「うっ・・・。ぬ、抜けましたわよ?」


 急に俺から目を逸らす若葉。思い出したか。よーやく思い出したか。


「大鎌が刺さったのか? あぁ、だから石碑が真っ二つになってるんだな」


 隊長に言われて石碑を見る。

 斜めに切れた後があった。そして上半分が糊でくっつけられたようにベットリしている。

 コイツまさか・・・。


「うぅ。抜けなくて真っ二つにした訳ではありませんのよ?

 ちょっと力を込めたら、こう・・・ベキっと」

『折ったのか?』

「うっ」

『折ったんだな』

「はい・・・」

『世界中から伝説の地と崇められ世界樹の王と言われている木の石碑を真っ二つに折っ』

「もうやめてくださいぃぃぃいいい!!!」

『ゴフッ!』

 

 やめて! アッパーやめて!


 俺達の行動を見て、緊張気味だったライムさんが目を丸くしていた。

 そういえば、まだ紹介してなかったっけ。


『あ、どうも。この方は大鎌メガネ様と申します』

「あ、どうも大鎌メガネ様。私はライム。キューティライムと申します」

「わたくしそんなあざ名ではありませんわよ!?」

『そうだっけか、では改めて。暴力大鎌メガネ様です』

「違います!! 若葉ですわ! わたくし、若葉と申しますのよ!?」

「あらあら、うふふ。仲がよろしいのですね」


 耐え切れずクスクス笑い出すライムさん。

 横から隊長がちょっかいを出す。


「なんだ、若葉はニルフが好きだったのか」

「ちょっと待ってください!? いつからそんな話に!」

「いや、お前がそんなに長く男と話してるのを初めて見たからな」

『なんだ、俺の事好きだったのか』

「え、ちょ。えぇぇええ!?」


 すっげー変な顔で右往左往する若葉。ヤッベー若葉いじるの超楽しい。

 俺達を見て、ライムさんがすっごい微笑ましい物をみている様な顔をしていた。

 そこで気づく。もしや若葉と隊長は知り合い?


「おう、王の従者で何度か来たことがあってな。

 若葉は世界樹の巫女として幼い頃からここで修業していたから、いつのまにか顔見知りにな」

「うぅ・・・、第3部隊の隊長さんはイジワルですわ・・・」


 若葉、半泣きになった。

 そのまま手近にあったピンキーを捕まえて、なでまくる。

 そのまま顔をうずめてギュッとしつつ、俺に聞く。


「そういえば、今日はなんの御用でいらしたんですの?」

『あー、そういえば言ってなかったわ。

 ピンキーが犬になっちゃってな。それを治せないか世界樹じいさんに聞きに来た』

「え? 犬ですの?」

『うん。今若葉が顔をうずめてる、それ』

「きゃうぅ~ん」


 困ったように鳴くピンキーから顔をベリッと上げる若葉。

 そのまま1人と1匹は、気まずい表情で見つめ合っていた。



「つまり世界樹島の大精霊様は、ピンキーちゃん達が旅立ってからずっとお姿を御見せになっていないのね」

「はい。わたくし達も呼びかけてはいるのですが、なにぶん大精霊様。

 元々が気まぐれな方ですので」


 ライムさんの答えに、申し訳なさそうに若葉が言う。

 若葉も、じいさんが俺達にどんな魔法を掛けたのかは分からないらしい。


「皆さまは真の名を盗られてましたわよね。

 おそらく呪いを跳ね返す、もしくは効果を軽くするような魔法を掛けていらっしゃるのだと思います。

 それが敵の魔法を捻じ曲げて、このような形で現れたのでしょう。

 魔法と言いつつ、呪いに近い物だったのでしょうね」


 若葉が色々と考察してくれる。

 隊長がその言葉を受けて、続ける。


「城の魔道士たちも同じ考えだった。

 ならば銀の受けた魔法と同じように、ピンキーの持つ属性の大精霊に会って魔法を抑え込む方法しかないか」

「銀さんも何かありましたの?」

『ああ、実は』


 今までの出来事を説明する。

 出来れば言いたくなかったんだけどな。心配かけそうだし。


 俺の話を聞いた若葉は口に指を当ててジッと考え込み、


「わたくしも、一緒に行きますわ」


 決意した表情でそう言った。

 え、ちょ!? どうしてそうなった!?

 それに若葉には、まだ。


『巫女の修業が残ってるでしょ!?』

「実は1ヶ月ほど前に終わってますの!

 今、巫女としての仕事はお姉さま方で全部事足りますし」

『いやいやいや、でも危ないし!

 言ったでしょ!? 変な敵に狙われてるかもしれないって!』

「でしたらなおさらですわ!

 元々、巫女としての修業が終われば一緒に旅をする約束でしたし!

 それに・・・」


 若葉は俺の目をキッと覗き込む。え、怖い。


「世界樹島での冬祭り。見に来てくれませんでしたわよね?」


 あ、ごめん。行くの忘れてた。


「まったく、せっかく皆様が来るかと思って気合入れて儀式を行いましたのに!

 まあ、まだわたくしは見習い。儀式の手伝いだけでしたが」

『ん? て事は、各国の世界樹の祭りは、世界樹の巫女が行ってるのか?』

「あら、知りませんでしたの?

 ここ世界樹の島出身の、世界樹で修業した巫女が祭りの中枢を担っているのですわ」


 ほー。じゃあ若葉って結構、


『エリートなんだね!』

「え、エリートだなんて。そんな」


 照れる若葉。怒りは飛んでったっぽい。

 よしこのまま置いて・・・


「怒りは飛んで行ったようだな!」


 やめて隊長! ぶり返さないで!


「!!! 騙されるところでしたわ。

 そのままお待ちください、すぐに用意してきますわ!」


 そのまま若葉は村に走って行った。

 ちょっと、隊長!


「置いていくと、きっと泣くぞあいつ。

 もう聞いちまったんだ。連れてってやりな」

「そうよ、ニルフ君。1人だけ何も知らずに安全な場所に置いて行かれる気持ち、分かってあげてね」

『うぅー』

「わん・・・」


 結局、若葉も一緒に城に帰ることになった。


 用意を終えた若葉がこっちに走ってくる。

 服装はさっきと同じ、流れるようなゆったりとした白い服だ。

 背中に大きなリュックと、


『やっぱり武器はそれなんだな』

「はい! 一番使いやすいんですわ!」


 黒い大きな鎌。全長2m。刃の長さ2m。柄に黒みがかった赤い宝石が嵌っていた。

 なんていうか、禍々しい。ものすごい禍々しい何かが噴き出してるような大鎌なんだけど。

 それを慣れた手つきでブン! と振り回す。


『なにそれ伝説の魔の武器?』

「いいえ? 世界樹の周りに生える雑草を刈るのに使用している鎌ですわ。

 大きいので、広範囲を刈れて便利なんですわぁ~」


 ものすごく当たり前みたいにいう若葉。

 そんな草刈専用鎌、見たことねえよ!


 *


 城に帰って皆に若葉を紹介した後フッと思いだした。

 あの鎌、世界樹の石碑に刺さって石を真っ二つにしたやつだ。

 でも刃こぼれ1つ無かったよな・・・?

 

 ホントに何者? あの大鎌。

次回メモ:新アイテム


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

若葉が書きやすい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ