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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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≪登録≫のルール

説明多めです

「ちょおぉおっと、変態! 何よこれええ!」


 水の神殿傍の駐屯場に戻ったとたんに、レモンちゃんが駆け寄ってきた。

 そしてピンキーを探していたから狼(ピンク色)を差し出したら、この言葉と共に胸ぐらを掴まれた。


「ふざけないで! アタシのご主人様を返しなさい! フンッガァアアア!」

『うーあー』

「キャウーン」


 変な掛け声と共に、俺は宙を舞った。

 もちろんピンク狼も一緒に抱っこしたままだ。


 そのまま ドシャっと背中から地面に落ち、仰向けに空を見つめる。


『あー、ピンキー。水浴びなんだけどなー。覗いたのは覗いたけど、あれ事故だから』

「クゥァン」


 そうかー、分かってくれてたかー。


 *


 包帯男が帰ったのち、水の神殿でピンキーに何が起こったのか水のおねえさんに見てもらった。が、


「うーん、ごめんね。これ私も知らない魔法かもしれない・・・」


 といわれてしまった。

 確か≪正体を暴く魔法≫みたいな事 口走ってたよね、って事で。


「お前、本当にピンキーか?」

「キャウ!? キャン! ワン!」

『ちょっと!? 疑ってるの!? ひどいよ銀! とか言ってそうだな』

「でもピンキー、普通の人間だったはずだよな」

「はい隊長。≪願い≫のせいであのような耳と尻尾が生えてますが、元々は人間だと言ってました」

「僕も断言できますよ。知識も日本の物でしたし」

「てことは≪正体を暴く魔法≫が上手く発動せずに、このような姿になったという事か。

 意識はピンキーのままの様だし」

『じゃあさ、銀。世界樹の武器の効果か、世界樹島の精霊じいさんの力とかが怪しくないか?』


 って事で、よく分からないので世界樹島のじいさんに聞きに行くことになった。


 そういえばピンキー見てもらった後、水のおねえさんにハープを弾いてみる様に言われたんだった。

 神殿を出る前に、言われた通りに弾いてみると。


「あ、なんか僕、MPが回復してる! って感じがします」

『俺は感じないけどなぁ。もしかして他人の魔力を回復する効果が選べるって事かな』

「水の中級魔法の効果がこれと同じ効果のはずですぅ。もちろん、単体効果だけですがぁ」

『つまり、俺のハープだけ範囲効果って事か』

「そうよ! 風の大精霊に『あいつは≪登録≫の恩恵で、ハープで面白い効果を出すんじゃ』って言われてたのよ~。

 私ったら、伝えるのすっかり忘れてたわ」

『ありがとう、水のおねえさん!』

「どういたしまして! ニルフちゃん!」

『ちゃん!?』

「うふふ♪」

「そうだ、あとで風の世界樹にもいかないとな。ピンキーを連れて」

「ワン! わんわん!」


 って事で、風の世界樹にも寄る事になった。

 でも犬の状態で≪登録≫出来るのか? 一応、武器はそのまま服と一緒に落ちてたけども。


『そうだ、≪登録≫! 隊長達は≪登録≫しなくていいのか?』

「お、そうだな。では水の大精霊、すまないが胸を貸してもらおう」


 武器を構える隊長。だが、


「あら、そのまま≪登録≫しちゃってもいいわよ。

 あなたたちは十分『合格』だし」


 水のおねえさんの言葉で、湖が割れて石碑が顔を出す。


「おぉ、すまないな。実は、この後また強敵と戦うのは結構辛かったんだ」


 隊長の言葉に、クスクス笑って水のおねえさんも頷いた。


 さっそく、隊長達も武器を取り出して≪登録≫する。が、


『あれ? なんで3人とも、短剣に≪登録≫するんだ?」

「ん? 言っていなかったか? 普通は、1つの武器に1つの属性の世界樹にしか≪登録≫しないんだぞ」

「「『え?』」」

「きゃうん?」


 隊長、俺達それ初耳。

 詳しく聞くと時間がかかるというので、帰ってから聞くことになった。

 レモンちゃん達も待たせてるからね!


 大体こんな感じだ。

 あの謎のキレた男と戦ったせいで色々ボロボロだったけれど、俺のハープで皆全回復したし、長居は無用だ。


「また転移して遊びに来てねー」


 水のおねえさんが、ヒラヒラと手を振ってくれた。


 あ、そういえばハーピー。

 キレた男に投げられてから、傷はすっかり癒えたのにずっと目を覚まさなかった。

 だが俺達がおんぶしたり担ごうとすると手に噛みついたので、銀がおんぶして持って帰ることになった。


 絶対起きてんだろ。


 おんぶされてる背中からチラっとピンキー犬を見ては、猛禽類の目つきになってる。

 絶対食うなよ!?


 結果、ピンキー犬は駐屯場に戻るまで俺が一緒に居る事になった。


 *


 そして村に戻ると、レモンちゃんに投げられてこの景色。

 空が広い。


 あー、空ってきれいだなー。

 そのまま寝転ぶ俺の顔に、影が落ちた。


「ちょっと、いつまで寝てんのよ変態」


 俺を投げ飛ばしたレモンちゃんだ。

 手を腰に当てて、怒りのポーズ中?

 スカートがはためいて、パンツ見えそう。


「しっかり説明してもらうんだからね!」

『他の人に聞けばいいじゃんか』

「皆、向こうで行商してるのよ!

 アンタ達が思ったより早く帰ってきちゃったから、ご主人様に言われてた商品、まだ捌ききれてないのよ」


 ビシッと指を突き付けて俺にいう。

 あぁ、だからライムさんもサイダーちゃんも居ないのか。


「ええ、駐屯場の宿屋の近くで冒険者相手に移動売店中よ。

 だからアタシがアンタに聞きださないといけなくなったの!

 ほら、どういう事か説明しなさい!」

『おう。俺が覗きしたって言われてるけどな、あれは 事 故 だ!』

「そっち聞いてんじゃねぇえええー!」

『ゴッフォォォ!!』

「ギャィイイン!」


 ちょ、まじやめて!

 みぞうちに連続踵落としマジやめて!!

 ピンキー犬に当たっちゃう!

 逃げろ! ピンキー逃げろ!


「ご主人様はどこなのよ!」


 レモンちゃん、涙目。


「アタシがかわいいからってご主人様から奪おうとして、どこかに埋めて来たんじゃないでしょうね!!!」

『え、ちょ』


 俺の腹を足で踏んだまま、なんか力説し始めた。


「いいえ、そうに決まってるわ! アタシのご主人様になんてことを!

 死ねぇえぇええ! 悪魔アァアア!」

『ギィィイヤァアアアア!』


 叫ぶと同時に、みぞうち連続踵落とし再発動!

 結局これが、ピンキー犬が銀を呼んでくるまでタップリ続きました・・・。


「え、マジでコレご主人様?」

「そうだ」

『だから言ってんじゃん!!!』

「きゃうぅぅん」


 *


『お城に帰ってきたら』

「地下の世界樹の枝の安置部屋に横断幕ですか」

「≪お帰りなさい、我らが息子達よ≫って何よこれ」

「きゃうぅーん・・・」


 あの王様、俺達への保護欲を隠さなくなってきたな。

 大臣、がんばって!

 あ、上の会話は 俺・黒蹴・レモンちゃん・ピンキーだよ!


 ただ残念かな、横断幕以外の飾りつけは準備中だ。

 ちょうど飾り用モールを持ってきた兵士と目が合った。ヤッベーって顔して走ってたな、兵士さん。


 すぐに大勢の足音が聞こえて、息を切らした王が抱き着いてきた。

 から、足元に居たピンキーを押し付ける。ぎゅっ。


「きゃわぅんギャワン!?」

「無事で何よりじゃぁあ! ・・・なんじゃこの犬」

『ピンキーです!』

「ほ?」

『ピンキーです!!!』


 ピンキーはそのまま王宮魔道士の元に連れて行かれた。


「そういえばさ、さっきから気になってたんだけど」

 

 レモンちゃんが俺に聞く。なんだい?


「アンタ達、言葉が違っても通訳されて言葉が分かるってご主人様に聞いてたんだけどさ。

 犬の状態のご主人様の言葉、分かんないの?」


 あれ?


『そういえば分かんないな』

「僕も分かんなかったです。犬の鳴き声って感じでした」

「オレもだ。ニルフの時の様に、間に通訳が居ないとダメなんじゃないか?」


 俺の言葉に、黒蹴と銀が答えた。

 それを聞いて、隊長達も会話に加わる。


「では、風の精霊を?」

「いや、ニルフは風属性でしかも精霊が見えたから出来た方法だろう。

 ピンキーは風属性では無いから無理じゃないか?」

「どうして属性が分かるんです?」


 黒蹴の疑問に、笑顔で答える隊長。白い歯がキラリと光りそうだ。


「勘だ!!!」


 隊長の声が、部屋に響き渡った。


 *


 城についた時はすっかり日も暮れていた為、少し遅めの夕食を取った。

 食べてる途中にピンキーが戻ってきた。が、


「ここでは、やはり詳しい事は分かりませんでしたぁ」


 一緒に行っていたケモラーさんが教えてくれる。

 次の日、世界樹島の精霊じいさんに聞きに行くことになった。


 夕食後。

 大広間で今回の旅メンバー全員集合中。

 そう、俺には言っておかねばならぬ事がある。


『色々あって言いそびれていたが・・・。

 覗きは 事 故 だ !!!

 でも覗いた事には間違いない。

 だから、これで許してください!!!』


 そう言って土下座し、床に頭を掏り付けた。

 絨毯がフッカフッカで思った以上に気持ちいい。もふもふ。


 そんな俺を見て、ライムさんがクスクスと笑う。


「あらあら、うふふ。大丈夫、分かってますよ。

 あんまりレモンが騒ぐから、ちょっと悪ふざけが過ぎちゃったかしらね」


 サイダーちゃんは腕を組んで、俺を横目で睨みながらも


「ふん。転移の事ならそれがし達も良く知っている。主人がよくぼやいていたからな。

 だからあれは事故だという事も分かっている。もう気にするな」


 そういって、プイっと顔をそらした。

 そして最後、レモンちゃんは・・・


「ほーら、レモン。あなたもよ。

 ニルフ君が誠心誠意謝ってるんだから、あなたも答えてあげなさい?」


 ライムさんがレモンちゃんを促す。

 レモンちゃんはプィっと横を向きつつ


「ふ・・・ふんだ! 分かってるわよ!

 アタシも許すわ! だから・・・もう土下座やめてよね!」


 そして完全に後ろを向く。耳が真っ赤だ。


『ありがとうございます!』


 立ち上がり、頭を下げてお礼を言う俺。

 その横で銀達が別の話をしていた。


「つまり、転移する場所がどうなってるか見えないのが問題なんだな」

「あぁ。転移点の様子が見えるようになるか、もしくはオレ達が見えないようになるか」

「! なるほど。その手もあったか」

「自分を見えない様に、という事は。風や水で自分の周りの風景を屈折させる方法はどうでしょう」

「いや、それだと問題が・・・」

「キャウゥン」

「ぎゃわぁん」


 銀、隊長、ポニーさんが難しい話をしている。

 その横でピンキー犬が、ベリーにじゃれつかれている。犬同士だから話が通じるのかな?

 話についていけずボーッとしている黒蹴に声を掛ける。


『そいえば水のおねえさんの所での話、どうなった?

 世界樹の石碑への≪登録≫は普通、1か所だけって話』

「あぁ、ちゃんと聞きましたよ。

 なんでも普通の武器だと1か所への登録が限界で、2か所以上すると壊れてしまうらしいです。

 僕達が初めて普通の石碑に≪登録≫した時、武器に宝石が出ましたよね。

 アレに力を蓄えられるのが、普通は大精霊1か所って意味だったみたいです」


 へえ。大精霊の宿った世界樹の石碑は≪登録≫で貰える力が強いから、耐えきれないって事かな。

 あれ? でも、それだと。


『世界樹1本につき1つ武器持っていけばよくない?』

「それ、僕も聞いてみましたよ!」


 やってやったぜ! って感じに胸を張る黒蹴。やっぱり俺と考える事が似てる。 


「えーっとですね、たしか隊長が言うには・・・

 普通の石碑への≪登録≫分は、武器の宝石に蓄積されるそうなので、装備する武器を変えるとその分の増加した力は使えなくなるそうです。

 しかも≪登録≫は1人1武器のみなので、いくつもの武器を強くは出来ないとか。

 それに普通は転移とか使えないので、世界樹を旅して回る資金も馬鹿になりませんし。

 よっぽどの物好きじゃないと、そうまでして全属性分は集めないそうですよ」

『あれか。今まで≪登録≫して力を高めた1つだけの武器に、自分の属性の世界樹を≪登録≫した人が普通は最強ってやつか。

 そういえば、自分に属性があるとか知らない人も多いんだっけ。

 俺達って結構優遇されてたんだな』

「そうですよぉ~」


 いつのまにかケモラーさんもこっちの会話に混ざっていた。


「同じ武器に全ての石碑を≪登録≫出来て、しかも装備せずに持ってるだけでその効果を受けられるなんてぇ。

 転移能力を除いても、ものすっごい性能の武器なんですよぉー、それ」


 ケモラーさんの話を聞いて、自分の武器を取り出してみる。

 じっくり見る機会が無かったから気づかなかったが、風の世界樹に≪登録≫したからか、見た目が変わっている。


 銀の剣は青みがかった金属のような感じに変化していたが、俺のは木刀に纏わりついた感じの蔦模様に、新緑の様な色が付いていた。

 さながら若木に絡み付く新緑の蔦。森の風景が目に浮かぶ水々しさだ。

 固さも金属に近くなっているな。軽さは変わらない。


「私、元は西の国の生まれだったんですぅ。

 でも風の属性って感じていたので、わざわざこっちにまで来て大精霊に挑んだんですよぉ。

 で、そのまま冒険者辞めて、この城に就職しましたぁ。

 もし風ではない属性だったら、他の世界樹目指して、もう少し旅を続けてたと思いますぅ」


 ケモラーさんは懐かしそうに目を細める。


「今は皆さんと一緒に世界樹めぐりをしてるので、メイン武器以外は短剣に登録していますけどねぇ。

 装備している武器の≪登録≫された属性魔法のみ、中級魔法を使えるっていう枷もありますし。

 自分の属性の武器以外に≪登録≫する時は、持ち替えの楽な短剣を使用するってのは、強さを追う者としては常識ですよぉ」

『へー。知らなかったな。その辺は皆使えると・・・ん? 

 て事はさ・・・』


 俺はやばい事に気付いてしまった。


『あの黒ローブの男達、武器持たずにあの強さって事?』



次回メモ:大鎌


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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