召喚者
9月14日改正しました
俺は寝転びながら、聞き耳を立てる。
しばらくすると王の渋い声がシルフによって運ばれてきた。
よかった、変な精霊じゃなくて本当によかった。
「・・・・・の木は世界樹。女神が宿っ・・・」
聞きにくいのはご愛嬌。声を運んでるのは気まぐれのシルフだし。
「・・・神託があった。召喚者は授かった力に見合う武器を世界樹から授かる。召喚者・・・世界樹に祈りを捧げ、武器を・・・・のじゃ!」
ん? なんか面白そうな話になってきたぞ?
召喚者? 武器? 世界樹!? 一気にテンションが上がる。
俺はまた首をグキッとさせて、根に頭を乗せた。
今度は喉のしまりが若干マシだ!
王の言葉を聞くなり一斉に祈りだす召喚者たち。その光景はちょっと面白かった。
一心不乱すぎる。そんな無警戒に祈って、王様が敵だったらどうすんだよ。
ザックリ刺されるぞ。
銀髪の奴だけ周りを警戒した後でゆっくりと祈っていた。あいつだけちゃんと警戒心があるようだな。
・・・1分経過・・・
しばらく祈る3人。
何も起こらない。
・・・5分経過・・・
ずっと3人を見つめる王様。
何も起こらない。
・・・7分経過・・・
あくびをした兵士が蹴られた。
何も起こらない。
・・・そろそろ10分だ。
何も起こらな過ぎて、兵士たちにざわめきが起こっている。
王もそわそわし始めている。
銀髪なんて祈るの辞めて欠伸してるぞ。さすがにアイツは蹴れないだろうけど。
そんな中、黒髪だけは真剣に祈りを捧げている。
ピンク獣人?あいつは「女性兵士は居ないんですか?」って兵士に聞いてる。
兵士さんすごく困ってるじゃねえか。
・・・結局30分待ったけど何も起こらなかった。俺の呼吸も限界だ。
その神託、間違ってたんじゃ・・・と思っていたら、俺に声を運んでくれてたシルフ達が急に飛び上がった。
俺の頭上にある壁みたいな幹からチョロっと生えている(それでも直径200mくらいある)世界樹の小さな枝の周りをまわり始める。
シルフ達が一斉に回ると、緑や赤や黄色、様々な色が周りにはじけた。
その瞬間びゅぅっと強風が吹いて、3本の枝が落ちる。
あれ? これもしかして俺のせい・・・考えないようにしよう!
たまたま!
たまたまシルフが飛んだ時に世界樹の枝が落ちただけだ! うん!そうだ!
向こうで歓声も上がってるし、そういうことにしておこう!
シルフ達が舞い踊り、落ちた枝が召喚者達の元に突き刺さる勢いで落ちる。
目を瞑って祈っていた黒髪は気づいていない。銀髪は華麗にキャッチ。
ピンク獣人の所は目の前にいた兵士に刺さりそうになって、ちょっとした事件になっていた。
「おぉぉ、さすがは召喚者様!! 世界樹すら、こうもあっさり力を貸すとは・・・!!!」
王様は一人で感涙している。誰も見ていないけど。
シルフいなくてもがっつり聞こえる声量ってどれほどだよ。
ともあれ、召喚者が世界樹から武器を受け取るっていう貴重な瞬間(多分)を見れて満足した。
俺がこんな所で寝ていた理由は後で考えるとして、もう一眠りしよう。
俺は大きく欠伸をして頭を根から落とし、仰向けに向きなおり・・・
ドシュッ! という音と共に、首の動脈スレッスレのところに世界樹の枝が落ちて刺さった。
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世界樹に頼まれて舞った精霊の一人は、さっきの男の元にまた音を届けてやろうと思っていた。
向こうの集団の≪他者に聞かせてはいけない≫という雰囲気を感じ取っていたし、なによりあの男は楽しげに自分たちの運ぶ音を聞いてくれたからだ。
他の赤や青の精霊達に先を越されない用、ちょっと急いで飛ぼうとした。
きっと自分は一番だ。だって風を操って飛べるんだもの。
その時うっかり新芽の一本にぶつかり、風の力で切ってしまう。
あ、と思ったがすぐに忘れた。
その緑色の妖精は友達の妖精と共に王軍の元に向かって飛んでいく。
男に音を届けるために。
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あせった。
すごくあせった。
顔を上に向けた瞬間、目の前に鋭利な折れ方した枝が迫っていた。
動けなかったけど、動かなくてよかったと思う。絶対死んだと思ったぁあ!
驚きすぎて叫び声は出なかったが、これ叫んでたら兵士に見つかっていたよな?
二重の理由で冷や汗だらだら垂らして固まってた俺に向かって、しわがれた声がかけられた。
「ん?おぬしも・・・召喚者か?」
世界樹:めっちゃでかい木。あまりにでかいため頂上が見えず、幹からちょろっと生えている枝(普通の樹木なら剪定されてしまうような余分な小さな枝)だけで直径200mほどある。今回貰ったのは幹から生えていた枝の(木からすれば)小さな生えたての新芽をシルフに落としてもらったもの。幹や木全体となると、少し見ただけではどれほどか分からないが小さめの島ほどはあるらしい。
次回メモ:仙人
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