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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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水の大精霊

「じゃあ、行ってこい!」


 隊長達に見送られ、神殿の中央に行く。

 行くのは俺・銀・黒蹴・ピンキーの4人だ。

 ハーピーは納得しなかったが、隊長が言いくるめた。


 全員でかかればきっとすぐに勝てるだろうけども、それでは俺達が成長しない。


 世界樹の根元の湖。

 そこからパシャリという小さな水音を立てつつ出現したのは、


「美しい・・・」

『女性・・・』

「やさしそう・・・」

「水で出来た女か」


 ポーっとするピンキー・俺・黒蹴。の後の銀の感想。

 なんか台無し!


 水の女性は優しく微笑む。透明な手を俺達に差し出し・・・


「これを受けて、立っていられますか?」


 彼女の後ろの地底湖から、大量の水が津波となって俺達に押し寄せた!

 そのまま飲み込まれる! 後ろの扉は!?


「閉まってます!」

『うわぁぁあああ!?』

「お、溺れ・・・る?」

「あれ? 止まってます」


 目の前には風で出来た膜。

 せき止めているのは・・・


「「『銀 (さん)!』」」


 銀は片手で水をせき止めると、


「返すぞ」


 そう言って、手をブンと振る。

 風魔法で押し返された大量の水は、女性に襲いかかり。

 それに合わせて俺達は、魔法と魔弾を撃ち出す!


「雷!」

「サンダー!」

『弾けろ魔弾!』


 黒蹴が連射し、ピンキーは溜めてぶっ放す! 魔法は波に溶け合う!

 それは俺の魔弾の連射で後押しされ、ピンキーと黒蹴によって帯電した強力な波の完成だ!

 そいつはバリバリと床を砕きながら、女性に襲いかかる!


 だが。

 ズバっと縦の筋が入り、真っ二つになった。波が。


「合格です」


 あっさりと津波が割れて、にっこりとした水の女性が現れる。

 波に付加させた魔法も、全部かき消されてしまった。

 ハンパないなこの人。

 人っていうか・・・


『あなたは精霊、いや。水の大精霊ですか?』

「はい、彼方あなたたちの事は風の大精霊から話は聞いています。谷を救ったそうですね。

 あの者に免じて、試練はこれだけにしましょう。」


 そして水の大精霊は、スっと息を吸い込み。魔力を込めて言葉を紡ぐ。


「合格です」


 その瞬間、地底湖がパンッと2つに分かれ。

 世界樹への道が生まれた。

 世界樹のふもとには水が沸いていて、石碑が埋まっている。

 水の大精霊はこちらを振り返り、


「さあ、≪登録≫してください。事は一刻を争うと聞いております。

 あ、あと。水の大精霊ではなく・・・」


 大精霊は、かわいらしく口にひとさし指を当て、唇を尖がらせた。


「水の、おねえさんって呼んでください」


 めっちゃかわいい。


「じゃあ早速。銀、行こうか。ありがとうございます、水のおねえさん」

「ありがとう、水のおねえさん」

「ありが・・・ちょっと、ニルフさん」


 黒蹴にひじで突かれて我に帰る。

 やっべ、見惚れてた。


「銀さんもピンキーさんも、もう≪登録≫しちゃってますよ」

『わ・・・悪い』


 2人に続いて水のおねえさんにお礼を言い、≪登録≫した。

 そういえば隊長達は≪登録≫しないでいいのか?


「銀の腕を治すのが先決だ」


 ごもっとも。


「この方の腕ですね。失礼いたします」


 水のおねえさんが艶めかしい動きで、銀の右腕の袖をめくり、包帯を取る。

 そのままスライムごと、腕を撫で回した。


「オ前ェェェ、銀ニ色目使ッテンジャネェェ!」


 ハーピーが向こうでめっちゃ怒ってる。隊長に羽交い絞めにされていた。

 そんな事は気にせず、銀が聞く。


「どうだ?」

「うーん、これは・・・。腕の魔法を水に溶かして流そうとしたのですが、相手の魔法が強すぎて上手くいきませんね。

 そのまま流すにしても・・・、このままだと。

 どうしたものか・・・。ん?」


 銀の腕のスライムがプルプルする。それに合わせて水のおねえさんがコクコク頷く。


「なるほど、分かりました」

「どうしたんだ」

「はい。この子が私の水を取り込み、少しずつ魔法を溶かし出していきます。

 そのまま流すと魔力が爆発しそうなので、銀髪の彼方あなたがこの子が取り込んだ魔力に≪爆発解除≫の命令を上書きして行ってください」

「流れ出した魔力を、スライムが取り込む意味は?」

「疑似の器です。そのまま流すと≪爆発する効果≫が発動してしまいますが、1度私の水を取り込んだこの子の体内に入れることにより、魔法の上書きが行いやすくなるはずです。

 上書きした魔力は無害になりますので、そのまま水ごと流して良いでしょう」

「了解した。よろしく頼む」


 俺達は後ろで、水のおねえさんが魔法をかけるのを静かに見守っていた。

 そして水のおねえさんからやわらかい光が放たれ、ふわりと銀の腕を包み込む。

 おねえさんが振り返ってニコリと笑った。


「これで、もう安心でしょう」


「やったぁあああああ! 銀~」

「ねえ! 胴上げしましょう!」

『ナイスアイデア!』

「おい、お前らはしゃぎすぎ」


 俺達は3人全員で銀に駆け寄り、胴上げをしようと腕をつかむ。

 ハーピーがものすごい勢いで飛んできて、その輪に加わった。


「ワタシモ混ゼロ!」


 後ろで隊長達が苦笑いする声が聞こえる。

 その瞬間、首にピリッと何かを感じた。

 フッと振り返ると同時に








 ドッゴオオォォォオオオン!!









 隊長達の居た場所が、爆風と煙に包まれた。


 ・・・え?


「ナンダ貴様!」


 いち早く見つけたのはハーピー。

 そのまま鳥フォームになり、飛ぶ。矢のような速さで。

 方向は、隊長達の居た、扉前。

 そのまま煙の中に突っ込んで行ったが・・・


「邪魔だぁァアアア!!」


 男のくぐもったような声。

 その瞬間、銀が俺達の前に水魔法で水の大盾を作った!

 と同時にその盾が砕け散り・・・


 俺達のはるか後ろの地底湖の壁に何かがぶつかり、湖に落ちた。

 大きく上がった水しぶき。それが洞窟全体に降り注ぎ、爆発による煙を晴らす。


「ヒャハハハッハ」


 扉があった場所には、キレた男がいた。

 黒いローブに身を包み、黄色に近い金髪を逆立てた背の高い痩せギスの男。

 そのままソイツは後ろに深く反り返り、長い舌をベロンと出して、手を舐める。

 手からは血が滴っていた。

 そして、俺達の後ろの地底湖に浮かんでいるのは・・・


「ハーピー!!! 銀!!!」


 顔面を掴まれて投げられたのか、顔を血だらけにしたハーピー。

 そのハーピーを水の盾で受け止めようとしたが、そのまま一緒に壁に叩きつけられた銀。


 俺には、投げられて飛ぶハーピーすら見えなかった。

 つまりこの相手は


「強イ・・・ゾ」


 それだけ言うと、ハーピーは湖に沈んだ。


 銀がハーピーを掴もうと、もがいているのが見えた。だが動きが鈍い。

 思ったよりもダメージを受けている!?

 早く助けないと!


「ソンナモン見てないでサァ、俺とモット遊ぼうゼェェエエ?!」


 言うが早いか、男はひとっ跳びで俺の目の前に着地する。

 やばい、こいつ。

 あの谷に居たやつと同じくらいの・・・


「ボサっとしないでニルフゥゥ!」


 ピンキーが叫んだ。我に返る。

 と、同時に突き飛ばされる。その横を人3人分ほどの太さの雷の塊が落ちた。

 何とか避け・・・


「れる訳無いダロォォオ? ア シ も と」

「あ・・・水」


 黒蹴が呆然とつぶやく。

 その瞬間、俺達の足元がスパークした。


『ああぁアァあぁあアあぁ!!!』

「うあぁ・・ぁあああああ!!」


 まずい・・・感・・・電・・・


 強い光で白く塗りつぶされる目の横で、俺を突き飛ばしたピンキーが巻き添えを喰らって倒れるのが見えた。

 悪い、ピンキー。


 雷で砕けた地面に、うつ伏せに倒れ込む。

 すぐに起き上がろうとするが、俺の体も地面も、雷の余波を残してバリバリ放電中だ。

 体が痺れて麻痺している。

 なんとか顔を動かして、左側を見る。男の居る側。

 チカチカした目の端で、両手を肩のあたりまで上げて高笑いしつつ歩いてくる男が見えた。


「何人かは、殺したッテ良いって言わレテンダァ~。どいつカラ逝くかぁ? っとぉ」


 俺の前まで来た男が急に、何かを叩き落とす。

 その瞬間 男の足元の床が砕け、弾き飛ばされたかのような風の余波がこちらにまで届いた。


 誰かが男に向かって、全力の風魔法を放った?

 それを片手で弾き飛ばしたって事・・・か。


 男はそのまま手の平をべロリと舐め、


「そウか。お前からか」


 男の目線の先には、


「に・・・げて。くろけ・・り」

「うっせエお前」

「ぐぁっ」


 ピンキーが声を絞り出す。男に蹴り飛ばされ、湖に落ちる音がした。


「あの雷を避けるとはナァ・・・巻き込むつもりでヤッタのによぉ・・・。

 俺なぁ、思い通りに行かない事が・・・大っ嫌いなんだよ」


 呟きながら手を振る。


「!?」


 右側から、ドシャっと膝をつく音。

 え、黒蹴? 早く逃げろよ!


「動けないダロォ? 土魔法、お前がさっき風魔法と一緒に撃ったのと同じ効果だゼェ。

 ま、風で土魔法を加速させてたようだが、俺には効かナカッタなぁ」


 そして俺の背中を踏みつけ、男は黒蹴が居るらしい俺の右側に立つ。


「お前は1番に殺ってやル。安心シロ。1人目は、楽に逝かせてヤルって決めてるんダ」

「あ・・・あぁ・・・」


 怯えたような黒蹴の声。

 無理やり顔を動かして右側を見ると、男が黒蹴に向かって、手刀を振り上げた所だった。


「ウ ご く ナ よ ?」


 そのまま手を振りおろし、









 空中に突然発生した大量の水に、男は押し流された。


「ウッガァアアアアアアア!!!」


 男の叫び声が波音と共に聞こえる。

 そのまま波は扉側の壁にぶち当たり、あれ? こっちに跳ね返って流れ・・・


 打ち返す水に絡め取られ、そのまま湖に流される俺と黒蹴!

 溺れる! 溺れ死ぬ! まだ麻痺ってる体!


「大丈夫だ。2人とも」


 湖の中に引きずりこまれた俺達の前に、銀が普通に立っていた。

 小脇にハーピーを抱えている。

 え? ここって水の中でしょ?


 横にピンキーも居た。ヒラヒラと手を振っている。

 蹴られた胸の防具は壊れかけているが、体は無事の様だ。


「よく持ちこたえたわね。後は」


 水のおねえさんが、空中に水を出し続けながらこちらを振り返る。


「彼らと協力して、倒すわよ!」


 水面から覗く神殿。

 そこには水のおねえさんの魔法により、扉まで流され無様に咳き込むキレた男と、その周りに立つ3人の大人達。


 彼らは東の国3番兵士団。隊長率いる2人の部下。

 体中埃だらけだが、傷はない。


「私が回復させたの」


 クルッとこっちを振り返り、小首を傾げてウィンクする水のおねえさん。

 てかさっきより態度がフランクになってませんか?


「細かい傷がほとんどで、致命傷が無かったから早く済んだわ。

 あいつの気を逸らしてくれたおかげよ。

 彼方あなた達は、しばらくここで回復に専念してね。ここの水は回復効果もあるから。

 もちろん、回復する相手は選ぶけどね?」


 息の出来る不思議な水の中で、俺達は地上の戦いを見守る。


次回メモ:狼


いつもよんでいただきありがとうございます!

戦闘が苦手・・・!(冒険物なのに致命的)

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