水の世界樹へ!
次の日の朝、世界樹に向かう。
俺はピンキーの馬車に乗っている。
俺の膝にはベリーちゃん。あの時ボロボロだった毛並みも、今ではすっかりツヤツヤもふもふだ。元気そうでなにより。
ベリーちゃんを撫でつつ、馬に乗ったピンキー&黒蹴とくっちゃべる。
「世界樹のあると言う湖の傍には、国とギルド合同の駐屯場があるらしいよ」
「へえ。じゃあやっぱり門があって門番がいるんですかね」
「何なに。風の世界樹ではそうだったの?」
『そうなんだ! そこで勇者君がな・・・」
そいえば世界樹に行くにはシルバーランクでしか駄目だったはず。
「あ、レモン達、まだブロンズだったっけ」
ピンキーが思い出したように言う。
ベリーちゃんが耳をピクっと動かした。
「あたし達も行く!」
「主人の護衛は某が!」
「ワンワン!」
レモンちゃんとサイダーちゃんとベリーちゃんが馬車から落ちそうなほど身を乗り出して言い募るが、
「こればっかりは仕様がないわよ。あきらめましょうね? 2人とも。ほら、ベリーもよ」
ライムさんに優しく諭されて、ピンキー親衛隊の3人は駐屯場に待機ということになった。
馬車に乗ってる間は暇だ。
馬車の中に飾られている地図を見ると、ピンキーの行った町に印が付いていた。
大陸西南の港街から最東の王都まで行き、そこから大陸中央の最北の街まで色が塗ってあった。
てかこれ、移動距離が半端じゃない。どうやってきたん?
「港から王都までは、とっても大きな街道があってね。途中小さい街に寄りつつでも、馬車すっ飛ばせばかなり時間が短縮されるんだよ。
そうだなあ。寄り道せずにノンストップで馬車で行くと・・・。大体4日あれば、港から王都までいけるね」
ここ西の国は、大陸全体がほぼ湿地か森か山と言う感じだ。整備されている道以外は馬車だと車輪をとられてしまう。
その為、どんな小さな町にいく街道でも、しっかりと整備されている。
ピンキーは街道を進みつつ、馬車の入れない場所に石碑を見つけては登録していったようだ。
水の大精霊に事情話して銀の治療した後で、4人でそれぞれ回った先の石碑を登録していこうということになった。
ちなみに俺達は今、ピンキーの馬車の他に、馬を連れている。
街を出る時に、馬を借りたんだ。
できるだけ早めに銀の腕の魔法を解きたいからな。
銀は片腕が動かない為、重心も取りにくいらしく、右腕を曲げて体に括りつけていた。
馬車に揺られつつハープを弾く。ベリーちゃんはサイダーちゃんにブラッシングされてる。
馬にはピンキー、黒蹴、隊長、ポニーさん、ケモナーさん。
馬車にはライムさん(行商人)、サイダーちゃん、レモンちゃん、ベリーちゃん、銀、俺+荷物。荷物は行商用らしい。
ハーピーは空から監視。
まあ盗賊とか出ても、この大人数を狙おうとは思わないだろうけど。
ちなみに俺が馬車なのは、近距離攻撃法しかないからだ。これなんとかしないとな。
魔弾撃つにしても、木刀取り出してバーンだからモーションがね。
武器からじゃなくて、手から出せればいいのに。
それか木刀が短剣に変化するとか。
「あれ?」
ハープを弾いてると、レモンちゃんが声を上げた。
「どうした?」
「今お裁縫してたんだけど、馬車の揺れで指刺しちゃって。
でも、なんか治っちゃった」
『治った?』
「こっち向くな変態! うん。治ったの。ホラ」
見せられたのは、血の跡が残りつつも傷跡のない、綺麗な指だった。
湿地を眺めつつ、細くも整備された道をゆく。
馬車と馬だと早いな。3日かかる道のりも、食糧取ったり魔物に襲われたりする機会が少ない分、早く着く。
1日で目的の駐屯場にたどり着いた。
『あー、腰が痛アァァァ』
大きく伸びをする俺の横を、レモンちゃんが嫌そうに通り過ぎる。
目で追うと、ピンキーに親衛隊3人が呼び出されていた。
駐屯場でピンキーが親衛隊3人に指示を出している。
その後、こっちに戻ってきた。
「おまたせ! 行こうか皆!」
PT
俺:近距離剣士 (木刀)
黒蹴:中遠距離銃剣士 (双銃剣)
銀:近距離大剣士 (両手剣)
ピンキー:中距離魔法剣士 (片手剣)
補助・護衛
隊長:近距離剣士 (デカめの片手剣)
ポニーさん:近距離戦士 (オノ)
ケモナーさん:ヒーラー (鞭)
ハーピー:飛行魔法使い (素手)
留守番
レモン:魔法使い (???)
サイダー:近距離剣士 (日本刀)
ライム:近距離戦士 (棘トゲ棍棒)
ベリー:仔狼 (牙)
西の国の兵士とギルド職員の守る門を、シルバーランクの通行書を見せて通る。
その先は・・・
「とても大きな湖だ。対岸が見えないぞ」
隊長が感嘆の声を漏らす。てか世界樹の木が見当たらない?
ギルドの職員も兵士も、何も教えてはくれなかった。
自分たちで探せという事らしい。
「どうする」
「ワタシガ上カラ探ス!」
銀の問いに、ハーピーがうれしげに答えた。
そうだ。
『ハーピー1人じゃ心配だし。俺達も魔弾で飛べないかな。ほら、この前の銀みたいに』
「あれは緊急用だ。便利なんだが、魔力の消費がデカすぎて1分も飛んでられない」
えぇぇぇぇ、魔力の無駄に余ってる俺の「空飛んで無双」の夢がぁああ。
ピンキーが俺の肩をポンと叩いた。
「ニルフ、落ち込まないで!」
「ジャア行ッテクルゾ」
「皆も探索に向かおう。決して単独にならない用にな」
ハーピーが飛び立った後、皆も周辺の探索に向かった。
隊長の言葉通りに、ペアを組んで行ったので敵が来ても大丈夫だろう。
そのとき考え事をしていた銀が、俺に向き直る。
「少し気になっている事がある」
そう言って、持っていた(普通の)ナイフで自分の足を切る銀。
『え、ちょ?!』
「ハープを弾いてみてくれ」
ふざけて・・・る訳ないよな、銀だし。
言われた通りにハープを弾いてみる。と、
「思った通りだ」
『なんで・・・?』
銀の傷口が、治癒されていた。
「どうやらニルフが風の大精霊に認められて得た能力は、それのようだな」
『ハープを聞いたものに、治癒の効果を与える魔法・・・?』
「敵にも効くのか味方だけなのか。フィールドと町の効果の違い。世界樹の武器を媒体にしてるのなら、武器が無いと表れない効果かもしれないな。
色々と調べる事は多そうだ」
銀は、俺の背中をバシっと叩き、
「とりあえず、よかったな。初の魔法だ」
自分の事のように喜んでくれた。
*
「ぎーん。オーイ、ぎーん」
空から湖を探索していたハーピーが戻ってきた。
「湖ノ真ン中ニ、大キナ家ガアッタ」
「家? 遺跡の事か?」
ハーピーの報告を聞いていると、皆も戻ってきた。
「こちらに洞窟を見つけましたぁ」
「他の場所には何もありませんでした」
ケモナー&ピンキーペアが洞窟を見つけた。
他には何もなかった為、とりあえずそこに向かうことになった。
「これで対岸とかに遺跡に入るスイッチが散らばってるとかだったら、めんどくさそうですよね」
こら黒蹴! 物騒な事いうんじゃありません!
*
洞窟の中は、ジメジメしていて魚ぽい魔物がいっぱいいた。
例によって、切ると水になって溶けてしまう。
洞窟の中は光る苔と海藻と岩場と水場だったな。
遠距離ケモナーさんが中央、周りを中距離・メンバーが固め、一番外側を近距離メンバーが固める。
俺は中距離にいる。ハープで常時小回復しつつ、木刀で魔弾攻撃だ!
さっき試したら、音の聞こえる範囲に居る敵は回復しなかった。
俺のハープ、回復量はどうやら込める魔力によって変化するっポイ。
そして、音が聞こえる範囲(シルフに運んでもらっても可)の仲間のみが集団で同量ずつ回復する。
ここまで分かったぜ!
デカい魚が襲いかかる! 銀が切り裂き、黒蹴が燃やす!
デカいヒトデがブンブン回りながら追突してくる! ピンキーが剣に炎を宿し、ズバっと切り裂いた!
え、ナニソレカッコイイ教えて。
「それ、私の十八番だったんですが」
苦笑しつつ、ポニーさんも同じ技で海藻の塊の魔物を切り裂いた。
傷口からメラメラと炎が上がり、あっという間に包み込む。
敵 は 全滅した!
「ポニーさんの技って、火の大精霊の?」
「はい。ピンキーのは、剣に魔法を纏わせているのですね」
ほのぼの会話する2人の陰からデカいイソギンチャクが現れて、ポニーさんに触手を伸ばす!
まるで何十本も鞭を操ってるかのようだ!
2人は直に剣を構え、触手を切ろうとする。が、
「ふふふふふふふふf」
不敵な笑いが聞こえて、俺は後ろを見る。
俺の後ろはケモナーさんだったはず・・・
「ふはははははは! 鞭を操るなぞ、100年早いわぁぁぁああああ!!!」
ものっそい高笑いしながら獲物の鞭を(俺の)目にもとまらぬ速さで振り回すケモナーさん。
目の前のイソギンチャクは粉になった。
「彼女、いつもこんなんだから」
目を点にして見ていると、隊長とピンキーが目配せして俺に言った。
マジか。
襲い来る魔物をちぎっては投げ、燃やし、粉にしていく。
洞窟はゆるやかな下りになっているようだった。
「ここはあまり時間がかからずに世界樹の元にいけそうだな」
銀が呟く。2時間ほど洞窟を下った先に、扉があった。
「閉まってますが、どうすれば開くんでしょう」
「ゲームだと、どこかに鍵が隠された宝箱や魔物がいるとか、特定の魔物を倒すとかだけど」
「さっぱりわかりませんね。隊長」
「ポニー、お前でも分からないか。ケモナーはどうだ」
「私はこの大陸に居た時シルバーでは無かったのでぇ、ここには寄りませんでしたぁ」
『とりあえず触ってみる?』
全員でべたべた触れてみる。何の反応もない。
と、
「なんだこの珠」
扉の真ん中に嵌った球がキラリと輝いた。それを見つけた銀が触れる。
と、扉があいた。
「水の属性を持つ何かを触れさせると開く仕掛けって事かな」
ピンキーが推測する。水の属性のメンバーがいないときは、そのへんの魔物でもくっつけて見ろって事か?
洞窟を結構くだったのに、次は昇りの階段が続く。
『かなりきっついな。これ』
「でも、足が鍛えられそうです」
うれしそうだな、黒蹴。
1時間ほど登ったところで、景色が神殿になった。
床は綺麗な石畳みだが、壁は自然の洞窟のまま。しかしサンゴがあちこちに飾られている。
石畳の奥にもまだ洞窟は広がっていて、奥は湖になっていた。地底湖?
そこから大きな木が生えていて。まるで水が木の形を保っているような。
葉が水の雫の様に、雨の様に常に滴り落ちていて。ざぁぁぁぁっと優しい音が響く。
木のてっぺんの部分が、洞窟全体に薄く広がっている。
それが水の膜でも作っているらしく、洞窟の天井に穴が空いていてその上に湖の水があるというのに、その水はこちらの洞窟には流れ込んでいなかった。
水が通す太陽の光が木の葉で乱反射して、とても美しい。
その光景を見つつ、そういえば。この大陸にきてから、シルフを東の大陸ほど見ていないな、と思う。
そしてここにいるシルフは、蕾をくっつけたような色では無いな、と。
蕾をくっつけたような形だが、水でできているような、なんというか、水を落とした時にできる水面の飛沫の形をしているような。何だかそんな感じがした。
それぞれが物思いにふける中、パシャっと、やわらかな水音。
そして。
「よくぞ来ました。水の大精霊に挑む者よ」
やさしい、女性の声がした。
次回メモ:水の大精霊
いつも読んでいただきありがとうございます!
会話多めですが大丈夫ですか?




