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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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水浴ブガァ!

 城には、王が居た。


 いや、王はいつも城に居るんだけど、今日は世界樹の枝が安置されてる地下の部屋にいた。

「帰ってくると思ったんでな」って言われた。

 王が最近エスパーになってきた気がする。


 城に帰った俺達は、早速ハーピーの服を探す。

 この格好で町に連れて行くわけにもいかないので、服選びと調達はメイドさん達に頼んだ。

 ハーピー自身は、ポニーさんと「どっちが銀の好みか」で張り合ってた。


「銀はお淑やかな女性が好きなんです!グイグイ来られると困るタイプなのです」

「イヤ! 銀ハ奥手ダカラ肉食ノ方ガ可能性ガアルニ決マッテイル!」


 そこにメイドさんが服を持ってくる。


「このピンク色でフワっとしてる方が女性らしさをアピールできると思いませんか?」

「ソレイイナ! コッチノ装飾品デ、甘サヲ少シ消シテミヨウ」

「戦う女ながら、甘さも忘れない絶妙なこの感じ!」

「最高ジャナイカ! オマエ、話ガ合うナ!」


 仲良くて何よりだな。


 あと、ずっと旅をしてきた俺と黒蹴の読みなんだけど。

 銀は相手が男か女かより、敵か味方かって事にしか興味ないぞ!

 がんばれ2人とも!


 服を選んでる間、俺は風の魔法を試してみる。

 俺は風の属性らしい。つまり他の属性の大精霊に認められた時より、大きな効果が出ているはず。

 もしかして魔法使えるようになってるとか!?


『うぉぉぉ、でよ、風ぇぇえ!』


『あれ、だめか。じゃあヒール! ヒール出ろよ。ヒーーール!』


 特に変化はない。というか呪文唱えられないから、どっちにしろ使えないし。

 てかさ。黒蹴達が単語だけで魔法出るんだったら、俺だって使えたっていいじゃん!?

 だってシルフ石で(一応)単語だけ皆に伝わってる訳だしさ!


 という思いもむなしく、結局、何が増えたのか分からないままだった。

 普通だったら自分の属性と同じ大精霊に認められると、上級魔法が使えるらしいのにな。


 ちなみに黒蹴、銀、ポニーさんは中級魔法が使えるようになった。

 敵を切り裂く風を生み出す攻撃魔法だ。

 ゴブリンロードの時、魔法兵士さんたちが触れると切り裂く風の膜を作っていたな。

 この魔法の応用か。


 そういえば大精霊の世界樹の石碑に≪登録≫すると、武器が進化するんだっけか。

 早速じっくり見てみる。


「武器に嵌ってる石が、若干緑がかってる気がします」

『俺のほうが緑が強いな』

「オレのも、黒蹴と同じ色だな」


 3人で見比べてみると、俺の石が一番色が濃くなっていた。


「属性が合っていたからじゃないか?」


 隣で見ていた隊長がいう。

 さっきまで王に色々報告に行っていたが、戻ってきてたんだな。


「決マッタゾ!」


 ハーピーの声で振り返った。

 そこに立っていたのは・・・


「え、それで街歩くんですか?」


 黒蹴の正直な反応が部屋に響いた。

 薄いタンクトップ(というか袖の短いTシャツ? )の上からのコルセット(あちこち砕けてる)かよ。


「色々着せてみたんですが、服を嫌がるんです」

「変身シタ時ニ、羽根ガもぞもぞスル・・・」


 疲れたようにポニーさんとハーピーが言う。

 さっきまでノリノリで服選んでたのにな。


 結局、白いTシャツ+ふわっとしたピンクの短いスカート(変身しても動きに支障が出にくいらしい)に決まった。

 でもコルセット型防具は外さない。

 初めて倒した冒険者からうばったやつだから! と涙ながらにしがみついたためそのまま着せた。

 てか泣きながらクワッと牙剥くの止めてもらっていいですか。怖い!


 薄いTシャツに赤いコルセット。

 砕けた箇所から覗く胸が素晴ら・・・目に毒だ。


 部屋から出て中庭を通り、街に向かう。

 ハーピーを見る周りの兵士の目がやばい。


 今まで着せてたロングマントも着せておくことにした。ポニーさんの私物らしい。


 *


「この後どうする」


 隊長が切り出す。


『とりあえず銀の手を何とかしないとな』

「水の世界樹だったら、西の大陸にありますぞ」

「西の大陸といえば、ピンキーさんが居ますよね」

『あ! ピンキーだけ風の爺さんに会ってない!』

「まずピンキーに会いに行くか。水の大精霊と戦うとしても、片腕での戦いに慣れなければ」


 いつの間にか王も会話に混ざっていた。

 ピンキーの場所はっと。武器から地図を出す。

 西の大陸の石碑が1つ、点滅している。


「この場所は・・・。大陸北部の街にいるようだな」

「じゃあ早速行きましょうか!」

「待つのじゃ!」


 王が大声を出す。ビビった。

 ハーピーが牙をむき出して涙目だ。


「ナンダ!」

「西の国も、召喚者の事を秘密にしておるのじゃ。街に転移したら大騒ぎになるぞ。

 近くの町はずれの石碑に転移すると良かろうぞ」


 王のいう事ももっともだ。


 てことで、昼飯を食ってから転移だ。

 王が手を振ってるのがうっすらと見えた。

 確か・・・転移先は小さな林の中に有るはずだ。


 *


『ん? なんだこれ』


 転移したら、目の前には真っ白な布。


「え、誰?」


 女の子の声? 振り返るとそこには・・・。

 3人の美女が泉に居ました。


「ちょっと! 何よアンタ!」

 10歳くらいの猫っぽい雰囲気の女の子が、泉の石碑の後ろにサッと隠れた。顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ナンダ貴様・・・。どっから沸いて現れた。我が剣の錆びにしてくれよう」

 15歳くらいのスラリとした体つきの女の子が、無表情で剣を抜く。え、ナニソレ日本刀ってやつ? 


「あらあら、うふふ。悪い子は、すりつぶしてあげましょうねー?」

 23歳くらいの胸の大きな女性が、笑顔で頬に手を当てながら、棘トゲの棍棒を片手で振り上げる。


『え、ちょ』


 全員、服着てない。

 あ、水浴び中ですか?


「ちぇすとぉー!」


 猫っぽい子の声を合図に、飛びかかられる。

 凶器持ってる。レッツ袋叩き?


 てか石碑の泉で水浴びすんなよブヘァ!

 ちょ。魔法ズルい怖いあの猫の子怖いギャフッ!


 必死で逃げました。

 てか殴られたのなんで俺だけボフォア!

 後ろから桶投げないで!

 慌てて目の前の布引き裂いて外に出ると、銀と黒蹴がちょっと離れてこっちを見ていた。


「これ、町はずれでも転移の瞬間みられるのはまずいですね」

「対策が見つかるまで転移は控えるか」


 てかほのぼの会話せずに俺を助けてくれよ銀&黒蹴。


 隊長は・・・


「がっはっは! 散々だったなニルフ!」


 何故か無傷だ。つまり俺だけ狙われた!?

 4人居たのに俺だけ!? 解せぬ。


「ニルフ、ハーピー、ポニーは布の内側に転移していた。オレ達は外だった」


 銀が簡潔に教えてくれた。

 あ、そっすか・・・。


 ちなみに一緒に転移したハーピーは、転移した瞬間に飛んで逃げてったらしい。

 ポニーさんは、誰かいるって感じた瞬間にハーピーの足を掴んで一緒に空の上だ。

 空の上から喧嘩が聞こえる。

 銀が呼ぶ。


「降りてこい2人とも」

「出発ダナ! 銀」


 泣いてる俺の上にハーピーが舞い降りた。踏むな!


「二度と来んなー!!!」


 泉から聞こえる声から逃げるように出発した。


 *


 俺達は小さな林(というか茂み)を抜け、すぐそこに見える町に入る。

 門番が会釈して迎えてくれた。

 さすが商業の国。こういう時、一々止めないのな。


 街に入ってすぐの広場で、仲間と別れる。


「多分この街にピンキーは居るだろうし。3時間後にまたこの広場に集まろう」


 隊長の言葉で分かれる。

 ポニーさんとハーピーが早速アクセサリーショップに吸い込まれていった。

 銀と隊長はバラバラに歩いていく。裏路地にでも行くのか。

 残されたのは俺と黒蹴。いつものメンツだな。


『そんなに大きくない町だな』

「村より大きいって感じですね。あ、見てください。馬車が一杯ならんでますよ!」


 黒蹴とキャッキャ言いながら町のメインストリートを歩く。

 端っこの方で商人達が集まってヒソヒソ話している。シルフ、GO!


「この辺りに、出るらしいぞ」

「魔物か・・・」

「あぁ、ピンクの長い髪の女の魔物らしい。とんでもない強さでこの前も」


 聞かなかったことにした。


 この大陸は湿気が多いらしく、高床の建物が多かった。

 湿気を逃がして快適にってやつらしい。

 でも木造ではなく、やはり


「西洋! って感じだよね」


 そうそう、西洋。

 って黒蹴、自分にしか分からないような例えしないでよーもう。


「僕じゃないですよ?」

『え?』


「あっはっは。2人とも、久しぶり!」


 振り返るとそこには、ピンクの長い髪をお団子にして獣耳を隠した、ピンキーが立ってました。


 *


 俺達はお茶を飲んでいます。

 まさかの捜索開始10分ほどで目的人物見つけちゃった。集合時間まで何しよう。


「じゃあ俺の仲間が戻ってくるまで、この街を案内しよっか」

「おいしいものあります?!」

『珍しい食べ物!』

「食い気しかないのかい?」


 てことで、ピンキーおすすめのおいしい喫茶店でお茶してます。

 なんか女子が好きそうな清楚な喫茶店。ケーキセットとかありそう。


「すみませーん。ケーキセット3つ」


 あるんかい。ピンキーがナチュラルにケーキセット頼んだ。慣れてる!


「それより肉がいいです」


 黒蹴、肉て。喫茶店で肉て。


『でも実際男3人でオシャレな喫茶店って時点でもう・・・ね?』


 店内の目線が痛いです。


「まぁ、俺も旅の同伴者が戻ってくるまで時間潰してただけだし」

『俺達も、昼飯食ってきたしな』

「旅の同伴者ってケモラーさんですよね」

「あ、いや。俺は今ね・・・」


 そこでバーンと乱暴に開かれる喫茶店のオシャンティーな扉。

 扉に着いた鈴がガランゴロンドンガラガッシャンと音を立てる。


 入ってきた人物は落ちた鈴をガーンと蹴っ飛ばし。


「ちょっとご主人様! 探したじゃないの!」


 すごい剣幕でこっちに近寄ってきた。

 あ。あれ?

 この10歳くらいの猫っぽい女の子は・・・


 女の子が俺を見て引きつった顔をする。そして息をスッと吸い込み・・・


「あぁぁああ! 水浴び覗き変態金髪男ぉぉおおおお!」


 俺を指差して絶叫した。


 *


 あの水浴びしていた美女3人は、ピンキーが保護して一緒に行商の旅してる人たちだった。

 目の前には、俺が(うっかり)裸を見てしまった3人の美女。


「あたしはラブリーレモン。こっち見るんじゃないわよ変態!」


 レモンちゃんは10歳くらいの子だ。さっきは無かった猫耳を付けている。黒ゴスロリの黒髪。

 俺に敵意満載。


それがしはジェルサイダー。その変態が主人の仲間というのか? 冗談も大概にしてほしいな」


 サイダーちゃんは15歳くらいの子だ。赤い長いリボンを付けていて、まるでピンと立った兎の耳の様。青いロングヘア。

 シャナリとした着物? 剣士とかが着てそうな服(黒蹴談)だ。

 俺に敵意満載


「あらあら、うふふ。私はキューティライムよ。

 悪戯好きのお馬鹿さん。今度覗いたら、ピンキーちゃんのお友達でも容赦しませんよ?」


 ライムさんは23歳くらいの女性。薄いオレンジ色のカールした長髪を背中に流している。ふわふわで羊みたい。

 服もフワフワした感じの柔らかい布で作られている。デザインもフワフワしたお菓子系女子って感じだ。

 黒蹴は「まかろん」系っていっていた。魔化論?

 俺に敵意満載


 ていうか何でこの3人・・・


「なんで3人とも動物ぽい仮装してるんですか?」


 ズバっと言っちゃったな黒蹴! 武器の錆びにされるぞ!?

 と思ったら


「あぁ、これはね・・・」

「主人は珍しい容姿をしていると商人達に馬鹿にされる事があるからな。それがし達も同じように動物の格好をしているのだ」

「木を隠すには森、と言うでしょ。あと、かわいいからって固定のお客様も付いたのよ」


 顔を真っ赤にしながら答えるレモンちゃん。2人もそれに続く。

 その3人の様子に、困ったように笑いながらピンキーが続ける。


「最初西の国に付いた後、港町から首都に馬車で向かったんだけどね。

 この3人とはその頃、ちょうど行商しながら進んでる時に出会ったんだよ」

「あたし達、この国で奴隷として貴族の家に飼われてたんだけど・・・」


 レモンちゃんの話は、壮絶だった。

 気が付くとどこかの湿地で呆然と座り込んでいた所を、奴隷商人に捕まったらしい。

 その後すぐに西の街南側のどっかのちっさい街の貴族に買われた。

 最初のうちは、かわいがってくれた。好みだからと。

 嫌な事も我慢した。我慢しないと、捨てられたらこんな小さな自分は生きていけないから。


 しかし、半年もしないうちにレモンちゃんはその主人に言われる。


「顔に飽きたってね。その後は殴る蹴るの嵐。

 それをかばってくれたサイダーとライムも、気に入らないって事で一緒に屋敷の牢に入れられちゃった」

「そんな顔をするな。それがし達が好きでした事だ」

「どっちにしろ、私達もだいぶ飽きられてたのよ。あのロリコン貴族、育ったら気に入ってる子以外は全部土に埋めてたし」

「俺が通りかかったのは、ちょうどその時だったんだよ。貴族が気に入らない奴隷を≪人柱≫と称して土に埋める儀式中。

 あいつ、それをショーとして金取ってたんだよ」

「それは・・・」

『なんとも・・・』


 若干目が座ってるピンキー。

 西の大陸は行商が盛んなため、奴隷の取引とかも闇であるっぽい。


 そしてその時この3人を助け出したのが・・・


「最初、ピンクの髪のどっかの令嬢が不用心に近づいてきたときは、また見学者が増えたのかと思ったんだけどね」

「すごかったぞ、あの主人の剣捌き。あっという間に貴族の護衛団が倒れて行ってな」

「うふふ、もう付いていくしかないじゃない?」


 また、「謎のピンク髪美女」の噂が生まれていた。

 あの商人たちの噂の出所はこれか。


 喋っているうちに3時間経っていた。やべえ、はやく集合場所に行かなきゃ。


「よう、ピンキー久しぶりだな」


 銀がいち早くこちらを見つけて、手を振っている。

 動かない方の腕はポニーさんとハーピーが取り合っていた。どっちが組むかで喧嘩。何やってんのん。


 銀の右腕は包帯でグルグル巻きだ。(一応コートで隠してるけど)

 それを見てピンキーが言った。


「なんだい、銀。封印されし右腕かい?」


 言い当てた!?


「え? ほんとにそうなの!? ・・・何かあった?」

「えーっと、どこから話せばいいか」


 黒蹴が説明している間に、隊長が戻ってきた。ケモナーさんも一緒だ。


「ギルドに報告に行ってましたぁ」

「あ、ケモナー! おかえりー。報告ありがとー!」

「いえ、レモン。水浴び楽しかったですかぁ?」


 あ、ちょ。その話題ヤメテ


「あぁ。途中までは楽しかったわよ? ちょっと変態に覗かれるまでは」

「覗き魔ですかぁ? 私が成敗しますぅ!」

『ホントごめんなさい』

「え? ニルフさん、どうしましたぁ?」

「分かればよし。今後一切あたしの方を見ない事。おやつは貢ぐこと」

『えぇぇえぇ・・・』

「に・・・ニルフさん?」


 あぁ。女子軍の目が痛い。ケモナーさんだけ戸惑ってくれてるけど。


「覗いたんですか? ニルフ」

「覗イタノカ? ニルフ」


 お前らが俺を置いて、飛んで逃げたんだろうがぁぁ!


「そういえばあの子犬はどうしました?」

「あぁ、あの仔なら馬車で眠ってるよ。自発的に番犬してくれてるんだ」

「名前はあるのか?」

「スィーツベリー。ベリーって呼んでるよ」

「また会いたいですね。ベリーちゃん」

「やっと懐いてくれてねー。銀のスライムも、名前つければいいのに」

「オレのはスライムでいいんだ」

「あははは、なんですかそれー」


 俺以外の召喚者3人は楽しそうだ。

 くっそぉぉおお! なんで俺だけこんな目にー!


 結局この日は宿に泊まって、次の日出発する事になった。

 風呂に行く前に「覗くなよ」とレモンちゃんに言われた。目が怖かった。

次回メモ:湿地

いつも読んでいただきありがとうございます!


総合評価40Ptになりました!

多いのか少ないのか全く分かりませんが、うれしいです!

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