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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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ハーピー

 起きるとすっかり夜だった。

 俺はたき火のそばに寝かされていた。あったかい。

 ここは、さっきの風の世界樹の広場の様だ。


「お、起きたか! 心配したんだぞ」


 横から隊長が現れた。

 無事だったんだな。


『あの後どうなったんだ?』

「盗賊達が天井を支えていた水晶を砕いてしまったようでな。まあ、落盤だな。

 こちら側には被害は無かった。あそこだけ崩れただけだったが、すぐに引き返したよ。

 掘ろうとして掘れる距離でも無かったし。その後別の道を探したんだが、かなり戻らねばならない事が分かってな・・・。

 手分けして下に下れる道が無いか探し、偶々(たまたま)ファイターが下れるポイントを見つけた。

 そこからここに来たんだが。

 大変だったようだな。黒蹴達から聞いている」


 そういって隊長は俺にコップを渡す。中は暖かいお湯だ。


『あんな包帯男のボスが出るなんて聞いてない』


 俺が冗談っぽく言うと、隊長も笑い、小さな声で付け加えた。


「お前達が転移出来なかったのは、お前たちの実力ならここまでたどり着けると風の大精霊が踏んだからだそうだ。

 大精霊も、まさかあんな奴が急に現れるとは思っていなかったと言っていた」

『本当に知らないようだった。逆に俺達が居なければここが破壊されていたって』

「あ! 起きたんですね!」


 黒蹴が俺に気付いてかけよってくる。後ろからシーフさんも一緒だ。


「結局あれが何だったか、誰も知らないんです。

 隊長や勇者君も何も知りませんでしたし。

 妙な強い魔物の事といい、早く世界樹を廻った方がよさそうですね」

「ハッハッハ、焦ったって仕方がない。とりあえず食え」


 シーフさんがスープと、取り分けてくれていた肉を渡してくれる。

 冷めてるけどおいしい。スープはホカホカだった。


 その後、勇者君PTの話を聞いた。

 俺達に追いついた時、俺は倒れているわ、黒蹴は埃だらけでグッタリしてるわ、居るはずのない銀が風の爺さんに治療されてる所だわで滅茶苦茶おどろいたらしい。


「例の包帯男、ボクが絶対に捕まえて見せます! 勇者の名に懸けて!」


 勇者君は俺達の事を心配し、拳を握りしめて約束してくれた。

 そんな勇者君を、メイジさんが抱きしめて頭を撫で回している。頭に胸が乗っている。

 ちょっと、重いよー。とかなんか聞こえてきたけど無視した。


 銀の腕の治療がひと段落した後、勇者君が風の精霊と力試しをしたらしい。

 本当にすごかった、と黒蹴と銀は言っていた。


「すごかったです! 風がブワァァってなってズドォォンからシャっとなってヒョイってなってバコッて」

『ごめんちょっと分かんない』


 黒蹴の説明難しい。

 銀によると、ちょうど俺が攻撃魔法を使いつつ戦った感じだという事だった。

 つまり避けまくって魔法を叩き落としつつ、隙みて魔法を死角から打ち込むって事かな。


「そうだ」

「ソウダ」


 あってたっぽい。

 てかハーピーまで答えた。


 ハーピー(痴美女)は誰かのマントを羽織っていて、銀に付きまとっている。

 しがみ付こうとするのをポニーさんに引きはがされている。

 あれ? ポニーさんがいつもと違う表情だ。まさか嫉妬?

 くっそぉう羨ましい。


 ハーピー、動くたびにマントの隙間からチラチラと色々見えている。

 俺はそこから必死で目を逸らし、めちゃくちゃ必死で目をそらして、気になっていたことを聞いた。


『黒蹴、ハーピーのあの姿見て平気だったの?』

「年の離れた姉がいるので、見慣れてます」


 なにその自慢!


 *


 次の日の朝、俺達と勇者PTは分かれた。場所は風の世界樹の広場。

 俺達は彼らより少し遅れて出発する。


「じゃあ、包帯男に気を付けて! ボク達も色々探ってみるよ」

「色々ありましたが、楽しかったです!ありがとう!」


 勇者君と黒蹴はかなり仲良くなっていた。

 妹居るって言ってたし、弟が出来た気分なのかな。


「ニルフ! 俺の香味薬草肉焼きを忘れんなよ!」

『あぁ! 色々助かった! 今度会ったら肉パーティしようぜ!』


 俺とシーフさんはガシッと固い握手をする。

 なんか妙な友情が芽生えた。きっとこの人、ピンキーとも気が合いそうだ。

 なんていうか、料理同好会?


 旅立つ時、ファイターさんとメイジさんからも声を掛けられた。


「またね、劣化吟遊詩人さん。勇者様に追いつけるようにね」

「お前には勇者殿に無い何かがあるはずだ。それを磨け」


 あの2人とはあまり話さなかったが、良い人達だったな。

 なんかもう、劣化吟遊詩人が途中から愛称と化していた。

 泣ける。


 勇者PTが完全に見えなくなってから、俺は話を切り出した。


『そういえば、銀はどうやってここに来たんだ?

 世界樹の武器じゃ、石碑の近くに居るとき以外はどこに居るか分からないだろ?』

「偶々(たまたま)オレが石碑を≪登録≫した時に、風の世界樹近くの石碑に赤い点が増えたんだ。

 風の大精霊に挑戦するにしても一度集まるだろうからな。準備を整えて来た」

「ここからは私が話します」


 ポニーさんが話を繋ぐ。銀はまだ顔色が悪い。


「転移後、国派遣の兵士に隊長達の事を聞きました。

 門に行ったのが今朝だったという事で、すぐに追いつけるだろうと。

 もし入れ違いになったとしても地図を見れば居場所が分かりますし」

「なるほどな。門に行った所で勇者PTに付いて入った事を聞いたんだな」

「はい、隊長。

 丁度良い機会だと思い、私達も大精霊との戦いを見学しようと兵士に教えられた近道を進みました。

 私は途中、このハーピーに襲われたため銀を先に向かわせましたが」


 え、近道あったの? そんなの聞いてない。隊長を睨みつける。


「あの勇者PT、勇者を鍛える為にわざと遠回りの道を進んでたぞ」


 隊長が今更言う。今更。


「ワタシハ襲ッテイナイ! ≪夢の王子様≫ヲ見ツケテ、追イカケタダケダ!」


 話に割って入ったハーピーに、銀が溜息をつきつつ話を継ぐ。


「このハーピーが来る前に前方から戦闘音が聞こえたんだ。何か嫌な予感がしてな」


 そして銀が広場に入ったのが、あの瞬間だったらしい。


 ポニーさんが銀より遅かったのは、銀を「夢の王子様」と間違えて追いかけてきたハーピーを足止めしていたからか。

 あの時寝ぼけて俺を見てたから、見間違えたんだな。


 銀にまとわりつく猛禽類系美女を見て、俺は嬉しいような悲しいような複雑な溜息をついた。

 ちょっとだけ羨ましい。


 隊長が銀に質問を続ける。


「手は動くのか?」

「いや、侵食されてる箇所は全く動かない。感覚も無い」

『はやく水の大精霊に会わなくちゃな』


「ところでなんじゃがの」


 俺達の話を聞いていた風の爺さんが話に加わる。


「その銀髪の男がここから出るのは、少し難しいかもしれぬ」

「どういうことですか、風の大精霊様」


 ポニーさんが不安げに聞く。


「うぬ。思ったよりその魔法が強くての。ここで抑えるのが精いっぱいなんじゃ。

 そのハープの男を媒体にして力を送るにしても、もう少し何か、腕自身につけるような媒体が」


 風の爺さんが言い終わる前に、銀のベルトにつけていた小袋がビヨーンと揺れる。

 中からニュルっと出てきたのは、いつかのスライムだった。


「あ、大きくなってますねスライム」

『ホントだ。前は片手のひら分だったのが両手一杯になってるな』


 黒蹴が嬉しそうにスライムを指で突く。

 プルプルして戦闘態勢だ。


「薬草しか食わなくてな」


 銀もスライムを見て言う。

 その横にいるハーピーは獲物を見つけた猛禽類の顔だ。食うなよ?


「いきなり出てきてどうしたんだ」


 銀が動く方の手でスライムを持ち上げようとする。

 と、急にスライムがビョーン! と伸び上がり。


 銀の右腕を包み込んだ!!!


「「「「『!?』」」」」


 スライムは丁度、銀の色の変わった部分のみを包み込んでいる。

 核は銀の手の平に収まる形だ。


『なに? 溶かす気?』

「魔法だけをですか?」


 口ぐちに適当な事を言う俺と黒蹴に苦笑しつつ、風の爺さんが手を叩く。


「なるほどのぅ。考えおったなこのスライムめ!

 儂の属性と銀髪の属性を併せ持った自分が、媒体となるつもりか!」


 え? どういうこと?


「癒し、つまり風の属性と銀の水属性をこのスライムは持っていて、風の大精霊様の力と銀の力の橋渡しをすると。

 スライムの元々の属性は水ですので」


 ポニーさんが解説してくれた。

 癒しの風属性ってのは薬草食い続けて得たとかか?


「そうじゃ、儂の力が及びやすくなる。これならば水の大精霊の元に行くまで持ちそうじゃ」

「そうか。助かる、スライム」


 銀の言葉に、スライムはデロデロ震えつつ答えた。

 それを見てハーピーがふくれっ面になる。


「ソイツダケ名前ズルイ。

 ワタシニモ名前ツケテ! 銀」

「な、名前・・・か?」


 困ったように考える銀。しばらく考えて出した答えは。


「鳥」

「エ?」

「だから、鳥」


 絶句するハーピー。

 そういえば自分で付けたあざ名も≪銀≫だったしな。

 きっと銀髪から取ったんだろうなとは思ってたけど。

 あとスライムって名前か?


 結局名前は、保留になった。


 *


 俺達は風の精霊に別れを告げ、水の世界樹を目指す。

 帰り道は、途中までハーピーの部下が送ってくれた。

 ハーピー、実は群れを治める女王だった。


 中と小のフクロウに門で下してもらって、駐屯場に帰る。

 門の兵士さんとギルド職員さん、目を丸くしてたなぁ。


 さあ、とりあえずまずは・・・


「その。ハーピーの服を調達しましょう」


 銀にまとわりついているハーピーを見て、ポニーさんが言う。

 ハーピーはまだ、あちこち砕けたコルセット防具の上にマントだけって状態だ。

 一応足元まであるマントで、前は一応閉じているけども。けども!


「動くと丸見えですよね」


 事もなげに言う黒蹴。

 城に帰るか。


次回メモ:転移


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

お色気要員?でました。やっと書くのに慣れてきたような!


色々書く側の心得の載っている小説を回って見て、アルファポリスに登録すると良いとあったので、さっそくやってみました。

なぜか重すぎてログイン出来ずに「ページの表示に失敗しました」ってなりますが。

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