ヒーロー
9月26日。ポニーさんの武器について追記しました。
吹っ飛ぶ包帯男。
その腹を抉っているのは、表面に綺麗な蔦模様の入った大剣。
そしてそれを男の腹に突き刺しているのは・・・
「銀さぁん!?」
黒蹴が素っ頓狂な声を上げる。
俺もびっくりしたわ! あいつ別の大陸に居るんじゃなかったっけ!?
銀は俺達に目も向けず、そのまま大剣の先から力いっぱいの魔弾を発射する。
包帯男をこの谷から外に吹っ飛ばすつもりか!
駐屯所の反対側の渓谷は人里離れた山と海だ。
銀の狙いはおそらくそれだろう。
男の腹から大量の血液が噴き出す。
「すまん、遅くなった!」
銀はそのまま魔弾を放ちつつ俺達に言う。
魔弾を撃った反動で、銀自身は崖のこっち側に着地する算段っぽい。
「何言ってるんですか!タイミングばっちりでしたよ」
『かっこつけやがってぇ!』
俺達もそう叫びつつ、魔弾と魔法で援護する。
包帯男はどんどん吹っ飛ばされて行き・・・。
「こいつだけでも仕留めるか」
そうつぶやくと左手を蛇の様に伸ばし、銀の右腕を掴んだ。
「なっ」
それは一瞬だった。銀も俺も気付かないほどのスピードで、手を掴まれていた。
魔弾の反動を止められて、大きく体制を崩す銀。
そして包帯男の左手にあった黒球が、銀の右腕を侵食する。
やばい。なんかやばい!
そう思った瞬間、俺達の後ろから一際デカい炎が男に向かって飛んでいき、一瞬で男の姿は掻き消えた。
「だいじょうぶですか!? 銀!」
俺達の後ろから駆け付けたのは、流れるような金髪をポニーテールにしたワイルド戦士系美女。
オノ使いのポニーさんだった。
男に解放された銀は落下。崖下に落ちる!
と思ったが、魔弾を上手く使って地面にまで戻ってきた。
すげえな、大剣に足かけて魔弾を連続で出しつつ進むのか。
斜め下に魔弾を放ってる。今度やって見よう。
地面に降りた銀は、右腕を抑えて膝をつく。
「銀さん、右手が! 真っ黒になっていってます!」
さっきの包帯男の魔法と同じ黒い色の液体が、銀の手先から二の腕までゆっくりと登って行ってる。
侵食は少しずづだが、このままじゃ何時か全身包まれる。そうなったらどうなる?
男の言葉が蘇える。
「この魔法には命令を下してある。≪侵食した者の魔力を使って体内から爆発しろ≫とな」
つまり!
「腕を切り落とす。オレの魔力を使われる前に体から離せばいい」
そう言ってベルトで肩近くの侵食されてない部分を縛る銀。
青ざめる黒蹴の横で、ポニーさんがオノを振り上げた。
ちょっと待てって!
俺がポニーさんを止めようと、銀の前に立ちふさがったとき。
「待て待て。そんなことしても、逆に爆発を早めるだけじゃ。
切り落とした腕だけでも、この場所にクレーターが出来るほどの威力にはなるぞ」
ゆったりとした声が響いた。
誰?!
後ろを振り返ると、崖側に一人の爺さんが立っていた。
仙人っぽい出で立ちに、白い髭を蓄えた爺さん。
世界樹島の仙人じいさん?!
っと思ったが、少し違う。
あのじいさんは食えない雰囲気を纏った男前な顔をしていたが、目の前にいるのは眉毛が八の字の爺さんだ。
とってもつぶらな瞳。背も1mほどだ。
「ほう、世界樹島のジジィと知り合いじゃったか。
世界樹の木の武器を持っておったからまさかとは思ったが。
さて、ならばなおさら死なす訳にはいかんの。こっちに来るがよい。」
そういうと爺さんが手をかざす。優しい風の膜が俺達を包み込んだ。
そしてそのままフワリと浮かび上がり、崖下へと運ばれた。
「もしかして、彼方は」
ポニーさんの問いに爺さんは手を振って遮る。
「それよりも、先に世界樹の石碑に≪登録≫しなさい。
そちらの方が治療もしやすい。」
爺さんに言われるがまま、俺達4人は石碑に≪登録≫した。
あ、4人ってのは俺・黒蹴・銀・ポニーさんだ。
あれ? なんでポニーさんはいつも使ってるオノじゃなくて、短剣に≪登録≫してるんだ?
≪登録≫が終わったら聞いてみるか。
そして緑の優しい光に武器が包まれ、それが武器に吸い込まれる。
と、銀がぶっ倒れた。
「「『銀 (さん)!』」」
「心配なさるな。今から治療するからの」
爺さんが銀の黒くなった右腕に手をかざし、銀が緑色の光に包まれる。とても優しい光だ。見ていて安心する。
「やはり彼方は、風の大精霊様なのですね」
「この方が、ですか」
『なんとなくそう思ってはいたけども』
どうして力試し無しに≪登録≫させてくれたんだ?
「あの妙な男追い払ってくれたお礼じゃよ。
あのままでは、その辺の魔物にあの魔法を使ってでもこの辺りを消滅させようとしてきたじゃろうしな。
まったく、あれは一体何なんじゃ」
「風の大精霊様でも分かりませんか」
ポニーさんの問いに、風の爺さんも頭を振る。
そして俺の足の傷に気付いて、こっちにも風の治癒魔法をかけてくれた。
一瞬で痛みが取れる。
『ありがとな、爺さん。
銀の方はどうなってるんだ、それ』
「おそらく、闇の魔法じゃろう。使えるものは地上に居らぬと思っていたんじゃが。
この男は魔法が反発する体質の様じゃの。
この体質のおかげで侵食が緩やかになってはおるが、いずれ全身を侵食され、大爆発を起こすじゃろう」
「腕を、切り落とすのも無理か」
いつの間にか銀が目を覚ましていた。
「言ったじゃろ。落としても爆発はするし、この場所にクレーターが出来るほどの威力にはなる、とな。
逃げる暇もあるまいて」
「ならオレだけ誰も居ない場所に行って」
「やめてください! 銀さんを見捨てる様な事、したくありません!」
「銀、滅多な事を言わないでください!」
『他に方法が無いか探そう!』
俺達の言葉に、風の爺さんが頷く。
「方法が無い訳ではない。じゃがこれには、かなりの風の属性を持つ者が必要で・・・うん?
おぬしか? 先ほどハープを弾いておったのは」
風の爺さんは俺を指差して言う。
『確かにハープは得意だけど、ここに来るまでの間に弾いていたのは、洞窟の向こう側にいる勇者君だ』
「いや、おぬしで良いのじゃ。小精霊達が騒いでおったのはおぬしの音色か。
いやいや、普段気ままな小精霊達が一斉に駆け込んできて、何事かと思ったぞい」
ハープ弾いた途端に逃げて行った、野良シルフ達の事か。
よかった、嫌われてた訳じゃないんだな。
『じゃあ俺はどうすればいいんだ? 銀を助けることが出来るのか?』
「おう、ちょっと待ってるがよいぞ」
風の爺さんはそういうと、俺の頭を鷲掴みにする。
なんだかフワリと体を柔らかい風が駆け抜けた気がした。
「もうよいぞ」
「風の大精霊様、もしかしてそれは」
ポニーさんが目を輝かせて風の爺さんに問う。
「そうじゃ、風の属性があったようじゃからな。儂の力を受け継がせた。
おぬしたちの言う、≪上級魔法≫が使えるようになっているはずじゃ。
うん? 魔法が使えない? ふむ。しかし何かしらの力は増えているはずじゃて。
色々試してみると良いぞい」
風の爺さんと俺のシルフ達が何かを話し、風の爺さんにそう言われた。
風の爺さんは、さらに俺に言う。
「それからこの銀髪の男じゃがの、腕を侵食している魔法を儂の力で抑え込んでおる。
じゃがそれではこの男は、この場を離れることが出来ぬ。
しかしこの男の属性が風では無いようでな。いずれ侵食が再開してしまうじゃろ。」
『それじゃあ根本的な解決になってないんじゃないか?』
「話は最後まで聞くもんじゃぞい。
そこでじゃ。おぬしの風の力を媒体にして儂が銀髪の男の侵食を止めている間に、この男の属性の大精霊に力を貸してもらうんじゃ。
同じ属性の大精霊ならば、おそらくこの妙な魔法の力を上回れるじゃろうしな」
「オレの属性?」
銀が問う。銀は以前、「魔法が苦手な分、そういうのが分かりずらい」と言っていたな。
俺の場合はシルフが見えていたから、検討をつけられたけど。
「おそらくこの感じ、水の属性じゃろうな」
「ありがとうございます、風の大精霊様!」
「ほっほ。普段、精霊はこのような事を教えぬのじゃがな。今回は緊急事態の特別ばーじょんってやつぞい!」
黒蹴の感謝の言葉に風の爺さんは朗らかに笑い、ブイサインをした。
流行ってるの?
ポニーさんが場をまとめる。
「では今後の動向を決めましょう。
まず私と黒蹴、ニルフで水の世界樹近くの石碑を目指し」
その瞬間、奴はやってきた。
「ピィヒョロロロロオッホォオオオウ!」
この独特の鳴き声!
「ハーピーめ! ここまで追ってきたか!」
そう叫んでオノを構えたのはポニーさん。
え? あれがハーピー!? 持ってる図鑑、もっと人族美女美女してたけど!
てか「追ってきた」って?
「アイツ、オレ達を見かけると何か騒ぎながら追ってきたんだ。
お前達が進んだと思われる場所から妙な気配がしていたからポニーが相手をしたんだが。
まさかここまで来るとは」
銀が若干ゲッソリした感じで言う。なにされたの?
「見ツケタゾ! 銀髪ノ男!」
そう叫んだのは、さっき黒蹴が眠らせ、落ちてくるところを俺がキャッチした、フクロウ(大)だった。
相変わらずコルセットっぽい防具が所々砕けていて、左胸が大きく露出している。
出てるのは羽に覆われた胸だけどね!
そんな露出魔フクロウ(大)が俺達に向かって急降下してくる。
そして、
バーン! と透明な膜にぶち当たってそのまま真後ろに転がってった。
「おちつけい」
あ、風の爺さんの仕業か。
俺はフクロウを覗き込む。
「ソノ男ニ用ガアル! 邪魔スンナじじぃ!」
『うぉ、死んでない』
「コレクライデ死ヌカ! ン? オマエ・・・」
フクロウがガバッと起き上って俺を指差した。
「サッキノ有害男ォォー!」
なんだと?
*
フクロウ改めハーピーの話によると、俺と黒蹴が手下の小ハーピー達にひどい事をした。
その後たまたま通りかかった銀が、ハーピー達の治療をして、何も言わずに立ち去ったと言うモノだった。
「アノ時ワタシヲ優シク抱キ上ゲ、顔ノ傷ヲ癒シテクレタ手。忘レナイ。
貴方コソワタシノ≪夢の王子様≫!」
うっとりしつつ銀を見つめるハーピー。
え、でもそれって。
「それって、僕とニルフさんの事じゃぁ」
『シッ。黒蹴も、あれに付きまとわれたく無いだろ!』
いくらスタイル良くてもフクロウの仮装っぽいもんな。
あと、猛禽類が獲物を見るような目がとっても怖い。
「ナンダ! 何故嫌ガル! コノ姿ガ駄目ナノカ!
ナラバ、コレデ如何ダ!」
言うが早いがハーピーの姿が煙に包まれ・・・
人族の女に変身した。
えぇ!? そんなん出来るの!?
煙が晴れるにしたがって細かい所が見えてくる。
顔は先ほどと同じ猛禽類の様に鋭い女顔だが、嘴が消えて人族の目線で見ても美人だ。
髪は羽毛と同じ灰色っぽい茶色のショートカット。
スタイルも抜群・・・というか羽毛が消えただけだな。
服はコルセットっぽい所々砕けた鎧で・・・
後は何も着ていな・・・え?
コルセット鎧以外は何も着ていなかった。
砕けた鎧から色々見えている。
主に左胸とか尻とか左乳とか尻とか左・・・
「あぁあ! ニルフさんしっかりしてください!」
俺は倒れたっぽい。
次回メモ:水
いつも読んでいただき、ありがとうございます!




