フクロウ
~今朝からの出来事~
俺達は朝飯を食べた後、しばらく進んだ。
ちなみに朝食はたき火で炙った果物に、パンを作る粉と(その辺から採取した)タマゴを混ぜて焼いた生地だ。
黒蹴が「焼きバナナのパンケーキだ」と言って喜んでいた。
その後ゴキゲンの黒蹴が率先して進み、30分ほどで山に掘られた自然の洞窟にたどり着く。
中は緑や透明の水晶で出来ていて、すごく神秘的だった。
結構進んだ辺りで、何かを砕く音が聞こえる。
盗賊達がピッケル持ってこっちを見ている!
戦闘態勢に入る俺達。だが、
「特に邪魔しなければ手は出さねえ。こっちの方が最近稼ぎがいいんだ」
と、お頭っぽい人が言っていたのでそのまま通り過ぎた。
どうやら水晶狙いの盗賊のようで、発掘作業中だったっぽい。
勇者君も、相手が危険人物じゃなければ倒さない主義らしい。
そのまま発掘作業中の盗賊さんの中を通り過ぎた。
この辺は盗賊さん達がいるから、敵は出ない。
周りの綺麗な水晶を見ながら、物見遊山にどんどん進む俺と黒蹴。
「おーい、あんま遠くに行くなよー」
笑いながら言う隊長に振り返って手を振ったその瞬間。
バキッ
上から変な音がした。
そのまま俺の前に降り注ぐデカい水晶の塊。
え?
と思ってる間に、通路ががっちり埋まってしまった。
「ちょっおぉぉおお!?」
妙な声を出して前からこっちに走ってくる黒蹴。
あ、よかった1人じゃなかった! じゃない!
分断されちゃった!?
「どうしましょう! このままここで通路が掘り出されるのを待ちましょうか」
『そうだな! ここ魔物も出ないし、あんぜ・・・ん?』
発掘の盗賊さんが居ないこっち側には、魔物がワンサカ出るのでした。
*
って事で魔物と戦いつつ洞窟を出て、そのまま安全な所を探して山道を突き進んでいます!
「昨日勇者さんPTが戦ってくれたおかげで、今日すごく体力余ってます」
『俺、役に立てないとか思ってたけど、今それも良かったって思ってる』
洞窟では岩の魔物に襲われ続け、外では狼と鳥の魔物に襲われ続ける。
転移して逃げようと思ったが、隊長の言う通り発動しなかった。
大精霊の領域の中だからって事か。
もうこうなったら風の大精霊さんの所にまで行って、事情を話して野宿させてもらおう。
お昼を過ぎた曇り空を見つつ、俺達は決めた。
大精霊と会ってきた勇者君の話によると、力試ししたいって言わなければ急に襲ってくるって事も無さそうだし。
それから3時間。日が若干傾き始めた。
俺達はリュックに入れていた保存食をかじり、昼食をとりつつ進んだ。
襲ってきた小鳥の魔物は魔弾で撃ち落した。
小さい飛ぶ相手ばっかり狙ってた分、俺も黒蹴も魔弾の命中率がめっさ上がった。
そんなとき、奴らは現れた。
「ピィヒョロロロロオッホォオオオウ!」
変な鳴き声が聞こえた。
場所は丁度小さい広場のようになっていて、後ろは山道、前は崖。
行き止まりだっ!
と、前方の崖の下からフクロウの全身着ぐるみ(小)を着た10歳くらいの子供っぽい奴らが、10人くらいで飛び出してきた。
そのまま俺達の上空に上がって行き・・・
ん!? 着ぐるみの子供が飛んでる!?
後ろの山道を見ると、17歳くらいのフクロウ(中)着ぐるみ達も飛んでいる。
囲まれた!
そして俺達の上に彼らの影が落ち、フクロウ(小)が一斉に飛びかかってきた!
俺は魔弾で羽を打ち抜きつつ、必死に襲いかかる敵を木刀で殴り付ける。
しかし魔弾は何とか当たっても、すぐに上に飛んでいくため木刀が当たらない!
木刀を振り回し続けていたせいか、フクロウ(小)集団は上空に上がってしまった。
羽を打ち抜かれたフクロウ(小)は地面に倒れてバタついている。
そのまま睨み合う俺と上空のフクロウ(小)。
『黒蹴、大丈夫か!』
「はい! こっちは終わりました!」
え?
振り返ると、後ろにはフクロウ(中)が地面にバタバタと倒れていた。
見るとフクロウ(中)には殆ど傷が無い。
なにしたの?!
「ふっふっふ。僕、ちょっと練習してた魔法がありましてね。見ててください!」
黒蹴は不敵に笑うと、2丁の銃剣を取り出し。
ダ ダ ダ ダ ダン!
素早く小さな魔弾を放った!
それは全て上空のフクロウ(小)に飛んでいき。
全部カスっただけで外れて飛んでった。
『外した!?』
「いえ、これでいいんです」
満足げな黒蹴。
フクロウ(小)達はお互い顔を見合わせていたが、攻撃を仕掛けることにしたらしい。
全員で羽を震わせ、力を貯める。
やばい、あれは風の魔法!?
しかも回復用じゃない。って事は攻撃用、つまりは中級風魔法!?
『逃げるぞ!』
と言った瞬間、フクロウ(小)達はブルっと体を震わせ、そのままバタバタと地面に落ちてきた。
「ね、大丈夫だったでしょ!」
誇らしげな黒蹴。
地に落ちたフクロウ達は寝たり、痺れて麻痺したりしていた。
つまりこれって
「土魔法です。これなら、無駄に命を奪わなくても逃げることが出来ますし。
なによりカスらせるだけで効果が出るので。
ここで小鳥の魔物相手にしてて魔弾の命中率が上がってきたので試してみました!
成功ですね!」
あの難しい土魔法を!?
聞けば、あの仔狼事件の後から練習していたらしい。
どんな異常状態が出るか分からない土魔法を、眠りと麻痺限定で出せるようになるまで。
土の世界樹は封印されているらしく、土魔法は効果が安定しない。
≪異常状態を与える≫という効果しか分からないのだ。
毒のような敵に不利になる効果も出れば、力が上がるといった敵に有利になる効果が出ることもある。
その為、土魔法は実戦では使うことがほぼ無いのだが。
実戦で使えるまでに呪文と技を昇華しただとー!?
とりあえず黒蹴の頭をワシャワシャした。
ギャっと言って逃げられた。とりあえず飛び蹴りしといた。
欠点は、生き物以外には効かないらしい。
だからさっきまで使わなかったんだな。
ほっと一息をつく俺達。の前に
「ピィヒョロロロロオッホォオオオウ!」
またあの声が聞こえた。
そして、
「ワタシノ 仲間ヲ。 ユルサナイ!」
という言葉と共に、20歳くらいの女性の姿に近いフクロウが襲いかかってきた!
上空から襲い来るフクロウ(大)。
上級の魔物なのか、美人な女性の顔をしている。くちばしも付いてるけど。
まるで猛禽類のコスプレをした猛禽類ぽい顔の女性だ。
髪の代わりに羽毛だけど。
コイツだけ羽毛の上にコルセットのような防具をつけている。
スタイルは・・・めっちゃいい。
腹から胸をガードする形のものだが、倒した冒険者から奪った物なのか、所々砕けている部分がある。
特に左胸の部分が無残に砕けて無くなっていた。
デカい胸がそこから出ている。
けどフクロウ。羽毛に覆われてて見とれる部分は無い!
「鼻血出てますよニルフさん!石でも当たりましたか?」
銃を構えつつ相手を警戒する黒蹴に言われた。拭いた。
言いつつ黒蹴が銃を撃つ!
避けようとフクロウ(大)が縦横無尽に飛び回る!
そのまま銃弾は防具に弾かれ・・・ない!
フクロウ(大)の女性にしか見えない顔に細い傷を付け、弾は飛んで行った。
そのまま落ちるフクロウ(大)。
俺はその体を受け止め、状態を見る。
ぼんやりとした目で俺を見てくる。眠気と戦っているようだ。
俺は手にヒールをにじませ、顔に着いた傷を癒した。
そのまま優しく地面に置いて、他のフクロウ達も治癒していく。
俺が羽を折ったフクロウ(小)は、黒蹴が眠らせた後ヒールをかけていた。
俺達はそのまま広場を引き返し、雑草に埋もれかけていた下りの道を見つけて進んだ。
「ニルフさんって、相手が女性だったら優しいですよね」
うるせえよ!
*
夕方近く。
俺達はまた、広場に立っていた。
さっきの広場とは違う、ほぼ谷の中央ら編にある広場だ。大きさは直径10mくらい?
後ろには山道。前には崖。空を見上げると、遮るものは何もない。
俺達は崖を見下ろし、風景を確かめる。
ここから崖下まで大体20m。
眼下には、大きな木の幹が生えていた。
そして目の前には、巨大な木の葉が茂っている。
大きすぎて、遠くから見ると森があるのかと思った。
木は生物というより、薄緑色の水晶で作られた芸術品の様だ。
とうとう、世界樹の木のそばまで来た。
崖下を見た後、隣にいる黒蹴を見る。
黒蹴もうなずく。
キリッとした顔で、黒蹴が言った。
「どうやって降りましょう。これ」
『奇遇だな、同じことを考えていた』
「降りる必要はないさ。ここで死ぬんだしな」
ん? と思った瞬間、首の後ろがピリっとして、振り返った。
真後ろから巨大な炎の塊が襲いかかってくる!?
なんだこれ! 初級じゃこんなん出せないぞ! と思う間もなく横っ飛びで何とか回避!
身体強化魔法、分断されてから掛けっぱなしにしてて良かった。
あ、黒蹴大丈夫か!?
黒蹴は避けたものの爆風に押し出され、崖に両手でぶら下がっている。助けなきゃ!
って時にさっきの炎の奴が俺の左脇腹を蹴っ飛ばす! 崖際までフッ飛ぶ俺!
あっぶねえ! 木刀を地面に付き刺して勢いを削ぐ!
崖際ギリギリで何とか止まった、が黒蹴からかなり離された!
「お前は弱そうだ。おそらくアイツだな」
不本意な解析の末、ターゲットは黒蹴にしたようだ。
そこで初めて相手の顔を見た。
黒い包帯で顔全体をグルグル巻きにしており、表情は見えない。が、声からしておそらく男。
しかし加工されているような声で特徴を掴めない。
さっき蹴っ飛ばされた時に分かったが、俺より30cmはデカい。
着ている服は真っ黒な長いローブで、フードをかぶっていた。魔法使い系か。
でも蹴りがかなり強力だった。
俺と包帯男が戦ってる間に崖から黒蹴が這い上がってきていた。大きな怪我は無さそうだ。
だがすぐに包帯男がそちらに向かう。早えぇ!
足元に魔弾を撃ちつける! 連射だ!
黒蹴ほどの威力じゃないけど喰らえ!
包帯は忌々しげにこっちに右手を向けて、そのまま氷を放った。
氷!? その魔法は使える人が少ないっていうとか考えた一瞬で、俺は右足を氷に貫かれる!
いってっぇ! しかし凍ってるから出血は無い。そのまま走る俺。
その間に体制を整えた黒蹴が魔法を連射しつつ崖際から離れた。
魔法は炎と雷。土は使っていない。あいつも本気だ。
包帯は黒蹴の魔法を全て身体能力だけで避け、崖際に行ってそのまま飛び降り・・・え!? 飛び降りた!?
そのままフワリと空中に浮き、
「そろそろ行かねばならないのでな。これで死んでもらうぞ」
そういって、左手から真っ黒な20cmほどの球を作り出す。
「なんですかあれ。僕達が魔法を出す感じに似てますが。
あんな色の魔法は知りません」
黒蹴が呟く。
「そりゃそうだろう。冥土の土産に知るがいい。
これはお前らとは違う属性の魔法。
この魔法には命令を下してある。≪侵食した者の魔力を使って体内から爆発しろ≫とな。
さあ、俺は急いでいるんだ。さっさと死んでいただこう」
包帯男はそう言って笑うと、大きく左手を振りかぶって、黒球を俺達に向かって。
投げる瞬間に、俺の横から飛び出した何かに腹を抉られ、吹っ飛んだ。
次回メモ:参上!
いつも読んでいただきありがとうございます!
ザックザク話進めていきたいです。




