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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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吟遊詩人ニルフ

 朝早くに駐屯場を出発し、昼過ぎに門を通った。

 今は夕方。


 俺はハープを弾きつつ歩いている。

 ちょっと泣きながら。


 *


 歩く道は細く長く、蛇のように蛇行している。

 白っぽい灰色の石や砂からは、シルフの手と同じ薄緑色の透明な水晶が沢山生えていた。

 植物は雑草が少量生えていて、高山って感じ。


 いくつも連なった山々の中で一番低い場所に、門は建ててあったみたい。

 俺達の右側は高い山の斜面で、左側は崖っぷちだ。

 足を踏み外したら死ぬ。

 道幅は大体人が3人並んで歩けるくらいかな。


 渓谷と聞いた時は、両端を山に囲まれた深い谷底の道を進むイメージをしていた。

 でも実際は高い山の急な斜面に作られた道を下って行く感じ。

 そして下りきった谷底に、世界樹はあるという話だ。


 さて、なぜ俺は泣いているのか。


 最初は、勇者PTに何か役に立てと言われたからだ。


 面と向かっては言われてないよ? 隊長が門での会話聞いてて、怖い顔してるし。

 シー君フーちゃん、こういうことは伝えてこなくて良いんだからね。

 俺、めげちゃうんだからぁ!


 ごめん気持ち悪かった?


 ハープを弾く俺を、勇者君PTは「吟遊詩人」と呼び始めた。俺も自己紹介したんだけどな。


 そしたら勇者君が自分もハープ弾けるって言い始めて。

 ハープ渡したら、俺よりも上手くて。

 しかも歌付きで。

 俺よりも楽しげな深い音色で歌付きで。


 それから俺は勇者君PT内で「劣化吟遊詩人」と呼ばれているらしい。

 まあ吟遊詩人って歌付きだしね?伝説とかの歌を作って稼いでるしね?


 ちなみに俺のハープ、いつもシルフが音を運んでいい感じになるんだけど。

 ここは風の大精霊の境域だからか、誰も協力してくれなかった。

 っていうか弾いてすぐに野良シルフ達がどっかに飛んでった。


 シルフにまで嫌われた!?


 そしたら勇者のハープだよ。

 ショックでよろけるのも無理はない。うん。


 で、よろけた先に尖った水晶があって、膝を打った。


 そのまま泣きながらハープ弾く俺を見て黒蹴が「そ、そんなに痛かったですか?」とヒールしてくれた。

 うれしいけど、そうじゃないよ。


 何故かシー君とフーちゃんは俺にベッタリで、離れなかった。



 敵は出てすぐに勇者PTが倒していった。


 俺と黒蹴は危ないからって後ろに下がらされた。隊長は後ろを守っている。

 俺は声が出ないから呪文も使えないし、武器も木刀だから危ないって。

 勇者も賛同してた。


 隊長と黒蹴はニルフ()も戦えるって反対したけど、俺一人の為に全員を危険にさらせないって事で結局こうなった。


 俺は今、目の前で戦う4人を見ながらハープを弾いている。

 いいBGMになるらしい。

 後、敵も寄ってくると。勇者君の修業にちょうどいいらしい。


 デカい小鳥(デカいのに小鳥?)とか、空飛ぶ鉱石の塊(こぶし大)とか、生えてる水晶に似た牙を持った狼の様な石っぽい物とかが出た。


 小鳥はなんていうか、ヒヨコが50cmくらいの大きさになって空飛んでる感じ?

 羽ばたいてるけど、羽ばたかなくても浮いてた。

 ・・・10匹くらい集めたら乗れないかな?


 出てくる魔物に全部、水晶みたいな鉱石がついてる部分を持ってるな。


「ここの魔物は風の大精霊が使わした、試練の魔物なんだって!」


 勇者君が教えてくれた。


 道理で、さっき隊長が倒した小鳥からシルフが飛び出した訳だ。

 あの水晶を媒体にして、シルフが乗り込んで遊んでいたんだろう。

 俺のシルフ石と同じ感じ?

 倒したら水晶の塊になって砕けた。食えないじゃん!


 4人は出てくる魔物を一瞬で倒していく。

 勇者君はショートソードを持ち、スピード勝負で攻撃を避けて敵をかく乱しつつも魔法できっちり止めを刺して行ってていた。

 狭い足場なのによくやるわ。

 魔法以外の戦い方は、俺と似ていた。

 俺にも魔法が使えればなー。


 他の3人は、初級魔法しか使っていない。

 使えないのではなく、わざと使っていない、そんな感じだ。


「そこだ勇者殿。蹴りも使え」

「あら、ちょっと食らっちゃったわね。さー、もうひと頑張りよ!」


 剣を振るのは勇者君のみ。他3人は魔法で補助しつつギリギリまで手助けしない。

 勇者君愛されてるねー。


 黒蹴は隊長や勇者PTに守られつつ、魔法で遠距離射撃中。

 魔弾と魔法で物理も魔法攻撃もどんと来いだ!


「おい黒蹴と言ったか。中々いい腕前だな」

「ファイターさん、ありがとうございます!」


 皆からの評判も上々だ!


 俺? 木刀使い魔法不使用だから近距離限定よ。フハハ。

 おっと、ちょっと目から汗が。


 そんな時、勇者PTに呼ばれる。


「おい、れっ・・・吟遊詩人。音楽が止まってるぞ」


 今「劣化吟遊詩人」って言いかけただろ。泣くぞ!


 *


 さて夜になった。

 少し広めの広場に出たので野宿する事になる。

 あちこちにたき火の残骸があるので、風の大精霊への挑戦者は皆ここで野宿するのだろう。


 駐屯所の兵士さんも、「行くなら朝早くに出発すれば丁度いいですよ」って言っていたし。


 俺達は山に生息していた小さな動物を狩って夕食にする。

 野菜はさっき山を歩きつつ採取した薬草類だ!

 これで毒が多少含まれていても安心っていう二段設計。

 お城で色々教えてもらってよかった。


 たき火で香草と焼いた肉と、野菜と煮込んだ肉と、たき火の灰に埋めた果物。

 今日の夕食は豪華だ!


 作ったのはシーフさん。ハンマーでダイレクトに肉たたきしてた。

 めっちゃ旨い。

 ちなみにスープは俺作だ。ハンマーさんが旨いって言ってくれた。


 道すがらに薬草・香草類をこっそり採取してたのは俺だったが、最高の品質だとシーフさんに褒められた。

 そして香味薬草肉焼きのレシピとか教えてもらった。


 何気に一番仲が良くなった。


 夕食後、たき火の灰に埋めて蒸かした果物(ハンマーさん作)を食べつつ団欒する。

 丁度いい機会だ。すっごく気になってたあの話を聞いてみよう!

 俺のハープを弾きつつ歌っている勇者君に聞く。


「ボクの勇者の記憶? いいよ!」


 とりあえずハープ返し・・・あ、弾きつつ語るのね。


「じゃあ最初に覚えてるところからね! ボクはね・・・


 生まれ育った街では天才と呼ばれててね。

 よく町の子に戦いを挑まれたんだけど、戦った相手の技術をすぐに自分のモノにしちゃってさ、敵無しだったんだよ!

 色んな町を家族で回ってたんだけどね、どこでもすぐ皆の仲間に入れて貰えてさ。

 ずっと色々な知識を吸収して育っていったんだー!

 それで最後にたどり着いた村では、治癒魔法が得意な子が居てさ!

 村長の娘だったんだけど、その子と一緒に治癒の魔法を勉強したんだよ。

 あ!

 ハープはその村の人に習ったんだ!

 村長の娘と一緒に弾いて、良く遊んだんだ」


 勇者君は顔を赤らめて言う。

 夢に出てくるその子に、恋でもしちゃった?


 そして魔王を討つため一人で旅に出てからは様々な街を救い、村人に礼を言われる前にすぐに立ち去るという生き方をしたという。

 そして最後に魔王と一騎打ちをし、残念ながら死んでしまったが、きっと相打ちだったため、あの世界には平和が戻ったはずだと、勇者君は言った。


 勇者の記憶を思い出したのは1年前。

 気が付くと南の大陸の砂漠で1人ぽつんと座っていたそうだ。


 おそらく勇者の記憶がよみがえったショックで、自分自身の記憶が消えてしまったのだろうと。

 そこにファイターがたまたま通りかかり、それから一緒に旅をしているそうだ。


「勇者としてのボクが瓦礫に埋もれた所で記憶は途切れてちゃってるんだけどね。

 ボクもあんな風に人を助ける生き方をしたいと思って!

 勇者の記憶を思い出してからからずっと、自分の力を磨いているんだ!」


 勇者君は最後にそう言って無邪気な笑みを浮かべた。


「そんな勇者様だから、私達も付いて行っているのよ」

「そうだ。最初は記憶が無くなって自分が誰かも分からず、人形のようだったのにな」


 ファイターさんとメイジさんがうれしげに語る。

 年の離れた弟ががんばってるのを見てる感じなんだろうな。


 いいなぁ、勇者君。勇者が人々を救う記憶を持ってるとかかっこいい。

 同じ≪記憶が無い≫ってのでも、俺のとはだいぶ違うじゃん。

 俺のは変な夢見るばっかりだしさ。たき火に投げ込まれたり無銭飲食で取り押さえられたり。


 もしかしてこれが俺の記憶だーとか?


「なんかニルフさんがシンミリした顔で静かに涙流してるんですけど」


 黒蹴が心配そうに隊長と話している。


「デェジョウブだ! ニルフには俺のとっておきの香味薬草肉焼きを教えたんだ!」


 そう言ってバーン! と俺の背中をシーフさんが叩いた。

 うぅ。ありがとうシーフさん・・・。

 勇者君以外で「劣化吟遊詩人」て呼ばないの、シーフさんだけだよ。


 ・・・ん? 相打ち?


 *


 空から大きな小鳥が数匹、舞い降りてくる。

 鋭いくちばしで目を狙ってきた。


 横の山の斜面からは狼達が駆け下りてくる。

 水晶の牙を鋭く光らせて、喉を狙って飛びかかってきた。


 足元にあった水晶がボコンと外れて、岩の魔物となって襲い来る。

 鋭い水晶の角を心臓に突きたてようと狙ってきた。


 俺と黒蹴は必死にそれを躱しつつ、魔物の体に埋め込まれた薄緑色の水晶を狙う。

 俺が木刀で黒蹴を守り、黒蹴が魔法の連射で水晶を砕いて倒す。


 急降下して顔を狙う鳥のくちばしを叩き割り、足に噛みつこうとする狼に鳥をぶつける。

 その横で黒蹴が岩の魔物の水晶を魔弾で打ち砕いた。


「きつくなってきましたね」

『進むにつれて、団体で襲ってくるようになったな』


 かれこれ30分。

 ずっとこの状態で2人で戦いつつ、山を下っている。


 隊長と勇者PTは?


 答えは、俺達の遥か後ろの洞窟にある。

次回メモ:鳥


いつも読んでいただきありがとうございます!

ほんのりじわじわ読んでくださる方が増えてる気がします!

ありがとうございます!(`・ω・´)キリッ

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