~第三章~男3人むさい旅
序===================
むさい。
俺は高い塀に囲まれた町の中の光景を見て、そう漏らした。
目の前には若者とオッサンと兵士(男)と兵士(男)と兵士(男)。
周りを見ると兵士(男)と兵士(男)と兵し(ry
ここは東の国・王都から南に下った渓谷横の駐屯場。
周りには兵士さんがいっぱい居ます。
そう、全員男。
女性兵士すらいない。
俺は駐屯場の見張り台の上に立ち、広大な景色を見つめる。
眼下は地平線の彼方まで森。
横には海。
反対側は高い山。中に入ると深い谷になっているらしい。
全ての景色が夕日に照らされ、赤く輝く。
すごくロマンチックな雰囲気。絶景だ。絶景なのに。
俺は夕日に輝くハープを一撫でし、手をメガホンの様に口に当てて叫ぶ。
『ケモラーさんとポニーさん、カムバァーーック!!!
百歩ゆずって若葉でも可ーーー!!!』
俺の声は森を抜け、海を越え、南と西の大陸に届く、なんて事は無く。
シューって音を喉から出して終わった。
隣で見張りをしていた兵士が、妙な物を見るような目をして俺に聞く。
「なんで1人でパントマイムしてるんだ?」
それに答えず下に降りると、2人の人影がこちらに手を振る。黒蹴と隊長だ。
黒蹴が親指を立て、
「バッチリ聞こえました!」
「こちらは聞こえなかったぞ」
実験は成功だ。
え? 何の実験だって?
それは・・・
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俺と黒蹴+隊長はピンキー達と別れた後、1度城に転移してから風の世界樹があるという大陸下の渓谷をめざす事になった。
王都の下に渓谷があり、王都からそこに入る道が整備されているらしい。
といってもケモノ道に毛が生えた感じらしいが。
途中に町は無く、王都から派遣された兵士の駐屯場が2か所ある。
ここで風の大精霊に挑戦する者は休息を取るらしい。
近くにはもちろん石碑がある。
王には
「石碑から城に、せめて休息取るだけでも良いから帰ってくるがよいぞ」
と涙ながらに言われた。
なんか俺達2人を見てると、頼りないらしい。
城のメイドさんの噂でも、そう言われていた。(厨房のおばちゃん情報)
そして出発直前、城に「ピンクの髪の女に化けた、すごく強い魔物が森に出る」という報告が冒険者から入った。
俺達の出発が見合されそうな気がしたので、王の耳に入る前に逃げるように出発した。
なんか覚えがあるし。その魔物。
*
そして森の中。結構深い森だ!
やっぱり人の手があまり入っていない森は、魔物が格段に強い。
でも食糧になる! さようならスライムオンリーの草原!
ちなみに出たモンスターは、王都東の森に出たような魔物の強い版だった。
兎(強)、カマキリ(強)、きのこ(強)。
あと蝶、黒い大きな鳥、4足歩行の猫のでかい奴とかもいた。黒蹴によると虎らしい。
食ったら全部おいしかった。
やっぱカマキリはカマ部分が良いよね。肉々しくって。
でも料理を作ってくれるのが隊長。
見張りをしてくれるのも隊長。
怪我をした時にやさしくヒールをかけてくれるのも隊長。
やさしいけど! 頼りになるけど!
お と こ く さ い!
むさいよ! 男3人むさいよ!
いや数日前まで男4人旅だったけどさ。人里を旅してた分、あるじゃん?
美人とすれ違ったりとかさ? 色々さ、あったじゃん?
でも今は、山奥の森で男3人。
やっとたどり着いた人里は、兵士の駐屯場だった。むさい。
2か所とも女性兵士は居なかった。女性職員も居なかった。食堂のおばちゃんも居なかった。クッ。
いや熟女好きって事でもないけど。
2人と別れてから2ヶ月後。俺達は谷の入り口に立った。やったぜ!
入り口は大きな門で塞がれており、ギルド職員と兵士が一人ずつ立っている。
2つの駐屯場からここまでの道は、周りがほぼ侵入不可の崖の為1本道だった。
そのため敵を警戒しつつも探索する場所が少なく、思っていたよりも早く着くことが出来たのだ。
事前に駐屯場の近くの石碑に≪登録≫した。
あれ、でもこの渓谷の中にも石碑があればピンキーと銀の移動が楽になるんじゃないか?
と、ここで隊長が「あ」と声を上げた。
「もしかすると、大精霊の領地内では転移できないかもしれないぞ」
ん?
「認めた者にしか力を貸さないからな、大精霊は。
確かめる術はないが一応頭に入れておいて、すぐに撤退できるようにしておいた方がいい。」
「それじゃあ僕達だけで無理に行かずに、2人に声をかけた方がよさそうですね」
黒蹴の案で、一旦城に転移してピンキー達と連絡を取る事になる。
黒蹴はすっかり無鉄砲さが無くなったなー。
そう思いつつ人目の付かないところに移動し、転移を使うかという時。
「あれ、あなた達も風の大精霊の挑戦者? 」
後ろから俺達に声がかかった。
振り返ると、4人の男女が立っていた。冒険者?
「ボク達も風の精霊と契約しようと思って。良ければ一緒に行こうよ。
旅は道連れって言うしさ!」
そう言ったのは、先頭に立つ10歳くらいの少年だ。
動き易そうな軽装に、薄い色合いのマント。薄い茶色で柔らかそうな髪をショートカットにしている。俺よりちょっと短め。
背は黒蹴より小さい。140cmくらいか?
「おいおい、こんな弱そうな奴らを連れて行くのか?」
そう言ったのは、ガラの悪そうな背の低いハゲた小太りの男。力自慢な風に、大きなハンマーを背中に背負っている。
「あら、私は良くてよ。そちらの殿方はお強そうですし。」
そう言って口元に手を当ててクスクスと笑ったのは、長い紺のフード付きマントに身を包んだ女性だ。
魔法使い! って感じの樫の杖を手に持っている。
かなりの巨乳だ!
フードから覗く顔も妖艶だけど清楚って感じの薄い化粧をしていて、大人の女性って感じだった。
背は170ほどで俺と同じくらい?
「自分は勇者殿の意見に従うのみだ」
最後に渋い声でそう言ったのは、顔に傷のある大柄な男。
何かカッコイイ黒いコートを着ている。背には大剣。
身長2m近いんじゃないか? じいさんとタメ張りそう。
顔の傷は、左眉から右顎あたりまでザックリ一刀両断された感じ。よく生きてたなそれ。
そんな4人が俺達に声をかけてきた。
とりあえずこんな時は、隊長!
「あなた達も、てことはお前達も風の世界樹の元に行くのか」
「うん! ボクら、水と炎の大精霊に認められたから、後は雷と風だけなんだ!」
少年のその言葉に、隊長は驚く。
「そいつはすごいな。その年でシルバーランクか」
「ううん、ボクはギルドに入ってないよ! ギルドだと、困った人からお金取るじゃない。
ボクらは困った人の味方なんだ!」
「おい、勇者殿」
隊長の褒め言葉にうっかり口を滑らせた少年を、傷の男が窘める。
てかギルドに入ってないって、どうやってギルドの門を超えてきたんだ?
大精霊のいる世界樹に行くには、シルバーランクの通行書が要るはずだったけど。
だが隊長は、俺の疑問とは別の場所に食いついた。
「勇者殿? 」
その問いに、少年は笑顔で答えた。
「うん! ボクには勇者の記憶があるんだ!!!」
勇者の記憶?
*
俺達は一旦戻るのを辞め、勇者君たちに付いていく事にした。
2人を迎えに行こうとしたのは戦力が不安だったからだし、転移できそうな石碑に≪登録≫するだけなら付いていくのが安全そうだ。
風の大精霊との戦いを見れれば対策も立てやすいだろうしさ。グフフ。
「ニルフさん、なんか悪い顔してますね」
うっさい黒蹴。
俺達は門番にシルバーランクのカードと通行書を見せる。ランクが上がった時にギルドマスターに貰ったものだ。
門番が頷いた。
俺達は開けられた門を進む。
勇者君達には、先に行くようにと言われている。
一体どうやって入ってくるんだ勇者君。あ、ちなみに勇者の記憶を持っているから≪勇者君≫だ。
勇者君以外は通行書を持っているらしい。ランクは教えてもらえなかった。
俺は弱く見えるからだとよ。ヘッ。
あ、でもそう言ったハンマー男を勇者君が窘めてたな。
いい子だ。勇者君。
俺は待ってる間、空を見上げる。
谷の中は森よりも空が広く、久しぶりに空を見た気がした。
そういえば、と思う。この世界は雲が多い。
この世界の人が快晴という日でも、空の50%ほどが雲に隠れている。薄雲だったり濃い雲だったりの違いはあるが。
そのせいか、色白の人が多い気がする。
そう思って隊長を見る。隊長も色白だ。
俺も黒蹴も召喚されてから日焼けしていない。
隊長がこっそり俺達にささやく。
「なにかあったときは俺にかまわず、転移して逃げろ」
「え、それって・・・」
黒蹴が言いかけた時、勇者君PTが門を開けて入ってきた。
勇者君が居ない。傷男がでかいカバンを持っている。ま・・・まさかそれって。
門が閉まり、兵士の目が届かない場所に行くと、カバンの蓋がパーン! と開いた。
中から勇者君が飛び出し、クルクルクルっと宙返りしてシュタっと着地!
「今日も潜入成功だ!」
元気よくブイサインした。
そんな勇者君に抱き着いて頭を撫で回すメイジさん。勇者君は巨乳が顔に当たって苦しそうだそこ代われ。
あ、4人のあざ名を教えてもらった。
ハンマー男がシーフ、傷男がファイター、フード女性がメイジさんだ。
シーフとファイター逆じゃない? と黒蹴がボソッと呟いてた。ニホン知識ってやつか?
さあ! 大精霊が住むという風の世界樹の元に出発だ!!!
勇者君以外の勇者PTが、俺を見て何か話している。
シルフ、GO!
「もしピンチになったらアイツを囮にして逃げればいいな」
「大切なのは勇者様の御命だけよ」
「足手まといな様なら置いていけばいい。だがあの隊長という男は中々腕が立ちそうだ。
黒蹴という者も、変わった武器を持っている」
泣くぞコノヤロウ!!!
次回メモ:吟遊詩人
いつも読んでいただきありがとうございます!




