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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
戦闘開始!
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SS ピンキーの異世界ハザード 

これはシルバーランクに昇進した後の、4人旅中の一コマです。

 野宿の準備を終えて食事を取った後、俺はハープを引いていた。

 黒蹴は火の番をしていて、銀は目を瞑って少し遠くにいる。きっと見張り中。


 ピンキーは何をしているのか見てみると、デカイすり鉢のような物で何かを一心不乱にゴリゴリしていた。


 ================

 ~ピンキーの異世界ハザード~

 *このSSはピンキー目線で進行します*


 俺は皆に背を向けて、透明な鉱石を入れた。細かい粒子になるまですりつぶす。ゴリゴリゴリゴリ・・・。

 俺はその間、異世界に召喚されてから考えていた目的の1つを思い出していた。ゴリゴリゴリゴリ・・・。


 *


 俺は王様の前にいた。今日は俺の世界の知識を買ってもらうために来た。

 火を吹け俺の異世界ハザード!


 さっそく知識のいくつかを王に伝える。


 自信作はこのビニールハウス!

 この世界に空気の温度を一定にする魔法や技術は無い。ならば寒い場所でも植物を育てられる技術は売れる!


 この世界の文化レベルは既に王宮魔術師に確認済みだ!


「うーん。そうじゃのう・・・ひじょーに言いづらいんじゃが。」


 あれ?王様が唸っている。


「その技術を広めると、天才が現れたと噂が流れる。この国だけでなく他国にもな。

 他国の首脳陣は直に召喚者の知識と気が付くじゃろう。

 正直な所、召喚者達が政治的に利用されそうなことは辞めてもらいたいんじゃ。」


 王様はやさしい瞳で俺を見つめる。

 黒蹴のサッカーを広める際も、その事を危惧したらしい。

 異世界のゲームだとばれない様に田舎の町が発祥と噂を広めたそうだ。


 危なかった。この王様でなければ技術知識目当てに幽閉されていたかもしれない。

 あまり便利すぎる物は諦めよう。

 王様は最後に、


「我々は、世界をひっくりかえすような技術を授けて貰おうと期待して城に招待したのではない。

 自分の好きなように生きなされ。妙な使命感なぞ必要ないのじゃ。

 自由に生きるその過程で必要になったならば、その知識を使うと良い。

 ただし、あまり革命的すぎる物は勘弁願いたいな。」


 そういって、笑ってくれた。


 そうか、俺は異世界人として知識を広めなければと思い込んでいたのかもしれないね。

 物語の召喚者達のように何かを作らなくてはいけないと。


 俺は俺なんだよね。


 王様の言葉で目が覚めた。

 俺は、俺が必要な時に必要な物を作っていこう。


 *


 というわけで、俺は娯楽を考えた。


 2か月の訓練中、見事なサッカーのボールさばきを見せてくれた黒蹴のように。俺や黒蹴が落ち込んでいた時にハープを聞かせてくれたニルフのように。

 小さなスライムを見せて和ませてくれた銀のように。


 俺も皆の娯楽になる何かを作ってみよう。


 娯楽と言えば、ニルフの様な音楽。これは専門知識を知らない。却下。

 次にゲーム。囲碁、チェス、将棋、生憎これらは既に似たようなものがあった。トランプ、花札も同様。花火もしっかりとあった。


 さすが何百年以上も平和が続いただけあるね。きっと世界全体が鎖国中の日本並みに平和だったんだろうな。


 唯一リバーシだけは無かった。とりあえず候補の一つに数える。


 後は・・・、アクセサリー、この世界にない食器や装飾品、調理法かな?

 ガラスや陶器はあったし、とりあえず磁器からやってみよう。


 陶器より丈夫だし、お金に困ったら売れそうだし、王様にプレゼントしても喜ばれそうだよね。


 そうして俺は磁器の皿を作ることに決めた。


 *


 そして今日。色々な場所を巡っているうちに磁器の素材になりそうなものが揃ったので、さっそく試すことにしたんだ。


 向こうでは黒蹴が火の番をしてくれている。

 ニルフのハープに自然の音が混じっていて美しい音色だ。

 銀もどこかで見張りをしてくれているんだろう。

 今日は作業に集中できそうだね。


 石英っぽい透明な結晶と、長石っぽい白い石と、粘土質物になりそうなネットリとした泥を用意し、石を粒子になるまですりつぶす。

 こっそり町で買ってきたすり鉢だ。


 全部粒子になったら混ぜ合わせる。

 夕食に食べた動物の骨も、灰にして加えてみた。捏ねた後はしばらく寝かせる。


 後ろで不思議そうな顔をしたニルフが覗き込んでいた。

 ボーンチャイナにするんだよ、と教えた。


 *


 城に戻ってから、十分に寝かせた土を練って成形する。

 本当はロクロが欲しかったんだけれど、無いのでヘラや手で成形した。


 今回は試しに作ってみただけなので、小さな小皿を作ってみる。

 ちょうど日本酒を飲むくらいの浅い御猪口に似てるね。


 しばらく乾燥させた後は、今度は魔法で燃やす。

 本当は窯とかでやるのが良いんだろうけれど、小さい御猪口だし魔法でやって見る。

 危ないので今日は野宿に持ってきた。


 ニルフが不思議な顔をして見ている。


 最近よく後ろで見てるよね。

 ただ土を練って燃やしてるだけだけど、面白いかい?


「失敗作・もやす?」

「違うよ。焼き物を作っているんだ。」


 ニルフが納得したように頷いた。

 ニルフの声を戻す知識もあればよかったんだけどね。


 その後冷めたその皿に自作の濁った液をかけ、前より強い炎を出して焼いた。


 *


≪出来上がったのは白い綺麗な小皿だった。しかも城で使われる陶器よりも丈夫で割れにくい。≫

 こうなればよかったんだけど、実際出来上がったのは茶色い皿だった。


「本当は真っ白な透明感のある綺麗なお皿が出来るはずだったんだけど。

 やっぱり材料が似てるものだけで作っても失敗しちゃうね。

 小説のような鑑定の魔法があればなぁ。作り方もまずかったかな。」

「落ち込む・しない・つぎ・がんばれ」


 しょんぼりする俺をニルフが励ましてくれる。

 色々手伝ってくれたのにごめんね。


 ニルフは俺から茶色い小皿を受け取り、何かに使えないかと四六時中皿をいじっていたが、俺に返してきた。

 やっぱりただの茶色い小皿だろう?


「まりょく・こめる」


 ん?何かあったのかい?

 言われた通りに魔力を込めると、皿がピカリと光った。


 これは・・・アレに使えるかもしれない。


 *


 俺は細い筒の先に皿を取り付け、光の出る範囲を絞り込んだ。

 そのまま筒全体に魔力を通す。

 魔力の通った皿が強めの光を放ち、真っ暗な前方を照らす。


「あ!それって!」


 黒蹴が一番に気付き、声を上げた。

 そう、懐中電灯だよ!

 3人の前で魔力を通したり強めたり弱めたりする。


「これってかなり便利な物じゃないですか!?

 光の呪文とか無いですし、炎や雷で照らすのも危険ですし。

 魔力の量で光の強さを調節できるのもいいですよね!

 僕にも貸してください!」


 日本で見慣れた物を目の前にして、黒蹴がとっても元気だ。

 いいよ、と頷いて渡す。


「こうやって筒から皿に魔力を通すんですね・・・うわぁ!?」


 皿から、火が出た。


 *


 あの後、皆で魔力を順番に込めてみた。結果。

 俺は光、黒蹴は火、銀は水、ニルフは風が出た。


 あの時魔力を込めろとニルフが言ったのは、妙な風が吹いた気がしたからだそうだ。

 確信は無かったそうだが、一生懸命作っているのを見て無駄にしたく無かったから、と言ってくれた。


 ニルフは魔法を使えない。そのせいで、自分が役に立っていないと思っているような気がする。


 彼は、無意識に皆を励まそうとしている事に、自分で気づいているのかな?

 その事で、俺達が救われていることに気付いているのかな?


 魔法や戦いのない日本から急に知らない世界に飛ばされた俺。

 きっと1人だけだったら、こんな旅は出来なかっただろう。

 きっと城に引きこもったまま、日本に帰りたいと泣き続けていただろう。


 黒蹴が日本に帰りたいと頑張るから、俺も頑張れる。

 銀が皆の安全を考えて行動してくれるから、俺は生きている。

 ニルフが励ましてくれるから、俺は今ここにいる。


 俺は、皆に何かしてあげられているかな?


 *


 この懐中電灯は人によって出る物が違ったので、懐中電灯とは呼べなくなった。

 でも便利だったので≪カイチューデントー(日本語発音そのまま)≫と呼んで野宿の時に重宝している。


 魔力加減を間違えてもほどほどの量の水や火しか出ないから、料理の時に使いやすいんだ。

 まあ人によって出る魔法が違うのが難点だけどね。


 ニルフがあまりにも嬉しそうに≪カイチューデントー≫で風を出しているので、もう一個作ってみる。


 ・・・あの後同じ手順でいくつか作ってみたが、全てただの茶色い皿になった。


 後日城に拠った際、この皿は≪世紀の大発見≫と言われて王宮魔道士達の研究材料になる。


 その後世界中に普及するのは、もう少し先のお話。


次回メモ:むさい。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

さくさく進めたいのですが、気付くとゆったり進んでいます

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