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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
戦闘開始!
27/187

 ピンキーは、殺ってはいませんでした。


 切れない世界樹剣の、ちょっと強めの峰内みねうち?を受けて意識を飛ばした冒険者3人をロープでぐるぐる巻きに縛る銀と俺。


 銀の方、縄がメリメリいってる。


 ピンキーはそんな3人を放っておいて、リザードマンと毛玉の治療に走って行った。


 ようやく放心状態から戻った黒蹴もピンキーの元に走る。若干目が点のままだけど。


 俺もピンキーの元に向かう。黒蹴は毛玉にヒールをかけている。

 ピンキーはリザードマンを治癒させてる・・・が、俺をみて悲しげに首を振る。


「傷が深すぎて・・・。」


 胸の傷は骨どころか、内臓の断面も見えていた。

 首の傷もひどい。半分以上の肉が無くなっている。


 もう、リザードマンの持ち前の生命力の強さで何とか耐えているだけ。

 すぐに命の火は消えてしまうだろう。


 ピンキーが胸の傷を癒し、俺もにじみ出るヒールで首を癒す。

 少しでも苦しみを取り除けるように。せめて痛みだけでも無くせるように。


 銀が、いつもスライムと薬草を入れている小さな袋から緑色のクリームを取り出す。

 見た感じ、上質のクリーム?


「スライムがな。水と薬草を餌に入れていたんだが、最近こんなものを出すようになった。

 この前、城で分析に出したんだがどうやら上質の軟膏らしい。無いよりはマシだろう。」


 銀がクリームを傷に塗る。ちょっと俺の手についたが、大きめの切り傷が一瞬で治った。

 これめっちゃいいやつじゃね?


 袋から銀のスライムが飛び出して、軟膏と一緒に傷に張り付いた。

 その部分の傷の治りが早くなる。

 もしかしてこのスライム、薬草を餌にしてるから治癒効果持ってるのか?


「目が覚めました!この子、ピンキーさんの耳と尻尾に似ています。

 狼の子供じゃないですか?」


 俺の考えは、黒蹴の言葉で遮られる。

 茶色い毛玉が意識を取り戻し、怯えながらも小さく伸びをする。


 耳がピンっとしていて尻尾がシュっとしていて、黒蹴の言う通りピンキーの獣耳と尻尾のようだった。まさに狼だな。

 大きさは尻尾を入れて70cmほど。


 仔狼は俺達に怯えつつ、リザードマンに気付いて飛びつく。

 苦しそうな声を出しつつ、リザードマンが目を覚ました。


 俺達を見つめ、仔狼を見て、何かを伝える。

 俺達には魔物の言葉は分からない。だが、邪魔してはいけない何かだというのは、分かった。


 嫌がる仔狼。しかしリザードマンはピンキーに顔を向け、何かを鳴いた。

 頷くピンキー。


 リザードマンは安心したような表情を浮かべ、そのまま息を引き取った。


 その表情は、以前戦ったゴブリンロードへの勝利を見届けて息を引き取ったという、名も知らぬ兵士と同じ顔で。


 ピンキーが呟く。


「あの3人の冒険者さ、俺に笑って言ってたよ。

 こいつらはどうせ使い捨てなんだから、テイマーに使われるのが当然の存在なんだから、存分に遊んでやって満足したら殺すんだって。

 人間ほど自我も持ってないんだからってね。

 俺、魔物の言葉は分からないけどさ、このリザードマンがなんて言いたかったか分かったんだ。

 コイツを頼むって、そう言ってた。自分はもう長くないから、って。

 この仔狼さ、俺が引き取ってもいいかな?」


 ピンキーの目は、冷たくなっていくリザードマンの体に縋って鳴く仔狼を見つめていた。


 顔は穏やかだったが、心はきっと泣いているんだろう。

 一番泣き虫のくせして、こういう時に泣かない。


 俺達は黙って、うなずいた。


 ずっと縋って鳴く仔狼をピンキーが引き離し、俺達は石碑のそばにリザードマンを埋めた。


 ピンキーはその間ずっと仔狼を抱きしめていて、仔狼はその手にずっと噛みついていた。

 何度歯を立てられても、ピンキーは手を離さなかった。


 埋め終わった後、花を供える。石碑のそばはいつでも広場になっていて、いつでも日が差し込んでいる。

 シルフも一杯いるから、きっと寂しくないよ。俺達もたまに来る。


 気を失ったままの冒険者3人は、街道近くの石碑に転移して置いてきた。

 その頃にはすっかり仔狼はおとなしくなっていたが、ピンキーと黒蹴は先に港町に戻ることにした。


 俺達だけでもう一度リザードマンを埋めた石碑に行き、森の奥を目指す。


 途中、あの3人にあった場所を通った。そこにはあのリザードマンのウロコと、槍の石突いしづきが落ちていた。

 俺はそれをポケットに入れる。


「オレには、魔物に感情が無いとは思えないな。」


 手にスライムを乗せたまま、銀が呟いた。


 キノコを採ってギルドに報告し、宿屋に帰る。

 すっかり夕方になっていた。


 宿屋では、黒蹴がピンキーにヒールしていて、仔狼は眠っていた。

 綺麗に洗われた仔狼は、真っ白な毛並みをしていた。


 この事件をきっかけに、黒蹴は必要時以外は魔物を殺さないようになる。

 リザードマンが、トラック事件の自分と重なったのかもしれない。

 ずっと人目を忍んで、何かの魔法を練習し続けていた。


 ピンキーは逆に、「降りかかる火の粉はしょうがないよね」と困ったように笑って、敵を倒すようになった。


 *


 夜になり、夕食を取りつつ団らんする。

 明日の朝には出発する。


 ピンキーは行商が盛んな西の国に、銀は環境の厳しいと言われる南の国に、黒蹴は一番近い世界樹を目指してこの大陸の下側に。

 この前ちょうど城に帰った時に、大陸下側の調査が終わったと言われたからな。


 俺はおそらく風の属性だという事で、しばらく黒蹴と一緒に行動を・・・。


 とここでふと思う。


『俺達が分かれて旅立つ事ってさ、王様に言ったっけ?』

「「「あ」」」


 忘れてました。報告。


 *


「ダメじゃ!危険すぎる!」


 次の日、城に飛んで王様に謁見すると、速攻で却下された。

 しかし俺達も食い下がる!


「そんな!もう大陸の安全は保障されてるのに!」

「なぜですか王様!」

「他の大陸から来た冒険者たちは、危険な魔物が出たとは言っていませんでしたよ!」


 食い下がってるうちに大臣が助け舟を出す!

 そういう手筈になっている。謁見前にしっかりと交渉済みなのだよハッハッハ!


「ぬぬぬ、反抗するな・・・。大臣よ、変な入れ知恵をしておるのではないか?」

「何のことですかな?王様。」


 涼しい顔で流す大臣。作戦開始だ。


「ところで何故、王はそこまで反対するのですか?

 自分たちで生き延びる力を身に着けた今、無理に止める必要はないように思いますが。」


 ここから王と俺達の攻防が始まる。


 他の大陸に渡るのは絶対にダメじゃ!

 1人でも生き残れる力をつけた現在、無理に旅をする必要はないんじゃないか。

 城で鍛錬し、ギルドで簡単なクエを受け、城の者が情報を集めるのを待っていればいいんじゃないか。

 転移の地点が共有なら、無理に全員が旅に出なくてもいいのではないか。


 王は俺達に、そう尋ねる。


 俺・銀・ピンキーは、せっかくこの世界に来たんだし、好きなように世界を廻ってみたい! と言う。


 そして最後に黒蹴が、


「僕は特別な武器を受け取ったとき、本当はゲーム感覚でした。

 僕は英雄なんだっていう気持ちがどこかにあって。

 ギルドがあると聞いた時も、本当に死ぬなんて思ってなくて。

 でもあの森でピンキーさんが僕のせいで傷ついて、僕自身も死にそうになった時、初めて『ゲームじゃない』って実感して。

 それで何度も外に出るのを辞めようかと思いました。安全な街に居ようかって。

 けど城や仲間やギルドの皆さんを見ていて、それじゃいけないって思って。

 勇気を出して皆と旅をしました。本当は怖かったけど、皆が一緒だったから行こうと思えて。

 ・・・今は自分の意思で旅をしていきたいと思っています。

 待ってるだけじゃなく、自分の足で帰る方法を探してみたいんです!」


 王は、その言葉でしぶしぶ許可を出してくれた。


 一番渋ったのは≪南の大陸に行く事≫だったが、その理由はさっき(勝手に)大臣に聞いていた。


 ------------------------------

 王様の2人の子供は俺達が召喚される1年前、南の大陸で忽然と姿を消したそうだ。


 南の国の王女の1人が20歳の息子の方に輿入れする時の儀式中の事だったそうだ。

 儀式の内容は、花嫁の国まで兄弟で迎えに行くというもの。

 しかし突然、守っていた両国の兵士団ともども消えてしまった。


 消えたと推測される場所には大量の赤い血糊や肉片と、王子達と王女が身につけていた装飾品の欠片が発見された。

 魔物や盗賊、革命、内部反乱思いつく限りすべて調査したが犯人も行方も分からなかった。


 そして王妃はこの事が心労となり、数か月後に亡くなってしまった。

 その後、魔物の仕業として処理されたが、両国は今でも事件の真相を調べつづけている。


 よくこれで両国が戦争にならなかったものだ。

 大臣に聞くと、昔話として語り継がれている魔族がストッパーになっているそうだ。


 市民には昔話として伝わっている。

 だがそれぞれの国の王家には、まさに存在を証明する証拠が残されており、絶対に人族同士で争いをしてはいけないと、王族としての誓いにあるそうだ。

 -------------------------------


 という訳で、王は大臣の提示した条件を受けることで納得してくれました。

 その条件とは、≪ケモラー、ポニー、隊長をそれぞれ護衛につける事≫


 俺達はその条件を飲み、それぞれに護衛がつくことになった。


 ピンキー→ケモラーさん(すごい勢いで「私、西の国の冒険者だったんで!」と言って手を握って離さなかった)


 銀→ポニーさん(南の国にある大精霊の世界樹に行ったことがあるらしい。もう一度あの環境で鍛えなおしたいそうだ。)


 俺&黒蹴→隊長(二人一組でずっと行動する事が勝手に決められていました。一時的なつもりだったのに!)


 俺達だけ男PT3人。というか女性2人がピンキーと銀に吸い込まれていった。ちくしょう!


 俺と黒蹴は、顔を見合わせてこっそり溜息をついた・・・。


 ちなみにポニーさん、なぜ冒険者でも無いのに南の国に渡ったことがあったのか。

 理由は火の大精霊に会い、世界樹の石碑に≪登録≫するためだった。


 ん? それってもしかして。


「おそらく自分の属性は火ではないかと思いましたので。」

『その属性を知る手段があるんですね!』

「今の所、確率する技術は発明されていないな。この者は勘で当てたという所だろう。」


 王に聞くと即答された。残念。


 それから、世界に4つある大精霊の世界樹のうち雷の世界樹は小さな孤島にあるらしく、船も出ていないと教えられた。


 この場所は後回しにしよう。


 俺達は(王公認で)それぞれの大陸で旅をし、石碑に≪登録≫していくことになった。


 時期を見計らって4人で集まり、それぞれの大陸の石碑に≪登録≫しつつ世界樹の大精霊に会う。


 ピンキーは行商するという事で、ずっと使ってきた馬車と馬を連れて行くことになった。

 もちろん仔狼も一緒だ。

 仔狼の首には、あのリザードマンのウロコの首輪があった。

 ピンキーはネックレスをつけている。もちろんペンダントトップはリザードマンの槍の石突。


 俺達は再会を約束し、別れる。


「元気でね、皆。」

「危ない場所の時は呼べよ。」

「皆さんも怪我に気を付けてくださいね!」

『次に会った時は自力でしゃべるからな!』


 港街から2人は、それぞれの目的地への船に乗る。

 ピンキーと銀が見えなくなるまで、手を振った。

 俺達に涙は似合わない。


 だって気が向けばすぐに会えるし!

次回メモ:しばらくSS&大陸地図


いつも読んでいただきありがとうございます!

次回はSSと地図投稿します。

地図は重いかもしれないので、別に投稿します。見れる方だけ見てみてください!

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