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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
戦闘開始!
26/187

 初めて召喚されてから約半年。俺達は色々な敵と戦い(ほぼスライムだが)、様々な場所を冒険した(東の大陸上半分だが)。


 その間、妙な魔物騒動や俺達が召喚された理由が不明な事、俺達が元の世界に戻るにはどうすればいいか、などについて話し合った。


 結論は、「何があるか分からない為とりあえず力を付けておいた方がいいだろう。」という事。


 このまま4人で旅を続けた方が安全だろうが、それぞれにやりたい事も見えてきた頃だった。

 それに、もしも見えないタイムリミットがどこかにあるとしたら・・・。


 もし時間が許すのであれば、俺は喉の怪我を治して声を取り戻したい(自分が誰かも知りたい)し、黒蹴は大精霊と会って元の世界に戻るヒントを得たい。

 ピンキーは行商をしてみたいし、銀は己を厳しい環境に置いて力を伸ばしたい。


「でも石碑に≪登録≫しないと力も増えないし、バラバラだったら皆がどこにいるのか分からないから危ないよね。」


 ピンキーがしっかりとした意見を出してくれる。

 まあ期限なんて無いんだから、強くなってから考えてもいいだろうという雰囲気もあった。


 そんな頃、俺のハープが折れた。

 そしてその事が切っ掛けとなって判明した、一つの驚くべき事実。


 話は、1ヶ月前にさかのぼる。

 --------------------------------------


 俺達は街道中間地点の街で適当な依頼を受けた後、港町にいく道すがら色々な山や森を散策しつつ、旅をしていた。


「森や花畑とか、自然がありさえすればどこにでも石碑が出来る可能性があるって、移動には便利ですけど探すのは難しいですよね。ポイントとか絞り込みにくくて。」

「野原に有ったかと思えば、何もない荒野の岩の上に泉と石碑があったりするもんね。俺が岩に登った時にたまたま見つけたけど、あの時はホント笑ったよ。」


 ピンキーと黒蹴は今日もよくしゃべる。もうすっかり探索の光景の一部だ。

 俺もいつも通りに、返事代わりにハープを弾く。


 その時バリっと大きな音が響く。


 ん? なんか絃がぐにっとした?

 下を見た俺と、俺の方を見た黒蹴が同時に叫んだ。


「『あぁあ!ニルフさんのハープが折れた!!』」


 俺のハープは絃の張りに耐えられなかったらしく、軸の木が真っ二つになっていた。


 あぁ、初めて買ったハープだったのに。使いやすくて気に入っていたのに。ショボン。


『ゴブリンの時に掘り出した後もちょいちょい修理しつつ、ずっと使っていたからな。もう、木製部分が限界だったんだ。』

「一度城下町に行くかい?目撃のあった石碑の場所までまだ数日はかかりそうだし。この辺りは弱い魔物しかいないし、ニルフの抜けた分は俺達でどうにかできるよ。」


 俺の悲しそうな顔を見たピンキーが気を使ってくれる。


『いや、大丈夫。ハープが無くても特に困ることはないし。石碑を見つけてから修理しにいくよ。』


 俺は笑ってそう言った、が。その後すぐに問題が発生する。

 折れたハープを気に行っていたシー君とフーちゃんが拗ねて、周りの音をめちゃくちゃに集めて拡散し始めたのだ。


 応急処置として折れた木を固定して修理した物で、何とかシルフ達を宥めつつ進もうとする。しかしシルフ達は納得せず暴れまわる。


 普段はこんなことしないのに。


「音で気配を読みにくい・・・。」


 とうとう銀が根を上げた。

 という訳で俺だけ城下町に転送しました(withシルフ2匹)


「オレ達が≪登録≫できたら城下町に集合して、ニルフを連れて石碑まで一緒に飛べばいいんじゃないか」


 と、銀が提案したのだ。


 可能かどうかは分からない。だが俺があの場所に居る限り、シルフ達の暴走のせいで全員が危険な目にあってしまうかもしれない。

 シルフのかき混ぜる音に釣られて、魔物が寄ってこないとも限らないし。


 そして俺は城に転移した。城下町に転移すると石碑周辺が大騒ぎになるからな。

 普通は転移能力なんてないし。


 すぐに前の楽器店に行き、ハープを修理に出す。が、


「兄ーさん、こりゃもう無理だね。」

『え。何とか治せませんか?仲間のおきにいりなんです。』

「うーん、これはもう手の施しようが無い。俺の店の楽器をここまで大切に使ってくれて、逆に礼を言いたいほどだよ。」


 店主にそう言われ、俺は途方に暮れた。


 *


 俺が抜けた後、3人は特に大きな事件も無く、2日目に石碑を見つけた。

 石碑近くで3人の男PTが、2mほどのリザードマンに命令して魔物を倒しているのを見かけた。


 変わった特技を持つ奴もいるな、と銀は思ったが、特に害は無さそうなので放っておいたそうだ。


 石碑に≪登録≫後、城下町で俺と合流。俺はちょうど新しいハープを貰った時だったな。


「ニルフさん!こっちですよー!」

「あ、新しいハープ買ったんだね!なんか透明でキラキラしてて綺麗だねそれ。」

「疲れた顔してるが、何かあったのか?」

『店にあるのじゃシルフ達が納得しないでさ・・・。1から新しいのを作る羽目になった』


 あれはちょっと大変だったわ・・・。楽器屋のおっさんが俺を伝説のハープ使いとか言い始めてな。


 まあそれは置いといて、疲れた俺と共に城で転移する事にしたんだった。

 城では王様が、久々の帰還に大喜びしていた。俺が帰った時に4人分の準備をしていたらしく、豪華な昼食を用意してくれていた。


 その後、部屋で転移を行おうと4人とも武器から地図を出す。

 その時、俺は不思議なものを見つけて声をあげた。


『あれ?俺の地図、知らない場所に転移用の赤いマークがついてるんだけど。』

「ん?ここって、ニルフが離脱してる間に回った石碑の場所だよね。」

「もしかして、実際に行っていなくても誰かが≪登録≫さえしていれば転移可能とかですか?」


 試しに俺だけ転移してみると、≪登録≫していないにもかかわらず転移は可能だった。

 登録し、戻って3人に報告をする。ずっと地図を見ていたピンキーが驚いた声を上げた。


「すごいよこれ!ニルフがこの石碑に転移した時、赤い点が大きくなって点滅してた!

 さっき城下町に転移した時は気づかなかったけど、もしかしてこれって4人の居場所が分かる機能じゃないかな!」

「試してみる価値はあるな。これがもし考察通りの物だとすれば、4人で好きな場所に行く案も実現に近くなる。」


 銀の発案により、俺達はその後色々なパターンを試すことになった。


 世界樹島や城などの安全ゾーンとフィールとの石碑との表記や転移できるかの違い、≪登録≫した人数が多い場合のみの機能なのか、だれか一人だけでも≪登録≫すれば発動する機能なのか、などだ。


 今回≪登録≫した石碑から旅を再開して、試しつつ旅を続けた。


 結果分かったこと

 1.誰か一人でも≪登録≫すると、その場所に転移できる

 2.転移は可能だが、実際に≪登録≫しないと力は手に入らない

 3.街やフィールドなどは関係ない。

 4.1人でもいる場所は赤い点が大きくなり、点滅する。人数や誰が居るかは分からない


 こんなところかな。大体銀とピンキーの考察通りだった。


 この世界に大陸は3つある。大精霊は4人。俺達も4人。

 そこで4人に分かれてそれぞれの大陸の石碑に≪登録≫しつつ、世界樹の近くの石碑に≪登録≫していけば。

 短い時間で世界中の石碑に≪登録≫することが出来る。


 つまり、大精霊の住む世界樹の近くの石碑にも!


 そして世界樹の近くの石碑にたどり着いた場所から大精霊に認められていけば、力が早く手に入り、元の世界に戻るための情報も集まるかもしれない!


 というわけで俺達は、しばらく行動を別にすることになった。


 *


 そして話は現実に戻り、ここは東の国最東にある港町。

 ギルドでクエストを受けてから転移をする。

 目的地は、港町の南に位置する森の奥に生息するキノコだ。街から森まで結構な距離があるため、今回だけ特別に転移した。


 俺は森を歩きつつ、ハープを引く。手に持つのは練習用の木のハープではなく、キラキラと透明に輝くハープ。

 順調にいけば3時間ほどでクエストは終わる。俺はすこしだけ感傷に浸りながらハープを弾いていた。

 黒蹴とピンキーもいつも通りに軽口をたたきあう。


 と、2人の会話に怒鳴り声が混じった。


「ぉぃ、なにやってんだよ!」

「ほらほら早くしないと、大切な子が死んじゃうよ~?」

「ギャハハハ!お前助けてやんねえのかよ!お前のリザードマンだろwww」


 声はだんだんデカくなる。周りを警戒していた銀の眉間にしわが寄っていた。

 珍しくイラついてる?


 声の方を見ると、冒険者風の3人が3mほどのクマ(魔物ではない)と戦っていた。

 いや、詳しく言うと、3mほどのクマと2mほどのトカゲを擬人化したかのような魔物が戦っていた。


 確かあれって、リザードマンだっけ。手にはボロボロの槍を持っている。


 よく見るとクマの右手には50cmほどの小さな茶色い毛玉が握りしめられている。

 リザードマンは必死にその毛玉を助けようとしているようだ。2匹はこう着状態になり、睨み合う。


 それを離れて見ている冒険者3人は楽しそうだ。

 ただ≪強敵との戦いを楽しむ顔≫ではなく、≪面白いショーを見る顔≫なのが気になるが。


 変に手を出すのもトラブルの元になるが、少し気になるので見ている事になった。

 ていうか銀がここから動こうとしない。・・・ナイフ軽く触ってるけど、あいつらに投げるなよ?


 睨み合っていた2匹に動きがあった! リザードマンが手に持った槍を、クマの喉に突きだす! 

 速さはあるが、動きが遅い。万全の状態じゃないのか?

 クマはそれを右手で払いのける!

 その衝撃で、ボロボロの槍が砕け散った。しかし闘志は下がっていないリザードマン。がんばれ!


 力の籠った右手に握られた毛玉が、血を吐いた。

 なんだ? 生き物かあれ。血を見たリザードマンが一瞬怯む。

 その瞬間、クマの左手の大きな爪が、リザードマンの胸を切り裂いた!

 そのままとどめを刺そうと、クマがリザードマンの首に噛みつき・・・。


 そのままメリメリという音をさせながら、首をかみ砕こうとするクマ。


 おいおい!冒険者3人は何をしてるんだ!?

 さっきの会話的に、一人はテイマー。つまりお前らのリザードマンって事だろう!?


 横を見ると、銀がナイフに軽く手を添えている。数は4本。

 待って抑えて銀。顔が無表情でめっちゃ怖いよ。


 冒険者3人は一通り腹を抱えて大笑いした後、一息ついて1人が呟く。


「もういいわ。お前。」


 そしてナイフを3本。クマと死に掛けのリザードマンと毛玉に向けて投げ・・・。


 そのうち2本は、銀のナイフによって阻まれた。


 高い音を響かせて弾かれる、2本のナイフ。

 残りの1本はクマの眉間に深々と突き刺さり、その命を奪った。


「誰だ!」


 冒険者3人が周りを警戒する。遅いよお前ら。

 銀がナイフ投げた時もうダメかと思ったけど、自我保っててくれてよかった。


 ホッとする俺の肩を、ピンキーがポンっと叩いた。顔は相手を安心させるような、優しい笑顔。

 そしてピンキーはコートの前を閉め、森に入るときに邪魔だと言って束ねていた髪を降ろし、(ケモラーさんに無理やり渡されていた)女性用の帽子をかぶって、銀に向かって


「俺に任せてもらっても、いいかな?」


 女性の声にしか聞こえない得意の裏声で、そう言った。


 満足げな表情で頷く銀。え、ちょっとまって何に納得したの今。

 黒蹴を見る。あいつもキョドってる。仲間だ!


 ピンキーは完璧に女性の格好になっている。

 パッと見、≪森の別荘に療養に来たお嬢様≫。

 そして一人で冒険者3人の元に行く。な・・・何する気?


 喚いていた3人は、ピンキーの姿を見ると一瞬敵意をあらわにしたが、現れたのが美人お嬢様()だったので急におとなしくなる。


 なんかゲヒた笑いを浮かべて話ながら、ピンキーの肩に手とか置いている3人。ピンキー何する気?


 あ・・・。俺が瞬きした瞬間に、冒険者3人とも倒れてた。


 ピンキーがこっちを振り向き、とびきりの笑顔で「おわったよー」と言っていた。手には血の滴る世界樹の片手剣。


 え、殺っちゃった!?

次回メモ:毛玉

いつも読んでいただきありがとうございます!

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