表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
戦闘開始!
24/187

王からの条件

 城の中庭で、戦死した兵士達の葬儀がしめやかに行われている。


 戦死した人数は少なかったとはいえ。


 家族や、大切な人は居た訳で。


 俺は悲しい声が響く中、彼らに何もできない。


 俺は召喚者で。でもここにいる人達以上に何もできない、ただの冒険者で。


 何か特別な力を持った召喚者だったなら、泣き叫ぶ彼らの悲しみを癒せたのだろうか。


 何か特別な力を持って召喚されたなら、冷たい棺に横たわる彼らの命を救えたのだろうか。


 俺達はただの冒険者として、葬儀の行われている庭の隅っこでそれを見ていた。


 *


 俺は城にある自分の部屋に寝転びつつ、ゴブリンに盗られたままのハープを思い出していた。

 簡素な木で出来た練習用のハープ。無料でもらった物だったけど、すぐ手になじんですごく弾き易かったのに。


 俺がハープの形を思い出して惜しんでいると、シルフがフワフワと部屋を舞っているのが見えた。

 なんとなく目で追う。あれ?一匹しかいない。野生に帰ったのかな。

 俺はそのまま眠りに落ちた。


 *~~~~~~~~~~~~~~

 町を歩く。

 一人で、ボロボロの服を着て。

 市場に行き、モンスターの素材を売る。

 店主は驚いた顔でボクを見たが、なにも言わずにお金を払ってくれた。

 誰かの奴隷とでも思ったんだろうか。

 そのまま酒場に行き、食事を頼む。掲示板に簡単な仕事でも貼ってないかな。

 一人でご飯を食べるボクのそばに、くねくねしたお姉さんが来た。


「あら? ぼく一人? そのクエスト受けるの?」


 大きく胸が露出した鎧を着てる。そのお姉さんに、ボクは言う。


「ボクにかまわないで!」


 そのまま飛び出したボクを、酒場の店員が取り押さえる。

 ボクは目の前の水たまりに、店員ごと倒れ込んだ。


「このクソガキ! 無銭飲食か!」


 大人たちがボクを囲む。さっきのお姉さんもこっちを見ている。

 水たまりにはボクの顔が映っている。その顔には・・・ 

 *~~~~~~~~~~~~~


 カーテンの隙間から射す朝日で目を覚ます。

 部屋を見回すが、やはりシルフは一匹だった。


 *


 朝ご飯を食べた後、黒蹴とピンキーに声を掛けられた。


「昨日の洞窟後に行きませんか?」


 何を言いたいのかは、俺も分かった。

 城下町で花を買う。昨日の葬儀で見た花だ。

 大きくて黒く、それでもハデでは無くて、綺麗に花びらが渦を巻いている。薔薇という花に似ているらしい。


 俺はこっそり種を買い、4人で転移する。


 俺のわがままで、村に寄った。

 俺は村の端っこにある花畑に向かう。

 そこには俺がハープを聞かせた女の子が、今日も枯れた花に水をやっている。

 もうその花が咲くことは無いのに。


 女の子のそばに行き、微笑みかける。

 女の子も俺に気付き、微笑み返してくれる。


 俺は女の子に種を渡し、「もうその花が咲くことは無いんだよ」と伝える。

 女の子は一瞬目を見開き、そして・・・。


「知ってるよ! 水やって土と一緒に耕して肥料にするんだよ!」


 と、元気よく言った。名残惜しくて水やってたんじゃないの!?

 俺が3人の元に戻ると、一部始終を見ていた3人が大笑いしていた。

 銀、お前まで!


 洞窟があった場所に行くと死体はすっかり無くなっていたが、地面はまだ真っ赤に染まっていた。

 そこに花を供える2人。


 4人で黙祷した。皆、少ししんみりとした顔で山を下りる。少し歩きたい気分だった。


 この辺りには野生のシルフが良く舞っている。それを3人に伝えると見てみたいと言ったので、シルフ石を貸した。


「おぉー、ホントに見える」

「次、僕に貸してください!」


 2人とも、若干元気が出たようだ。ギャーギャーうるさいけど。銀は見なくていいのか?

 俺は肉眼でシルフを見つつ歩く。


 その時、俺の顔の横を見覚えのあるシルフが横切った。

 目で追っていくと、洞窟の傍にふわふわと寄っていく。


 あれは俺のシルフ? 一匹残ってた方だ。


「どうした。気になる事でもあったか?」

『俺のシルフが・・・』


 銀に軽く伝えてシルフを追った。後ろから銀と、石の取り合いが激化した2人も付いて来てくれる。

 洞窟の横の土からハープが半分はみ出していた。


 え!? 嘘、俺のハープ!


 急いで掘り起こす。他の3人もハープに気付いて手伝ってくれた。

 シルフも風魔法で土を飛ばしている。


 ハープをほとんど掘り出した頃、シルフがりきんだ。


『ぽひゅっ』という変な音がして強風が舞い起こり、そのままスポーンと上に5mほど飛ぶハープ!

 少し浮遊したかと思うと、すぐに落ちてきたので急いでキャッチ!


 危ねぇ。

 受け止めたハープはどこも欠けてない。絃は張りなおせば大丈夫そうだ。


 ~ぺよぉおん~


 勝手にハープが鳴る。絃が伸びて変な音だ。

 ん? なんで勝手に鳴った?

 よく見ると、絃に居なくなったシルフがしがみ付いていた。


 お前こんな所に居たの?


 そこで俺は思い出す。

 たしかハープを盗られた次の日の朝、銀が「ハープの音が聞こえていた」と言っていたが・・・。


 あれだけデカいゴブリンロードが居た洞窟。ハープの音が聞こえるほど浅くはないだろう。

 もしや元からくっついてた? そして俺にハープの場所を知らせようとしてた?


「もしかして埋まったハープを、ここまで風魔法で掘り進んできたとか?」


 ピンキーの言葉に一瞬ウルっとなった。

 え、俺ちょっと泣きそうなんだけど!

 この腰に手を当ててドヤ顔してる(気がする)シルフ達がすごくかわいく見える。


 決めた!帰ったら名前付けよう!


「早く帰って名前付けましょう!ニルフさん!」


 後ろでこのやり取りを見てた黒蹴が泣きながらガッツポーズしている。

 石を勝ち取ったのは黒蹴のようだ。

 どうでもいいけどさっきのシルフ石の取り合い、スゲーうるさかったぞ?


 *


 城に帰って夕食後、さっそく名前を付ける。


 黒「シルフィ!」

 ピ「黒蹴、2匹分だよ」

 黒「風神と雷神!」

 ニ『両方とも風の精霊だけど』

 黒「ストームとサンダー!」

 ピ「それ英語にしただけ!」

 銀「ニルフは風の精霊以外も見えるのか?」

 ニ『そういえば、シルフ以外見たことが無いな』

 ピ「つまりニルフには風の属性があるって事かな」

 黒「ツムジとハヤテ!」

 銀「無詠唱で風魔法のヒールも使えるしな」

 黒「竜巻と台風!」


 黒蹴の命名がおかしな方向に行き始めた。


 黒「そよ風と突風!」

 ピ「そういえばこの大陸には風の世界樹があるってギルドで聞いてさ」

 銀「場所は?」

 黒「逆風と追い風!」

 ピ「冒険者さんは、この大陸の下の谷にあるって」

 銀「大精霊の力を宿せば、ニルフも魔法が使えるようになるかもな」

 ニ『マジか。』

 黒「黒南風くろはえ白南風しろはえ!」

 ピ「じゃあ今後の目的は≪風の世界樹に向かう≫って事で」

 銀「了解。調べる。所でシルフの名前はどうする」

 ニ『シーくんとフーちゃんでいいんじゃないか?』

 ピ「あ、いいねそれ。覚えやすい」

 銀「呼びやすい」

 黒「ちょぉぉぉおお!」


 シルフの2匹は、シー君とフーちゃんになりました。

 黒蹴、俺のベッドに突っ伏して泣くな。


 皆が部屋に帰った後、2匹の名前を呼んでみる。クルクル回って答えてくれる。もしかして分かってるのかな、名前。

 もっと呼んでみよう。


 シー君。クルクル。フーちゃん。くるくる。シー君。くるくる。フーちゃん。クルクル。シー君。クルくる。

 2匹共回った。分かってないようだった。


 *


 次の日、王様に呼び出された。


「≪風の精霊樹≫に向かおうとしておるそうじゃな」


 バレてる。耳超早ええ!

 横で大臣が頭を抱えている。

「王・・・。影を使うとは」とか言ってるけど何したの?

 俺達一体何されたの?!


「ふっふっふ。だが世界樹に行ったとして≪登録≫は出来ない。それどころか、谷に入る事すら出来ぬであろう!」


 ものっそいノリノリの王様。王座の上で腕を掲げてすごくうれしそうだ。

 なんで嬉しそうなんだ。

 よく見ると目の下に濃いクマがある。寝不足?


「ギルドではな、シルバーランク未満の者が大精霊への≪登録≫を認めてはおらぬのだ!

 世界樹のある谷に入るには同行者を含め全員に、シルバーランクで発行されるギルドの通行所が必要なのじゃよ!!!」


 銀を見ると渋い顔で頷く。昨日は言ってなかったので、彼も今朝調べたのだろう。

 そして王は王座の上で仁王立ちしたまま指をビシっと俺達に突き付け。


「おぬし達全員がシルバーランクになるまで大陸の下側はもちろんの事、森や山、人の手が入っていない場所に行くことを禁ずる!」


 ちょっと待てよ王様! それでどうやってギルドランクあげろっていうんだよ!


「薬草とか採取すればいいんじゃ」


 サラっとひどい事を言う王様。どうしていいか分からず目を泳がせる俺達。

 王を呆れたように見ていた大臣が声を出した。


「王よ。それ以上しますと、本格的にこの子達に嫌われますぞ」

「なんだと。なぜじゃ。わしはこの子達を危険な目に会わせたくないだけなのじゃ」


 なんか必死な顔で言う王様。嫌われると聞いて、少し涙目だ。

 俺達そんな危険な目に会った事なんて・・・多少はあるけど、それでもちゃんとした行動してれば大丈夫な範囲だったはずだぞ。


 大臣はコホンと咳払いすると、俺達に言う。


「実はゴブリンの討伐で亡くなった兵士の中に、城付きの鍛冶職人の息子が居ましてな。その鍛冶職人と王は仲が良かった為、その息子とも顔見知りでして。

 王が特定の市民に目をかけるのはあまり良くないのですが、なにぶん王子とも仲の良かった人物でしてな。

 それと連日の妙な魔物騒ぎのせいで数日寝不足の為、少し行動と考えがおかしくなっておりますゆえ。大目に見てやってください」


 そう言って頭を下げる大臣。よく見ると大臣も疲れた表情をしている。

 確か王子も以前亡くなったんだっけ。城のおばちゃんの情報網調べだ。


 今、俺達が好き勝手な行動をとったらこの人たち倒れるな。


「あ、はい。分かりました。けど・・・。さすがに山や森に入らずにシルバーランクまで上げるのは・・・」

「はい。その辺は考えております。王よ」


 ピンキーの言葉に答える大臣。そして王に呼びかける。


「なんじゃ大臣。わしは危険な事を許すつもりはないぞ」

「はい、ですから妥協案を提示いたします」


 大臣の出した案はこうだ。


 1.ギルドの仕事時、いつもの兵士3名(隊長達の事だ)を派遣したいが、ゴブリンなどの魔物騒ぎが収まっていない為3人全員は派遣できない。

 だが4人だけで旅をするのは危険な為、4人+兵士3人のうちの1人で各地を回ること

 2.人の手が入っていて比較的安全な、大陸上側のみ旅する事

 3.大陸の下半分に立ち入らない。


 この3つを守れば、東の大陸を4人で旅してもいいと言われた。

 ピンキーが疑問を口にする。


「どうして下半分は立ち入ってはいけないのですか?

 ランクを上げつつ世界樹の近くに≪登録≫した方が効率が良さそうですが」

「下半分は未開の地も多く、危険なのです。まだ魔物の調査も終わっていませんし。

≪風の世界樹≫に行くのは、調査が終わってからにしていただきたい」


 まあ、安全が確認されないと王様もこの案にオッケーしてくれないだろうしさ。

 俺達は大臣の提案に賛成し、王もしぶしぶ条件を飲んだ。


 シルバーになってもすぐに≪風の大精霊≫へ会える訳では無いが、薬草拾いでシルバー目指すよりはよっぽどいい。


 王との謁見後、中庭で基礎鍛錬をする。若干表情の暗い黒蹴とピンキー。俺も表情が暗いと思う。

 黒蹴が重い口を開く。


「さっきの話・・・。亡くなった兵士さん、もしかして僕達が」

「それは違うぞお前ら!」


 バーン!っと黒蹴の背中を叩いて現れたのは、隊長だった。せき込む黒蹴。


「どうせお前らの事だから『俺達があの場に残ったせいで兵士に被害が出た』とか悩んでるんじゃないかと思ったが、まさかその通りだとはな!」

『でも俺達を守ったせいで、他の兵士さんが危ないときに守れなかったんじゃ・・・』

「あまり兵士をなめるなよ。たった4人増えた程度で守れなくなるほどヤワな訓練はしてねえ」


 一瞬真剣な顔になる隊長。しかしすぐに表情を崩し、


「あの時、お前らが残ってくれてよかったと思っている。

 自分たちを弱いと考えているようだが、ゴブリン程度になら十分な戦力になっていた。

 黒蹴の無詠唱魔法、ピンキーの即興の作戦、ニルフの陽動。銀は見えないところから双方に毒ナイフを投げて援助してたんだろう?その分、ゴブリンロードに人員を割けた。

 他の兵士達も同じ考えだ。言っただろ?『あの大きさのゴブリンロードを相手にして、これほどまでに被害が少なかったのはめずらしいらしい』とな」


 それだけ言うと隊長は片手を上げて挨拶をした後、去って行った。

 俺達の表情は、もう暗くは無かった。黒蹴は咳き込み続けていた。


 あの後、すっかり忘れていたが魔力を測ってみた。

 結果がこれだ!


 黒蹴:サッカーボール台の炎弾8発→10発

 ピンキー:直径50cmほどの雷の柱3発→5発

 銀:サッカーボール台の水弾3発→4発

 ニルフ:こぶし大の魔弾10発→16発


 黒蹴とピンキーは石碑1個に対して全力の魔法1発分増えた。

 銀は石碑2個で1発分。俺もおそらく魔法が使えれば銀くらいの増え方の感覚。

 魔法が得意なら石碑一個で1発、不得意なら0.5発分ってことかな。


 *


 次の日の朝早く、準備を整えた俺達はギルドに居た。


≪目指せ!シルバーランク旅≫の始まりだ。



石碑登録:魔法得意なら石碑一個で全力での魔法1発増える。不得意なら0.5発分

初級しか使えない(世界樹の石碑に≪登録≫(大精霊に認められると可能)する前)場合は、一発分の魔法の大きさや使用魔力量にストッパーが掛かっている。

世界樹に登録すれば、その属性の魔法は、魔力全部つぎこんでの魔法も可能。

ただし魔力測定の時は最初のストッパー時の大きさで測るものとする(ギルド規定)


次回メモ:旅立ち

いつも読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ