SS 城での修業の一場面
これは第一章(15話)と第2章(17話)間の2か月のお話です。
最初、銀以外は戦闘の≪せ≫の字も出来ない状態だった。
そんな俺達を鍛えてくれたのは、あの日ギルドまで私服で駆けつけてくれた第3師団の隊長(35歳ムッキムッキの色白背高兵士さん)だった。俺達は隊長と呼んでいる。
この人には、日々基礎体力作り・剣を振る型の練習・魔法の練習・魔力を練る練習と、とにかく色々な事を叩きこまれた。
======================
俺達は今、お説教を受けています。
怒っているのは王と第3師団の隊長とその他偉い方々。
理由は、許可を取らずに町の外どころか、クエストを受けて敵と戦おうとしたから。
どうやら横で萎れてる2人が、許可を取らずに飛び出したようです。俺は悪くない!嘘ですゴメンナサイ。
まあちょっとおかしいとは思ったよ?昨日紹介された護衛兵士さん居ないし、メイドさんや門番さん「え!?」て顔してたし。
結局皆さんが上手い事俺達がどこに行くか聞きだして足止めし、それを銀と第3師団の隊長に伝えて大事に至る前に止められたっていう事らしい。
第3師団の隊長は、城の兵士とばれない様にわざわざ私服に着替えて駆けつけてくれていた。
メイドさん達からしたら≪王が敬語で話す相手≫だもんな。反対意見は言えなかったか。
そして俺達に告げられたのは、「剣の型と魔法が出来るまでは城から出ちゃダメ」という罰だった。
*
次の日から兵士さんに混ざって、基礎体力作りから始める。
あれ?なにこれめっちゃきつい。ん?俺こんな体力なかったっけ?腕立て伏せ20回でへたばった。
周りを見る。兵士並みに背の高いピンキーがへたばってる。黒蹴はひょいひょいやってる。
「僕、サッカー部だったんで基礎体力ならあります!」
そいえば昨日、城でそんな事言ってたっけかな。
あ、200回で黒蹴がへばった。兵士さんはまだ続けてる。結局1000回やっていた。
出れる?ねえ俺これ城から出れる?隣を見ると銀が涼しい顔して1000回こなしていた。
腹筋、走り込み、懸垂、ダンベル上げ・・・なんか一杯やった。もう覚えてない・・・。
しかも兵士さん、そのほとんどを鉄の装備着てやってたよ?あんなん着て懸垂とか出来るもんなの?ねえ。
ピンキーが虚ろな目で「ぶーときゃ・・・」とつぶやいた。最後まで言い切る前に倒れた。ピンキーィィ!足持って引きずられていく!
あ、水かけられて飛び起きた。
その後一緒に剣を振る。俺達は型が出来てないから隊長がつきっきりで教えてくれる。マンツーマンってやつだ!
・・・なんか俺だけオッケーが出た。体が自然に動いたし、これって≪召喚前の世界の知識≫ってやつかな。
とりあえず兵士と一緒に振り続ける。腕が限界だ。なんで軽い世界樹の木刀じゃなくて普通の木刀振らされてるんだろう。
いや鍛える為って分かってるけどね? ちょっと愚痴らせて。
前にいる兵士との打ち合いを指示される。
俺の相手は190cm近い大男だ。鉄の鎧。俺は皮の装備。
重さに慣れたら鉄装備を付けて訓練するらしい。
相手が俺をなめきった顔で大きく剣を振り下ろす! さっとよけて兵士の足に一発!
ペチンッ。情けない音が鳴る。ちょっと泣ける。
男が怒った顔をした。
そのまま横なぎに一閃! 避ける俺。袈裟切り! 避ける俺。突くと見せかけて頭上からの一撃! 避ける俺。
終了までの10分間全部避けたった!
男がものすごい怖い顔でこちらを睨みつつ、次の相手の所に行った。こっわ。
俺はさっきの試合に勝ったので休憩だ。
・・・さっきの兵士は、次の相手を一瞬でボコボコにした。
うわまたこっち見てる。こっわ。
ピンキーは何故か片手剣の面で相手を叩いている。その度に吹き出して笑う相手の兵士。
叩く。吹き出す。隙が出来る。叩く。吹き出す。隙が。あ、2人とも隊長に連れてかれた。ふざけるなと叱られているっぽい。
ピンキーはたぶんふざけてないと思う。
黒蹴は剣の打ち合いはしていないが、銃剣なのでとりあえず殴る練習をしているようだ。
この世界で初めての武器、銃。使う本人も詳しい事を知らない為、ピンキーの≪何となく知識≫だけが頼りだ。
がんばれ黒蹴!
銀? あいつはサラっと兵士叩きのめしてた。
慣れない武器だって言ってたよね。両手剣慣れないって言ってたよね?
この後は魔法の練習だ。俺達は魔法を使う感覚が分からない為、まず魔力を練る感覚をつかむ練習だ。
まず体の中に、魔力を感じます。分かる。
次に、自分の中で魔力が集中してる点を感じ、そこで練り上げるイメージをします。
分かる、俺はヘソらへん。
次に、体の中の血液の流れを感じ、流れに乗せて手に移動させます。
分かる、移動した。
最後に、声に魔力を込めて、呪文を発しましょう! 「○▽×◆◇◆」
分か・・・えぇぇ?! 何て? 聞き取れなかったよ!
しかも声? え? 声が魔法のキーワード?
隊長が、「あ、忘れてた」って顔をしてこっちを見ていた。俺は、泣きそうになった。
とりあえず魔法の訓練中暇になってしまったので、俺は王宮魔道士さんの所に行く。
王宮魔道士さんは女性だ。長いシックなローブを着ていて、身長170cmほどで年は大体30歳程度。大天才らしい。
びじん。でもおしゃれより研究って感じ?
茶色の髪は、適当に頭の後ろでお団子にしている。一度ぽふぽふしてみたい。
よく皆に≪王宮魔道士≫や、≪王宮魔術師≫と呼ばれている。もうどっちでもいいらしい。
空いた時間があれば役に立ちそうな事を教えますよ、と言ってくれていた人だ。
俺はこの後ずっと、魔法の訓練時間中にこの人の元で旅に役立ちそうなことを学んだ。
たとえば、薬草学や動植物の捌き方(毒がある部位や食べられる様に加工する方法など)とかね。
まだ字が読めないから、王宮魔道士さんが付きっきりで教えてくれた。
美人と2人っきりふへへ。
夜には4人でこの世界の文字を学ぶ。
城に居るうちに教えれることはすべて叩き込んどけっていう王様の方針だった。
ピンキーの話によると最近の流行は≪ないがしろにされる勇者≫のはずなんだけどね。
この世界は世の中が平和な分、王様が過保護になっているのか?
銀は使い慣れない両手剣の型を練習していたが、あっという間にモノにして、姿を見なくなった。
召喚直前まで傭兵をしていたからか、戦いに関する覚えが早い。
自主練か何かしてるのだろう。
*
一か月後、俺達は基礎体力作りについていけるようになった。
これで楽になる。
軽くほくそえんでいると、隊長に鉄の胸当てと鉄装備を渡された。
また地獄が始まった。
この頃になると若干体力に余裕ができてきたので、訓練後ピンキーと黒蹴の3人でちょっと遊んでみる。
ピンキーは「せっかくピンキーの格好で片手剣持ってるし、ピンキーぽく戦ってみるよ!」と言い出した。
俺が木刀を構えると、ピンキーが片手剣を打ち込・・・まずに杖っぽく掲げて魔法を唱えた。
「サンダー!」
あっぶねえええ! 当たる所だった! てかあの聞き取れない詠唱しなくていいの?!
「あ、なんか俺達3人とも、適当な言葉で発動したよ?」
なんだよそれ俺だけのけ者かよぉぉ。落ち込む俺にピンキーの一撃!!!
「ピンキージュエルのぉ、キラキラぱふぇあたぁーっく♪」
裏声で叫びつつ、剣の面で頬っぺたブン殴られた。
お前それ最初の打ち合いさ、そのアニメが原因じゃね?
「僕、ひらめきましたよ!」
ずっと俺達を見てるだけだった黒蹴が言う。
「魔法でサッカーボール作って、蹴ればいいんですよ! きっと相手に当たりますって!」
そういって俺達の隣に来て、銃からデカ目の火の玉を作り出す黒蹴。え、ちょっとまって無詠唱?その銃こんど俺にも貸して?
「行きます!」
と言うと同時に力いっぱい火の玉を蹴る黒蹴!
まて、俺達まだ避難してない!
蹴った瞬間ハデに火がはじけて、ピンキーの尻尾を軽く焦がした。
尻尾から煙を出して走り回るピンキーと、そこに水弾を掛けようとして何故かニルフに当てる黒蹴、水弾を顔面に食らって吹っ飛ぶニルフ。
物陰で全て見ていた隊長は、軽く頭をかかえた。
*
そして2か月後。
俺は≪召喚前の知識≫にあった無詠唱方式(腹で粘土をこねるようにしてグルグルして手に集めると魔法ができる)を元にして、無詠唱の身体強化の魔法を作り上げた。
といっても、余った魔力を知識にあった方法でコネコネしていたら出来ただけだけどね。
同じように無詠唱方式で風魔法を使ってみると、「手のひらからじんわり風の回復魔法がにじみでた」ので、城のメイドさんとか厨房のおばちゃんのアカギレを治すのに大活躍している。
いやぁ。女性の手を握って喜ばれるなんて、いい力を持ったもんだ。肌もつやつやになると好評だ。
ゴホン。
剣術は元々出来ていたが体力と力が全くなかった為、基礎体力をつけた。
スピードと反射神経はあるが、魔法と力という決定打がない。
次に黒蹴。黒蹴は武器が銃の為、魔力を弾にして打ち出す練習(魔弾)と、狙った所に当てる練習と、接近戦での双剣での戦い方の練習だった。
魔法は黒蹴が一番うまい。なんといってもトリガーを引くだけで無詠唱で発動というのが大きい。
後は魔弾。銃から魔力の塊を撃ち出す打撃技だ。きっと、細く撃ち出せば貫通も可能だろう。
これは俺もこっそり練習して出来るようになった。でも武器からじゃないと出せないみたい。しかも決定打には(ry。
銃の腕前はそこそこ。殴った方が当たる。
でもヒールが距離関係なしに当たれば100%効果を発揮するのが大きい。あれ距離離れると回復しないんだよ。(俺のはゼロ距離)
ちなみに、一度銃を貸してもらったけど魔法は出なかった。残念。
ピンキーは火、水、風、雷と、ほぼすべての属性をうまく使いこなせる。剣技もけっこういい。
しかも異世界の小説で培った状況判断能力と、王宮魔道士さんに貰った辞書での知識を一番持っている。
銀は、使い慣れないはずの両手剣をマスターし、今は度々どこかに行っている。
魔法が苦手と言っていたので見せて貰った。
魔法を発動する瞬間に微量の、何か反発するような小さな爆発が起こっている。そんな感じがした。
銀自身もそういう感覚があるといっていた。王宮魔道士さんでも分からなかったらしい。
最後に、なぜか全員(俺は論外)土の魔法だけ上手く扱えなかった。
王によると、世界樹の木が封印されているせいで上手く扱えないのではないか、という仮説があるらしい。
氷の魔法もあるそうだが、「よほど氷の属性に選ばれた者しか使えぬ魔法だといわれている」と言っていた。
俺達の中の誰も氷魔法は使えない。
ただ、魔法があるなら、世界のどこかにまだ確認すらされてない世界樹はあるのかもしれない。
こうして俺達の2か月にも及ぶ修業は終わりを告げた。
*
彼らは気づいていなかった。
毎日城の稽古場を、一人の女性が覗いていたことを。
彼女は茶色ショートカットの髪をかき上げ、ローブをはためかせて踵を返す。
「獣耳さん、待っててください」
火:火の玉を出す。
水:水を出す。
風:ヒール(小)近ければ近いほど効果あり。
雷:雷撃を落とす。
土:状態異常(なんの効果が出るか分からず、扱いが難しい)
最後の人物はあの人です。
次回メモ:王様
いつも読んでいただきありがとうございます!
本当はもっと真面目な小説になると思って書き始めたはずだった・・・!




