表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
戦闘開始!
22/187

vs 人型魔物

 ドゴォォォォオオン!!!


 馬鹿でかい音が鳴って地面が揺れる。木々が軋み、鳥が逃げる。

 そしてその音の発生源になった洞窟は粉々に崩れ、落盤していた。


 周りには爆発に巻き込まれ、めちゃくちゃにちぎれたゴブリン達が散らばっている。

 火傷を負って、傷を負って、泣き叫ぶ者も居る。


 それを聞いて、黒蹴は目を伏せ、耳をふさぐ。しかしすぐに手をどけた。

 ピンキーは真っ青になりながらも目を逸らさずにそれを見つめる。耳が誰よりも良く、一番人よりも悲鳴が聞こえているはずなのに。

 それを見届けて、先行していた銀は木の上から投げナイフで傷ついたゴブリンにとどめを刺していく。


 俺は少し離れた位置で、それを全て見届けた。


 *


 進軍は順調だった。洞窟近くの見張りのゴブリンは、銀達3人と城派遣の兵士合同の先行がすべて倒していった。

 俺達と一緒にいるのは、盾を持った前衛20人、魔法兵士20人、歩兵15人だ。

 ゴブリンロードが爆弾で死ななかった場合、どちらかの洞窟から出るだろう。海側の洞窟にも同じ兵力が居るらしい。


 洞窟にたどり着くと、気付かれないように風下から移動し、待機した。

 入り口が15mほどの大きさの、かなり大きな洞窟だった。

 村からのろしを上げ、それを合図に村側の洞窟と海側の洞窟両方に爆弾を投げ込む。

 爆弾は爆発し、洞窟の出入り口を砕き、内部に衝撃波をぶちこみ。落盤によってゴブリンは全滅した。


 俺達は見ているだけだった。ただ爆弾が投げ込まれ、周りのゴブリンが吹き飛ばされ、中に居たゴブリン達が必死に這い出し、下敷きになっていく様をただ見ているだけだった。

 でもこれは俺達がやったことだ。


 今朝の黒蹴の言葉が思い出される。


「ゴブリンとは話は通じないんでしょうか?」


 本当に、通じればよかったのにな。

 これだけ平和な世界なら、こんな俺でも、二度と戦わなくていい未来が、来ると・・・


「おい!気を付けろ!何か来るぞ!」


 隊長の怒鳴り声がした瞬間。俺の横に、兵士の誰かが吹っ飛んでくる。ん?!俺、いま何を考えていた!?

 俺は緩みかけてた気を集中させて、木刀を手に持ちなおす。

 崩れた洞窟の入り口を押し出すようにして、一匹の、10mほどの魔物が這い出してきた。


「グルァアアアァァァアアアア!!!」


 大きく声を上げたそいつは、唯のゴブリンをデカくしたようなモノではなく。巨大な鬼のような姿をしていた。

 赤く、でかく、その姿はまさに鬼。ピンキーが画用紙に書いた、ニホンの赤い鬼の姿そのものだった。


「ゴブリンロード!やはり居やがった!!!」

「なんだあれ!普通の奴の3倍はあるぞ!?」


 誰かの絶叫が聞こえる。それは悲鳴に変わり、すぐに消える。何か、嫌な音もした。

 ゴブリンロードが大きく跳躍し、兵士達の上に舞い降り暴れ始める。

 ゴブリンロードの開けた穴から、ゴブリンがどんどん這い出してくる。


「野郎ども!作戦≪弐≫開始!

 おいお前ら!後ろに下がれ!ゴブリン共の数を減らせ!」


 隊長が指示を飛ばすと同時に、兵達が一瞬崩れた陣形を一気に立て直す。

 盾を持った兵が壁を作り、後ろに魔法兵士が控え、ゴブリンロードと前衛兵士の間にバリアーを貼る。

 触れると切り刻まれる風の中級魔法を応用し、膜上に展開したものだ。

 そのまま魔法兵士達は、魔法でゴブリンロードに猛攻。

 ゴブリンロードの投げる岩や突撃は、風の膜と前衛の兵士によって阻まれる。


「グゥルォォォアァァァァァ!」


 悔しそうな咆哮が響く。


 俺達4人は兵たちの後ろに連れ込まれる。黒蹴とピンキーはケモラーさんとポニーさんに引きずられてきた。周りでは、飛びかかってくるゴブリン達を歩兵が切り捨てている。


 俺達を比較的安全な場所にまで移動させると、兵士ズは話し出す。


「ゴブリンロードは森で会った豹魔物とは比べ物にならない強さの魔物です。まさかこの大陸のこんな場所に出現するなんて。最初隊長の予測を聞いた時は考えすぎかと思いましたが。

 ここは我々が命を懸けて守ります。あなた方はこのまま転移でお逃げください。」


 ずっと一緒に居たポニーさんが、そんなことを言う。

 今まで固い口調でしかしゃべってくれなかったが、いつもの言葉よりもっと重く、固く聞こえる。


「大丈夫、戦力はバッチリ準備してありますし。何かあってもすぐに他の地域の石碑に逃げられるんですよぉ?私たち」


 いつものような優しい笑顔で、ケモラーさんが言う。でも俺は知ってる。シルフで聞いたから。兵士にそんな装備なんてない。

 世界樹の枝を個人で持っている俺達が特別なんだ。

 でも俺は、それを言わない。

 銀は気づいているかもしれないが、他の2人にわざわざそんな重荷を背負わさなくてもいい。


 2人は今日、ゴブリンの死体から目を逸らさなかった。悲鳴から耳をふさがなかった。黒蹴も、最後にはしっかりと前を見つめていたんだ。

 もういいじゃないか。

 銀を見ると、うなずく。同じ考え。了解、俺から言うよ。

 俺が『撤退』と言う前に、黒蹴が声を上げた。


「僕達も、戦います!」


 ピンキーもうなずいている。黒蹴と同じ考えか・・・。

 なら俺は2人の意思を尊重する。まあ、俺が一番戦力にならないんだけどね?城に引きこもりたいとか思ってないよ?


 俺達は歩兵に混ざり、ゴブリンロードと戦う兵士達の背中を守ることになった。

 周りから襲いかかる子供ほどの背丈の魔物を木刀で叩き落とす。すぐ横から錆びたオノを持ったゴブリンが足を狙ってくるが、下を向けたままの剣先から魔弾を撃つ。魔弾は地面を跳ね、そのままゴブリンの顎を殴って上に飛ばす。その先には他のゴブリンが丁度とびかかってきていた。2匹まとめて吹っ飛ぶところに、炎が撃ち込まれる。この鋭い炎は黒蹴だ。


 大丈夫、森で鍛えた俺達の敵じゃない。

 精神面で心配だったピンキーと黒蹴も、吹っ切れた顔で戦っている。水の刃で首を刎ね、炎で燃やし、雷で砕く。

 ピンキーが所々で俺達に指示を飛ばす。俺が魔弾でゴブリンの足元を打ち、数匹を一か所にまとめて一気に黒蹴が魔法で仕留める。

 危なっかしいときは、周りの兵士が助けてくれていた。もちろん俺も助けられてた。

 2人とも少しオーバーキルになっているのは、無意識に苦しみを与えたくないと思っているからか。

 さっきの爆破時の悲鳴が堪えてるのか。

 今晩は好きなだけ曲のリクエストを受けてやろう。いつも3曲だけしか受けないからな(手が痛くなるし)。


 ・・・あ、


『ハープ洞窟の中じゃねえかあぁぁぁ!!!』


 俺の誰にも聞こえない絶叫が響いた頃。後ろでゴブリンロードが崩れ落ちた。


 *


 ゴブリンロードが崩れ落ち、その死が確認された頃には周りのゴブリン達はすっかり消え去っていた。

 己側の負けを悟り、生きるために元の生活に戻ったのだろう。

 おそらくゴブリンロードの力に屈し、従っていただけだったのだろうと隊長は言っていた。


 こちらの死者は前衛兵士4人、魔法兵士1人、歩兵3人だった。

 通常の3倍の大きさのゴブリンロードを相手にして、これほどまでに被害が少なかったのはめずらしいらしい。


「王がお前らを心配してこっそり提供した爆弾のおかげだ。」


 隊長はそう言って、笑っていた。

 てかやっぱり王様・・・。

 こりゃ早く旅立って子離れ(?)させたほうがいいな。


 倒れたゴブリンロードは洗ってみると、くすんだ灰色だった。どうやら落盤の際、かなりのダメージをうけていたらしい。赤い体表は、奴の血だったんだな。


 黒蹴とピンキーは、倒したゴブリンに手を合わせている。

 彼らの立つ地面は人と魔物、両方の血で真っ赤だ。

 普通、魔物にそういう事をする人はいない。ただ、誰もそれを笑わなかった。

 それが大切な事だと知っていて、誰もがそれを乗り越えて兵になったのだから。

 2人が顔を上げる頃、銀が声をかける。


「もう大丈夫か。」

「はい。お待たせしました。」


 洞窟の近くにあった石碑の泉に武器を刺しこみ、≪登録≫する。

 魔力の測定は、明日にしよう。


 俺達は、城に帰った。


山間部・洞窟

・ゴブリン:子供の背丈ほどの大きさ。くすんだ灰色。普段はおとなしい。他の冒険者から奪った武器や防具を装備している者も居る。

・ゴブリンロード:(BOSS)

普通は3mほどだが、東の大陸に出たものは10mほどの大きさ。くすんだ灰色。血は赤い。体色以外は日本の赤鬼そっくりの姿。


次回メモ:息抜きSS

いつも読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ