村へ。
あれから1週間。
あまり同じ場所の魔物を狩りすぎるのも生態系に悪いという事で、実践場所を変えることになった。
というのは建前で、前回のピンキーの怪我で過保護が≪超過保護≫になりつつある王様から距離を取る作戦だ。
少しずつ少しずつ距離を取り、野宿をし、そのままなし崩しに旅に出る。大臣の発案だ。
さすが、王様の扱いに慣れてるな!
という訳で俺達は久しぶりに、街の門から出発します。
今日行く町は、東の王都から北東にある、山間部の小さな村だ。村の近くに石碑があるらしい。東門から出て2日の距離だ。
まあ、途中魔物も出るし、3日か4日はかかるだろうけどね。旅のポイントは、無理をしないことだ。
街から出るっていう事で、ギルドの依頼も受けてきました。すごい!普通の冒険者っぽい!
受けた依頼は≪山間部に生える野草の採取≫と≪畑を荒らす魔物退治≫だ。PTメンバーはいつもの7人。野宿の荷物は全員で分けて持っている。
*
この2日前、4人で話し合った事がある。新たな石碑に≪登録≫にあたり、どの程度の魔力の増加を見込めるか、だ。
実は俺達は自分の魔力の量をよく分かっていない。
城での修業時、隊長に測り方を尋ねたのだが、
「そんなもん、体力と一緒で自分の感覚だ!数値に頼るな!
実戦中に数字とか便利なモンが出る訳じゃねえんだぞ!」
という返事しかもらえなかった。感覚で生きる男、隊長。部下には結構慕われている。
て事で、以前王様が言った「ギルドにはそういうのあるよ」という言葉を頼りに、こっそりギルドマスターに聞きに行った。
結果。
「一番得意な魔法を全力で何発打てるか数えてみろ。それが大体の目安だ!」
え、それ俺だけ魔力測れなくない?もっと便利な道具とかないの?
かなり残念に思ったが、城に帰って3人に伝える。
銀は知っているんじゃないか?と思っていたが、隊長と同じ感覚派だったためギルドに聞いてなかったそうだ。
「なんだいそれ!すごく楽しみだよ!」
ノリノリのピンキーに夕食後誘われて、さっそく試してみる。
黒蹴:サッカーボール台の炎弾8発
ピンキー:直径50cmほどの雷の柱3発
銀:サッカーボール台の水弾 3発
ニルフ:こぶし大の魔弾10発
俺だけ魔法が使えないので魔弾で試してみた。ちなみに一番多く発射してるように感じるが、魔弾は魔力消費が少ない、いわば打撃技。
もし黒蹴が同じように魔弾を撃ったなら、30発は撃てているだろう。というか森での修業中にそれくらい撃ってケロっとしていたし。
「こ・・・これかなり疲れますね」
「でも目安にはなりそうだよ」
「やはり魔法は苦手だ」
『俺も魔法使いたい・・・』
全力で魔法(と魔弾)を使い、脱力感がすごい。まだ魔弾は使い慣れないな。
同じ呪文でも、全力で撃たなければその分魔力の消費も抑えられるっぽい。
「でもこれ僕が一番、ですかね?」
「いやー?雷の大きさ的に俺じゃないかなー?」
「いやいやいや、全力で撃って僕8発ですもん」
「それは銃から撃ったからじゃないかい?素手だともう少し落ちるんじゃないのかい?」
「あ!そこ気づきませんでした!でも魔力的に僕の方が多いはずです!」
ピンキーと黒蹴が張り合っている。疲れてないのか?
「魔弾で試すのが一番わかりやすいんじゃないか?」
結局、銀のこの一言により、ピンキーも魔弾を練習中だ。
まだ魔弾対決はしていないが、俺の予想ではやっぱり黒蹴かな。だって銃に選ばれれてるし、魔弾を一番撃ち慣れてる。
俺は悪い顔をして、銀にどっちが勝つか持ちかけたが、銀も同じ考えだった。
賭けにならねぇ。
*
そんなことを思い出しつつ、俺達は村に向かう。東の大陸最北端の村だそうだ。
途中襲いかかってくるスライム達を蹴散らす。もう慣れた物だ。
俺の武器は木刀並みに切れないので、核を砕いて先に進む。
ピンキーと黒蹴は、水を小さな刃状にしてスライムごと核を切り裂いていた。
旅は順調に続く。というか平原にはスライムしか出ないんだけど。
偶に真っ黒で大きな鳥が襲いかかってくるが魔弾や魔法を撃つとサッと躱して、あっというまに逃げて行ってしまった。
俺の鳥肉・・・。
3日目。昼休憩をはさみ、さらに2時間ほど歩いた頃、さびれた村が見えてきた。
入り口には村の自衛団の人が簡単な装備で武装している。
「誰だ!」
「東の王都のギルドから派遣された者だ! 畑を荒らす魔物退治と、石碑への≪登録≫が目的だ!」
まあテンプレだね。隊長が軽く説明する。そのまま村長の家に案内された。
「おぉ、これは助かりました。最近村の畑を夜に荒らされますのです。
ここいらの石碑は、冒険者様には人気がございませんでな。なかなか人が来てくださりませんでしたが。
ほんに、神の御恵みじゃて」
村長はちょっと萎れた世界樹のじいさんって感じの人だった。村もかなりさびれている。
王都にこんなに近いのに、こんなに魔物に苦しめられてる場所があるなんてな。
それを言うと、隊長は難しげな顔をした。
「いや、この村の近くには石碑があるからな。普通ならあっという間に他の冒険者が退治しているはずなんだが。
村長、魔物が出始めたのはいつ頃からだ?」
「はい、実は2週間ほど前からでして。
何度か他の冒険者様も来ていただいたのですが、退治すれどもまた同じ魔物による被害が出ましてな。国にも報告はしておりますが・・・。
冒険者様への支払いと魔物の被害で、この村は困窮しております。しかし村を捨てる訳にもいきませんゆえ」
さびれていたのはそういう事か。答えを聞いた隊長はうなる。
「丁度森の豹型魔物事件があった時期か。あの後、国の主要な街道を中心に妙な魔物がいないか調べていてな、まだすべて終わっていないと聞いている。
おそらくここまで手が回っていないのだろう」
「なら、僕達でなんとかできませんか?
もちろん、調査中に敵わないと分かればすぐに撤退します!」
黒蹴がいう。ちゃんと学んでいるようだ。俺達は黒蹴の言葉に賛同し、今回の旅の方向性が決まる。
手始めに銀、ケモナーさん、ポニーさんが斥候に出かけ、俺達は村を調べることになった。
*
俺は村の中央の畑でハープを引いている。
周りは真っ暗、時刻は夜中。どうしてこうなった!?
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それは昼間の事。村人に話を聞いて回るピンキーと黒蹴を見ていた。
(俺、長く話せないから話を聞き出せないな・・・)
なにか出来る事は無いかと、村を一人でプラプラする。と、村の山側近い花壇で5歳くらいの女の子が泣いていた。
『どうしたんだ?どこか怪我したか?』
「あぅ・・・。お花。お花が枯れちゃった。そだててたのに」
見ると、花壇の花が踏み荒らされてぐちゃぐちゃになっていた。おそらく村を襲っているという魔物の仕業だろう。
俺は手からにじみ出るヒールをかけてみる。が、枯れてしまった花は再び咲いてはくれなかった。
俺の行動を見ていた女の子は俺が何もできないと分かると、再び泣き始めてしまう。
ごめんな、俺がもっとちゃんとした魔法使えればな。
泣きつづける女の子をあやそうと、ハープを引く。いつものようにシルフが周りの音を拾い集め、やさしい大演奏となる。
泣き止んだ女の子が俺に微笑む。俺も微笑み返す。と、俺の横を黒い小さな影がサッとかすめ、そいつはハープに手を伸ばし・・・盗られる前に避ける!
そのまま影は、花壇の奥の山に入って行った。女の子も呆然と見送る。
なんだったんだ今の。子供ほどの大きさだったけど村の子か?なんでハープ取ろうとしたんだ?
「今の・・・。あれが魔物なの」
『えぇ!?』
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そして≪魔物はハープに引き寄せられたんじゃないか≫という話になり、畑のど真ん中で弾いてます。1人で。
今5曲目。そろそろボキャブラリーが尽きそう。弾きつつ話を思い出す俺。
まず斥候に出ていた3人によると、村周辺に怪しい場所は無かったそうだ。
最近まで使われていたような住処の痕跡がいくつも発見されたが、いずれも攻撃を受けたらしく破棄されていたと。
今までの冒険者達の成果だ。
次に、村の裏に1つ石碑があるという事で、夕方頃にそこで≪登録≫した。山奥の森の中、夕日の木漏れ日の中シルフが沢山舞っていて綺麗だったな。
最後に、現在の住処が発見できなかったため、俺のハープでおびき寄せて後を追う作戦。
銀が追う役を買って出た。7人の中で一番闇の中を走るのに長けている。
そういう訳で、早く来て魔物さん。そろそろめげそう。
最後の曲が終わる。7曲弾いて何もなければこの作戦は諦めることになっている。
弾き終わってハープを片手に持つ。やっぱり来なかったな。と、急にハープが引っ張られ。
そのままガササササって音と共にハープが消えた。え!?
追おうとするが足元も見えない闇!畑の真ん中なので民家の光も届かない!追いかけるがすぐに転ぶ。土の味で口の中がまずい。
しばらくすると隊長が歩いてきた。
「作戦成功だな」
そういってニヤリと笑った。俺のハープ・・・。
銀が帰ってきたのは次の日の朝だった。
隊長によると一度戻ってきた後、一晩中住処を偵察し、今朝は隊長の立てた作戦の準備に、何度か城に転移したらしい。
ごめん銀、俺寝てた。
*
一旦村長の家に戻り、銀が情報を伝える。
「敵はゴブリン。場所は山脈中腹東奥の泉の傍。石碑もあった。洞窟を住処としている。
数は五十だが奥に空間があれば、それ以上。
妙に統率がとられていることからリーダーが居ると考えられる」
他にも色々詳しい事をいう銀。それよりハープどうなった?
「ハープはリーダーに献上されたようだな。奥から音が聞こえていた。」
シュン。ちょっと気に入ってただけに気落ちする。ケモラーさんが優しく肩を叩いてくれた。
「ちょっと待ってください、ゴブリンって人型のアレですか?」
「そうだよね、俺達人型の魔物、倒したこと無いや。」
ピンキー黒蹴が若干青い顔をしている。大丈夫か?
2人はきっと初めて人型の魔物を倒すんだろう。動物型の魔物を捌いて肉にしていた時も、すごい顔してたし。
必死に慣れてたけど。
「銀さんが慣れすぎなんですよきっと。」
『え?俺は抵抗ないけど。だって敵だもん。殺らなきゃ殺られる。
後こうやって徒党を組む敵は金目の物を貯め込んでいる事が多いし、肉にもなる。
けっこうおいしいよ。装備も売れるし!』
俺が言うと、2人は絶句してた。
なんか「記憶を使うほどの呪いを受ける環境ってきっと」とか「ニルフ君人型魔物の肉も食べるなんて、もしかしてつらい目にあってたのかな」とか囁きあってるけど、全部聞こえてるぞ。
俺達がそんな事喋ってる間に作戦が決まっていた。しまった聞き逃した!
作戦はこうだ。
銀、ケモラーさん、ポニーさんが安全を確認しつつ先行。はぐれゴブリンの排除。
隊長、黒蹴、俺、ピンキーが離れて後ろからついていく。俺とピンキーは周りの音に注意。
「そして作戦の極めつけがこれだ!」
隊長が取り出したのは、でっかい爆弾。どっから持ってきたの?
「城だ!!!」
あぁ。王さまね。納得。
「違うぞ。銀の報告を受けて、ゴブリンロードがこの山に逃げているのではないかという懸念がな。
こんな事は初めてなんだが、豹魔物の件もある。今回は国の兵士も協力して、ゴブリンを潰すことにした」
声に出してないのに何考えてるかバレた。
「国の兵士と協力ですか?」
「この辺りの洞窟を調査した記録を元に、洞窟が貫通していると思われる出口に同じような爆弾を落とすんだ。もちろん、村や街道は兵士が守る。
他の山や、逃げた普通のゴブリンは放っておく。普段、ゴブリンはこんな悪さをしないからな。山や森にある食料だけで十分生きて行けるだろう」
ピンキーの問いに答える隊長。皆を見回して、最後に問う。
「質問はあるか?」
「あの・・・」
おずおずと声を発する黒蹴。不安そうな顔してどうした?
「ゴブリンロードとは、いえ、ゴブリンとは話は通じないんでしょうか」
「無理だな。たまに通じる魔物もいるが、そういう奴は人に危害を加える時に何かしら異なる反応を示す。
今回はそれが無かった。分かるやつには分かるんだ」
返事を聞いて少しさみしそうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。黒蹴も、ピンキーも。ほらな、もう大丈夫だ。
城の兵士から村の警備が完了したと報告が入る。隊長の号令が掛かった。
「良し。出発だ!」
とうとう日本人2人組が人型魔物との邂逅です。
次回メモ:ゴブリン
いつも読んでいただきありがとうございます!これ書いてる時にブックマーク10件になっていました!
初評価ありがとうございます!




