勇者 v s 魔王
*9月10日 全体的に書き直しました。
荒野の中に、巨大な街がある。見渡す限り続く荒野に溶け込むような、濃灰色の石で造られた街。
空には重く黒い雲が低く流れ、雷が鳴る。
そこは魔界。すべての魔族を統べる、王の住む都。
街の一番奥には巨大な城門があり、その後ろにはカラス色の荘厳な城が鎮座していた。
黒に近い灰色で統一された町並みは、雨に濡れて美しく輝いている。が、そこに住む住民は見当たらない。
代わりに、鋭利な刃物で胸を抉られたような生き物達が、街中に散らばっていた。
彼らは魔族。王に仕える城の兵士。
街中に散らばる彼らの遺体は、皆同じ方向を向いて倒れている。
城門から街へ出入りする門を繋ぐ、街のメインストリート。全員がそこを中心に巨大な力で弾き飛ばされたかのように、息絶えていた。
巨大な城門には、何かで焼き尽くされたかのように扉部分に大きな穴が空いており、そこから広大な庭園の奥にある城を望める。
真っ黒な城の一階部分で、赤黒い光がはじける。
そのまま、城を中心に街全体が巨大な竜巻に包まれた。竜巻は街の瓦礫を巻き上げ、砕き、砂嵐と化して・・・。
*
そこでは砂嵐が巻き起こっていた。
その中でぶつかり合う 影が二つ。
一つは黒く、一つは白い。
よく見ると砂嵐が巻き起こっているのは広大な荒野ではなく、かなり立派な城のエントランスのようだ。
城は黒い家具で統一されており、元々はシックなデザインの高価な装飾品がたくさん置かれていたのだろう。
しかし今は、美しかったであろう面影は見る影もない。あちこちが破壊され、家具は砕かれ、風によって舞い上がり、砕かれて砂となる。
砂嵐の間から偶に見える床には、モンスターや魔族らしき死体が大量に落ちている。
その全ての中心、つまり砂嵐の真ん中の2人は、そんな状況などかえりみることも無く。剣で、魔法で、その辺に落ちてる何かで、ひたすらにぶつかりあっていた。
*
白い方の影が、銀に光る剣を避けつつ、つぶやく。
「まだくたばらないのか? 魔王」
黒い方の影が、顔面すれすれに飛んできた炎を叩き落としつつ、つぶやく。
「お前こそ。単身乗り込んだ上に城中の兵士全てを相手にして、まだ倒れないのか。勇者よ」
そして二人で軽く笑い、つばぜり合いの後、サッと離れて上を見あげ、魔王が言う。
「よくあそこから落ちて死ななかったものだ」
お前は飛べない人族なのに、と後に続く言葉が聞こえた気がした。
高さ100m以上あるエントランスの天井には、大きな穴が開いていた。
勇者は笑って軽く力を抜いた後、聖剣を持った手をブンッと軽く振る。
袋から傷薬を取り出し全身にぶっかけた。そして魔力回復効果のあるクッキーをかじり、傷薬で流し込む。
それを見て、魔王が微妙な顔をしていた。
「よく戦闘中に物が食えるものだ」
軽く肩をすくめて、勇者が答える。
「一人で旅してきたんだ。食えるとき食っとかなきゃな」
「俺は食わない主義だな。食ってすぐ攻撃を受けると・・・吐くからな!!!」
軽口を叩きつつ、素早く魔王が切りかかる。
それを紙一重でよけて勇者がカウンターを仕掛けるが、逆に仕掛けかえされ。
両者とも決定的なダメージを与えられないまま、戦いは続く。
*
休み無く戦い続け、3日が過ぎた。
勇者の回復アイテムも底を尽き、魔王の底無しと言われた魔力と体力にも、限界が見え始める。
勇者が枯渇寸前の魔力で魔法を猛攻。その全ては避け切れずに多少食らうも魔王が反撃に剣撃を放ち、それをまた勇者が避ける。その間に唱えられた魔王の魔法。避けられないと判断したのか、そのまま生身で突っ込んできた勇者の剣を魔王が鍔でいなす。
戦いの振動で壁は崩れ、砂嵐により雲は吹き飛ばされて清い月明かりが城内に降り注ぐ中、戦いは続き。エントランスの天井が崩れて2人に降りそそいだ。
その瞬間。
勇者は魔王の心臓を貫き、魔王は勇者の喉を切り裂いた。
そのまま床に倒れた2人に、瓦礫が降り注ぐ。
2人の傷は深く、大量の血が流れてゆく。結果は相打ち。
双方の意識が薄れてきたその時、頭の中に不快な声が響く。
『まさか、勇者と魔王が相打ちとはな。まあ楽しませてもらったよ。君たちの戦いは、いい暇つぶしになった』
(誰だ? ここには俺たちしかいないはず)
驚いて魔王を見るも、瓦礫で見えない。が、お前は誰だと問いかける、魔王の困惑した声が聞こえた。
『おや、自己紹介が遅れたね。私は、君たちが神と呼ぶ存在だ。今回の戦いを見学させてもらっていたよ』
(神・・・だって?)
『そう、神さ。敬いたまえ。君たちの命など、どうとでもできる存在だ。もしかすれば、その傷を治すのも可能かもしれないぞ?』
その言葉に、勇者は目を輝かせた。
(な・・・なら・・・この傷を治して! 村に残してきたあの子の元に・・・
『まあ、その願いは叶えないがな?』
驚いた表情を浮かべる勇者。それをあざけ笑う神の声。
『なぜ助けなければならないんだ?せっかく封印が解けたというのに。
ああ、説明していなかったね。私は魔神。勇者と魔王の命に封印されていた神さ』
封印・・・?
神の思わぬ言葉に、首をかしげる勇者と魔王。魔神と言うからには魔族の神なのかと思いきや、魔王にも心当たりがないようだ。
『心当たりがないのも仕方がないだろう。私が封印されたのはこの世界が出来た頃。勇者と魔王の戦いの歴史が始まった頃だからな。
君たちの種族はずっと何世代も戦い続けてきたのだろう?
女神によって私は魔族と人族の勇士の命に封印された。その時ささやかな抵抗に、呪いをプレゼントしたのだよ。
簡単な呪いさ。お互いの存在を許せなくなる呪い。
女神に愛された、その二人が戦い続けるようになぁ!』
その言葉にショックをうける2人。今までの戦いは、こいつの手のひらで踊らされていただけだったのか!
それを極上のショーでも見ているかのように笑う魔神。
『そして私の封印を解く方法はただ一つ! 魔族と人族の勇士の二人が同時に死ぬときだ! 争い続けてくれてありがとう。いい暇つぶしにもなった。なにより・・・
こ れ で じ ゆ う に な れ る
お礼にいいものを見せてやろう』
その言葉と共に、勇者の頭にしろい靄がかかる。そしてその靄に映し出されたのは・・・自分が、今まで助けてきた村の、国の、世界の壊されていく様だった。
*
気が付けば叫んでいた。喉を切られて叫べないはずなのに、声なき声でずっと叫び続け・・・
故郷の村に残してきた大切な人が、粉々に砕かれた時。
勇者の意識は完全に闇に包まれた。
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まぶしい。
まぶしい白い闇の中で、勇者は叫んだ。
「自分一人だけいくら力を持っていたって、大切な人1人として守れないじゃないか」
叫んだ。
「こんな力なんて、いらない」
声の出ない喉で、叫んだ。
「1人だけの力なんて」
叫んで叫んで叫び続けた。
「どうせ皆を守れない力なんて! いらない!!!」
叫びは願いとなり、形となって弾け・・・
*
気が付くと俺は、大きな木の根っこに仰向けに寝ていた。
今のは・・・夢?
読んでいただき、ありがとうございます!
初めての小説ですが、がんばっていきたいです。