病気の村2
若〔・・・誰も来ませんわね〕
村の権力者がピンキーともめに来たって聞いてからずいぶん経ったけど、外には何の変化もなかった。
揉めてる音も喧嘩する声も聞こえない。
ニ『ピンキーだったら大丈夫だと思うけど。どうする?行く?』
若〔大丈夫だとは思いますけどね。ピンキーさんなら権力者の1人や2人〕
ニ『論破してそう』
若〔わかります〕
でも暇だったから、ハープ弾きつつちょっと小屋から出ることにした。
どこに向かおうか。あ、すぐそばに布で作ったデッケえテントがある!
早速はいってみた。
若〔ちょ、勝手に〕
ら、さっきのおばさんがゴザの上に倒れてた。
二『おばさん!?』
若〔やはり御病気だったんですわね!?〕
?「いや、その人寝不足」
隣のゴザに寝転んだ青年が目だけこっちに向けて言った。
ぐっすり寝ているだけだった。どうやら看病疲れだったらしい。
若〔あら、意外と大きなテントですわね〕
青「ここは従業員用仮眠テント、向こうは対策本部。
どっちも患者用よりは簡素になってるらしいけど、正直床があるだけマシだよ」
青年は寝転んだまま肩をすくめる。何のポーズだっけそれ。
二『青年さんは病気の人?』
青「そうでもない。どっちかっていうと同じく看病疲れの人ってところだ。
看病してたのは、体はダルいが症状が出るほどでもないって村人ばかりだったからな。・・・青年さん?」
二『呼び捨ては失礼かなって』
青「そうか、うん。うーん?』
なんか唸っちゃった青年をほっといて辺りを見回す。
テントの中は人が一杯だ。皆疲れた顔して寝てる。
よく見ると、さっき患者用の小屋で看病してたっぽい人もちらほらいた。
看病してたときはマスクとかしてたから、断定はできなかったけど。
若〔よろしければ、なぜこのような事になったのか教えていただけませんか?〕
若葉が青年に話しかける。青年寝かせてあげなくていいのか?
青「ちょうど起きようと思ってたところだったし。
どこから聞きたい?」
若〔最初からですわ〕
青「最初からか」
なにも聞いてないのか、と言ってから。青年は話を始めた。
青「あれは、数ヶ月前の・・・楽器は弾いてないとダメか?」
二『うん』
若〔はい〕
青「そ、そうか。
ごほん、あれは、数ヶ月前の昼間だった。急に、遊んでた一人の子供が血を吐いて倒れ・・・ごほっごほっ。すまん、寝起きで喉が」
若〔ニルフさん、水を〕
二『わかった!』
若〔あ、わたくしは置いていってください。続きをお願いしますわ〕
青「げほっ、わかった。台所用テントは壁のない形をしてるから、分かりやすいぞ」
二『えええええええええ!?』
俺も聞きたかった!!!
テントから外に出ると、テントのある広場におじさん達がうろうろしてた。
さっきは小屋から出てすぐにテントに入ったから分かんなかった。
広場に魔物が来ないように警備してるんだな。
おじさん達は鋭い眼光で周りを睨みつつ、うろうろしている。
もう一個のテントの周りには、うろうろしてないおじさん達が眉間にシワよせたまま腕組みして立ってた。
魔物が心配だったけど、こんだけ怖そうな人達がいれば安心だな。って、台所用テントどこだっけ。
・・・あ、あれか。
屋根がわりに布を張っただけのテントの下には、鍋とか食器とかが一杯おいてあった。
鍋のそばに、見覚えのあるデッカイ瓶があった。俺の腰くらいの高さのこれは、馬車の中においてある水瓶だ。
ピンキーが「みんな魔法で水を出せるけど、魔法に頼りきってると不意な出来事に対応出来ないからね。アナログな方法も併用しよう」とかいっていつも置いてる水瓶だ。
俺だけの時とかすごい便利でよく使わせてもらってる。
底に《魔力を通すとその人の属性の魔法が出る皿 (ピンキー発明)》が仕込まれていて、水属性の銀やサイダーさんが水を補充してる。
普通に地上の湧き水いれたり、水の初期魔法で出した水入れたりもするけど。
俺だけ魔法で火とか水とか出せないから、すげえ便利な水瓶だぜ!
なんか悲しくなってきたな。
テントに入り、洗って吊ってある綺麗なコップを手に取った。
水瓶の蓋を開けると、中には綺麗な水が並々と・・・
突然!
固いものが肩にぶつかって、真後ろにぶっとんだ!
背中を地面につけたまま魔界の天井を見上げる俺を、おじさん達が取り囲む。
棍を持ったおじさんが、一歩俺に近づいた。
助け起こしてくれるの?
と、棍が、ふわりと俺に向かう。
ゆっくりとした動き。
無意識に、その先端を掴もうと手を伸ばしていた。
しかし。
勢いを増した棍の先端が、手をすり抜けて喉の前に突き立った。
「病気の奴が近寄るんじゃねぇ!」
水瓶の蓋に、丸太のように太い腕を乗せたハゲ頭のおじさんが叫ぶと、どこかからか石が飛んできた。
さっき広場をうろうろしてたおじさ、おっさん達によってたかって土や石を投げられて、俺はテントから追い出された。
※
若〔そ、それで、どうされたんですの?!〕
二『村にいっても門番においかれされたから、しゃあねえ、確か近くに川があったなって思って、そこで汲んできた。
門番いる村って(魔界では)初めてだな。最初いたっけ?』
水を汲んで休憩用テントに戻ると、「あまりにも遅い」って二人に心配されてしまった。
二『だってしょーがないじゃん。水汲ませてもらえなかったんだもん』
若〔それは分かりますけど! まずはこちらに戻ってきてください!?
外には魔物とか居るんですわよ?!〕
青「それに人気がない場所であいつらに襲われたかも知れなかったからな。
病人を村の外に投げたのもあいつらだ。容赦ねぇぜ全く」
青年はコップの水を一気に飲み干すと、ブスッとした顔でもう一個のテントの方角を睨み付けた。
青「外に追い出した奴等が村の外で勝手に治療されてる間は大人しかったんだがな。
おそらく今、あっちのテントには村のお偉いさんが来てるはずだ」
え、なんで?
若〔病気の原因を探すために、どなたかが村の中に調査に入ったようでして〕
二『それでさっきのオッサン達が怒ったんだな』
あの棍の人とかハゲとか。
で、今そのリーダーがピンキー達と対談してる、と。
青「君達が来るまでは地獄のようだったんだ。
病人の出た地区は村から阻害され、人の出入りも流通も止められて。
最後には「出ていけ」だぜ?
病人は皆動けない者ばかりだったから、外に引きずり出されてそのまま投石の要領で投げられた」
そりゃ血ぃ吐くわ!よく死ななかったな!?
青「地面が岩でなく土だったから、かすり傷程度で済んでたようだが」
若〔(あ、ニルフさん。吐血は病気の症状らしいですわよ)〕
魔族って丈夫だね。
病気の家族を守ろうと抵抗したらしいが、看病の疲れと物資不足で弱った力では勝てなかったらしい。
病人を投げた男達に取り押さえられたままの彼らに、ハゲ頭のオッサンは嫌な笑みを浮かべつつ、宣言したそうだ。
今日のうちは村の外で寝ている家族は手を出さないでおいてやる。ただし明日には、村の裏の森に捨てる、と。
青「そのまま病人連れて何処かへ行けってな。
あいつらによると、地区に住んでいた者も全て感染しているらしいぜ。
それで、総出で家財道具まとめてる時に、投げられた家族の安否確認しにいった奴等が、君達の事を伝えてきたって訳さ」
今日の感想 : なんか魔界の村がひどかった。
若〔一言でまとめないでくださいまし!?〕
次回メモ:抹茶
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!