表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
地面に向かって突き刺され!!
182/187

次の泉を目指して~村1~

 銀たちと合流したのは、それから数日後のことだった。

 えらいおそかったな。


レ「しょうがないわよ。例の変な男が泉の辺りで、ウロウロしてたそうだから」

キ「ごめんなさい・・・」


 俺の顔を見た瞬間、レモンちゃんとキラ子ちゃんが説明を始めた。

 そんな分かりやすい顔してるのか、俺?


若〔まさか、キラ子さんを探していたんでしょうか〕

レ「んー、分かんないけど。銀の話によると何かを探すように、毎日のように散策に来てたって」

黒「こっわ!」

ユ「キッモ!」

レ「でね、不測の事態が起こらないようにって、出発を少し遅らせたの」


 銀が、キラ子ちゃんらしき人が遠くの町に出掛けたって噂みたいなものを流したらしい。

 有名人とかじゃないキラ子ちゃんが町を出たって噂を流すってどうやったのかはよく分からなかったけど、なんかその話がストーカー少年の耳にはいると、泉に来るのを辞めたらしい。


黒「噂を流したって、キラ子さんが次にあの町に行ったとき厄介なことに巻き込まれませんか?」

レ「キラ子を有名にしたってわけじゃないから大丈夫よ」


 で、噂が広まるまでの間、魔界で取れた材料を使っての商品開発の時間を伸ばしてたと。

 

ユ「んでな!そんとき出来たんがこれやねん!」


 何故か頭頂部を見せつけてくるユーカ。

 なんだ!

 黄色い!


若〔あら? 以前根元は黒髪でしたわよね?〕

ユ「きづいたー? 染め直してん」

若〔変わった髪の色だと思っていましたから〕

黒「僕ら、元々髪の色は黒ですからね」


 たまたま空いた時間で研究を続けたら、髪染めが出来たらしい。

 

黒「この世界って髪の色カラフルな人多いので、染めてるのかと思ってました」

レ「そんなもの、聞いた事も無かったわよ。

  今回だって、ご主人様の世界の話やユーカのアイデアきいていじってたら、たまたまできたような物だったんだから」


 んで、ユーカが求める色を作ってたら さらに遅れたらしい。。

 魔界の材料からユーカの求める色だけ なんとか作れたらしいけど、まだそれ以外の色はうまく出来上がってないそうだ。


レ「これがうまくいけば、店にくる年齢層がさらに広がるわよぉおお!」


 レモンちゃんは大張り切りだ。老若男女をとりこにする店を目指すらしい。

 それを聞いて、他のメンバーの朗らかな笑い声が聞こえてくる。


 今馬車に乗ってるのは俺、若葉、ユーカ、キラ子ちゃん、レモンちゃん、銀、ポニーさん。

 その他のメンバーは皆、もう一方の馬車だ。

 あのストーカーになりかかってる少年の事があってから、男女で分けるのはちょっと危ないかなって事になった。

 転移使えるのがユーカだけになっちゃうし。


ユ「それに若葉ちゃんだけずっと男側ってのもかわいそうやろ?」

若〔野宿の時はわたくしだけ、ニルフさんの居る男性用馬車にいますけどね〕

ラ「あらあら若葉さん、すっかり慣れちゃって・・・」

 

 ライムさんの柔らかな声が、馬車の壁に取り付けられた箱から聞こえてきた。

 実はこれ、馬車の新機能だ。

 なんとレモンちゃんをはじめとしたピンキー行商人(またの名をピンキー親衛隊)&東の城の王宮魔導士達の研究により出来上がったものだ。

 なんか、離れた所どうしでも紐とか無しに話が出来るっていうヤツだ!

 もっと詳しい説明されたけど、よく分からなかった。


黒「簡単に言えば、無線ですね!」


 いつも俺と一緒に難しい話を聞いてない黒蹴なのに、今回は俺より理解してるようで少し悔しい。

 ただし黒蹴も、内部がどうなってるのかは分からないそうだ。

 ネジとか「でりけーと」だから触ったらダメらしい。

 

ラ「うふふ、無線、いい名前ですね。大きすぎて馬車にしか乗せられませんでしたから、ご主人様のいうような携帯形式にするにはもうすこし、研究が必要ですね」


 距離が離れるとダメなんですよぉ、っていうケモラーさんっぽい声も聞こえる。

 向こうの雑談、全部筒抜けだ。


銀「こちらの雑談も筒抜けだな」

ニ『気を付けないと!!!』

ハ「何ヲ言ウ気ダッタンダ?」

ニ『え、ナンデモナ』

ピ「ちょっと皆! 外見て!!!」


 と、急にピンキーの叫ぶような声が箱から響く!

 急いで外を見ると、前の馬車からピンキーが飛び降りる所だった。

 道の周辺には、深い森。

 先には、≪泉≫へと続く広い道。


 道の横には、小さな村。

 そこには・・・血を吐いた人々が一杯倒れていた。





 *





 泉に行く道中、村近くの道に倒れた人々を見つけた俺達は、急いで馬車を草むらに隠して魔法が切れるのを待った。


ピ「その間に準備をしてしまおう。

  皆は調理器具と大型の鍋と医療品、毛布、担架などを用意。マスクと手袋とマントを忘れないで!感染症かもしれないから!

  ニルフは回復魔法をかけ続けてて!」


 ピンキーの号令で皆が一気に動き出した。

 スゲーテキパキ。こういう時の為に医療品はたっぷり積んでる。

 旅中、誰かが病気になるかもしれないからね!


黒「魔族に人間用の薬とか効くんですかね?」

ピ「やってみるしかないでしょ?」


 この前腹壊した時に 人間用の薬が効かなかった黒蹴が疑問をぶつけてた。

 



 姿を消す魔法の効果が切れてからは、倒れた人々を村に担ぎ込んだ。

 ら、村人たちの妨害を受けた。


ピ「まさか病人を村に入れるなって言われるとは・・・」


 村の傍にある藪を風魔法で切り開いて作った広場に建てた簡易の小屋の中で、ピンキーが呆然と呟いた。

 今、小屋の中にはいろんな姿をした人々が所狭しと詰め込まれている。

 皆 血まみれで、時々苦しそうにあえいでは血を吐いていた。


ケ「せめて、村長の納屋でも借りれればよかったんですが」


 小屋から追加で毛布を持ってきたケモラーさんも、浮かない顔をしている。

 外で地面に倒れているよりはマシだろうと、簡易で建てた小屋だったけど。

 大きい布で周りを囲ってゴザ敷いただけのモノだった。


黒「やぶの刈った草の上にゴザ敷いてるので、ふわっふわですけどね」

ユ「アルプスみたいや!ほら干し草干し草!!!っぎゃーーー!虫ーーーー!」


 2人は楽しそうだ。

 はしゃぎながらも皆を毛布で包んでいく。

 ピンキー親衛隊のレモンちゃん、キラ子ちゃん、ライムさん、サイダーさんは外で鍋を煮込んでる。

 何を作ってるのかは分からなかったが、鍋の蒸気がいい感じに小屋に入って来てて喉に優しい。


ポ「よろしいでしょうか」


 その時、外で周辺を警備してたポニーさんが入ってきた。

 小さな老婆を連れている。

 ニホン風の絵本に出てくる優しいおばあちゃんって感じの、背中を曲げたおばあちゃんだ。触角あるけど。

 そういえば最近ユーカが五つ子達に絵本をかいて読んであげてるんだけど、それが地上でちょっと人気になってるらしい。

 意外な才能だ。


 そのおばあちゃんは小さな背中をさらに小さくして、ピンキーに挨拶をした。

 かがんだら、ピンキーの膝くらいまでしかないな。


ポ「こちら、村の薬術師です」

老婆「この度はすみません。お助けいただきありがとうごさいます」

ピ「初めまして、ピンキーと申します。早速ですが、彼らの症状についてを—――—――」


 すぐに机を取り囲んで話を始める3人。

 なんか難しい事しゃべってる。


 その時また、小屋の出入り口の布がめくれて、レモンちゃんの顔が出てきた。

 

レ「ご主人様!村の人が来てくれた!」

ピ「ちょうどよかった!今ちょうど人手が足りなくて」

レ「すでにいくつかの班に分けてあるわ!

  調理班はライム、薬術班は村近くの薬を取りに行ってもらってる!サイダーが護衛!ベリーは連絡係!

  看病班は」

ピ「こっちで引き受ける。黒蹴!ユーカ!」

黒「なんですかー!」

ユ「血ぃ粗方あらかた拭き終わったで!着替えさすのも終わってる!」

ピ「オッケー!村の人が来てくれたから、交代して2人は外に」


 なんかものっそいバタバタしてる。

 

ピ「銀は」

ポ「気になる事があると、森へ」

ピ「何かつかんだか、任せよう」

ケ「準備できましたよぉ」


 ケモラーさんが、マスクと手袋とマントを着こんだ村人達を案内してきた。

 皆、小屋の中をみるなり目をうるませてる。


「カルファ!生きてたのね!」

「あぁぁ・・・一時はどうなる事かと・・・」

「よかった・・・」


 口々に湿った声で寝てる人に声を掛ける村人たち。ほぼ女の人だった。


ケ「男手には荷物を運んでもらってます。調理も順調です」

ピ「ありがとう。後は原因か・・・」


 村から来た助っ人達は手早く皆の状態を確認すると、手際よく看病を始めた。

 吐いた血を拭きとったり、水を飲ませたり、食事を与えたり。


 外も随分と騒がしく動いているようだったけれど、数時間もすると落ち着いていた。


ピ「皆さん、食事も用意しました。ある程度状態が安定したので休憩にしましょう」


 ピンキーの号令で、何グループかに別れていた班が交代で食事や仮眠を取り出した。中には家の様子を見に行く人も居て、小屋の中はすっかり静かになった。


 外から聞こえる村人たちの声は、ここに助っ人に来たときよりも かなり明るく響いている。

 患者達の様子を見るために残った村人の人も、安心した顔でうつらうつらと船をこいでいる。

 静かに響く患者達の寝息を邪魔しないように、俺はやさしい音色の曲を弾いた。


 そのとき、出入り口の布がソッと持ち上げられる。

 入ってきたのは、看病班のおばさんだった。

 なんか上品で、おばさま、って感じの声の人だ。


「ちょっといい?」


 そういうと、具沢山のスープの入った皿を持って俺の隣に座った。

 匂いからして、レモンちゃん達が作った食事だろう。今日はシチューか。

 俺の腹がグギューと鳴った。

 おばさんは笑いながら俺の前にシチューを置いた。


「ほら、食べていないんでしょ? なくなる前にもらってきたよ」

ニ『マジですか! ありがとおばちゃん!』


 頬張ると熱くてヒーヒーなったけど、そういえばハープ弾くのに一生懸命で全然食事取ってなかったな。

 

若〔休まなくて大丈夫ですの?〕


 若葉が心配げな声を出す。

 一瞬俺に向けたモノかと思ったけど、なんか違う気がしておばさんの顔を見る。

 顔のほとんどはマスクに隠れて見えなかったけど、目の下には深いクマがあった。

 寝不足かな。寝不足で魔族にクマが出来るのかは知らないけど。


「・・・この村はね、見捨てられたの」


 おばさんは、若葉の問いには答えず話し出す。

 この国を統治する王、つまり魔王は以前は隅々まで目を行きわたらせた、きちんとした統治をしていたそうだ。

 しかし突然、このような小さな村に関心を示す事がなくなった。

 

「昔は、王都から医者や傭兵の団が各地を回ってたんだけどね。

 大きな街からきた人はまだ王の統治の変化に気づいてはいないようだけど・・・」


 そういって、おばさんは俺を見る。俺の事を、街から来た旅人だと分かってるんだな。

 王がおかしくなった、と噂をする者も出ているらしい。


若〔町ではそのような話、噂にすらなってませんでしたわ〕


 若葉の声に、こんな小さな村の方が、案外深い情報が入って来るときもあるのよ?と、おばさんは微笑んだ。


 話してくれたおばさんはよく見ると、額に冷や汗をかきながら疲れた様に微笑んでいた。顔色はとても悪い。

 いや、おばさんの体調が悪いと顔色が紫になるのかは知らないけど。

 

ニ『おばさん、顔色悪そうだけど大丈夫?』

若〔やはり休んでいた方が・・・〕

「大丈夫よ、慣れているから・・・あら、珍しいわね」


 急に俺を見て、目を見開くおばさん。

 なんか珍しいもんでも持ってたっけ俺。


ニ『何がですか?』

お「いえ、貴方じゃなくて」


そういうとおばさんは、俺の持つ若葉ハープに目を止めた。


お「貴方よ、そう、楽器の形の」

若〔わたくしですの?〕

お「道具型の魔族なのね。宿主に自我を与えてるって珍しいと思って」

若〔わたくしの様なものが、他にいるんですの?〕


 若葉の言葉に、おばさんは気の毒そうな表情を浮かべる。


お「そう、貴方、自分のルーツを知らないのね。孤児・・・いえ、言わなくていいわ」


 おばさんはそういうと、姪っ子にアドバイスする親戚のおばちゃんのような表情になった。

 若葉にグイッと顔を近づけて、人差し指をスッと立てる。


お「貴方のような道具型の魔族はね、その生涯を懸けて気に入った人を探すのよ」

若〔運命の人を見つけるんですわね。素敵ですわ・・・〕

お「大変らしいわよ。道具として店にならんだり、いろんな人に手に取ってもらって、ね。

  で、見つかってからは、最初は道具としてその人の家に行くのよ。

  そしてある程度その人の癖や話し方を観察して、馴染んだと思ったところで、自我を乗っ取るのよ」

若〔えええええええ!?〕

ニ『こっわ!!!』

お「だから、お嬢さんのように寄生主の自我を残しているのは珍しい、と思ってね。

  彼の自我を失くしたくないほど、素敵な人に巡り合えたのね」


 おばさんは、スッと目線を遠くに向ける。

 何かを思い出してるんだろうか。

 と、出入り口の布が上がって村人の人が顔を出した。

 おばさんを呼びに来たらしい。

 

 どうやらピンキーの今回の行動に、村の権力者が来て揉めてるとかなんとか。

 それを説得するから来てくれと。


お「厄介ね、分かったわ。

  ねえ、貴方達。道具型の魔族は寄生主が常に身に着けていないと、とても脆いものだと聞くわ。

  今回は運よくこの行商人の人達に助けてもらえた命でしょ?

  貴方達が一緒に居させてもらえるよう、村やあの行商の方たち、皆に話を通しておくわね」


 おばさんは一気にまくしたてると、そのままウィンクして小屋を出ていった。俺の食べ終わった食器を持って。



ニ『すごいおばさんだったな・・・』

若〔しかしそのような魔族の方がいらっしゃるとは、いい情報が利けましたわね〕

ニ『若葉が過ごしやすくなるな』

若〔というか・・・わたくし達、ピンキーさんに治療されてる患者だと思われてますわね?〕

ニ『俺だって頑張ってるのにぃ!』


 そりゃ皆が走り回ってる間ずっと、小屋に座ってハープ弾いてただけだけど!!!

次回メモ:原因


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ