vs三人組 決着
全身にセメントをひっ被ったハーピー。
そんなハーピーに直撃されたプックは・・・。
プ「ぎゃー!ぬちょってなってるー!」
残念ながら平気そうだ。
しかしハーピーの全身に付いている乾く前の岩の元がひっついて、鎧代わりにもなっていた毛がべったべただ。
プ「動くほどに引っ付きやがる」
プックは不快そうにハーピーを引きはがそうとするが、ダメージを受けた様子が全く無い。どんだけ丈夫なんだ。
ハーピーがくっついたのはちょうどプックの背中。一生懸命に手を伸ばして取ろうとするプック。
一方ハーピーは、引きはがされてたまるかと、がっしりとプックに抱き着いてその動きを封じる。
一瞬合ったハーピーのその目は、ハープと俺を交互に見ていた。
・・・分かった。
俺はその場をさっと離れて風魔法を乗せて弾く。
悪いハーピー。全回復させたら、すぐに助けに行くから!
若〔どうやってですの?!〕
二『考えといて!』
若〔ええええええ!?〕
向こうでは、ピンキーがザンアクロスを上手いこと遠くの方に追いやっていってる。
ブーメランが当たらない距離に移動させてるっぽい。
なんか結構姿が小っさくなってるけど、大丈夫かな?
その時ピンキーがザンアクロスを押し倒す所が見えた!
そのまま、鋭利な爪を、その若干華奢な首に食い込ませる!
すごいぜピンキー!
しかし
何故かザンアクロスが
ニヤリと笑ったように感じた。
=※ピンキー※================
そのとき、二人の間から、ブーメランが飛んだ。
他のものより随分小さいものだったか、炎を纏っている。
だが余程無理な体勢で放ったのだろう。検討違いの方向に飛んで行った。
横目でそれを確認したピンキーは静かに語りかける。
ピ「あきらめた方がいいよ。武器に魔法を纏わせても、その体勢じゃ攻撃にもならない」
ザ「どうだろうね」
飄々(ひょうひょう)とした答えに、ピンキーが爪に力を籠めた。瞬間
2人の体を、赤い炎と爆風が襲い掛かった。
ピ「ぐ・・・ぁ。な、にが」
一瞬意識を手放したが、激痛ですぐに目が覚めた。全身から焦げた臭いがする。
必死に目を開けると、ふっとばされた2人の間に、少し距離が出来ていた。
数歩先に転がるザンアクロス。
向こうも直撃を受けたのか、元々ゾンビのようだった皮膚が、さらに酷いことになっている。
倒れたまま動かないザンアクロスに少しホッとして体を起こす。
全身を襲うやけどの痛みに呻きつつ、爆発地を見た。
そこには焦げ付いたザンアクロスのブーメランと・・・。
ピ「ホコリ・・・?」
火の光に照らされて光る、空中に舞った細かな埃のようなものがあった。
ジ「ふおぉぉぉぉぉ!!!
あ い ず !
ジジちゃん
がんばる!」
プ「プックもー!!!」
急に、2人が大きく叫んだ。
同時にピンキーの足元にぼとりと、赤いゼリー状のものが落ちる。
それは落ちた衝撃で崩れることもなく、しばらくプルプルと震えていて・・・
ピ「なんだこれ・・・!」
ザ「なんだろうねー」
傍で転がるザンアクロスが返事を返した。
全身にやけどを負っているザンアクロス。
しかしピンキー自身の傷は、ニルフのハープによって癒されつつある。
ピ「回復しているってことは、ニルフと若葉は無事だね」
プックと二人でニルフを狙ったザンアクロスはそれを知っているはずなのに、隣の男の態度は変だ。
風の魔法で回復している様子もない。
ピ「どうして、そんなに余裕があるの?」
ザ「見てるといいよ^^」
余裕をもった声色を不審に思う。
考えをまとめようとして、しかしピンキーは首を振り。
起き上がることも出来ないザンアクロスに、一歩、歩を進める。
その格好は既に狼ではなくいつもの人の姿に戻っている。
手に持った美しい片手剣を、大の字に転がる彼の首に振り下ろした。
直後、また大きな爆発音がした。
何かにぶつかられて体勢が崩れる。
が、無理矢理、地面まで剣を叩きつけた。
ピ「っく」
ザ「残念だったね」
その声に、失敗したことを悟る。
ポ「がはっげふっ」
横に覆い被さった何かが、大きく咳き込む。
見ると、吹っ飛んできたのはやけどを負ったポニーだった。
苦しそうにした咳と共に、赤いものが混じる。熱せられた空気を吸ったようだ。
しかしすぐにその傷も癒えたようで、ポニーは苦しそうに胸を押さえている手を下ろした。
ピ「なにがあったの?」
ポ「オノに炎を纏わせ攻撃しようとしたら周囲が突然爆発しました・・・。それに竜巻が内部から・・・」
ポニーの目が、スッと遠くを見る。
目線の先では、竜巻が真っ赤に染まっていた。
噴出し、渦を巻く真っ赤な炎。
竜巻の上部からは、先ほどピンキーの足元に落ちてきたのと同じ、ゼリー状の物体が噴水のようにまき散らされていた。
ジ「どこ
いった」
中から聞こえるのは、幼さの残る少女の声。
ポニーを探しているのだろう、竜巻にさえぎられた周囲を見回しつつ少しずつ進んでいくジジ。
巨大な赤い竜巻が、ジジと共に移動していく。
竜巻の周りでは、次々に爆発が起こった。
ピンキーは足元に落ちた赤いゼリーを剣でつつく。
ぷるんと一揺れして、小さく炎を吐いた。
ピ「内部から、ね。あの火は、そういう事なんだね」
ザ「気づいたかー」
小さな呟きをザンアクロスが拾う。イラつきを感じて、そのまま剣を再び、首の上にかかげた。
今度は邪魔が入らない。ザンアクロスも既にあきらめたのか、抵抗する様子を見せなかった。
ピ「動かなければ、痛みは少ない・・・と思うよ?」
慎重に頭に狙いを定め、剣を振り下ろす。
しかし。
ザ「残念だったねー」
何度め目かのその言葉と共に。
彼の姿は消えていた。
下ろした切っ先は彼を切り裂くことなく、硬い地面に深い溝をつくる。
ポ「転移・・・ですか」
ようやくやけどが癒えたのだろう、気だるそうに起き上がったポニーが、声に悔しさをにじませた。
================
ドーン! という音と共に大爆発が起こり、ジジの周囲に炎が走った。
その炎さえも巻き込むと、それが刺激になったのか、中の赤いスライム達がさらに炎を盛大に吐く。
炎を巻き込む巨大な竜巻。その姿はまさに・・・。
ニ『イチゴアイス!!!』
若〔赤いところはまさに果肉! ・・・ってそうじゃありませんわ!?〕
まさに竜。
ジジは、1つの天災になっていた。
歩みを止めようにも、時折起こる爆発が危なすぎて近寄れない。
多少の魔法や魔弾をぶつけても、竜巻と爆発の両方にはばまれて、ジジ本体を攻撃することが出来なかった。
若〔こんなとき、ユーカさんがいれば・・・〕
焦った声を若葉がもらす。
ピ「なぜ爆発が起きるのか、その種明かしをしないと勝利はつかめない・・・」
少し遠くから、ピンキーの考え込む声が聞こえる。
シーくん達が声を運んでくれたようだ。無事なようでよかった。
近くには、さっき吹っ飛んでったポニーさんの姿もある。
こっちも起き上がってるから、怪我は大丈夫っぽい。
プ「フンガー!」
急にピンキー達とは違う方向から変な声が聞こえた。
振り替えると、プックがケダマを脱ぎ捨ててた。
ニ『脱げるのソレ!?』
プ「超邪魔。てぇい!」
そのままハーピーをクルクルっとケダマで簀巻きにすると、火を吹く竜巻の進行方向にぶん投げた。
ちょ!!?
とっさにハープ腰に挟んで走って跳ねて簀巻きにタックル!
簀巻きは竜巻から逸れて、弾んで廃墟にぶつかって止まった。
ニ『あぶな!』
若〔燃やす気ですの?!〕
プ「うん!」
ハーピーの蒸し焼きとか、エグいわ!
若〔って、プックでしたっけ?
なんですのその格好!〕
プックはなんか、ほっそーくなっていた。
3メートルほどの背の高さはそのままなのに、体周りのケダマがなくなって、棒人間みたいになっていた。
ニ『ぷっ!ククク・・・』
プ「わーらーうーなーやー!」
怒ったプックが、尻尾辺りのケダマをちぎって投げてきた。
しかしケダマは風にあおられて、あっけなく竜巻の方に飛んでった。
と、そのちょっと大きめのケダマは、そのまま竜巻に吸い込まれた。
同時に起こる、大爆発。
あれ?もしかして爆発の原因って・・・。
ピ「ニルフ!ちょっと時間稼いで!」
ピンキーの声が聞こえて振り替える。
なんか狼フォームで走っていってる。
ニ『どこいくのピンキー?!』
ピ「ちょっとねー!」
そっちには馬車しかないよ!?
あ、ピンキーの前にザンアクロスが出てきた!
って、ぇ、上から黒い影が落ちてきた!ハーピーだ!ハーピーがザンアクロスに上からおそいかかってる!!!
ザンアクロスvsハーピー!
ブーメランすべて避けたハーピーはブーメラン全部掴んで井戸の中に投げ込んじゃった!!!?
消えて逃げるザンアクロスだけど、美女系猛禽類のハーピーの前ではすぐに見つかって岩とか落とされてる!風の攻撃魔法とか当てられてる!
武器取られて防戦一方のザンアクロス!火とかの魔法を打っても避けられてる!
って、こっちではプックvsポニーさんだ!
ポニーさんがプックを斧でぼっこぼこに殴り付けてる!
しかも刃じゃなくて、斧の面で!
ケダマがぺっちゃんこになっていってるプック!
泣いてる!!!
ニ『・・・俺なにしよう』
若〔・・・回復では?〕
デスヨネ。
※
ハープを弾いて数分後、なんか魔界の空に真っ黒な雲が立ち込めてきた。
なんだあれ、初めて見る天気だ。
と、急激に雨が降ってきた!
なにこれ!
ピ「雨降らせてみたよ」
雨と共に帰ってきたピンキーが横に来た。
埃まみれだけど満足げだ。
なになに、何してたの?
ていうか、どうやって雨降らせたの?
まず、なんで雨?
ピ「んー、科学的な事を色々とね?」
ニ『残念くわしく教えてくれないとかー』
ピ「ニルフ寝るでしょ」
若〔火を消すんですわね?〕
ピ「それもあるけど、もうひとつね」
しゃべってる間に段々強くなる雨。
それと同時に、若干埃っぽかった地面付近の空気が澄んできた。
見回して、ピンキーが頷く。
ピ「目的は達成できたようだね」
若〔それはどういう・・・〕
ピ「ほら、竜巻を見てごらん?」
促されて見てみる。
移動した先々で起こっていたジジの竜巻による爆発が、急に無くなっていた。
というか、爆発は起こってるようだけど、黒い煙がぼふっと出る程度で、炎や熱風が出ていない。
完全に不発って感じになっていた。
若〔ちなみにあの竜巻ですが、視界があまり良くないようですわ。
ずっと同じところをグルグルと回っていました。
仲間のピンチにも、気づいていないようですわ〕
ピ「それは僥倖。それじゃ、後は任せて」
いうなり、ピンキーはポニーさんとこに走っていった。
俺はすぐに、若葉に尋ねた。
ニ『ぎょうこうってなんだろ?』
若〔思いがけない幸運、ですわよ〕
=※ピンキー※============
ポニーさんとこでは、プックがぺっちゃんこになって延びていた。
向こうでは、ハーピーがザンアクロスを風で押し倒してるのが見える。
どちらも気を失っているようだ。
ザンアクロスに関してはあれだけ転移を行ったのだから、魔力も残り少ないだろう。
ピンキーは今もまだ歩き続ける竜巻を見る。
雨のおかげで毛玉による爆発は解除できたが、炎を吐く竜巻自体は健在だ。
若葉の観察力で、どうやらジジ自身は視界をふさぐ竜巻が邪魔で周りが見えていないようであると仮説がたっている。
ならば。
彼女を止めるには、見えるくらい近くに寄せてやれば良い。
彼女の、大切なものを。
ジ「ザンさんとプック
こない!」
ジジの呟きを狼の耳が拾う。
恐らく、ある程度戦場の状態を整えたうえで3人で竜巻の中に籠る予定だったのだろう。
プックが誘爆するケダマを撒き、それが満ちた頃に安全な竜巻の目へ。
転移魔法を使えるザンアクロスがいれば可能なことだ。
俺は馬車から戻る途中で拾った、巨大なケダマを見る。
ハーピーが簀巻きにされていたものだ。
あのときは敵の隙をついてポニーがハーピーを助け出した。ニルフは気づいてないだろうけれど。
手の中にあるそれは、岩陰に居たからか、雨にぬれず乾いていてよく燃えそうだ。
それを、同じく足元にあった気を失っているプックにくっつけた。
セメントとやらがが乾きかけでくっつきやすい。
俺は、それを持って大きく振りかぶる!
ニ『ピンキー?』
ニルフの困惑したような声が聞こえるが、構わずぶん投げた。
それは一直線に、炎を噴く竜巻に向かって飛んでいく。
位置は、竜巻の進行方向少し横。おそらくは、ジジの目線の斜め横。
ジ「!!!」
竜巻が、大きく揺れた。
==============
*
=※ジジ※============
ジジは最初、自分に向かって飛んでくる毛玉に気づいた。
慌てることなく、作戦を思い浮かべる。
ジ「(これを 爆発 させたら
ふたりが てんいしてくる!)」
だから、近くにいるハープのアイツをこれの爆発に巻き込んでやろうと思った。
あのハープを弾くやつがおそらく回復役だろうから。
ジジは、うまく毛玉の端っこに引火させてから毛玉を打ち返そうと、それまで高速で振り続けていたヌンチャクを再度握りなおす。
その時。
毛玉にひっついて白目を向く、ちいさな犬と目があった。
ジジのヌンチャクを振る手が、ぶれた。
============
*
ジジがヌンチャクを操ったのか、毛玉を避けるように竜巻が大きく歪んだ。
だがそれが逆に刺激になったようで、竜巻に巻き込まれている赤いスライムが一段と炎を噴きだした。
小さな犬のくっついた巨大な毛玉の端に、小さいが火が灯る。
それが小さな犬を巻き込んで大爆発する前に、ジジを守る竜巻が大きく膨張して炎やスライムと共に上空へと巻き上がり、爆発して消えた。
竜巻の中に居た赤いスライムだったものが降り注ぐ中。
厚い雲が消え去り日が注ぐ地面には小さな犬を守るように倒れる、傷だらけの小さな女の子の姿があった。
あの時プックの毛玉に灯った火。
ジジがそれに気づいたのか、竜巻の維持に失敗したのか俺達には分からないが。
ピ「優しい小さな女の子すら戦わせる魔王、か・・・」
ピンキーには、何か思うところがあったようだ。
ポ「とりあえず、あの2人を確保して治療しましょう。
大切な交渉材料になりそうですし」
ポニーさんの言葉で、その辺にほったらかしになっていた荷物からロープを出しに向かう。
ハーピーと戦っていたザンアクロスも、ぼろ雑巾のようになって、ピクリとも動かず雨上がりのぬかるみに、うつ伏せに倒れていた。
と、辺りが急に闇に覆われた。
ポ「なんですかこれは!」
若〔視界がききませんわ!〕
ニ『ピンキーなんかした!?』
ピ「なんで俺!? まさか新手の魔族・・・!」
?「皆こっちー」
焦る俺達の声に混ざって、この場では聞かなかった声が響いた。
ピ「誰だ!」
?「2人共大丈夫!? 回復させるね」
また、同じ声が聞こえる。増援か!
でもなんかこの声、どっかで聞いた気がするんだよなぁ・・・?
プ「うーん。・・・あ、ザンさんとクむごがぁ!」
プックが誰かの名前を言いかけるが、すぐにくぐもった声に変わる。
ジ「こんぬづわ!」
?「こんぬづわ!」
ザ「こんぬづわ、ひさしぶり~」
プ「こんぬずあ!」
ジ「プック違う、こんぬづわ!」
プ「ぬづあ!」
?「挨拶いいから早くこっ・・・」
闇の向こうでわちゃわちゃとした会話が聞こえていたが、それが急に途切れた。
それと同時に闇が晴れ、太陽が顔を出した。
ピ「ザンアクロスの転移魔法・・・か」
ピンキーが静かに告げる。
その足元では、ザンアクロスの体型そっくりに作られたケダマの塊が、ぬかるみに倒れていた。
ピ「俺の鼻でも、気づけなかったよ」
くやしそうなピンキー。
急な闇で視覚を奪われたとはいえ、ピンキーはすぐに臭いで追おうとしたらしい。
しかし。
臭いは、ぱったりと途切れたそうだ。
ポ「転移・・・。相手が使ってくると厄介ですね」
若〔わたくし達のとは異なり、細かい距離の移動が可能なようですわね〕
地面には竜巻にいた赤いスライムが煙を出して燃えていた。
あのジジって子の置き土産だな。
たまたまなのか作戦なのかは知らないけど、上手く逃げられてしまった。
誰かが、フッとため息をつく。
もうすぐ銀達が来るはずだ。
それまで、また襲われないようにしないと。
次回メモ:合流
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!