≪泉≫ってなにも無いよね
その後。
順調に馬車を走らせ、俺達は《泉》を回ってるところだ。
っていっても、まだ水の《泉》しか回ってないけど。
馬車が通れるくらいの道を辿っていってたら、思った以上に回り道してるっぽい。
それなのに。
最初にリザードマンに案内してもらった街ほどに大きな所はなかった。
ちなみに、今通ってる道も馬車が何台かすれ違えるほどにデカいのに、道沿いにある集落は全てちっこい村ばっかりだった。
まぁ、途中途中にある小さな村のお陰で、休憩には困らなかったけど。
ピンキー達は仕入れと売りさばくのと両方してるっぽいし。
黒「流石に村ばっかりじゃ飽きますねー」
ユ「どこも一緒やんなぁ」
ピ「見慣れない姿の人が多いから、その点では飽きないけどね」
荒野を突き抜けるようにまっすぐ続く道。
村を離れてしばらくすると変な鳥とか動物とかが馬車に襲い掛かって来るようになったけど、ぶっちゃけこの馬車に追い付ける生物はいないっぽいから関係なかった。
すれ違う人も馬車もいないから、皆ゆっくりとおしゃべりに花を咲かせている。
俺はずっとハープ引いてる。
ユ「んでなー若葉ちゃん。ほんでなー」
ってか最近ユーカがずっとこっちに居るんだけど?
こっち男子用とか言ってなかったっけ?
ユ「こっち若葉ちゃんしか女子おらんやん。
ニルフからハープ取り上げる訳にもいかんし。え、理由? 馬車遅なるから。
あと、向こうではピンキーや銀にアピールする作戦とか次の街で売れそうなもんとかの会議してて話についていかれへんねん」
黒「由佳、女子っぽい話苦手だもんね」
ユ「ちゃうわ!ウチが逃げてきたんは商売の話になってきたからや!
ウチだって女子トークできるしぃ?」
黒「ふーん。
所で、次はどこに向かってるんですか?」
ユ「ちょ、ふーんって」
銀「道の伸びる方角では、おそらく雷か」
プ「きゅー!」
黒「そうですね、プラズマの場所ですね!」
若〔それにしても、次の《泉》へと向かう道が一方向しかないというのは驚きでしたね〕
ピ「いや、冒険者達がよく使う細い道は結構あるんだけど。
この馬車が通れるほどの道となると中々ないんだ」
若〔そうなんですね〕
ユ「でもほとんど草原やねんから、ほっそい道ふっとはす勢いで突っ込めば良ぉない?」
二『怖いわ!』
ピ「まぁまぁ。それはやめておいた方がいいかもね」
ユ「なんでぇー?」
ピンキーが笑って、ふっと無表情になった。
ピ「なんでもね・・・。
昔、ユーカと同じ方法で楽に力を求めようとした貴族が居たらしいんだけど。
握りつぶされた状態で、発見されたらしいよ。
馬車ごとグッシャリと、ね。
ま、これは冒険者の間で語られている噂話みたいなものらしいけどね」
黒「乗り物使うときは、遠回りしろってことですかね」
ピ「かもね」
銀「見えてきたぞ」
ユ「まじか!」
銀の言葉に、皆が馬車から顔を出す。
ちょっと待って、俺も見たい!
若〔わたくしも見たいですわ!〕
二『よっしゃ行くぞ若葉!
よいしょっと。見えるー?』
若〔みえますー! キラキラしてて綺麗ですわー!〕
ニ『俺も見るぞー!』
ピ「あ、ちょっと危ないニルフ!?
俺が支えるから両手離して身を乗り出さないで!」
怒られた。
「ちょっと何してるのご主人様!?」ってレモンちゃんの声がして振り返ると、こっちの馬車の騒ぎが聞こえたのか、後ろの女子馬車からも皆が身を乗り出していた。
ピ「向こうとの連絡手段も考えないとね」
若〔《泉》に《登録》すれば東のお城に帰れますし、しばらく休憩すればいいのでは?」
ピ「そうしようか」
*
着いた先は、火の≪泉≫でした。雷どこいった。
広く黒い草の生えた広場の中央には大きな赤黒い光る岩みたいなものがたまった大きな場所がある。
その奥には、火の粉踊るマグマの様な滝。
天井は煤けて真っ黒だ。
なんだこれ・・・凄い暑さだ。
居るだけでダラダラと汗が出て、空気が歪んでウネウネしてるそんな場所で。
銀「方角と距離は関係ないのか?」
ピ「おかしい・・・確かに真下にほぼ直線していたはずなのに」
若〔キラキラしていて綺麗ですわー〕
ユ「精霊おらんねんけどー!」
絶句する銀とピンキーの横ではしゃぐ若葉とユーカ。
レ「ご主人様!この草、火であぶっても燃えないわよ!」
ケ「それ、繊維取り出して布を編めば、燃えない装備が出来そうですねぇ」
サ「この傍に生えている木を切ってみたのだが、見事な年輪だ!色も真っ黒で貴族に受けそうだ!」
べ「わん!わんきゃん!」
ラ「あらあらうふふ、ベリーが根っこごと綺麗に掘り起こしてくれたわ! 早速植木鉢もってくるわね」
キ「わ、私も手伝いますね!」
新たな商品の材料になる物が無いか、目を光らせるピンキー親衛隊。
ポ「ハーピー、貴方は空を見てきなさい。私は地上に敵が居ないか確認してきます」
ハ「分カッタ、ぽにー! 2人デ銀ニ褒メラレルゾ!」
ポ「そ、そういうのは銀の居ないときに言いなさい!」
馬車を降りるなり周囲の警戒に当たる銀大好き2人組 (勝手に命名)。
ちなみに銀が拾って飼ってるスライムは最近ピンキーの元に居る事が多いから、多分今もピンキーの道具袋の中だろうな。
んで。
特に何もなく。
黒「普通に≪登録≫終わりましたね」
ニ『≪泉≫に武器つける時、燃えないか冷や冷やしたな』
若〔ピンキーさん、あのドロドロした黒い岩もマグマだって言ってましたものね〕
黒「普通に≪登録≫終わっちゃいましたね」
ユ「女子馬車の人ら、新商品のアイデアいっぱいーって大喜びしてたわぁ」
黒「普通に≪登録≫終わっ」
ユ「何なんにーちゃん、さっきから同じよーな事ばっかり言うて!」
ニ『確かに地上じゃずっと大精霊が襲ってきたのに、ここじゃ何も居ないから戦いが無くて肩透かしだよな』
黒「いえ。戦いが無いってのはうれしいんですが。アイツがいるかなーって」
若〔アイツ、ですか?〕
黒「せっかく火の≪泉≫っていうんですから。フフフ・・・」
ニヤニヤした笑いを口元に浮かべて双銃ナデナデする黒蹴。
怖いからちょっと放っておこう。
ちょうどレモンちゃんがご飯の支度するって呼びに来たから、みんなでこの場を離れよう。
レ「黒蹴って、火の精霊が関わるとおかしくなるわよね・・・」
ユ「ほっとこ」
*
ニ『それにしても、この泉の近くってアッツいなぁ。近くに街無いのかな』
ピ「さすがにここで、東の城に戻ってる間に見張り役に1人残すって言うのは難しいね」
銀「おい」
ピ「あ、銀。なんだい?」
銀「ハーピーが町を見つけたぞ。滝の裏の方角だ」
ハ「コッチダゾ!」
ハーピーの先導で向かった先には、小さいがちゃんと整備された町があった。
火の≪泉≫から(ふつうの)馬車の速度で5分くらい。
ちょうど、港街と王都を繋ぐ街道のとこにある町くらいの大きさ。
町全体に水の膜みたいなのが張ってあって、暑さを防いでた。
ニ『んで、当然門番は居ないんだな』
若〔実力主義らしいですものね〕
皆でウロウロと大通りを進む。って事も無くて、宿を取ってすぐ、みんな好き勝手に町に繰り出してった。
ちなみにこの町の中は。
最初に訪れた≪魔界で二番目に大きな街≫と比べてこじんまりしてて、普通の人が一杯住んでる所って感じ。
歩いてる人は見た目も大きさもバラッバラだけど。
ちなみに今、一緒に町を回ってるのは若葉と銀とピンキー。と、キラ子ちゃん。
ピンキー親衛隊の皆も、ピンキーと一緒に町を回るかと思ったら、「あたし達は新商品の開発に東の城に戻るわね!!!」っていって転移していった。
制作意欲すごい。
っていうかこの町、空もすごい。空っていうか天井?
ドーム状の水で出来た薄い膜がゆらゆらしてて、町の光を反射してキラキラしてる。
魔界の天井からのキラキラした光もさらに反射して、その2つが混ざってもっとキラキラしてる。
ピ「ニルフ、上ばっかり見てたら転ぶよ?」
ニ『はーい』
注意されて前を見たその時。
人ごみの間から、岩っぽい大男と15歳くらいの背丈の少年がぶつかったのが見えた。
よろけて転ぶ少年。
あ、すかさずキラ子ちゃんが走って行った。
少年はつんと尖った口元をしていて、とがった耳が天に向かって伸びてる。前にピンキーが見せてくれたキツネって動物の絵に似てるな。
でも尻尾はない。服はちょっとボロボロ?
駆け寄っていくキラ子ちゃんを目で追うと何処かから、小さく「チッ、このモブ男が」という声が聞こえた。
ニ『モブって何だ?』
若〔どうしたんですか?〕
ニ『いや、今どっかから声が』
キ「大丈夫ですか?!」
キラ子ちゃんが人ごみを避けつつ叫ぶ。
その声に少年の胸倉つかんでた大男がキラ子ちゃんを見る。
男「なんだぁ? 嬢ちゃんが謝ってくれるってい・・・」
ニヤニヤした顔でキラ子ちゃんに近づく大男。
が、こっち見たと思ったら、チッて顔して立ち去った。男の子を投げ捨てて。
目線の先を見ると、俺の横で銀が男を物凄い睨んでた。
そら逃げるわ。
キ「だ、大丈夫ですか・・・?」
キラ子ちゃんが少年に手を伸ばすと、少年がキラ子ちゃんの顔を見て照れた。鼻の下が伸びている。
と、銀が音もなく少年の隣に立っていた。そのまま、キラ子ちゃんに伸ばした少年の手を掴んで、引っ張り上げる。
少年「え、なん・・・」
若干ショックを受けたような顔をした少年は何かを言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。
銀「気を付けろよ」
少年「・・・ああ」
少年はすぐに銀の手を振り払うと、なんでか不満げに銀を凝視した。が、銀はサッと人ごみに紛れつつ消えていた。
え!? 消えた!? 銀消えた!?
ニ『ちょ、銀消えた!?』
若〔ちょっと黙ってニルフさん、聞こえませんわ?〕
ニ『スンマセン・・・』
やっと2人の前にたどり着いたら、少年は銀が居た方にいぶかし気な顔を向けていた。
眉間にシワ寄ってる。
少年「何だアイツ・・・」
キ「あ、あの・・・?」
少年「あ、ありがとうございます!貴方がいなければ僕はあの男にひどい目に遭わされていました!」
キラ子ちゃんが声を掛けた瞬間。
ものすごい良い笑顔になって、キラ子ちゃんにペコっとお辞儀する少年。
そのまま手を差し出して、キラ子ちゃんの手を両手でキュッと
ピ「そう? じゃあ、俺達は行くね?」
キュッと、狐少年の手を握りしめたピンキーは、そのまま何度かブンブンと上下に振って、パッと話した。
少年「あ・・・あぁ。あ、そうだこれ、助けてくれた礼にどうぞ」
2回もキラ子ちゃんの手を握り損ねて魂が抜けたような顔してた少年だったが。
ピンキーの言葉を聞くなりそう言って、背中に背負っていた籠から小さな袋を取り出してピンキーに渡した。
少年は果物を干したものを売り歩いているらしく、お礼に数個くれるらしい。
少年「そうだ、貴方にはコレを!」
一番大きな果物を籠の奥から取り出して、少年がキラ子ちゃんにプレゼントする。
キラキラしていて干してるはずなのにみずみずしく、つい手を伸ばしたくなるような美味しそうな・・・。
キ「あ、ありがとうございます。綺麗すぎて、私なんかが貰ってもいいのかどうか・・・」
少年「いいえ、貴方だからこそ、渡したいのです」
スッゲー恥ずかしいセリフを、凄い爽やかな笑顔で言い切ったな。顔が狐だから分からないけど。
その後も(キラ子ちゃんを見つつ)「街を案内しようか?」とか、(キラ子ちゃんを見つつ)「良い宿屋紹介しようか?」とか、(キラ子ちゃんを見つつ)「おすすめの料理屋があるんだ」とか言ってくれたが、ピンキーが丁重にお断りしてた。
キラ子ちゃんは若干引いてた。
キ「この果物、どうしましょうか・・・」
ピ「捨てようか」
ニ『え?』
ピ「何勝手に食べてんの!? しかもキラ子が貰った、余計によく分からない方を!?」
若〔ニルフさん何食べてるんですか!?〕
ピ「若葉、もっと言ってあげて!」
若〔味はどうちがうんですの!? 地上の果物で一番近い物は!? 食感は!?〕
ピ「・・・」
ニ『ショリショリしてるよ』
おいしそうだったから、キラ子ちゃんが持ってる奴をちょっと千切って齧ってたらピンキーに怒られた。
ものすごく怒られた。
ニ『でもさー、前にリザードマン達に教えてもらった食べ物書いたノートの中にあったからさぁ』
ピ「どれ? ・・・あー、これか。確かに一緒だけど・・・干しても大丈夫なのかな・・・」
若〔心配でしたら、あの少年が売ったものを食べる人がいるか、確認してみればいいんじゃないですか?」
キ「ご、ごめんなさい。私が受け取ったせいで・・・」
ピ「ニルフが悪いから気にしないで」
ニ『いやぁ、ハッハッハ』
帰る前にちょっと少年を観察する事になった。
この少年、結構この町でなじみのお客さんが多いっぽくて、何人かの金持ちそうな魔族が同じ干し果物を買って食べてたが、害はなさそうだった。
ピ「ニルフの事もだけど・・・、キラ子目当てに後をつけられていたら嫌だったからちょっと気を張ったんだよね。でも、心配は無かったみたいだ。ただの果物売りか」
若〔この果物、どうしますの?〕
ピ「キラ子が貰った方も、俺が受け取った方も同じ種類の様だから、宿で皆で食べようか」
ニ『やったー!!!』
ピ「ニルフは駄目だよ?もう食べたでしょ?」
ニ『え、でもちょっとだけしか』
ピ「・・・」
ニ『ゴメンナサイ』
もらった果物は宿で皆で分けて食べた。
宿のごはんの後でデザートとして食べたので、かなりお腹いっぱいになったそうだ。満足!
でも俺は食わせてもらえなかった。悲しみ!
キラ子ちゃんが渡された果物は、黒蹴とユーカが半分こして食べていた。他の皆はお腹いっぱいだからいらないってさ。
キラ子ちゃんだけは、何故か「わ、私は遠慮しておきます・・」と言って一口も果物食べなかったけれど。
残念少年、脈はなさそうだ。
一晩ぐっすり寝て、次の日町を出発する。
ピ「材料結構買い込めたし、レモン達にはリュックに手紙入れて今後の行動伝えたし、すぐに町を離れようか!!!」
ニ『そっか、リュックで地上とやり取り出来るんだな』
ピ「便利でしょ?」
俺達の乗る馬車。その後ろでは、5つ子達がおままごとをして遊んでいた。
次回メモ:邂逅
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!