ごはん
黒「ぐぉぉおぉ・・・」
馬車の中で、黒蹴が今日もうめいている。
二『長いな、今日で2日目だ』
銀「そうだな」
外から戻ってきた銀も、少し心配そうだ。
俺は体力回復のハープを奏でつつ、黒蹴の看病をする。
今日はあの小さな町に寄ってから、3日目。
あの日はあの村に泊まって、食料などを買い込んで、次の日の早朝に出発した。
目的地の、世界樹の麓にあるであろう、《泉》を目指して。
まあこの道が、どこの《泉》に続いてるのかは分からないんだけど。
てか、《泉》に続いてるのかさえ、分からないけど。
んで、あの小さな村を出て一日。草原に続く白い道をたどっていたら。
二『急に黒蹴が、腹痛いって倒れたんだよなぁ』
いくら村が祭りだったとはいえ、念のため屋台には寄らず、馬車に積んでいた食料を食べたっていうのに。
ちなみに食べ物は、魔界に着てすぐに立ち寄った、リザードマンの村で食べたことのあるものを選んである。
あの村の村長さんは俺達が人間ってことを知ってたから、色々ピンキーに教えててくれたらしい。
ありがとうリザードマン。
そういや、宿屋のオバチャンのご飯もそこから選んでた。(ピンキーが)
外は一面、すっかり見慣れた赤色の草原。
町なんて、どこにも見当たらない。
ピ「これは一度引き返した方がいいね」
馬車の外に顔を出したピンキーが、黒蹴の額に浮かぶ汗を拭いて言う。
最速で馬車を走らせてるが、宙を浮いてるから揺れは全くない。
ピ「ニルフ、今は回復の魔法かけてるんだよね?」
ニ『おう。ずっとかけつづけてるぞ』
ピ「それでもこの状態か・・・。
地上に帰るにしても、風土病だった場合を考えると、戻るにも危険か・・・」
若〔リザードマンさんの村はいかがでしょう?〕
ピ「隔離されてる場所だからなぁ。病気に弱いかもしれない」
若〔そうですが、しかし・・・〕
心配する気持ちも分かるけど、原因が分からないとどうすることも出来ない。
ピ「と、なれば」
ニ『なんか策あるのか?』
銀「あの街に行くしかないな」
あの街?
ユ「あれやんな、喫茶店あるとこ」
ピ「だね」
なるほど!
二『でも医者いたっけ?』
ピ「居るらしいよ。大きな町だし、施設もありそう」
若〔あら、でも・・・〕
若葉が不安げに声を揺らした。
若〔お医者様は居るとして、わたくし達が人族ってバレても大丈夫でしょうか?〕
ピ「そこなんだよねぇ・・・」
そこなのかぁ。
悩むピンキーの横では、ユーカが黒蹴の汗を拭ってい・・・違うぞ! あれは拭う振りしてツネってるだけだ!頬っぺたツネってるだけだ!
うめき声あげる黒蹴。
ボフッと変な音出して笑うユーカ。
真似して黒蹴をツネりだす五つ子達。
やめたげてよぉ!
ピ「ほらもう、その辺にしときなさい」
ユ「はーい」
やっと手を離したユーカ達。顔中真っ赤だ。黒蹴。
ていうか、いつの間に来てたんだ。
ハ「銀ー」
銀「オマエも、戻れ」
ハーピーも居る。なるほど、ハーピーに運んでもらったのか。
ハ「デハ帰ルゾ」
ユ「分かったー。あ、そうや」
馬車から出る寸前のユーカが立ち止まった。
ユ「この前行った村の出店の肉、口にいれた瞬間灰になってメッチャおもろかってんけど、この店もああいう感じのん売り出そや!絶対人気出るって!」
「んじゃなー」って女子用馬車に帰っていくユーカを無言で見送る俺達。
銀「食ってたか」
二『食ってたっぽいな』
ピ「ニルフ、もう一度炎の魔法試してもらってもいい?」
二『ほいさー、あれ?』
若〔試してなかったですわねー〕
ピ「え?」
黒「治りましたー!!!」
二『はっや』
異常状態を消し去る炎の魔法を込めてハープひいた瞬間に黒蹴が元気に起き上がった。
効果は ばつぐんだ!
黒「お腹すきましたー」
ピ「うん、顔色もいいね。そろそろ夜になるし、適当なところで馬車止めて野営の準備しようか。
そういえば黒蹴、祭りの出店では何食べたの?」
黒「美味しそうな焼き肉売ってたんですよ!
肉汁たっぷりの浸けダレのやつで、めっちゃ旨かったです」
ピ「なるほどなるほど。他には?」
黒「かき氷っぽいのとか、干し菓子とか食べましたよ!
あ、でもその焼き肉だけ由佳が「食えんかったー」ってわめいてましたよ!
口の中で灰になったーとか訳のわからない事言ってました!」
ピ「へぇ、それじゃあ今日は焼き肉にしようか」
黒「あ、いいですねそれ!お腹ペコペコです!」
ピ「食欲もあってよかったよ。ところでさ、黒蹴」
黒「はい」
ピ「俺、出店の物は食べないようにって言ったよね?」
黒「・・・えっ!」
ピ「リザードマン達に、魔界の食事には人間に都合の悪いものがあるかもしれないからって、比較的地上のものに近い物を食べるようにって、教わったよね?」
黒「あっ」
ピ「思い出した?」
黒「ハイ・・・」
ピ「今回はたまたま原因が分かってニルフの魔法で対処できたからよかったけど、このままだったらどうなってたか分からないよ?
あ、そこ止めて、ちょうどいい茂みだ。
黒蹴、ここは未知の場所っていう(」
野営の準備をしている横で、お説教。
ご飯作りながら、「久々に怒ってるわね、ご主人」ってほほえましくそれを見ているレモンちゃん達に隠れるように、俺はその様子をこっそり見守る。
ビクビクしながら。
若〔なぜ隠れているんですの〕
二『だって、ピンキーに「異常状態の可能性もあるから、炎の魔法での治療も試してみて」って言われてたの、すっかり忘れてたから・・・』
若〔そういえば・・・〕
二『あっ・・・』
ピンキーがこっち見ながら手招きしてる。
すごい優しい笑顔だ。
でも・・・。
若〔これは確実に怒られますわね〕
二『やだ行きたくないぃ!』
ピ「ニールフ?」
二『ぎゃぁぁ!!!』
ピ「あ、こら逃げないの!お願い、捕まえてラリルレロー!」
二『いゃぁあ!』
脱兎のごとく逃げ出した俺だったが、風のように表れた五つ子にのしかかられる!
そのままピンキーのとこにぷんなげられる。
二『びゃぁぁあん!』
ユ「ちょ、味見してんねんから、笑かさんといてや!」
俺見て大爆笑してるユーカに、ピンキーが手招きする。
ピ「由佳もだよ?」
ユ「は?」
ピ「捕まえろぉ!」
ユ「はぁぁあああ?!」
黒「ざまぁ」
五つ子に捕まった俺達は、その後たっぷり怒られて。
晩御飯が出来上がるまでピンキーのお説教は終わらなかった。
ユ「なんでウチだけ平気やったんやろ」
ポ「炎の大精霊の加護があるからでは?」
ケ「ユーカにとって有害な物は、自動的に燃やさせるってことでしょうねぇ」
黒「これからは、最初に由佳に毒味させればいいですね!」
ユ「おいこら兄貴」
ピ「喧嘩しないの。、ほら、道が広くなってきた。そろそろ次の町に着きそうだよ」
銀「・・・」
二『(銀?)』
次回メモ:押し売り
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
次回メモは予定になるので、変更の可能性もあります。