≪泉≫の石碑と≪勇者≫
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一生懸命に戦った。
それが故郷や、祖国のためになると信じていた。
大勢の仲間に囲まれ、必死で戦った。
しかし*&は、私を切り捨てた。
祖国に帰った私を待ち受けていたのは、裏切りだった。
火あぶりに処されたあの日。
気が付くと、草原に倒れていた。
ここが天国かと思った。
*%に裏切り者の烙印を押された私でも、天国の門は開くのだと嬉しく思った。
穏やかで優しい風の吹く、花畑。
全身は大やけどを負っていて動くことすらかなわなかったが、とても幸せな気持ちでいっぱいだった。
しかしそんな私に近づいてきたのは、とても人とは思えぬ造形の異形の者達だった。
一目で、悪魔だと思った。
必死で抵抗しようと焼けただれた四肢を振り回し、ただれた喉で叫ぼうとした。
・・・そんな私を、彼らは優しく介抱した。
次に目覚めると、そこは街だった。
自国の都市と似たような造形の建物。
私と同じ人種としか思えない人々。
そして、驚く私に告げられたのは、ここは異世界だという事と、あの異形の者達は自分たちと共存関係にある種族だということだった。
ここでは地球の常識など、通用しない。
私の信じていた神がいた世界とは、まったく異なる世界。
つまり、私が「悪魔」と呼んだ≪彼等≫も、地球とは異なる常識の元で過ごす者達なのだ。
私の常識が、音を立てて崩れていった。
数年後。
私は穏やかな日を過ごしていた。
短く切っていた髪を思う存分伸ばし、時折倒れている地球からの召喚者を≪彼等≫と共に癒した。
そんなある日の事だった。
地上に、≪悪魔≫が舞い降りたのは。
それは
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・・・・・・・
・・・・
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「・・・これ以降は、文字が崩れて読み取れなかったよ」
ピンキーがノートから顔を上げた。眉間にしわが寄っている。
「どういう意味でしょうか これ」
『全く分からないな』
ピンキーの後ろからノートを眺めていた黒蹴も悩んでる顔をしてる。
その時、遠慮がちに若葉が声を出した。
〔・・・その方も、召喚された、という事なのでしょうか。皆さんと同じように〕
「なんでそう思うん?」
〔それは、途中にあった火あ・・・〕
キョトンとしたユーカに若葉が答えようとした途端。
「そうか! 処刑されたはずなのに怪我を負ったまま草むらに倒れていたからか!」
「だが、死にきれず魔物の俳諧する場所に放置された可能性もあるぞ」
興奮したように叫ぶピンキー!
が、銀にすぐ指摘されて耳がシュンってなってた。
〔と、とりあえず≪泉≫には登録出来た事ですし、ここから近い街を探して、この石板についてきいてみればいいかと〕
「うん、そうだね・・・」
シュンってしたまま答えるピンキー。
心配そうな顔でそれに抱き着く五つ子。
後で銀に「ピンキー達の故郷にある文字と同じだったならば、召喚者の可能性も大きいだろう」って慰められてた。
それにしても。
近くの街を探すっていっても、地図にはそれっぽい印は入ってない。
デカい街とかは入ってるっぽいけど、ちっさい村とかは書いてないのか?
「この地図スッカスカやな」
「一番近くの街まで歩くんですか? それとも小さな村を探します?」
「目指すのはソコだが、途中気配があれば立ち寄る」
黒蹴兄妹の問に銀が答えた。ピンキーまだ落ち込んでる。
てか気配で村あるかを判断してたのか、銀。
そういえば銀って、前はピンキー追いかけてここにきたんだよな。
巨大な寄生花に侵食されてた水の≪泉≫を助けてほしいって理由で、ピンキーをさらった水の精霊を追いかけて。
確かあの時銀がやってたのって・・・。
俺はニンマリと笑った。これがうまくいけば、旅がもっと安全になる!
『なぁ銀、前ピンキー追いかけた時みたいにさ。俺達を水の玉に包んで街の近くまで運べないのか?』
さっそく銀に聞いてみる。上手くいけば、オバちゃんとかが居る街に帰れるじゃん!
俺の意見を聞いて、若葉も弾んだ声を出す!
〔なるほど! 水の精霊さまほどの速さでなくとも、銀さんのお話から推測するに、かなりの速さで移動できるようですし!〕
「ムリだ」
一瞬でバッサリいかれた。
断るの早ぇ。
「アレは気配を消して水の小精霊にオレの水泡を接続させていたから出来た。
オレだけではムリだ。消費も激しい」
なんか聞いてたらすごい難しそうだった。
だったら水の小精霊に頼んで運んでもらえないのかな。
「小精霊おらんで」
杖を覗き込んで辺りを観察してたユーカが言った。
じゃ、じゃあ水の大精霊に!!!
〔どうやって呼び出すんですの?〕
ですよね。
楽な移動方法は諦めて、自分で歩くしかないか。
『あーぁ、ピンキー達みたいに俺も水の玉に入って移動してみたかったぁ』
〔残念でしたわね。地上に帰ったら、水の大精霊様に頼んでみましょう?〕
「それいいですね! 僕も行きたいです!」
「ウチも連れてってや!」
黒蹴兄妹と若葉と俺でしゃべりつつ、(地図上で)一番近くに乗ってる町がある方角に進もうとする。
と、その時。
「ごめん皆、ちょっと待って!」
ピンキーに呼び止められた。
『次の街にいくんじゃないのか?』
俺がそういうと、ピンキーは首を横に振った。
「考えてみたんだけど、ここから直接街に向かうより、一度地上に戻った方がいいかもしれない」
〔どうしてですの?〕
若葉が不思議そうに聞き返す。
俺も不思議だ。黒蹴達も不思議そうな顔をしている。
「一度、馬車を取りに戻りたいんだ。今回は街近くに≪登録≫出来る場所が無かったからこの子達を連れてきたけど。
魔物に襲われた場合、守りきれるかが不安で・・・」
そういうと、ピンキーは自身にまとわりついてる五つ子の頭を撫でた。
嬉しそうに顔をゆるませる五人。
それを見て表情をゆるめたピンキーが、スッと真剣な表情になって俺達に頼み込む。
「それに、色々試したい事もあってね・・・。
だからごめん、一度地上に戻りたいんだ」
話を聞いた俺達は顔を見合わせて、一度相談しよう。
ともせずに、黒蹴が速攻で「いいですよ!」っていってたから、俺も賛同しといた。
っていうか、反対する理由もないし。
ユーカも若葉もちょっと笑いながら賛同してた。
銀は元からちょっと後ろでなりゆきを見守ってたから賛成なんだろう。
「転移を使うなら、念のため1人見張りを立てておきたい。
≪泉≫近くならば、すぐに合流出来るだろうからな」
転移で戻ろうとしたとき、銀がそう言って俺達から離れた。
最初の見張りは引き受けてくれるっぽい。
『わかった、食料とか持ってくる!』
「見張りは半日交代でいいかな?」
「一日でもイイ。ギルドでやりたい事もあるだろう」
「ありがとうございます、銀さん!!!」
最後の言葉は黒蹴に向けたものっぽいな。
黒蹴が腕輪の宝石から地図を出して、転移を発動させる。
行先は、もちろん。
「東の国の城です!!!」
黒蹴が叫ぶと同時に、白い光に包まれる。
次に目を開けると、見慣れたいつもの転移場所の部屋だった。
「よかったです、魔界からでも戻れるんですね」
「これで次は、物資や人の移動が可能か調べないと。
まずは馬車かな」
「そんな事より疲れたー!太陽拝みたいわぁ」
口々にしゃべりながら廊下を進む。
歩きなれた城の通路が、なんだかとても懐かしかった。
階段を上ってると、急にピンキーがハッとした顔で止まった。
どしたの?
「黒蹴、≪泉≫に登録した!?」
「・・・してませんね!!!」
引き返した。
次回メモ:地
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!