己の実力
初戦闘開始!
そういう感じでかっこよく戦闘が始まればよかったんだけど、実際はこんな始まりだった。
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最初、透明な液体が草むらにへばり付いていたのを、俺だけ気付いた。
(動物のヨダレ?)
真ん中に、青い宝石が落ちて濡れている。キラキラ光って綺麗だな。取れるか?臭かったらイヤだし、とりあえず木刀で突いてみる。
どぅるるるんと震えて、分裂した。おぉ!? 分裂!?
木刀を見ると、ベタっとした液体がへばり付いている。そのまま俺の顔にダイブ!!! うぉお!?
サッと顔をそらせてやり過ごす! ピンキーの尻尾の方へ飛んで行ったソレを無視して、目の前にある分裂した液体に視線を戻す。
宝石の入った方が若干大きく、入っていない方は小さめ。なんだこいつら!
皆も謎の液体に気付いた! 隊長が叫ぶ!
「スライムだ! 気を付けろお前ら、こいつは仲間を呼ぶ!」
スライムだとぅ!? 図鑑で見たのと全然違う!
サッと周りに目を向けると、既にスライム達に囲まれていた! 俺達を中心に周りがスライムだらけだ!
中型犬ほどの大きさの体をブルンブルンさせて半球体になり、一斉に飛びかかる! あ、図鑑で見た形だ!
銀と兵士さんズと隊長さんが全滅させる! はっや。
「うぉぁぁえぉおぁ!?」
ピンキーが変な悲鳴を上げた! 尻尾をブンブン振り回す。うるさい!
俺が飛ばしたスライムの欠片は、そのままピンキーの顔に這って行く。すごく素早い。
手で取ろうとするとちぎれてへばり付き、どんどんばらけていく。そのまま顔にくっついて呼吸を奪われるピンキー。ピンチ!
隊長さんが落ち着いて言う。
「さあ3人とも、実践開始だ。」
隊長が、残してあったスライムを2匹、俺と黒蹴に蹴っ飛ばした。靴にくっつかないほどの素早い蹴り。
俺の目の前にベチャっと着地し、半分潰れて核がはみ出る! そこに木刀を突き立てた。
スライムは核を砕かれ、即死する。
黒蹴は今の隊長に即発されたのか、サッカーボールを扱うようにスライムを蹴りまくっていた。銃使わないの?!
スライムはべちゃべちゃに千切れつつ、分身を黒蹴の顔に飛ばし続けている。しかし軽いフットワークでよける黒蹴。双方負けていない!
しかし少しずつ足についたスライムのせいで動きが鈍くなっていく。黒蹴、ピンチ!
スライムが顔を狙って飛びつく!瞬間黒蹴は銃を構え、目の前にせまった核に銃口を当て、撃ち抜いた。
核は砕けつつ体から飛び出し、近くの川に飛んでいく。大きな魚がジャンプして飲み込んでいった。
そのまま黒蹴は走って川に行き、飛び込んでスライムを洗い流す。
スライム(残り)は土汚れと一緒に流れて行った。え?そんなんでいいの?
「むごぁぁ・・・」
あ、ピンキー忘れてた。顔全体に薄っぺらく貼り付かれて、完全に呼吸を奪われている。
あのスライムの本体どこにいった? 自分の足元の草むらに目を向けると青い核が見えた。が、
『なんかデカくなってねえ!?』
スライムはさっき俺や銀達が倒したスライムの体を吸収し、小型犬から大型犬ほどの大きさになっていた。
「援護します! ニルフさん!」
黒蹴が駆け寄り、≪火の初期魔法≫を撃ちこみ、体を蒸発させる。しかし大型犬ほどの体の核には届かない。
俺も必死で木刀を叩き込む。俺の持ち味はすばやさと反射神経だ。飛び散り飛びかかるスライムの欠片をすべて叩き落とした。
だが若干でも木刀にへばりつくスライムが居るせいで、どんどん木刀が重くなる。
黒蹴も≪雷の初期魔法≫や直接の蹴りで応戦する。
とうとうピンキーが膝をついた。
「これ以上は無理だな。」
隊長の声で、銀が隠しナイフでピンキーの口の部分のスライムを切り裂く。
ぺほっ。と声を出して呼吸を取り戻した。
せき込むピンキーの呼吸を整わせ、隊長はピンキーを俺達の増援に向かわせる。
「げほっ。核に届かすには、へくしゅ! 一点に魔法を集中さぜよう。」
ドロドロの顔のまま一瞬で作戦を打ちだすピンキー。
ピンキーの詠唱に合わせて黒蹴が魔法を撃ち出し、核を割ることになった。
その間俺は2人をスライムから守る。
力を込めて魔力を練るピンキー。黒蹴の銃と違い、普通の魔法では一点集中には集中力がいる。
「ウォーター!」
その言葉に合わせて魔法を撃ち出す黒蹴。合わせる魔法はもちろん
「雷! です。」
2つの魔法は1つに混ざり、戦闘態勢でゼリー状になっているスライムの体を穿ち、核を破壊した。
*
この世界で初めて見るモンスターは、流動状のでろでろした物体だった。これ生き物っていえる?
俺達が必死で初戦闘を終えると、銀と隊長達は拍手してくれた。ギルドへのお土産はくだけた核。
砕けてない核が欲しい場合は、復活しないようにきれいに水洗いしてゼリー部分を洗い流せばいいらしい。
宝石とかによく使われる。
後ろを振り向くと、門番が腹を抱えて大爆笑していた。こっちの戦闘を見ていたらしい。
門番の足元には核を真っ二つにされたスライムが大量に落ちていた。すげえな門番。
スライムの死骸は核を抜いた後、他のスライムが吸収しないように隊長達が燃やした。
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道すがら飛び出すスライムと戦い、薬草をむしり取りつつ、昼前には森に着いた。
軽い食事を取りつつ話が始まる。
「城下町から一番近い森なので、魔物はかなり弱い。初めての石碑≪登録≫を体験するのに丁度良いだろう。」
森に入る前に再度、隊長から注意を受ける。
「この森には、いくつか広場がある。広場ごとに休憩を取りつつ、石碑を探す。
休憩に使う広場には、この≪結界の聖水≫を撒く。魔物を寄せ付けない効果のあるアイテムだ。少し高いが、王に『絶対に使うのじゃ!』と言われてな・・・。
最後に、この森の石碑はその時々により森の中を移動する。弱い敵しかいないとはいえ、不測の事態があればすぐに撤退だ。いいな。」
撤退という言葉に黒蹴が一瞬曇った顔をしたが、誰もそれに気づかないまま俺達は森に入って行った。
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石碑があるという森。ここは町が近いだけあって、なごやかな雰囲気だ。
目の前の道を進むと、いくつか広場を通り過ぎる。石碑は、8こほどある広場を転々と移動しているそうだ。
ちなみに銀は何度かこの森に入ったことがあるらしいが、石碑の≪登録≫はしていない。
「たとえ見つけたとしても、≪登録≫をするつもりはなかった。
オレは斥候だからな。情報と安全を確かめるのが仕事だ。」
つまり、戦い慣れていない俺達が安全に行動出来るように、一番戦い慣れている銀が下調べしてたって事か。
もしもまた俺達が兵士も連れずにギルドに行き、3人だけで森に入ったとしても探せるように、とか?
心配かけてスンマセン。のけ者にするつもりも無かったんです。
しばらく森を行くが、空の広場ばかりで石碑は見当たらなかった。
森特有の魔物が何回か襲いかかってきたが、スライム戦ですでに俺達が消耗していた為、隊長達が一瞬で片付けて行った。虫とか植物とか動物の魔物だった。
ケモラーさんは鞭、ポニーさんはオノ、隊長はデカめの片手剣だった。
*
安全が確認された広場まで行っていったん休憩を取る。すっかり昼を過ぎている。この世界に来て初めて森に入った俺達はへとへとだ。世界樹の森は、道が整備されていたから平気だったんだよ。
≪結界の聖水≫を撒いた頃、この森に何度か来ていた銀が、少し違和感があると声をあげた。
「敵の可能性もある。斥候の許可を。」
その言葉を受け、兵士さんズと銀が斥候に出た。どうやら隊長も同じ事を感じていたらしい。
一番腕っぷしの強い隊長が、俺達の護衛に残った。
「銀の違和感の正体が分かるまで待機。異変がありそうなら退避。深追いはするな。」
隊長の言葉を受けて散る3人。なんていうか銀すげえな。
その時俺は、首の後ろにピリっとした感じがした。なんだっけこれ。
シルフを見るが、特に変化はない。なら大丈夫かな。
「銀は敵とか言ってたけれど、もしかしたら石碑が近くにあるのかもしれないね。」
楽しそうにピンキーがいう。少し疲れた顔をしているが、まだまだ大丈夫そうだ。
黒蹴が何かを言いかけた時、斥候に出ていた2人の兵士さんが戻ってくる。
俺は一緒に話を聞こうと、隊長と共に2人に駆け寄った。
「北側には何も異変は有りませんでした。魔物も少なく、比較的安全かと思われます。」
「了解だ。お前はどうだ?」
「はい、こちらは少し気になることが。南側の木に、大きな爪痕を確認しました。妙な魔物がいるのかもしれません。」
報告を受け、隊長は判断を下す。
「ふむ。北側に魔物が少なかったのも、強力な魔物がいると考えた方がよさそうだな。銀を待って撤退する。2人もそのつもりで。
・・・!?」
隊長達が話を終えた頃、後ろにいたはずのピンキーと黒蹴は既に深い森の中に消えていた。
初級魔法
火(小さな火の玉を飛ばす)
雷(小さな雷撃を落とす)
水(好きな形の水を出す。今回は水鉄砲)
ピンキー、銀、黒蹴は本来の詠唱無しに自世界の適当な単語で発動できます。
黒蹴に至っては銃から出す場合は無詠唱でも可能。
次回メモ:銀
いつも読んでいただきありがとうございます!
やっと戦闘シーン入りました!分かり易かったらいいな!