ただいま!
帰ってきたピンキーとベリー。
2人の後ろに続いて、部屋に入ってきたのは・・・。
2人を追いかけたはずの銀。ではなく。
「銀さ・・・あれ?」
黒蹴が首をかしげた。
銀が居ると思ったそこに居たのは。
5歳くらいの、5人の女の子だった。
『銀が分裂したぁああああ!?』
「なんだ」
もっと後ろに銀が居た。
お帰り、銀。
陰で見えんかったわ。
そういえば。
さっきからずっとゴンゴン鳴ってた壁の音が、いつの間にか止んでるな。
と思ったら、隣の部屋からオバちゃんの怒る声が響く。
「あんた! 宿の壁蹴っちゃぁ駄目だよ!!! また宿の修理費稼ぎたいのかい!?」
壁蹴ってる音だったのか。
*
「だってな、寝てんのにウルサかってんもん」
食堂でふてくされつつサラダ(原色)をつついてるのは、ユーカだ。
朝ずっと壁ゲシゲシしてたのユーカだったっぽい。
そういえば絵が落ちてきた方にあるのって、女子部屋だったな!
〔わたくしは止めたんですわよ?〕
「我もだぞ」
「あぁぁそれ僕の朝ごはん!」
ユーカに言い返してるのは、俺の膝の上に置いた若葉と、机の上で黒蹴のスプーンからご飯奪ってるプラズマだ。
2人共寝られなかったっぽい。
ユーカの蹴る音、すごかったもんな!
〔確かに、ニルフさん達の部屋もうるさかったですが・・・〕
俺達も原因だった。ごめんなさい。
お腹いっぱいになったのか、プラズマはそのまま丸くなって眠ってしまった。
飯を半分食われた黒蹴は涙目になりながら残りを頬張ってた。
「それよりもさぁ。ピンキー達はどうやってココに戻ってきたん?
新しく赤い点着いた所って、ここからメッチャ遠いやろ?」
「ああ、普通に歩けば数か月はかかるだろうな」
華麗に話題を変えたユーカ。ごまかすつもりだな!
銀が普通に答えてるけど。
「普通に歩けば、ね」
ピンキーがニヤリと笑う。
〔川でピンキーさんを飲みこんだ水の塊についても分かりましたの?〕
「もちろん」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「それに、あの子達の事も聞いてませんよ?」
「それも、ね」
ニヤリと口角を上げる。
ピンキー、よく「今からすごい秘密を暴露するよ」って時にするよな、この顔。
その顔を冷めた目で見たユーカが一言。
「どうせ誘拐してきたんやろ?」
「ちがうよ!?」
一気にピンキーの表情が崩れた!
百面相おもろい。
『ぷっくくくく・・・』
「笑わないで!?」
やべ、笑い声聞こえたか。
「ゴホン。じゃあまず、俺をさらった水の塊なんだけどね。
あれは、水の小精霊達だったよ」
咳払いして話を進めるピンキー。
叫びすぎて声枯れてる。
「水の精霊ですか? なんで水の精霊がピンキーさんを?」
「見てみろ」
黒蹴の問に銀が腕輪(武器についてた宝石)から地図を出した。
地図の上下の空間にも、赤い点がいくつか光っている。
「さぁ、何か気づいたことは無いかな?」
ピンキーの問いかけに、黒蹴がハッとした顔で呟いた。
「この地図が、まさか3Dになってたなんて・・・」
「そこじゃない」
「前も同じ事言ってたやんか」
淡々とツッコむピンキーとユーカ。
その後ピンキーが仕切り直して、もう一度覗き込む。
そういえばここってアレだよね。確か・・・。
「ここって、水の世界樹あったとこやんな?」
「そうだよユーカ。俺達をさらった水の小精霊達は、俺達を≪泉≫へと運んだんだ。
水の≪泉≫に」
≪泉≫・・・。
魔界の地図を買ったピンキーが地上の地図と合わせてみたら、世界樹の場所と一緒だって気づいた場所だ。
なにがあるか分からないけど魔界で何すれば分からない俺達が向かおうとしてる、取りあえずの目標にしてる場所だ!!!
こうして考えると、俺達なにしに魔界に来たんだっけってなるな。あ、魔王倒すんだったっけ。
〔あと、紅葉姉様の仇を・・・〕
『ん? なんか言った?』
〔い、いえ・・・〕
変な若葉。
「あの時ね、後ろから水に包まれた時に、目の前に水色の小さな人型の妖精が現れたんだ。
薄いドレスを纏ったような、儚げな姿をしている水色の少女が。
その子は俺に、≪泉≫を救ってほしいと懇願した。
で、俺が頷くと・・・水泡が割れて、俺は≪泉≫に立っていたんだ。
水の≪泉≫に、ね」
割れた水泡から出たピンキーの前に広がっていたのは、大滝だった。
大滝は下に行くほどに細かく別れ、最後は細く雨のように水が≪泉≫に降り注いていた。
ちょうど、巨大な樹の根を、下から見上げたように。
天井から巨大な滝が絶え間なく流れ落ち、辺りには轟音が響く。
≪泉≫には街よりも多くの光が降り注いでいて、周りには美しい花の咲き乱れる花畑が広がっている。
そんな巨大で美しい≪泉≫は。
巨大な寄生花に占領されていた。
見上げるほど大きな寸胴の魔物の死体から生えたその植物は、≪泉≫に根を伸ばして水を吸っていた。
しかしその周辺には毒のようなものが広がっていて。
地は変色し、≪泉≫は濁りつつあった。
ピンキーが現れたのを確認したのか、花が大きく震える。
地から根を引き抜き、魔物を抱えていたツルをほどいて、触手のようにうねらせる。
懐から、ベリーが出てきた。
毒針や無数の鞭の様な触手に苦戦するも、銀が駆けつけて合流した。
そして。
その花を倒した所、落ちた花の5つの花弁からこの子達が生まれたそうだ。
すぐに懐かれそのまま村に置いておくわけにもいかず、一緒に連れてきたらしい。
「最初は、あの花の種かと思ったんだけどね。水の小精霊が大丈夫っていうから」
巨大な寄生花は魔物だったけど、あの女の子達は魔族らしい。
魔物から魔族って生まれるんだな。
「ピンキーも精霊みえるんやっけ?」
「それはねユーカ、帰りにまた水泡に入れてもらったんだけどね。
その水泡の中でだけ、見えたし言葉を聞けたんだ」
『俺も声は聞いたことないのにぃ』
シルフ達の言葉を聞けたらきっと・・・俺をおちょくってそうな気がするな。聞かないでおこう。
ちなみに銀は、自分の水魔法の力で自身を水で包んで追いかけたらしい。
〔スライムじゃなかったんですのね〕
『だな。あ、そうだ、銀これ返す』
すっかり忘れてたけど、銀の財布預かってたんだった。
なんで渡されたのか全然分かんないけど。
「これは魔物避けの効果があるからな。
ピンキーをさらった奴にバレないように預けた」
なるほど。じゃあ外で魔物に襲われないのって、リザードマンにもらった財布の効果だったのか。
「魔界では魔物避けを子供に持たせるのは常識らしいからね」
笑ってピンキーは言ってるけど、俺達子ども扱いされてるって事じゃん!!!
さて。
ピンキーが連れてきた5人の子供達は、部屋でグッスリ眠ってるそうだ。ベリーと一緒に。
『それにしても、5人増えたら部屋狭くなるよな。ユーカんとこで寝かす?』
「あの子ら、ピンキーにしか懐いてへんで?」
「あぁ、それなら大丈夫。もう部屋は借りてるよ」
いつの間に!?
俺の顔が面白かったのか、ピンキーがこっちを見てコロコロと笑った。
「本当は夜中に宿には着いてたんだけど、
オバちゃんがもう一部屋空けて置いてくれたらしいんだ」
『え、俺達知らなかったぞソレ』
「うん。俺達がいつ戻ってきてもいいようにって置いてたらしくって。
でもニルフ達に言ったら3部屋分払うだろうからって、黙っててくれたんだ」
オバちゃん、超良い人だった。
「ところで、ニルフ達は俺達が居ない間、何してたの?」
『ピンキー達探してた』
「危ない事はしてないよね!?」
なぜか驚くピンキーにユーカがカラカラと笑って答える。
「大丈夫大丈夫。街ン中とか宿でな、話聞いてまわってただけやから。
川で人飲みこむスライムっぽい魔物って居るー?とか」
「この辺りに石碑っぽいのありますー?とか」
〔精霊の集まる場所はありますか?とかですわね〕
「全部不発やったけどな」
『街周辺に≪登録≫出来る所あれば、すぐに迎えに行けたのになぁ』
〔一番近いのが、土の世界樹だけでしたものね〕
若葉の言葉に、みんなで頷く。
「そういえば僕。宿のお客さん達に、子供だけで門に近づくなって言われましたよ!」
黒蹴の言葉に首をかしげる。
『でも門番も居なかったよな、この街。それだけ平和なんだと思ったけど。
外は森以外魔物出ないし、なんで近づいちゃダメなんだ?』
「魔界の街は基本、自分の身は自分で守れって方針だからね。
普段魔物の出ない場所だとしても、その辺の魔族よりひ弱そうに見える俺達は、仲良くなった人からすると心配なんだろうね」
さすが、実力主義の魔族の街だけはある。
〔魔族が実力主義って話、初めて聞きましたわ?〕
『あれ?そうだっけ』
どこで聞いたんだっけ。気のせいかな?
思い出そうとしたら、ユーカが叫んだ。
「そうや! この街、酒場とかギルドあってんけどな?
ウチらまだ子供やからって、入れてもらわれへんかってんで!」
マジで!? 酒場とギルドあったの!?
確かに冒険者っぽい人一杯いたけど、ギルドあるとは思わなかったな。
聞けばよかった。
「いや、宿での仕事中に聞いたけどハグラかされたから、こっそりついてった」
ユーカすごいな!?
「それも踏まえて、この街を出る頃合い、かなぁ」
ピンキーがしみじみと宿を見回しながら言った。
そうだよね、ここ超いい宿だもんね。
「なんだい? ウチの宿を離れがたいって?」
通りかかったオバちゃんが豪快に笑った。
-*おまけ*--------
5人の女の子の容姿
5人共、頭にでっかい髪の毛っぽい花っぽいのが付いてる。色は濃い深い赤とか黒っぽい緑とか色々混ざってる。
熱帯の花っぽい色らしい。
なんか黒目しかない。色は緑色だけど。
服は、ピンキーがその辺の布で即興で作ったらしくて簡素。
俺が来てる下着みたいな感じだな!
言葉は話さない。というか喋らない。
見分けはつかない。
名前は・・・。
『この子らの名前付けたの?』
「もちろん。右から ララー、リリー、ルルー、レレー、ロロー だよ」
『凄い簡素だな』
もうちょい何とかならなかったのか?
通りかかったユーカが「ペットに付ける名前か!!!」って叫んだ。
次回メモ:魔族
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!