泉にいこうか
次の日。
街を出て街道をしばらく歩くと、川っぽいのがあった。
「街道が泉に通じてるのか分からないし、川沿いに進んでみようか。どう? 銀」
「そうだな」
銀とピンキーがサッと相談してそう決まった。
ずっと歩き続けたけど、魔物は出なかった。
森にしか居ないの?
そして夜。
ものすごい歩いたのに特に何も起こらなかったから一気に夜だ。
空は相変わらず、水で出来た天井の下に居るような光が射しこんでいて、昼とか夜とか全く分からない。
「僕、未だに魔界の時間が分からないんですよねー。なんで皆さん分かるんでしょう」
「光が少し変わるな」
黒蹴が飯食いながらボヤくと、銀がボソっと答えた。
答えながら、たき火に仕掛けた鍋から湯をコップに移して皆に配ってくれる。
〔わたくしは街の様子で判断していたので、外に出るとサッパリですわね〕
「ウチは適当」
ユーカは、渡された湯に茶葉の粉末をパラパラして混ぜて即席のお茶を作りながら答える。
ちなみに俺は腹時計だ!
今は夜の6時くらいかな。お腹いっぱい。
銀が俺の所にお湯を持ってきてくれて、そのまま横に腰をかけた。
ご飯食べて、たき火の傍で温かいお茶をすする。
プラズマは黒蹴の膝の上でグッスリ眠っていて、ベリーは尻尾を振りながらたき火の周りを走ってる。
うーん、しあわせ。
ピンキーは「食器、先に水に浸けとくね」って言って川に向かってく。
後でピンキーと一緒に片づけしなきゃな。
「今は6時半だね」
川に食器を漬けたピンキーが笑いながらコッチに振り返って、そのまま川に飲まれた。
ファ!?
*
黒「ピンキーさん、見つかりませんでしたね・・・」
若〔どこに行ったんでしょう・・・〕
ニ『あの、モッてなったの何だったんだ、モッて』
空はすでに白んで・・・は無いけど、銀が言うにはそろそろ早朝らしい。
幸い一日を通して魔界はずっと薄明るくて、夜でも結構周りが見えるから。
それに川の水もガラスみたいに透明だから、すぐに見つかると思っていたのに。
俺達はピンキーをずっと探していたけど、結局見当たらなかった。
俺もシルフ達に頼んで探してもらったのに、何の手がかりも無かった。
あの時。
俺達に何か言おうとしたピンキーを川が飲みこんだ。
俺は、ビックリして動けなかった。
ファ!? ってなって硬直した直後、若葉が叫んで。銀が走ってピンキーをつかもうとしたけど。
銀は、川から一番遠くに座ってた俺の横にいたから。
掴めなかった。
触れる寸前に、ぐにゃりと形を変えて、水はピンキーを引きずり込んだ。
ユーカと黒蹴は、お茶飲んでて気づいてなかった。
「すまない、我も気づかなかった」
プラズマが沈んだ声を出す。全身の毛がシュンってなってて、元気が無い。
「僕達も気づきませんでしたし・・・。あの時どうなったんです?」
プラズマの頭を一撫でした黒蹴が、ビチャビチャに濡れたバンダナを絞って俺と若葉の方を向く。
今は、騒動の間に消えたたき火を燃やし直し、その周りで服を乾かしてる所だ。
『なんか、川の水がモッて盛り上がってピンキー包んで持ってった?』
〔そうですわね・・・そういう感じでしたわね〕
「そんな梱包されたっぽく言わんでも・・・」
例えるなら、地上の透明なスライム(草原に住んでる方)が川から飛び出して来たって感じ?
でも2人は、そんな水音はしなかったという。
人1人が川に落ちたら、ものすごい水音がするはずなのに。
〔やはり、普通の水ではなく、魔物だったのでしょうか〕
「でもスライムって水に入ると膨れてまいそうやしなぁ。動かれへんやろ」
『塩含むと死ぬしな』
「というか・・・」
黒蹴が、川をチラっと見る。
そこでは銀が立ち尽くしたまま、ずっと黙って自分の手を睨んでいた。
川のど真ん中で。
『銀、ずっとあの様子だな』
〔膝まで浸かって、風邪ひかないでしょうか・・・〕
「思ってたより川浅ぁて良かったなぁ」
『そうだな』
「そういう問題ではないと思いますが」
銀まで流されたら大変だろ、黒蹴。
前衛がユーカしか居なくなって超危ないぞ。
いや、そういう問題じゃないんだけどさ。
黒蹴が黙ったとたん、誰もしゃべらなくなる。
辺りを小さな水の音だけが流れていく。
みんな軽くしゃべってるけど。やっぱり、さらわれたピンキーの安否が心配なんだ。
いや、さらわれたのかは まだ分からないんだけどな?
「皆」
急に銀の声がした。
「先に街に、帰っていてくれ」
言葉と共に、俺の手元に青い袋が飛んできた。これは・・・リザードンのくれた財布?
「銀さん!?」
黒蹴の声に慌てて顔を上げると、銀が世界樹の剣を川に刺していた。
川から現れた 透明なスライムのようなものが、銀の体を登っていく。
『おい、銀!?』
「ちょ、大丈夫なん!?」
「・・・行ってくる」
そのまま、銀は一瞬微笑むと。
包み込まれて、川に消えていった。
「オレはアイツを追いかける」
そう言って。
〔・・・とりあえず、街に戻りましょうか〕
ずっと状況を見守っていた若葉に促されて、俺達は街に戻った。
やっぱり、魔物は出なかった。
*
『そいえばさ』
朝飯食べながら黒蹴に声を掛ける。
今日も食堂は宿屋に泊まる冒険者さん達で一杯だ。
みんな人族じゃないけどね!
「なんですか?」
『なんで一昨日、プラズマあんなに疲れてたんだ?』
俺は気になってた事を聞いてみる。
結局、みんなすぐに寝ちゃって聞けなかったんだよな。
「あぁ、それはですね」
黒蹴はゴクンとご飯を飲みこんで、地図を出す。
ピンキーが持ってたものより小さい。
「魔界の地図、なんか町の周りとかモヤモヤしてますよね」
『してるな』
「それで、ここに何があるのか見てみようって事になりまして。
で、ユーカと行ってみたんですけど広くて広くて」
『待って2人だけで行ったのか?』
「はい、自由時間だったので」
『そっか、自由時間』
「はい。それで見に行ったんですけど全然モヤモヤが無かったので、プラズマなら見えるかなって」
『飛んで見に行ってもらったのか』
「いえ、ユーカに空中に打ち上げてもらって」
『打ち上げたの!?』
「はい。ユーカ、バットで打つの得意なんですよ」
『そっか、よく敵もあの杖でフルスイングしてるもんな』
「はい。それで、何回か空中で見てきてもらったんですが、モヤモヤは見えなかったらしいです」
『じゃあモヤモヤなのは、もしかしてモヤがあるんじゃなくって・・・』
「そうです! ただ何もないか、くわしい地図が出来てないっていう事っぽいです!」
『すごい発見だな黒蹴! ピンキーと銀も同意見なのか?』
「はい! その時に街に戻ったら情報収集してる銀さんと鉢合わせまして、言ってました!!!」
『銀が言ってたなら確実だな!!!』
「ですね!!!」
『・・・2人共、無事だといいな』
「ですね・・・」
俺達は、ただ待つ事しか出来なかった。
黒蹴もユーカもその辺の人よりサバイバル能力はあるといっても、ピンキーと銀ほどじゃないし、俺は1人でうろちょろするのに慣れてるといっても、攻撃手段が木刀だけだから。
それに、知ってる人もほぼ居ないこの魔界で、入れ違いになるほど怖い事もないから。
俺達は、街で情報収集をしながら、たまに腕輪に付け替えた宝石(世界樹の武器に付いてた奴)から地図を出しては、赤い点が増えてないかを確かめた。
残念ながら、地上の地図しか出てこなかったけど。
「天海で≪登録≫した石碑の所は、なんだか空中に点が浮いてる感じになっていましたね」
『じゃあ魔界で≪登録≫したら、地下に点がある感じになるのか?』
「どうなるんでしょうかね」
『どうなるのかなぁ』
「楽しみですね」
『だな!』
次回メモ:点
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!