まかいのまち
「ここは・・・さすが魔界で二番目に大きい街だね・・・!」
ピンキーが街中をテクテク歩きながら俺達を振り返る。
顔がテカッテカで目がキラッキラだ。尻尾もブンブン振り回してる。
街はてくのろじーのはったつしたすちーむぱんくてきなあれらしい。
街を囲む塀や、そこから見える建物が光沢のある茶色だったから、てっきり金属で出来た街かと思ってたんだけど、中に入ってみると ほとんどの建物は石のブロックで出来ていた。
石を四角く切って積み重ねてるらしい。
一塊の石で作られてない建物って、地上と同じだな。
たまに、全部金属で出来た建物もあったけどね。
家の外見は全部バラバラで、真っ白だったり、薄く光る植物をはびこらせてあったり、窓が1つもなかったり、個性ゆたかだった。
「あちこちから、シューって音が聞こえてきますね」
『臭いが凄いな。油っぽくて金属っぽい』
〔今の家、見ました!? 凄い色合いでしたわよ!?〕
「ちょお見てあれ! 植物で出来てんちゃうの あの家!」
「人通りがかなりあるな。はぐれるなよ」
とりあえず、初めて入った魔族の大都市の感想は。
古都と古い金属の装置の融合した、鉄の匂いあふれる騒がしい場所だった。
あと、人がとても多い。地上でのお祭りの時くらいの人がいる。
プラズマとベリーは踏まれると危ないので、道具袋の中で待機してもらってる。
「それにしても」
黒蹴がスッと目を横に向ける。
「まさか、ピンキーさんがこんなにハシャぐとは思いませんでした」
目線の先では、ピンキーがどっかの家の塀に空いた穴に、顔を突っ込んでいた。
ユーカが気が抜けた様に笑う。
「めっちゃ雑草に囲まれてる塀やったのに、あんな穴、よぉ見つけたよなぁ」
『尻と尻尾だけ出てる』
〔ひっぱっちゃいましょうよ〕
スチームパンク。
この街は、ニホン語ではこう言うのが一番近いらしい。ニホン語じゃないらしいけど。
んで。
ピンキーはこういうのが大好きなんだそうだ。
あの尻尾、あんなに動くんだな。初めて見た。
「古い建物に初期の蒸気システムの融合・・・!!!
しかもそれらがすべて丁寧に管理されて今なお大切にしようされていてアンティークの質感がたまらなくこの色合いとかもう最高これなんだろう家の中に続いているねあぁぁ・・・、ヨーロッパ的建築方法の石造り製法とかどこからきたんだろうまさか召喚者達は魔界に居て全ての夢がこの街にあるんじゃあぁ!あれは古くなった鉄鋼の建物を植物が覆っている!?こういうの最高だちょっと俺行ってくる!!!」
ズボッと穴から顔を引っこ抜いたピンキー。今度は工房っぽい家の壁の穴を覗き込んで動かなくなった。
周りを歩いていた人が、さっと距離を取った。そりゃ避けるわな。
でもピンキーは気づかない。
そんな一生懸命に、一体なに見てるんだろ。
キョロキョロ見回しては急に走ってってハァハァ言いながら何かを見ながら動かなくなる。
その度に銀が引きづって戻って来るんだけど、気づいたらまた居なくなっていて。
街に入ってから、ずっとこの繰り返しだ。
当然、今回も銀が無言でピンキーのコートを掴んで持っていった。
引きずられていくピンキーを見送りつつ、俺も壁を覗き込んでみる。
中には、茶色く変色した金属のチューブや、煙の出てる管がいっぱいゴチャッとしてた。
何が面白いんだコレ?
あ、顔抜けないっ!
*
この世界の魔界は、太陽が地上の地盤でさえぎられているために薄暗いが、海の部分や火山の部分からうっすらと光が差し込んでいるので真っ暗って程でもない。
ちょうど「夏場の夕方の綺麗な夕日の見える(明りの付いてない)部屋」って感じかな。日が差し込まないけれど、窓があって外が見える、あの感じ。
そんな光加減もあって。
街はなんだか、夕暮れに訪れた 古い遊園地とかテーマパークって感じだった。
機械と石と木と家と、色々な姿の魔族たちの織り成すテーマパーク。
おもちゃ箱の中身のような、少し荒廃したような、そんな遊園地。
全体的に薄茶色く汚れてる感じだが、おそらく光が薄暗いからそう見えるんだろう。
あちらこちらで機械の吐き出す蒸気が吹き出し、そこらじゅうでテカテカに磨かれたこげ茶の歯車が回り、パイプが縦横無尽に走っている。
大通りには所狭しと店が出されて活気にあふれていたが。
一歩路地に入ると そこにはいい感じの喫茶店があり、中は暖かく蒸気で満たされていてほどよい湿気ですごく眠い。
〔寝ないでくださいまし!?〕
怒られた。
俺達は今、そんな大都市の大通りの路地にある喫茶店で、のんびりと黒い飲み物を飲んでいる。
苦いけどおいしい。
ピンキーが前に米で試作していたコーヒーって飲み物に似てるな。
なんでも近所の変な人が発案したっていう飲み物らしい。
何で出来てるんです? ってピンキーが聞いたら、
原材料は知らないんですよ、と言って、マスターは笑った。
『そんなもん客に出すなよ!』
「飲むん怖いわ!」
カウンターでコップを拭くマスターは背が凄く高い。全体的に棒みたいなオジサンだった。
マスターと目が合う。ニコリとほほ笑んだマスターの横で、店内に飾られた磨かれて金色に光る歯車が、オレンジ色の柔らかな電灯を反射してキラリと光った。
うーん、ナイスミドル。
店は落ち着いた色合いの石で建てられていて、中は深いこげ茶色の金属達と、たくさんの植物が飾られていた。
天井や壁に空いた窓からは、色ガラスを通して、暗めの落ち着いた光が射しこんでいる。
座ってるだけで眠くなる、いい店だ。
射しこむ光が暗めだから、カウンターは電灯で手元を明るくしてるんだな。
黒「さすが魔界で二番目の街ですね。変な人が一杯です」
ユ「一番ヘンやったんはウチらの中に居ったけどな?」
ニ『見た目俺達とぜんっぜん違うもんな。なんかこう、大きさも手足の数も色も形もバラバラ』
若〔わたくし達との共通点が、二足歩行、だけでしたものね・・・〕
ユ「二足歩行どころか何足歩行か分からん人おったで。ムカデみたいな。
あと、空飛んでる人もおった」
ニ『マジですか』
ユ「マジやでぇ」
マジか。ピンキーの奇行に気ぃ取られてて見てなかった。
街にひしめいていた人々は、さまざまな形を取っていて、1人として同じ形をしている人は・・・居たとは思うけど、なんか結構見た目がバラバラだった、気がする。
ピンキーの奇行に気ぃ取られてて見てな(ry。
俺達の話を聞いてたマスターがフッフと笑う。
「皆さんは、魔界の街に来るのは初めてなのですか?」
「あぁーえーっと」
「(ニルフ、どないしょ?)」
突然の革新ついた質問に、黒蹴がうろたえる!
焦ったユーカが俺に助けを求めてくるけど、俺が答えたら墓穴を掘るぜ! 自身がある!!!
こんな時はピンキーだ!
困った時に、おーいピンキー!!!
あれ、ピンキー居ない!?
どこだピンキー!!!助けてピンキー!!!
〔ピンキーさんなら、あそこですわよ!〕
あ、居た!!!
コーヒー片手に壁に飾られた変な機械に見入ってる!!!
ものすごい遠くの端っこにある、へんな丸いバチバチする玉見つめてる!!!
恋する乙女みたいな顔しながら。
ニ『どうしよ』
ユ「どうしようもないなぁ」
黒「えーっと、えぇーっと、僕たちはぁ~・・・」
若〔あ、あの、わたくし達はここから結構遠くにある、ある場所から旅して参りまして!〕
「同じ種族の多い村で育ったんだ」
若〔はい! そうです! 同じ種族の多い村で・・・へ?〕
黒蹴に振られた質問を、若葉がなんとか誤魔化そうとしてたら、急に誰かが割り込んできた。
びっくりして変な声出す若葉。
声の主は銀だった。さっきまで半笑いでピンキー観察してたけど、こっちの様子も見てくれてたんだな。
「オレ達は同じ種族の多く集う、遠方の隠れ里から来た」
「なるほど。でしたら、この街の多様な皆さまの姿に驚かれたことでしょう。
確かに、同じ種族のみで過ごす魔族も多いといいますね。
ここには職を探しに?」
「イヤ、見分を広げにだ」
「なるほどなるほど、里の未来を担う、大切な若者たちという事なんですね。
ではしばらくこの街に滞在するのでしょうし、おすすめの宿でも、ご紹介しましょう」
「いいんですか?」
うぉビックリした!
急にピンキーが戻ってきてた。2人の会話に普通に混ざってる。
銀はピンキー来たからか、聞き役に回ったっぽい。寡黙だもんな、銀。
ガンガン喋り出したピンキーとマスターは置いといて。
小腹がすいたことだし、とりあえずこのメニューの、すあげってぃ っていうの頼んでみようかな。
マスターは話してるし、店の奥に向かって声かけてみよ。
『すいませーん。この、すあげってぃ・・・』
「この街の歴史を知りたいのなら、資料館に向かうのがよろしいでしょうね」
「資料館ですか。他にもそのような施設が?」
「図書館をお探しですか?ならばこちらに、あ、こちらの道は危険ですので、こちらから・・・」
「・・・なるほど、次に何ですが」
この店、もしかしてマスターしか居ない?
・・・2人の会話が終わったら頼もう。
-*ピンキーが喋ってる間の人々の会話*---------------
ピンキー達が情報収集してる間ヒマなので、くっちゃべってみた。
黒「ここって二番目の街なんですよね? じゃあ、一番はどこなんです?」
ユ「そりゃあ にーちゃん。普通に考えて」
魔王の城のある街やろ。
ユーカの一言に、俺達は一瞬息を飲む。
黒「でも僕達、戦う理由なくないです?」
ユ「女神に頼まれてたやん」
黒「忘れてました!!!」
忘れんなよそこは!!!
若〔しかし、そこに入るのは、わたくし達には無理だという話をピンキーさんはされてましたわね。
リザードマンさん達も詳しくは知らないようですし〕
ニ『リザードマン達も魔族なのに、知らないんだな』
ユ「なんか隠れすんでたっぽいもんな」
隠れ住んでる間に世間に疎くなったとか、そんなんかな?
そうだ、隠れてたと言えば。
ニ『ベリーって、いつの間に付いて来てたんだ?』
ユ「あぁ、急に現れたよなぁ。あの子」
若〔あら、それならわたくし聞きましたわよ? なんでもオヤツと一緒に道具袋に忍び込んでたらしいですわ〕
ニ『レモンちゃんたちがいれたんだな』
黒「プラズマと一緒ですね!」
ユ「プラズマは無理矢理にーちゃんが詰め込んどったやん」
無理やり入れたの!?
黒「それにしても」
黒蹴りが椅子の背もたれに身を預けながら、コーヒーをすすりつつ店内を見回した。
黒「なんでこんな便利なところが近くにあるのに、リザードマンさん達は来ないんでしょうね」
ニ『知らね』
事情でもあるんじゃね?
俺達の座るカウンターの下では、プラズマとベリーが仲良く寝息を立てていた。
次回メモ:拠点
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!