街にいこう
村長に見送られて、村を出て歩く俺達。
村の周りに広がる森はやはり茶色い木ばっかりで、ちゃんとした道も無くって木が密集してて、
「これって僕達だけで行こうとしたら出られないんじゃないですか?」
〔そうですわね〕
「だな」
銀ですら、黒蹴の意見に同意してた。
「みんなー、はぐれないようにねー」
少し離れた所からピンキーが叫ぶ。やべっちょっと距離開いてた。
その隣には、1人のリザードマン。俺達を見て「しょうがないな」って感じに笑っていた。
この人は村長の用意してくれた、魔族の街への案内をしてくれる人だ。
村の近くには魔族の大きな街があるらしく、その話が出たちょうどその時に、部屋にいたリザードマンに、村長が案内を頼んでくれた。
焼き菓子を持ってきてくれた人だったと思う。
「そこの君、案内を頼む」
「・・・やっぱり・・・」
案内言いつけられた人は一瞬遠い目をしてた。そんな行きたくない所なのか?
『よろしく!』
挨拶しようと近くに寄ったら焼き菓子の甘い残り香がしたから、俺はこの人の事、焼き菓子さんって呼んでるぜ!
「村長さんの居った建物、デカかったなぁ。あれ土で作ってんの?」
「あれはね。村に客人が来たときにもてなす用の建物だよ」
しっかり村を回れなかった皆が矢継ぎ早に質問するけど、律儀に全部答えてくれる。
いい人だな、焼き菓子さん。さすがお菓子くれた人!
〔こんな入り組んだ場所に、お客さまが来られるんですのね〕
「たまに商人が訪れる、とは聞きましたが」
若葉とピンキーの言葉に、「色々方法があるんだよ」と、焼き菓子さんはニコリと笑った。
*
歩くうちに、森が深くなっていく。
たまに敵が出るようになってきた。
地面を走る茶色いのとか(ピンキーが「犬っぽいモグラだ!」と言った)、木から巻き付いてくるツタっぽいのとか(黒蹴が「植物と思ったらミミズみたいな!?」と叫んだ)、木から直接落ちてくる岩とか(ユーカが「今なんか木の上に居らんかった!?ねえ!?居らんかった!?」って言いながら打ち返してた)。
敵は遠距離攻撃系の皆に任せて、ザクザク歩く。
そういえば、ポッポルだけ青いって事だったけど。
村では全身に土を塗って周りの景色に同化するのが文化らしい。
あの時は、俺達が見つけやすいように、わざわざ土を洗い流して目立たせてくれていたそうだ。
「村長が、それならちょうどいい人材がいるっていってね。
一度会って、信用できる人だと思ったから、任せたんだよ」
ピンキーが笑う。
銀達は「もしもの時でも、ベリーが居るなら大丈夫」と、俺達を2人に任せて説明してたとか。
『あの森にすごいデカい爪痕あったんだけど!?』
「それおじさんのだよ」
〔あら、貴方のおじさんのものでしたか〕
「あぁゴメン、おじさんっていうのは僕の事だよ」
あなたのでしたか。
そいえばこの辺来るまで敵見かけなかったけど、もしかして。
あれで村周りの魔物も逃げてるから安全って事か!
「なんで茶色いとこに住んでるのにウロコ青いんですか?」
「長老は、大昔、この辺りは青かったのかもしれないって言っていたね?」
焼き菓子さんが笑う。
『焼き菓子さんって、おじさんっていうほど年取ってないよね』
「だな」
銀と話していると、黒蹴が不思議そうな顔をする。
「銀さんもニルフさんも、リザードマンの年わかるんですか!?」
『顔見れば分からないか?』
「ウロコの状態と年輪だな」
「リザードマンって性別ないんかな。みんな男? リザードマンだけに」
「俺達が勝手にそう呼んでるだけで、性別はあると思うけどね」
俺達が喋ってる横で焼き菓子さんは、「や、焼き菓子さん?」と苦笑いをしていた。
*
歩くうちに、空が木で覆われて見えなくなった。
葉っぱが無い、槍上の木なのにどうして!?
空周辺で曲がってんのか?
『そういえばあの子リザードンの家族って、誰だったの?』
空を見上げつつ、何気なくピンキーに聞いたら、「知らなかったの!?」って顔された。なんだよ聞いてないよ俺。
「村長の息子だよ!? だから俺達も全てを詳しく話したんだよ」
「奥さんを亡くして、息子さんまである日突然消えてしまったんだ」
焼き菓子さんが、ピンキーの話に付け加える。
「色々手を尽くして探していたんだけどね。残念だよ」
「助けられず、すまない」
銀の謝罪に焼き菓子さんは慌てて手を振った。
「君たちを攻めているんじゃないよ! むしろ、感謝をしているよ。
彼の話と、遺品まで持ってきてくれたんだからね・・・」
おじさん達には、見つけてあげられなかった。
フッと、空を見上げて。
彼は最後の言葉をちいさくつぶやいた。
きっと俺と若葉以外の誰も、聞こえてないんだろう。
斜め下から見上げた彼の横顔は、なんだかとても悲し気だった。
*
空がもう全く見えなくなって真っ暗だ。
ピンキーがランタンを取り出して明りを付けるが、それを目印にして、魔物がめっちゃ襲い掛かってきた。
走って逃げる俺達。
木の間隔が狭すぎて、ピンキーが剣を振れない!
空や地面から変な影とか根っことかが襲い掛かって来る!
銀がナイフで牽制! 黒蹴が双銃から魔法を連射!
俺はハープを弾く!
ピンキーが足を掴まれて つんのめる!
なんか真っ黒な手が両足を掴んでたよ!?
ぎゃあ真っ暗!
ランタン落っことしたな!?
身動きが取れない!
耳横で、鋭い風切り音と唸り声!
俺は懸命にハープを弾いて、とりあえず皆の傷が深くならないようにって、回復魔法をかけ続けた。
そして。
再びランタンが付いたとき。
広場いっぱいに、魔物が地に伏していた。
ナイフが刺さったモノ、剣で切られたモノ、なんかエグい感じに叩き潰された物。
半分程度がこの傷を負って死んでる。
んで、後の半分の敵が負ってたのは。
「爪痕、だね」
「これ、村の近くに合ったのと同じですね!」
「って事は、リザードマンのモノという事だね」
ピンキーと黒蹴が同時に焼き菓子さんを見る。
焼き菓子さんが照れくさそうに笑った。
この人、よく笑ってるよね。
今出たほとんどの敵は、焼き菓子さんが全て爪で切り裂いていったらしい。
なんでも、この村の中ではある程度は腕が立つとか。
だから村長は焼き菓子さんに案内させたんだな。
村周辺で慣れてるとはいえ、銀よりも多くの敵を仕留めてる。すごい。
よく見るとここは広場じゃなくって、焼き菓子さんが爪を奮った時に周りの木が根こそぎバリッと折れて出来た空間だった。
鋭い爪痕が断面に刻まれた切り株が俺達の周りを囲んでる。ほんとすごい。
ピンキーは敵をじっくりと調べたかったようだけど、真っ暗な上にいつ、次の敵が襲ってくるか分からないので断念したようだ。
銀がピンキーを引きずって歩いてる。
「あぁぁ・・・。もうちょっと、もうちょっとだけ調べさせて!」
「ダメだ」
断念したようだ。
「焼き菓子さんって強いんですね。
僕、真っ暗だったから仲間に当てそうで怖くって、殴りかかってきた奴を殴り返す事しか出来ませんでした」
後ろから声が聞こえて振り返る。
黒蹴だった。前を歩く焼き菓子さんを見て小さく呟いてる。
なんか落ち込んでるっぽい?
『なんて声かけよう』
〔うーん、難しいですわね〕
ちょっと悩んでるうちに、スッと、俺の横を茶色い影が通り過ぎた。
焼き菓子さんだった。
「そんな事ないさ。黒蹴くんは、ランタンが消えるまでずっと、敵を遠ざけていたじゃないか」
独り言を聞かれてたとは思ってなかったのか、黒蹴がめっちゃ驚いた顔をする。
「で、でもあの広場の敵は。
僕が倒したのなんて一匹もいなかったんですよ?」
「それは、黒蹴くんが味方を守るにはそれが最適だと思う戦い方をしたからだろう?」
焼き菓子さんの言葉に、目を見開く。
「あの場で、無暗に魔法を放っていたら、それこそ味方を傷つけていた。
それに、黒蹴くんは、仲間を信じていたからこそ、あの行動をしたんじゃないのかい?」
「そうです・・・。皆さんが負ける訳ないって思ったから、僕は魔法を撃たなかったんですね」
「そうだよ。それにおじさんはリザードマンだからね。鼻が利くんだよ。だから暗闇でも戦えた。
視界の利かない中で無傷というだけでも、十分誇れる結果だね」
「はい・・・!」
黒蹴が元気になった。
焼き菓子さんが爽やかに笑って先頭に戻ろうとした、その時。
「うちは構わずぶん殴ったけどな!!!」
ポテポテと後ろから歩いて来たユーカが、黒蹴に向かって言い放ってそのまま歩いてった。
思わず目を丸くして見送る、黒蹴と焼き菓子さん。
次の瞬間。
「あはははははははは!!! 由佳、危ないじゃないですかそれぇ!!!」
「今せっかく黒蹴をほめたのに、全部否定していったね!? おじさん、驚きすぎて漏らしちゃうよ」
焼き菓子さんと黒蹴は弾かれたように大笑いした。
息が切れるまで笑った黒蹴は、
「リザードマンにも表情ってあるんですね。今初めて見分けられました」
と言いながら、目元に浮かんだ涙を拭っていた。
泣くほどとか笑い過ぎぃ!
*
「さ、ついたよ」
焼き菓子さんが森から少しだけ身を出しつつ俺達を振り返った。
目の前には、巨大な色の悪い草原が広がっている。
その向こうには巨大な冷たそうな、デケェ街のような物がモクモクと雲を吐きだしつづけてる。
スゲエ光景だ。
もし、地上の青空と草原の中で見たら、思わず見とれてしまうだろうって程に美しいその赤茶けた街。
空は良いんだ。水底から覗いたような、美しい青で満たされてるんだからな。光が揺らめいでいて、綺麗し。
ちょっと光源少ないけど。
それなのに。
何でこの草原の草、赤黒いんだ?
「それじゃあ、おじさんはそろそろ帰るよ」
『ありがとう焼き菓子さん!』
「ありがとー! お漏らしおじさん!」
「助かった」
〔色々とありがとうございました!〕
「村長にも、よろしく頼みます!」
皆が口々に礼を言う中で。
「ありがとうございます!!!僕がんばります!!!」
最後まで、焼き菓子さんが森の奥に消えて見えなくなるまで。
黒蹴はずっと、手を振り続けていた。
そして。
俺達は赤黒い草原を踏みしめて、街に向かう。
赤茶けて絶え間なく雲を吐く、魔界で二番目に大きいと言われる街に向かって・・・。
「あ、こっちに道ありますよ」
「さすが大きい街。この石畳は見事だ!!!」
「行くぞピンキー」
「また引きずられてるわ・・・」
めちゃくちゃ整備された道を踏みしめて、街に向かう!!!
『めっちゃ歩きやすい』
〔よかったですわね〕
ー*リザードマン*ーーーーーーーーーーーー
ニルフ達が見えなくなったのを確認して、焼き菓子さん・・・ポッポルはフゥっと柔らかく息を吐いた。
そしてスッと手を額に当てる。続いて、バリッと、薄紙を破るような音。
「さて、村長の息子さんの事をギルドマス・・・おっと。クミちゃんに報告しないと」
そう呟いた彼の顔には先ほどまでの牙も鱗も無く。
柔らかく滑らかな皮膚に覆われた手には、破かれたような青く薄い膜が握られていた。
彼は膜の内側・・・懐に入れていた帽子を取り出して、被る。
「成人になったリザードマンはね・・・、脱皮で姿を変えられるんだ。
あの泥は、それを他の魔族たちに見破られないためにも必要なんだよ・・・。
といっても、村だけの秘密だから。君たちが知る事は、ないだろうけれど」
彼は青い礼装に身を包み、頭に青い帽子をかぶる。
人族と同じようになった姿を鏡で確認した後、前髪を整えいつものように左目を隠し、歩き出した。
迷いの無い、しっかりとした足取りで。
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二『どうした銀、そんなにソワソワして』
銀「いや、なんでも。・・・。
なあ、あのリザードマン、何処かで会ったか?」
二『わかんない』
黒「思い出せませんね」
若〔わたくしも覚えはありませんが〕
ユ「気のせいちゃう?」
ピ「俺も覚えはないかな。
村のどこかですれ違ったとか?」
二『ん~・・・あ!!!』
黒「どうしましたか?!」
ユ「思い出したん?!」
二『俺達、ポッポルに何の挨拶もしないで出てきちゃった!』
若〔ほんとですわ!〕
ピ「あっちゃあ。
ポッポルさんって、ニルフ達を連れてきてくれた人だよね。
あの場にいなかったみたいだから一応村長さんにはお礼を渡してはおいたんだけど・・・。
今度村を訪れた時に、挨拶しようか。
訪れられれば、だけど・・・」
黒「なんですか、その不穏な語尾は」
ピ「いやぁ、なんでもリザードマン達って、あの場に定住している訳じゃ無いらしいんだよね。
魔界じゃ結構珍しい種族らしくて、その美しい色合いのウロコや皮を目当てに狩ろうとする魔族もいるとかなんとかで・・・」
ユ「じゃあもう会われへんやん!」
黒「そんなの寂しすぎます!」
二『またあのお菓子食べたかったのに!』
ピ「だ、大丈夫大丈夫! 俺達にはさ、ほら。
ベリーがいるから!」
ベ「きゃん!!!」
黒「ほんとです!」
ユ「めっちゃ頼もしく見える!」
二『ベリー最高!』
銀「・・・」
銀「(どこかで出会った気がするんだか。はて・・・)」
次回メモ:街中
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!