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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
地面に向かって突き刺され!!
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リザードマンの故郷

 連れてこられたのは、ひときわ大きな建物だった。

 外見は他の家と同じく、周りの風景に溶け込んだ茶色い素材で作られている。

 しかしこの家の周りにだけ茶色い植物が何本も植わっていた。

 ・・・なんかこの展開、天海で見た事あるな。

 家が周りと同系色ってのも一緒だし・・・。


 木を見る。

 なんか茶色い粒粒が鈴なりになっている。

 これあれだ!

 勝手に食おうとしたら村長老とかに驚かされるフラグだ!!!

 

『なぁポッポル! この実って!』

「それ食べられないよ」


 食べられない奴だった。

 一応ポッポルの背中に隠れて、警戒しながら近寄ったけど、何もなかった。


「なにしてるん、はよ入るで」

『あ、はい』


 なにも無かった。


「どうぞ」

「キャワァァン!」


 ポッポルが重そうなドアを開ける。寸前に、ベリーが弾丸のように飛び込んだ。

 ばっこぉんってすごい音が鳴り、一拍おいて、ドアが開く。

 黒蹴兄妹が驚いた声を上げた。


「ちょ!?」

「うわ!?」

『開ける時すごい音が鳴るな!!!』

「いや驚いたんそこちゃうし」

『え?』


 違うの?


 「すぐに直せるから大丈夫」、と言って柔らかく笑みを浮かべるポッポルにうながされて、建物に足を踏み入れる。

 中は村の外見と違って様々な色に壁が塗られていた。


「目が痛いですね」

「原色使いすぎやない?」

「我々は見た目が派手なものを好みますからね」

『我々?』


 声に振り返ると、茶色くなったポッポルが穴の開いたドアの前に立っていた。

 す ご い 茶 色 い!!!


「ようこそ我らがご客人。村長が中でお待ちです。

 私は秘書のラパと申します」


 ポッポルじゃなかった。そういえば帽子かぶってないもんな。

 そこそこ広い建物の中を案内される。扉がどれも同じだから、トイレ行ったときとか迷いそうだな。

 みんなどうやって現位置見分けてるんだろう。


「壁の色で見分けているんですよ。この辺りは壁が黄色いですし、向こうは緑色に塗られていますし」

〔玄関辺りは赤でしたわね〕

「ショッピングモールのエリア別色分けですね」


 黒蹴ってたまによく分からない例えするよね。

 長く続く廊下は色とりどりで目がチカチカするほどなのに、意外と家具とかが少なかった。

 壁の色的にもっとハデハデなものが一杯おいてそうなのに。

 不思議だ!!!

 

 と、ある部屋の前でラパさんが立ち止まった。

 中から犬のギャワワングアワワンって声が聞こえてくる。

 絶対ここだな。


 ラパさんが扉を開ける。

 最初に目に飛び込んできたのは、見慣れた2人の背中だった。








 

 -*ポッポル*-----------------


「さて、扉の修理も終わったし。

 おじさんもそろそろ行こうかな」


 ポッポルは周りの家よりもひときわ大きな建物のドアを閉めると、傍で見てたリザードマンに一声かけて立ち上がる。

 彼は、見回りに来たリザードマンだ。ポッポルがドアの修理をしているのを見て苦笑していた。


 余った泥は少しもらって、体に塗っておこうかな。

 大切な帽子が汚れないよう、注意しながら懐にしまう。

 この森はポッポル達リザードマンが隠れ住むには最適な場所だが、自分達の体の色とは違い過ぎるので、目立たないように過ごすにはちょっとした工夫が必要だった。


 体の色がなぜこの地域と違うのかは、魔界でも様々な憶測が飛び交っているらしいが、未だに「これだ!」という答えは出ていないらしい。

 まぁ、生まれた時からこの場所で、こうやって過ごしている側からすれば、何も気にする事は無いんだけどね。


 最近では、若者の間で泥を塗るときに綺麗に模様を描いて個性を出すのが流行っているらしい。

 おじさんにはよく分からないや。


 ポッポルは体が十分に乾いた事を確認して、その場を後にしようとして・・・。

 そういえば、と立ち止まる。

 この村の形は天に浮かぶ村を模したものと昔聞いたことがあるな、と。

 どこで聞いたかすっかり忘れたその情報を思い出そうと記憶をサラッてると、手元に大きな籠が押し付けられた。

 驚いて顔を上げると、ここの近所に住む世話好きのおばさんだった。

 ふわりと籠から、甘い匂いが立ち込める。

 嫌な予感に、ポッポルの笑顔が引きつる。


「ポッポルちゃん、ちょうどよかった。村長さんとこお客さん来てるんだって?

 これちょっと作りすぎちゃったから、お客さんに渡してきてくれないかしらぁ」


 早口にそれだけ言うと、おばさんは満面の笑顔を浮かべて、颯爽と立ち去って行った。

 素早い。

 見回りの男に渡そうと振り返ると、既に立ち去った後だった。

 逃げられた。


「さて、どうしようかな」


 ポッポルは腕に収まり切らないほどの大きさの蓋付きの籠を見て、小さくため息をつく。

 一度あの部屋に入れば、話が終わるまで出る事は叶わないだろう。

 余計な仕事を頼まれるかもしれない。


 出来ればもう、会いたくないんだけどな。

 ポッポルは客人の中の、1人の顔を思い出して疲れたような笑みを浮かべる。

 籠の中からは、この村でよく食べられている焼き菓子の香りが漂っていた。

 --------------------







 *






「という訳でして。このウロコと石突きからは、以前この村で行方不明になったリザードマンの幼子と同じ匂いがするのです」


 目の前に座るがっしりとした筋肉質のリザードマンが、神妙な顔をして俺達に頭を下げた。

 6mくらいのリザードマンが体を小さく折りたたんでる。

 この人が村長らしい。

 他のリザードマンと違って村長だけ、黒い泥を全身に塗っていて、まるでそれは。


「ゴジラやぁ」

「ゴジラは爬虫類じゃないよ?」


 ユーカにピンキーが反論してた。ゴジラってなんだ?


 俺達はラパさんに村長のいるという部屋に案内された後、床に座らされた。

 なんかこの村では床にあったかい絨毯を敷いて、靴を脱いで上に座るっていうのが普通らしい。

 目の前には足の短い机があって、いい匂いの温かい果物のお茶とパリパリの焼き菓子が置いてあった。

 焼き菓子は、さっき茶色いリザードマンが籠に入れて持ってきてくれた奴だ。

 ピンキーと銀がここで村長と話してた内容を説明されてる時に入ってきた。

 ここのリザードマン、皆が体に泥を塗ってるから、個人の見分けがつかないな。

 なんでわざわざ泥塗ってんだろ。真っ裸が恥ずかしいから?

 でも全身うろこだしなぁ。青いウロコ、綺麗だと思うけど。

 

〔では、ベリーさんが突然走り出したのは例のリザードマンさんの匂いを感じたから、という訳ですのね〕

「そうですな。おそらくは同じでは無く、似た匂いでしょうね」


 村長は、ピンキーの横に寝転ぶベリーの首輪に付いたウロコに目をやり、そっとベリーを撫でた。

 ゴツゴツのウロコに覆われ、鋭いツメのはえた手なのに、とても優しい動きで首や頭をなで回す。

 ベリーが気持ち良さそうに、目を細めてる。

 そのまま、村長は首輪のウロコに手を触れた。


 このウロコは以前、地上の森で人族に虐められてたリザードマンのモノだ。

 ベリーも一緒に虐められてて、リザードマンは魔物と戦った時、ベリーをかばって死んでしまった。

 このウロコは、その形見だ。看取ったピンキーも、リザードマンの持っていた槍の石突きをネックレストップにしている。


 ベリーが行ったのは、そのリザードマンの家族の家だったらしい。


「我々は、ずっとその子を探していました。しかし見つける事が出来ず・・・。

 まさか地上にいたとは・・・」


 魔族が魔界から居なくなる事は、たまにあるそうだ。

 それも、力の弱い魔族ほど居なくなることが多いらしい。

 それって魔物に食われてんじゃね? って思って聞いてたけど、なんか他にも理由があるっぽい。


「魔界と地上を区切る結界は、強い力を持つ魔族にほど通り抜けづらくなっているという話ですが・・・」

「なるほど、だから力の弱い魔族が自身の意思とは関係無しに通り抜けてしまう事がある、と」

「結界に近いポイントがあるのか?」

「いえ、村周辺では見つかってはおりませんな」

「なら、その子が木を伝って天井に近づいたという可能性・・・」


 矢継ぎ早に話しだすピンキーと銀と、村長とその周辺のリザードマンたち。

 なんか難しい話になってきた。斜め横に座ってる黒蹴の目が死に始めてる。

 俺はそれを眺めつつ、机に置かれたお菓子を食べた。パリパリしてて甘くておいしい。

 俺と目があった黒蹴も、お菓子を頬張り始めた。


〔どんな味ですの?〕

『パリパリしてて甘い』

「アーモンドの薄切りに砂糖かけて焼いた薄いクッキーみたいな感じやで~」

〔あーもんど、ですの?〕

「これくらいの大きさの木の実やな」

「おいひぃでふぅ」


 これ何で出来てるんだろう。

 ひっくり返してみる。細い糸みたいなのがいっぱい生えてた。

 口いっぱいに詰め込んでる黒蹴に見せてみる。

 ブヘッていってひっくり返った。口から色々出てる。きちゃない。


「足やん! 虫の足やん!!!」


 クッキーを裏向けたユーカが叫ぶと、焼き菓子を持ってきたリザードマンがこちらを見て、静かに肩を震わせて笑った。






 お菓子を食べ終わる頃には話し合いは終わっていた。

 どうやらここから近い所に、大きい街があるらしい。

 今から出れば夜までに着けるだろうと言われた。


「あなた方はこの村に居ると目立ちますから。

 妙な魔物に目を付けられぬうちに、魔族の街に行く方が良いでしょう」


 村長が言ってた目立つってのは、多分色だろうな!

 俺達茶色くないし!


 話が終わったので、ピンキーがゴソゴソしはじめた。

 ベリーの首輪をガサガサした後、自分の胸元をモソモソしてる。なんだ?


 ピンキーが村長に差し出した手には、青く光るウロコと、綺麗に磨かれた石突きが収まっていた。

 リザードマンの子の遺品を返すピンキー。

 受け取った村長はそれを見て、目に涙を浮かべる。


 青いウロコは、村長のウロコよりもずっと、小さかった。


「・・・これは、あの子を看取ってくれた貴方に持っていてもらいたい」


 涙を流したままの村長は、石突きをピンキーに手渡した。

 ピンキーはそれを、ベリーの首輪に付けたいと、申し出る。


「あのリザードマンが最期まで気にかけていたのは、ベリーの事でしたから」

 

 ピンキーの手により、ベリーの首輪に、石突きがはめられる。

 ベリーは、いつものやんちゃな様子がなりをひそめて、すごく神妙に、「きゃん」 と鳴いた。

 あの時は大きかった石突きが、今のベリーにはちょうどいい大きさになっていた。



 最後に部屋を出るときに、俺と黒蹴とユーカが村長に呼び止められる。


 なんだろうって思って近寄ったら、肩をガッシリと掴まれて、めちゃくちゃ顔を近寄せられた。

 デカくて黄色い目が俺達を覗き込む・・・。グワっと大きな口が開いて頭上から生暖かい息がかかり・・・!


 色々と言葉が降ってきた。


 文字も貨幣も違う事、魔界とは違う匂いがするから注意しなさい、変なところには近づかない、いい人だと思っても1人で付いていかない、変なものは口に入れない、などなどなど。

 これ全部、お小言じゃね?


「鼻が良い者達には直ぐにバレるでしょう。気をつけなさい」


 後これを持っていきなさい、と渡された青い袋には、見た事ない形のコインが入っていた。


『これってもしかしてお金!?』

「少量ですまないが」


 お金をもらった。遺品を届けてくれたお礼にと言って・・・。


「これでおいしいモノでも買いなさい」


 そう言って、村長は俺達をガッシリと抱きしめた。

 泣きながら。


「親戚のオッサンか!!!」


 ユーカのツッコミに村長は、泣きながら笑っていた。

 そして。


「皆さん、あの子を・・・リュパを連れ帰ってくれて、本当にありがとうございました・・・!」


 村長たちは、村の入り口から俺達が見えなくなるまで、手を振りつづけていた。

次回メモ:町


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

やべえ一話分伸びた。


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