村を目指して行ってみる
「そういえばさー」
≪なんですの? ユーカさん≫
ユーカが珍しく若葉に話しかけてる。
俺達は今、アテ氏に教えられた「村があるザンス」っていう方向に向かって歩いてる所だ。
なんもねえゴツゴツした薄暗めの荒野を歩くだけなのはとっても暇だ。
俺は2人の会話になんとなく聞き入った。
あ、ちゃんと魔物とかの警戒はしてるよ! 主に銀が。
「天海から飛び降りたときな、あんとき若葉ちゃん起きてた?」
≪天海から・・・あぁ、あの、皆さん気を失われた時ですわね?≫
「そうそうそんとき。アレ・・・すごかったなぁ・・・」
≪すごかったですわね・・・≫
なんか2人がしみじみしだした。声に疲れが こもってる。
と思ってたら。
「あの竜巻のグルグルもジェットコースターかっていうアレやったんやけど、もう海に近づいたとき、なぁ!」
≪そうですわよね! あの、グワっと現れたアレ、アレは凄かったですわよね! 茶色い、あれは何ていうか・・・≫
「龍?」
≪いえ、わたくしは魚に見えたような・・・?≫
「あー、確かに! あれがなぁ! もうホンマ!
落下する独特の感覚にも慣れ、焦りが絶望に変わったころ、水面が眼前に迫ったと思ったらパカっと開いて呑み込まれた・・・(キリッ)。
っていう?」
≪確かに! そういう感じでしたわ!≫
「やろー!!!?」
急に会話の速度が加速した。2人共声デケェ。
2人の高音のキャーキャーに耳ふさごうか考えてたら、向こうでフラフラ歩いてた奴がこっちに来た。
まるで引き寄せられるように。
「なになに、何の話ですか!?」
≪あら黒蹴さん≫
「にーちゃん寝とったやろ? あっちいっときや」
「ひど!?」
≪まぁまぁユーカさん。ここに来る前に天海から飛び降りた所、覚えています?
わたくし達、あの竜巻に巻き込まれた後も意識を保っていまして≫
「マジですか!? どうなったんです!?」
話を聞いた黒蹴りは、「2人とも大変だったんですねー」と間延びした返事をしていたが。
それより俺は、ユーカの「若葉ちゃん」って呼び方にビックリしたんだけど。
元からだったっけ?!
「あのパクってウチらを呑み込んだ魚。あれも魔族やったんかな?」
≪どうでしょう。それですと、わたくし達今頃消化されていそうですわよ≫
「じゃあここは魔族の胃の中です?」
「それも虫男に聞けばよかったなぁ」
『虫男?』
「さっきの土の大精霊やん。アイツ ウチに向かって虫飛ばしてきやがってさぁ。ほんま顔は良いのに。残念イケメンや」
ユーカが ガリィって音たてながら吐き捨てた。すんげー怖い顔。
でも皆、土の大精霊に適当なあだ名つけてたんだな。
若葉はその後しばらく、≪む・・・虫男・・・。大精霊様が虫男≫って、信じられないような物を見たときみたいに呟いてた。
俺は『アテ氏』って呼んでる。黒蹴は「茶色い人」って言ってたな。
とかしゃべりながら歩いてたら。
「あ! 駄目だよ戻ってきなさい!」
って叫び声が前方から聞こえた。
ピンキーが走ってる。体制を低くして、何かを追いかけてる?
足元には、真っ白な中型犬。あれは・・・ピンキー親衛隊の一匹、ベリー?
待って。なんでベリーいるの!?
*
突如 走り出したベリー。
追いかけるピンキー。
追いかける銀。
追いかける俺ら。
前方には荒野。
見失う事は無いだろう。
走り続けるベリー(速い)
追いかけるピンキー(速い)
追いかける銀(前方)
追いかける俺ら(後方)
前方には槍ぽい形の岩群。
銀とピンキーはベリーと同じスピードで走ってる。見失う事はなさそうだ。
「ウチら、ずいぶん離されてへん?」
何かを目指して走るベリー(見えない)
追いかけるピンキー(既に狼化)
追いかける銀(若干見える)
追いかける俺ら(完全においていかれた)
周りは茶色い木で出来た森。完全にケモノ道。
すげえ、地面も木も葉も全部が同じ茶色だから見分けがつかないや!
空だけが水越しに見た太陽色をしている。
完全に見失った。
『どうする?』
「どうします?」
≪どうしましょう≫
「どうしようもないなぁ」
置いてかれた後方4人 (うち1人ハープ)でキョロキョロするも、なにも見当たらない。
銀なら、何か目印でもおいてってくれてそうなのに。
≪これだけ単色なら、枝に色の紐など付けていそうですが≫
若葉の言葉に木を注意してみてた黒蹴。
「あ! ありました!!!」
叫んだところに集まると。
「見てください! すっごい大きい爪痕ついてますよ!!!」
『どう見てもピンキー達のやつじゃないよな』
3人じゃ腕を回しきれないくらい太い木の幹には、その幅いっぱいにデッカい爪痕が斜めに刻まれていた。
うん、逃げよう。
≪逃げないでくださいまし!?≫
『でもさー、どうすんの? 皆見当たらないよ?』
「こんな事になるんやったら、森の外で待っとけばよかったなぁ」
「何か僕達の居場所を知らせる方法は・・・」
悩む黒蹴。その顔を見て思い出した!
そうだ、プラズマいるじゃん! プラズマって精霊だから、なんかうまい事探してくれるんじゃない!?
『黒蹴! プラズマに頼も!』
「プラズマはピンキーさんの道具袋で寝てました!!!」
黒蹴ぃぃいいいい!! 自分に懐いてんだから、自分で持てよ!!!
≪!!! そうですわ! 精霊の力を借りればいいのです!!!≫
「プラズマならいませんよ?」
≪違いますわ黒蹴さん。ニルフさんのシルフに頼めばいいんですのよ!≫
『あっ』
「そっか! なんか上の方いつも付いて来てる2匹おったなぁ!!!
マメな性格の奴と、えらい豪胆な奴」
なんで性格まで知ってるの!?
驚く俺は若葉に≪そんなのどうでもいいですので早く≫って促されて、2人のシルフに思いを託す。
シルフ達は俺の顔を見て、力強く頷いてた・・・ような気がする。
そして上空にふわりと昇ると、そのまま別々の方向に飛んでった。
頼んだぞ、シー君とフーちゃん。
「シルフ達エラい張り切ってたけど、なに頼んだん?」
『え? ただ「シー君、フーちゃん」って』
「えぇ”!?」
≪シルフ・・・ですものねぇ≫
「由佳のその杖、小精霊みえていいですよね」
『あ、そっか。ユーカの杖の効果か。なんでシルフ達の性格知ってるんだって思った』
「暇なとき、良う見てたからなぁ」
『なるほどなー。ん?』
なんか今、悲鳴が聞こえた気がする。
それと、狼のガウガウギャン。
空を見上げると、シー君が手を振っていた。
そっちか!
『見つけたっぽい! あと悲鳴!』
≪ピンキーさん達に何かが?!≫
『いやこれはどっちかって言うと・・・』
シー君が運んでくれた声はどっちかっていうと。
狼が人を襲ってる場面?
着いた先では、青い鱗の背の高い細マッチョが中型犬に襲われてる所だった。
細マッチョ、完全に馬乗りにされてる。
その上には真っ白な狼。ガウガウギャワワン言ってる。
細マッチョは俺達と目が合うと、照れくさそうに笑った。
「いやいやいや、笑ってる場合とちゃうやん!!!」
ユーカがベリーを回収しにいった。
次回メモ:村
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!