とりあえず向こうに見えるデカい樹に向かおうか。
だって周り、荒野で何もないし。
天井からの水面みたいな明りで、薄暗いけど遠くまで見えるし! 太陽光が海を通って降り注いでるのかな。
てか地上って今、夜じゃなかったっけ? あ、寝てたから朝になってるのか。
黒蹴のよだれで光る魔法陣を離れ、銀達のいう、大きな岩山に向かった。
岩山、一面の荒野の中にデーンっとそびえたってる。
っていうか、スケッチブックには「樹を見つけた」って書いてなかったっけ? なんで岩山に向かうの?
「ニルフ、上だ」
銀が俺の心を読んだみたいに教えてくれた。エスパー?
向かう先には、大地を支えるようにそびえたった、岩山。そのてっぺんには・・・。
『デカい樹が生えてる・・・』
茶色い岩山の天辺から、葉っぱがワッサーと茂っていた。葉っぱ、茶色いけど枯れてないよね?
岩山が高すぎて、葉が天井にくっついているように見える。
「▽・・・、▽▽△▽▽△▽▽?」
黒蹴が上を見上げたまま、絶望したような声を上げた。
分かるぞ黒蹴。お前今、こう思ったんだろ?
つーか、あれ登るの?
*
「ぜぃ・・・ぜぃ・・・」
『ひぃ・・・ひぃ・・・」
数時間後。これ登山じゃなくて崖登りだよね?! って登山を終えて、俺達は山の天辺に立っていた。
息を乱れさせてるのは俺と黒蹴だけで、残りのメンバー涼しいを顔してる。
銀はまぁ、こういうの得意だとして。ピンキーは靴ぬいで、手足を狼化していた。そしてその背には、汗1つかいてないユーカ。
「▽▽△▽▽▽ユーカ!」
「にーちゃん▽△▽△?」
当然のように文句を言ってるっぽい黒蹴と、「ウチ体力ないやん?」とか言ってそうなユーカ。
喧嘩収まるまでお茶でも飲んでよ。どっか座れないかな。
地面を見ると、根っこが無くて直接地面から細い樹がニョキニョキ生えてて天井に向かって伸びている。
ん? これって・・・。
樹を触ると、さっき登った時に散々さわった岩山の表面と、同じ感触がした。
もしかしてこれって。
「岩山自身が、樹か」
銀が横に立ってた。
ピンキーがなんかメモってる。
てかさ、樹の天辺に登っても、何もないんじゃない?
「▽△△▽△!」
さっき喧嘩してたはずの2人がなんか叫んでる。敵でもいた?
「皆さん!△△▽泉△△▽!」
泉!?
声のする方に走る。
地面から伸びる幹に囲まれた中央には。
樹の天辺にあるとは思えないほどに澄んだ、泉があった。
『やった泉だ! ≪登録≫できるかな?』
「石碑は無いが・・・」
銀と2人で泉を観察する。向こうでは興奮した様子の黒蹴兄妹と、泉を見回すピンキーが居た。
たぶん同じような会話してんだろうな。言葉通じないと、不便だわ。
『なぁなぁ、試しにやってみようぜ』
「それは良いが、大丈夫か? 若葉」
『ん? あー、若葉、さっきから喋らないんだよ』
言いながら、若葉を泉に浸けようとした、その時。
べりぃ。
引き裂くような、変な音がした。
何の音? 樹を見ると、幹の皮がでっかく剥げてた。ふぁ!?
それは風に吹かれて俺達の方に飛んで・・・ビュンッ。
急に加速した!?
「▽▽・△!! 後ろだ!」
銀の声で振り返ると、銀は既に剣を振って何かを叩き落としてた。
俺達をちょうど守る位置で、こちらに大量に飛んできてる大量の茶色い虫っぽいのを叩き落としてる!
一匹叩き落とし損ねたのが、ユーカにくっついた。
「んぎゃあぁあああ!△▽△ー!!!」
くっついた奴を手で掴んでチラっと見た瞬間、のけぞってぶっ倒れた!
ユーカの手からは、はみ出すくらい大きな茶色い平たいガサガサしてるテッカテカがもがいている。
なんで素手で掴んだんだ?
虫が飛んでくる先を見ると、木の幹を縦に大きく剥いで、それを芋虫にくっ付けたような奴がいた。
ケムさんか!?
「△▽▽!」
ピンキーがこっち向いてなんか言った。たぶん「ケムじゃないよ!」とか言ってるんだと思う。
「ホホホホホ! 侵入者め。アテシの泉に近づけさせると思って!?」
うわ! ちゃんと言葉が聞き取れる! じゃなくて!
『男だ!!!』
「そこザンス!?」
『違った! 魔族か!!!』
「何を言ってるんザンショこの馬鹿は。アテシの泉って言ってるでしょうに」
『えっと、アテシさんはどのジャンルのお方ですか?』
「ジャンルというと?」
『虫、魔族、樹の皮、どれですか!』
「どれも違うと言っとろうに! 後アテシってぇのは名前ではありませんゾ!」
『アテ氏さん?』
「違うって言ってるじゃないのヨ!」
『語尾めちゃくちゃですね』
「だまらっしゃい!」
樹の皮っぽい服の間から細長い茶色い何かが飛んできて、パーンっと目の前が弾けた。
気づいたら勝手に後ろにジャンプしてたから、俺には当たってないけど!
「ちっ、すばしっこいザンス」
舌打ちされた。悲しい。
俺がしゃべってる間、他の皆はそれぞれに行動を開始していた。
銀は俺達を襲う茶色い虫をほぼ駆逐する寸前だったし、ピンキーは狼化して、倒れたユーカを咥えて戦闘場所から離れた場所に連れてっていた。
白目むいたまま首根っこ咥えられて、デカい狼に引きずられていくユーカ。捕食直前にしか見えない。
アテ氏はユーカを追撃しようとしないで、余裕のある笑い声をこぼしつつ見送っていた。フッフンとか言ってた。
やろうと思えば、さっき俺を攻撃した鞭っぽいので殴れるだろうになぁ。
あと黒蹴だけど・・・今、アテ氏の後ろに回り込んでるっぽい。アテ氏の茶色い服の横から、黒蹴がチラっと見えた。
不意打ちする気だな。
よし、バレねえようにどんどん話しかけるぜ!!!
話しかける俺、怒って鞭をふるうアテ氏。
避ける俺。
余計に怒るアテ氏。
「だから、アテシはアテ氏では無いんザンス!」
とうとうアテ氏、とどめとばかりに茶色い服の間から、大量の長くてカクカクしてるものを出して鞭みたいに振るいだした。
「とどめザンスーーーー!!!」
とどめとか言ってる!!!
怖い! 避けられない! 避けれた! 身体強化魔法がんばれ!!!
あ、まだ使ってなかった。
俺は全身に魔力を行きわたらせて、避けるスピードをアップさせた。
てか俺、回復役なのにぃい!
身体強化魔法使ったら意外と避けるの簡単だわ。
必死 (な表情を作っ)で無数の鞭を避ける俺。これでアテ氏の注意は完全に俺に向いてる! はず!
なのに黒蹴、何故か首をかしげて銃口を覗き込んでいる。
サッサと撃てよ!
「魔法が出ないんザンショ?」
「!!!」
俺を見据えたまま、アテ氏がしゃべり始めた。後ろで驚く黒蹴。
「当たり前ザンショ。ここは地上や天海とは別の領域、魔界ザンス。
この領域の大精霊の許可を得なければ、魔法も精霊達も、使う事は出来なくってヨ」
『語尾ブレブレっすね』
「だまらっしゃい!!!」
「うわっ!」
驚きすぎた黒蹴が、泉に落ちた。
次回メモ:アテ氏
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パソコン、今のところ起動してます・・・。